月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
2008.05.09
中編
オリイオアリから始まるルクアリ。
被験者イオン様は途中でお亡くなりになります。
3~5話くらいで終わらせるつもりです。つもりではいるものの、プロットは大まかにとは言え立ててるんですが、書いてるうちにあれこれ詰め込みたくなるののが世の常ですよねー…(コラ)
一話目は厳しめ要素なしですが、二話目以降は同行者への厳しめ要素ありになります。(イオン含)
一話目時の年齢:ルーク14歳(4歳)、アリエッタ13歳、被験者イオン11歳
オリイオアリから始まるルクアリ。
被験者イオン様は途中でお亡くなりになります。
3~5話くらいで終わらせるつもりです。つもりではいるものの、プロットは大まかにとは言え立ててるんですが、書いてるうちにあれこれ詰め込みたくなるののが世の常ですよねー…(コラ)
一話目は厳しめ要素なしですが、二話目以降は同行者への厳しめ要素ありになります。(イオン含)
一話目時の年齢:ルーク14歳(4歳)、アリエッタ13歳、被験者イオン11歳
始まりは、紙飛行機。
ガイに教わり、ルークがたった一人で作った紙飛行機が、初めてうまく飛んだ日のこと。
部屋の前から中庭を抜け、ひゅう、と飛んでいった赤い紙で折った紙飛行機は、ちょうど開いた扉の奥へと消えて。ルークは慌てて、紙飛行機を追いかけ、中庭を駆けた。
今までで一番飛んだ紙飛行機だ。まだまだ飛ばして遊びたい。もっともっと遠くまで飛ばしたい。飛ばしてやりたい。自分が外へと出れない代わりに。
そんな思いを抱き、探しに飛び込んだ廊下で、ルークは自分とさほど変わらぬ身長の人影にぶつかった。
「うわっ?!」
「きゃあ!」
ぶつかった衝撃で、ドン、と尻餅を突く。呻きながら、身体を起こせば、手の下でぐしゃりと音がした。嫌な予感に恐る恐る視線を向ければ、潰れた紙飛行機が一つ。
応接室の扉の前に立ち、見張りをしていた白光騎士の一人が慌てて、ルークの元へと駆け寄ってきた。
「ご無事ですか、ルーク様!」
「う、うん。…でも、かみひこーきが…」
ルークは顔をしかめ、紙飛行機を持ち上げた。ぐしゃぐしゃに潰れたそれは、羽が折れ曲がり、先がひしゃげてしまっている。元に戻したところで、皺になり、もう満足には飛べないだろう。呻き、項垂れる。
せっかく、初めて上手に一人で折れたのに。
「うう…」
「あッ」
小さな高い声がした。女の子の声だ。
ルークは涙が滲む目をぐい、と袖で拭い、紙飛行機を持ったまま、自分と向かい合うように倒れている少女を見やった。
桃色の長い髪を厚い絨毯が敷かれた床につけ、座り込んでいる少女に、おろおろと近寄る。白光騎士がルークが立ち上がるのを手伝い、少女にも手を貸した。
ガシャガシャと揺れる金属音を聞きながら、ルークは長い髪の落ちる少女の顔を覗き込む。
「だ、だいじょーぶか?」
「アリエッタは、だいじょうぶ、です」
「そ、そっか。その…」
こういういったとき、何と言えばいいのだろう。戸惑いに翠の目が揺れる。
少女の緋色の瞳が、そんなルークを見つめ、ことりと首を傾げた。ふわりと髪が揺れる。
どきりとルークの心臓が跳ねた。見開かれた大きな目にじ、と見つめられ、頬が熱くなってくる。
「あ…、もしかして、ルーク様、ですか?」
「え、あ、うん。そう、だけど」
「ご、ごめんなさい…!」
パッ、と少女が白光騎士から離れ、ルークに向かって頭を下げた。膝に額がつかんばかりに腰を曲げ、髪を垂らしている。髪が絨毯に触れ、汚れてしまうと、ルークは潰れた紙飛行機を床に放り、少女の肩に手を置いた。
「顔あげろよ。髪、汚れちまうだろ」
「でも…」
「いいって。その…ぶつかったのは、俺のせい、だし」
髪の向こうに垣間見えるあどけない少女の顔に、また心臓が跳ねる。一体、何だと言うのだろう。先ほどからばくばくと耳元で鼓動が鳴り響いていることに、ルークは戸惑う。
顔を上げるよう、もう一度言えば、少女が困った顔をしながらも、従った。
ファブレ邸の掃除は隅々にまで行き渡っているが、靴を履いて行きかう廊下だ。絨毯は毛羽立つことなく、綺麗に掃かれているが、いつでも多少の汚れは残っている。長い髪に土が僅かについていることにルークは眉宇を潜め、手を伸ばした。
少女の髪から、汚れを落とす。
「あ…ありがとう、です」
「え、いや」
ぬいぐるみを抱き締め、少女が笑う。ふんわりと、花が綻ぶように。ルークはますます顔が熱くなるのがわかった。気恥ずかしくて、顔を上げられない。
初めての経験に、幼い少年は戸惑いを隠せなかった。少女がどこか痛めたのかと、気遣うように首を傾ぐ。そんな様を、白光騎士が微笑ましく見つめていたが、顔が鎧に隠されているため、二人は気づかない。
「ルーク様、どうかなさいましたか?」
シュザンヌに何か用事でも言いつけられたのか、夫妻の寝室から出てきたラムダスがルークに気づき、歩み寄ってきた。ルークは顔を上げ、ぶんぶんと首を振る。紙飛行機を追いかけて前を見もせず、廊下に飛び込みました、などとラムダスに言えば、もっと落ち着かれて行動なさって下さいと説教されるのは必至だ。
白光騎士もそれをわかっているのか、口を噤んでいる。と、ラムダスが少女に目を留め、何かございましたか、アリエッタ様、と声を掛けた。
(アリエッタ…)
そう言えば、先ほど、少女もアリエッタ、と自身のことを指して言っていた。ならば、アリエッタというのが、彼女の名前なのだろう。
アリエッタ。ルークはその名をしっかりと胸に刻んだ。決して忘れまいとするように。──たとえ、記憶が戻っても、思い出の中から、アリエッタの存在が消えてしまわぬように。
「アリエッタが中庭のお花、見ようとして扉を開けたから…ぶつかっちゃった、です。ルーク様、本当にお怪我、ないですか?」
「俺はなんともない。つーか、お前のせいじゃ…。お前こそ、ホントに、だいじょーぶなのかよ」
「はい。ルーク様、優しい、です」
「なっ、お、俺は…べつに…ッ」
自分をラムダスから庇ってくれているらしいアリエッタに、どうしようもなく恥ずかしくなって、ぷい、と顔を逸らす。朱色の髪が頬に掛かり、ルークの赤くなった顔を隠した。
紙飛行機を失ったショックも忘れてしまうほど、ルークの頭の中はアリエッタで一杯になる。他の誰にも、こんなふうになったことはなかったのに。
「おや、アリエッタ。どうしたんです?」
「イオン様!」
ガチャ、と応接室の扉が開き、色濃い緑の髪をした少年が姿を見せた。アリエッタが笑顔で少年のもとへと駆け寄っていく。ルークに背を向け、桃色の髪を嬉しそうに揺らして。ルークに向けたよりも、もっと晴れやかな笑みを浮かべて。
ルークは胸を押さえ、きゅ、と唇を噛んだ。白光騎士がそんなルークの様子を気にしつつ、硬質な音を立て、少年と少年の後ろから出てきた公爵に向かって敬礼した。
「お話、終わったですか?」
「ええ。公爵、よろしくお願いしますね」
「…もちろんです」
公爵の顔からは、血の気が引いていた。導師イオンたっての願いにより、導師守護役であるアリエッタを始め、護衛も下げられていたので、防音設備が施された応接室の中での話し合いの内容は、二人にしかわからず、常にない公爵の様子に、執事と白光騎士の二人は内心、首を傾げた。
ルークもそんな父の様子に気づいていたが、顔色があまりよくないイオンに寄り添うアリエッタの方が気になって仕方がない。イオンがルークを見つめ、小さく笑った。
「ルーク、導師イオンにご挨拶なさい」
「…ルーク・フォン・ファブレです。初めまして」
自分よりも幼い顔立ちのイオンに気を遣う父に、ルークは訝しげな視線を向ける。彼は一体、何者なのだろう。
「初めまして、『聖なる焔の光』。…君に会いたかった」
「え?」
「ふふ、ねぇ、ルーク。君は今、幸せ?生きていて楽しい?過去がなくても、それでも生きていて、幸せ?」
微笑とともに掛けられた問いに、翠の目が丸くなる。記憶が戻らないことを辛く思ったことはないかと訊かれたことはあるが、幸せかと問われたのは初めてだ。
イオンの目を真っ直ぐに見返す。髪と同じ緑の目からは、何の答えも得られない。
ルークは一度、目を足元に落とした。つま先が紙飛行機に触れ、赤い紙が微かな音を立てる。
一番長く飛び、そして、今はただの紙の塊となってしまった、夢の残骸。翠の目をゆっくりと瞬かせ、ルークは顔を上げた。
「過去のこと考えてるより、俺は次のこと考えてる方が好きだ。だから…幸せとかよくわかんねーけど、楽しい、んだと思う」
紙飛行機一つとっても、次はどこまで飛ばせるだろうか。そんなことを考えるのと楽しくなる。
毎日毎日、屋敷の中で退屈だけれど、退屈でしょうがないけれど、退屈ばかりでないことも、最近、わかってきた。たとえば、今日。今日はアリエッタに会えた。
どうしてアリエッタに会えただけで嬉しいのか、ルークにはまだよくわからなかったけれど、アリエッタに会えてよかったと、それだけはわかる。
口に出すには恥ずかしくて、今はまだ心の内にこっそりと仕舞いこむ、ルークの仄かな想いの芽生え。
「ふふ、あはは、なるほど。ありがとう、ルーク」
「へ?…う、うん?」
「…これから生まれてくるあの子たちも、同じように楽しんでくれたらいいんですが」
「え?」
「いえ、こちらの話です」
にこ、と笑う顔は一見朗らかだったが、その実、問いかけを拒絶するもので、ルークはたじろいだ。悪い人間ではないのだろうが、こいつ苦手だ、と内心呻く。でももっと仲良くなりとも、思う。
イオンはにこにこ楽しげに笑い、アリエッタの手を取った。
「さぁ、帰りましょうか、アリエッタ」
「もう用事、終わったですか?」
「ええ、僕の役目はね。あとはダアトで為すべきことをするだけです」
愛しげにアリエッタの髪を指で梳くイオンから、ルークは目を背ける。嬉しそうに微笑むアリエッタを見ていると、胸が痛むのだ。
ルークの様子に、イオンがホッとしたように、それでいて哀しげに微笑んでいたことに気づいた者は、誰もいない。
「ラムダス、導師イオンのお見送りを」
「はっ、かしこまりました」
「それでは、公爵。貴方の手腕、期待しています。…ルーク」
緩く細められた緑の目に、ルークが映る。眩いものでも見るように細められたその目から、目を逸らせない。
「さよなら。貴方の幸せを、祈っています」
大きく、ルークは目を瞠る。そんなこと、誰も言ってくれたことなんてないのに。イオンの微笑に、翠が戸惑いに揺れ動く。
微笑を残し、ぺこりと一礼したイオンに促されるまま、二人連れ立って応接間を抜け、去っていくアリエッタの背に、ルークは声を掛けていた。アリエッタが桃色の髪を翻し、振り返る。緋色の瞳が、不思議そうに瞬く。
「どうしたですか?ルーク様」
「あの…あのさ、お前、ごめん、とありがとう、って言ったよな」
「はい」
「意味はわかるんだけどさ。それって…どういったときに、使えばいいんだ?」
きょとん、とアリエッタが目を丸くした。イオンもその隣でぽかん、としている。馬鹿なことを、言ってしまったのだろうか。二人にまで「そんなこともわからないのか」と失望の目を向けられたら、どうしよう。ルークはぎゅ、と拳を握る。
けれど、そんな懸念は必要なかった。アリエッタとイオンが、二人同時に微笑んだ。
「ごめんなさいは、悪いことしたと思ったとき、使うです。相手が許してくれるかわからないけど、言わないと、謝りたいって思いも、通じないです」
「ありがとうは、感謝したいときに使うんだよ。嬉しいって気持ちを相手に伝えたいときにね」
「…そう、なんだ」
二人がくれたのは、蔑みとは程遠い、温かな微笑だった。温かな言葉だった。
ルークは固めた拳を解き、二人に笑んだ。
「さっきはぶつかって『ごめん』な、アリエッタ。そんで、教えてくれて、『ありがとう』、アリエッタ、イオン。俺も、二人の幸せ、祈ってるな」
二人に伝わっただろうか。鼓動を高鳴らせ、二人を見つめる。
二人は「どういたしまして」そして「ありがとう」と微笑を深くした。ルークの胸がほんわかと温まる。──もしかしてこれが、幸せというものなのだろうか。
手を振る二人に、ルークは勢いよく手を振り返し、二人を見送った。応接間の扉が閉まり、公爵が慌しく登城の準備をするため、執務室に消えてもなお、ルークは扉を見つめ、動かなかった。動きがたかった。腕がぱたりと身体の脇に落ちる。動きはそれだけ。
桃色の髪が、緋色の瞳が、緑の髪が、緑の瞳が、頭から、消えない。
「ルーク様」
「!」
掛けられた声に、ルークは肩を跳ね上げ、見開いた目を向けた。ス、と眼前に差し出されたのは、赤い塊。紙飛行機だったもの。
「新しい紙をお持ちしましょう」
「……」
「よく飛ぶ紙飛行機の作り方、知っているんです」
鎧の下からの声はくぐもっていたけれど、優しげな声音を帯びていて。ルークは笑い、「ありがとう」と喜びを伝えた。
そしてその日から、ルークの周囲は変わり始めた。
END
紙飛行機出しておいてなんですが、あるんでしょうかね、アビスの世界…。
紙飛行機一つで考察するのも何なんですが、アルビオールが創世歴時代の遺産を使用しているということは、アルビオールのように空飛ぶ機関があったということですよね。過去に。
その際、紙飛行機も生み出されていたとしてもおかしくないと思うのですが…。
音機関は失われたものの、そういった玩具は残っていたということでお願いします。
でも、実際、書物もあったでしょうが、そういう遊び道具が残ってたからこそ、アルビオール開発にも繋がったりとかしたんじゃないかなぁ、なんて思ったり。そのほうがロマンがあるように思いませんか(笑)
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