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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2024.05.03
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2009.04.17
ss

アニス。微ルクアニ。
預言と預言に従う両親から逃げ出したアニスの話。
アニスの他、ガイやナタリア、アッシュに捏造あり。
ルークは貴族としての教育をちゃんと受けてます。
同行者への厳しめ要素はありませんが、タトリン夫妻、インゴベルトに厳しめ。






物心ついたときには、将来の夢を見るなどということは、アニス・タトリンにとって、まさに夢物語でしかなかった。
目の前にあるのは、度が過ぎるほどのおひとよしで、預言至上主義の両親が重ねに重ねた借金という現実。
返す当てがあるのかと両親に尋ねたところで、ユリア様のお導きに従っていれば大丈夫よ、と両親は聞く耳を持たない。
幼いながらに、アニスはそんな両親にゾッとした。預言に詠まれたならば、それがどんなものであっても従うつもりなのか、実行する気なのかと恐怖に駆られた。

例えば、自殺することが詠まれていたら──実際、このままだと借金苦で首を吊ることになるが。
例えば、娘を女衒に売ることが詠まれていたら──それでも、借金の利息にもなりはしないが。
例えば、娘を殺すことが詠まれていたら──…。
私は殺されるのだろうか。
アニスは震えた。怯えた。怖くなった。
にこにこ、人のいい笑みを浮かべる両親が、恐ろしくてたまらなかった。預言が恐ろしくてならなかった。

だから、少女は逃げ出した。十歳の誕生日を迎える前に、両親が住まうダアトの港から、密航して逃げ出した。
辿り着いたのは、キムラスカ、バチカルの港。生活の当てはなかった。頼れるような親戚もいない。知り合いもいない。
それでも、両親のもとにはいたくなかった。預言に従うダアトには、いられなかった。
これから、どうしようかと、途方に暮れた顔で、少女はバチカルを見上げた。遥か上空に見える城は、あまりに遠く、雲の上の世界のようにアニスには見えた。

「……」

とぼとぼと、アニスは一人、歩き出す。みすぼらしい格好をした子どもに眉を顰める者もあれば、親切に声を掛けてくれる者もあった。
お腹が空いて、と船に乗っている間、くすねたパンの欠片や水しか口に出来なかったアニスは、そんな親切な老女に縋る。老女は持っていたオレンジやパンを、アニスに分けてくれた。
アニスの顔が自然と綻び、お礼の言葉が口を出る。
けれど──。

「あらあら、構わないのよ、おちびちゃん。今日はね、預言に子どもに食べものを分け与えることが詠まれていたのですもの。きっとあなたのことに違いないわ」

その言葉に、アニスは凍りついた。老女の顔に浮かんでいるのは、慈愛に溢れた優しい微笑だったが、アニスの身体はカタカタ震えた。
逃げてきたのに、ここでも預言は絡み付いてくるのか。付きまとうのか。怖い怖い。預言は怖い。
どうしたら、逃げられるんだろう。幼い少女は、大きな目からぼろりと涙を零し、泣きじゃくる。老女が慌てたように優しい声を掛けてくれるが、アニスにはそれすらも恐ろしい。
預言に詠まれていなかったならば、きっとこの女性が自分に優しくしてくれることもなかったに違いないと、そう思えてならなかった。

「いや、いや…ッ、預言はイヤァ…ッ」

怖い、怖い、怖いの。
誰か助けて…!
泣きじゃくるアニスの頭に、ぽん、と手が乗った。宥めるように頭を撫でてくれる手に、誰?と振り仰いだアニスの目に、フードを被った人影が映り込む。

「面白いな、お前」
「…?」
「預言が、怖いのか」
「ッ」

ビクッ、と肩を跳ねさせ、アニスは恐る恐る、頷いた。くくく、と肩を小刻みに揺らし、人影が笑う。
自分よりは年上のようであったが、その声と笑い声に、アニスは、その人影が子どもであることに気がついた。
フードが、ぱさりと華奢な肩に落ち、露わになったのは。
ざわっ、と周囲がどよめいた。

「…誰?」
「俺の名は、ルーク・フォン・ファブレ。お前は?」
「…アニス…」
「アニスか。俺と一緒に来い、アニス」

泣いたせいで乱れる息を必死で整えながら、アニスは差し出される白い手に、戸惑いの目を向けた。
少年の背後には、護衛らしき人影が見える。金色の髪を短く切って、使用人の服に身を包んでいる。まだ若いようだが、その視線は油断なく、周囲を窺っている。
ルークと名乗った少年に危害を加えるような者がいれば、すぐに腰の剣が抜かれるのだろうと、幼いアニスにも、容易に知れた。

「…それは…預言に、詠まれた、から?」

震える唇と掠れた声で、アニスはルークに問いかけた。
ルークの唇の端が吊りあがる。その細い首が、横に振れた。
ルークの顔が、アニスへと近づいてくる。アニスは息を呑み、身体を強張らせた。
呼気が触れ合うほどの距離で、服だけではなく、顔も薄汚れているアニスに向かって、ルークがそれを厭うこともなく、囁いた。

「俺は預言なんてものは、大ッ嫌いだ」

アニスは弾かれたように目を見開き、ルークを見つめた。ルークの顔は笑っている。けれど、きらきらとした翡翠の目は、笑っていない。
ごくりと、アニスは唾を呑む。そんなことを口にする人間に会ったのは、初めてだった。
預言はあまりに当たり前のようにして人々に浸透し、従うことを疑わない人間にしか、会ったことがなかったのに。

(でも、この人は、違うんだ)
生まれて初めて、救われたような気が、少女はした。
ああ、この人に会うために、自分はここまで逃げてきたのだと、恐怖とは違う涙が溢れ、頬が濡れる。
アニスの涙に潤む漆黒の目に、風に靡く朱色の髪が鮮烈に焼きついた。





巨大化したぬいぐるみの足が、組み手練習用の人形を上空へと蹴り上げた。そこにすかさず、ぬいぐるみを音素で操りながら、背後で詠唱を続けていたアニスは、術を発動させる。
唱え終えたブラッディハウリングが、人形に命中し、ずたずたに引き裂いた。
バラバラになった人形の欠片が、ファブレ邸の中庭へと無残に散る。
パチパチと拍手の音が、アニスの耳朶を打った。振り返ったアニスは、満面の笑みを柱に寄りかかる青年へと向けた。

「きゃっ、ルーク様。見てたんですかぁ?」
「腕上げたな、アニス」
「えへへ、ルーク様に褒められちゃった!アニスちゃん、嬉しいっ」

ぬいぐるみとともに、アニスは愛らしく飛び跳ね、喜びを表す。ルークが苦笑し、側に控えたガイが、女って…、とため息を零した。

「あんなに無残に人形、引き裂いておいて、あの笑顔だもんなぁ。すげぇなぁ…」
「やーん、ガイったら。…アニスちゃんのブラッディハウリング、体験してみる?」
「勘弁してくれ」

にたりと笑うアニスと顔を蒼ざめさせるガイに、ルークがけらけらと笑う。
主人のそんな様子に、使用人兼護衛である忠誠を誓う二人は、ともに、ふ、と目元を緩めた。ルークの笑顔を守りたい。それがアニスとガイに共通する思いだった。

「でも、本当、頑張ってるよな、アニス。正直、連れて来たばっかのころは、こんなに頼もしく成長してくれるとは思ってなかったんだけどな」
「ルーク様のために!の一念で、アニスちゃん、頑張りましたもん!」
「うん、頼りにしてるよ、アニス」

にこりと優しく目を細めるルークに、アニスの柔らかな頬が薄っすらと上気する。
慌てて、下を向き、アニスは顔を隠した。

(…どうしちゃったのかなぁ、私)
最近、いつもこうなのだ。ルークの笑顔を見ると、頬が熱くなる。
ぱたぱたと手で煽いでいれば、こつこつとルークが近づいてくる靴音がした。
ぽん、と頭の上に、ルークの手が乗る。ふと、ルークと初めて会ったときのことを、アニスは思い出した。
あのときも、泣きじゃくる自分の頭を、ルークは撫でてくれたのだ。

「本当に、お前たちだけが頼りだ。アニス、ガイ」
「…ルーク様」
「今年、否応なく、世界は動く。預言のとおりならな。…まあ、繁栄が詠まれてる預言に、インゴベルト王が従わないわけねぇけど」

ぎゅ、とアニスは拳を握る。ルークが、自分の人形師としての才能を見抜き、ベルケンドの科学者に命じ、作ってくれた特別製のぬいぐるみであるトクナガも、アニスの意思に呼応し、大きく震える。
ガイもまた、強く決意を秘めた眼差しを、ルークへと注いでいた。

「でも、俺は預言のとおりに死んでやるつもりなんてねぇ。もちろん、ダアトにいる俺の被験者──アッシュのことだって、死なせねぇ。アッシュが調べたとおりなら、『聖なる焔の光』の死によって、世界は戦火に包まれ、キムラスカの束の間の繁栄後、滅びることになるからな」

ルークがレプリカであることをアニスに話してくれたのは、一年前のことだ。
そのとき、アニスは預言に詠まれている、世界の破滅も聞かされた。預言を恐れるアニスにとって、そのとき、預言は憎むべきものにもなった。
預言は、自分を救ってくれたルークを奪うもの。そんな未来など、冗談ではない。

(絶対絶対、覆してみせるんだ)
ルークが死ぬなんて、絶対にイヤだ。認めない。そんな預言は、認めない。
そんな預言に従うなんて、冗談じゃない。

「かといって、確固たる証拠があるわけじゃねぇし、預言至上主義のインゴベルト王に言ったところで信じやしないだろうからな。ナタリアもそれとなく預言に従って戦争を起こしてもいいのか、不安を漏らしたみてぇだけど、大丈夫だと楽観的に笑うだけだったとか言って、落胆してたからなぁ」
「あの王のお気楽さは今に始まったことじゃないけどな」

苦々しく、吐き出すように呟くガイに、ルークが苦笑う。ガイの素性も一年前に聞かされているアニスは、黙って頷いた。
預言に諾々と従う。そのことに疑いを持たない人間が、両親を含めて、アニスは今でも怖い。同時に、愚かだとも思う。
だからこそ、そんな連中のためにルークが犠牲になるなんてことは、決して許せない。

「ルーク様は、必ず、守ります」
「ん、ありがとな、アニス」
「アニスだけじゃない。俺もだ。命に代えても、お前を守る」
「ありがとう、ガイ。…でも、だからって俺の代わりにガイが死ぬなんてことは、絶対にダメだからな」

アニスもだ、とルークの手が、ぐ、とアニスとガイ、二人の手を掴む。一緒に生きるのだと、その手の強さが言っている。
アニスはちらりとガイと視線を交わした。お互い、同じことを思っているのだと、その目で知れた。

「もちろんです、ルーク様」

二人は揃って、朱色の主君に力強く頷いた。
アニスの後ろで、トクナガも同じように、大きな頭をこっくりと頷かせ、ルークが可笑しそうに笑った。


END

 

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無題
サフィルクやアシュルクや偽造ナタリアが大好きですが、偽造アニスも大好きになりました。
ユエ: 2010.01/30(Sat) 19:19 Edit
Re:無題
捏造アニスも好きになって頂けて、嬉しいです!
タトリン夫妻の盲目的なまでの預言への信仰を見てると、アニスがこう思ったとしても、おかしくないのかな、と。
楽しんで頂けたなら何よりですv
2010/02/06(Sat)
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