月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
「恐れる少女が逃げた先」と同設定の話。
アクゼリュスにたどり着く前の宿でのワンシーン。
途中からイチャイチャしてます。
同行者へは厳しめですが、ティアに特に厳しめ。
アッシュ捏造につき、アリエッタ、シンク、イオンも捏造。多分、ディストもかな…。
注!ティアに厳しめ
鳥に似た小さな魔物の足につけられた管から、アニスは手紙を取り出した。
丸められたそれを開き、目を通す。
その背後から、ルークは手紙をのぞき込んだ。
「アリエッタからか?」
「そうですよー」
「なんて?」
「ヴァンが導師イオンを、アクゼリュスに連れていった、だそうです」
ふぅん、と頷いたルークの腕が、アニスの首に回された。
頭の上に、ルークの顎が乗せられるのがわかる。
後ろから、抱きしめられるような格好に、アニスは緩みそうになる頬を引き締めた。
気を抜けば、にやついてしまいそうだ。
「予想通りって感じだな」
「そうですねぇ」
アクゼリュスの最奥。
ヴァンがイオンを連れていったのは、そこだろう。
そこには、パッセージリングへと繋がる扉がある。
その扉に施された封印は、導師イオンにしか、解けない。
同じレプリカであるシンクでは、使いこなせない術だから、イオンが連れていかれることは、予想の範囲内だ。
問題は、イオンの身体的な弱さだ。
虚弱なイオンには、障気に満ちたアクゼリュスの空気は害以外の何物でもない。
ルークの体温を背に感じながら、アニスはぽつりと呟いた。
「・・・アリエッタ、心配だろうなぁ」
「イオンは身体、弱いからな」
「そうじゃなかったとしても、心配ですよぉ。だって、大事なご主人様ですもん!」
今のイオンはレプリカで、アリエッタが愛していた被験者イオンではないけれど、それでも、アリエッタは、主が残していったレプリカを、愛している。
まるで、子どもを慈しんでいるかのようだと、アニスは思っている。
それを、レプリカであるイオンやシンクが、あまり快く思っていないことも、知っている。
二人はアリエッタに、想いを寄せているのだから、当然だ。
宿の一室で、アニスはルークに抱き締められながら、息を吐いた。
他の旅の同行者たちは皆、ガイに連れられて、町に出ているため、今は、二人きりだ。
気を利かせてくれたガイに、アニスは密かに感謝する。
同行者たちのせいでストレスを溜めているルークが、少しでも、休めるようにという配慮だろう。
「アニスも?」
「へ?」
「アニスも、俺のこと、心配?」
耳元で、笑うようにルークが言う。
頬を擽るルークの吐息が、くすぐったい。
もう、とアニスは小さく唸った。
そんなこと、わかっているくせに。
「・・・そんなこと、当たり前じゃないですか」
「俺がご主人様だから?」
「そう、ですよ」
本当は、それだけではない。
けれど、伝えることは出来ないから、アニスは、ただ頷く。
嘘を吐くのは、得意だ。
幼いころから、そうしてきた。
預言を疑うことなく、頭から信じる両親の愚行のせいだ。
借金を重ねることになっても、それが預言に詠まれているのだから、と無垢に信じる両親を守るために。
けれど、それも、疲れてしまったのだ。
預言のためならば、自分のことさえも、捨ててしまうだろう両親に、尽くすことが馬鹿馬鹿しくて。
怖くて、仕方なくて。
そして、両親から、ダアトから、アニスは逃げ出した。
逃げて、ルークに拾われた。
(ルーク様は、私のすべて)
預言にルークの死が詠まれているというのなら、それを命を懸けて、退けてやる。
ルークがいなければ、生きている意味などない。
今の自分があるのは、ルークが拾ってくれたからだ。
ルークが、慈しんでくれたからだ。
そんなルークのためなら、何でも出来る。
ルークを守るためなら、何でもする。
(ルーク様が、好き)
大好きだ。
自分はまだ幼いけれど、これは、愛というものだとアニスは確信している。
恋は見返りを求めるものだと、メイドの一人から聞いたことがある。
でも、愛は違うのよ、と彼女は照れくさそうに笑っていた。
──ティアが屋敷に侵入してきたせいで、彼女はクビになってしまって、もう屋敷にはいない。
ティアへの憎らしさが胸に込み上げ、アニスは、ぐ、と奥歯を噛み締めた。
ルークの配慮で、彼女には次の就職先が決まったけれど、悔しい思いは消えない。
「俺にはさ、アニス」
「何ですかぁ?」
「得意なことが、いくつかあるんだよな。その一つにさ、アニスの嘘を見破るってのが、あるんだ」
きょとん、とアニスはルークの腕の中、固まった。
いったい、何を、と戸惑いに視線を揺らす。
降ってくる、くつくつと笑う声に、アニスの身体はこわばった。
「ルーク様・・・?」
「アニスは上手な嘘つきだけど、俺には通じない」
「あの」
「俺が好きなんだろ?アニスは可愛いな」
ちゅ、と頭のてっぺんに口づけられ、アニスの口から、うひゃ、と色気のない悲鳴が漏れた。
ルークから離れようと、じたばたと暴れるが、がっしりと押さえ込まれているせいで、逃げられない。
本気で暴れれば、逃げることは出来るかもしれないが、ルークを傷つけかねない。
「る、るるるルーク様?!」
「言えよ、アニス。俺が好きだって」
「わ、私は!」
「命令だ。・・・これなら、言えるだろ?」
うう、とアニスは顔を真っ赤に染め上げ、呻く。
ルークの顔は見えないが、きっと意地の悪い笑みを浮かべているに違いない。
本当に、ずるい。ずるすぎる。
震える唇で、アニスはため息を吐いた。
「ルーク様」
「うん」
「・・・好きです。大好きです。ルーク様は、アニス・タトリンのすべてです」
「うん。・・・いい子だな、アニス」
ルークの手が、アニスの顎の下をくすぐり、指先で持ち上げる。
くい、と上向かされるままに、アニスはルークを見上げた。
ちゅ、と額に、鼻先に、頬に、ルークの唇が降ってくる。
膝が震え出すのが、アニスはわかった。
どんな強敵を前にしても、武者震いこそすれ、怖じ気付くことなどないというのに、ルーク一人には、これだ。
こくん、とアニスは唾を飲み込み、観念したように目を閉じた。
小さく笑うルークの唇が、顔中に触れるのが、夢のように心地よかった。
END