月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
江戸時代パラレル。
が、名前がカタカナ表記なので、違和感ありまくりかもしれない。なので、TOAではやらないようにしようと思ってたんですが、書きたくなって書いてしまった次第。
ルークは江戸家老の息子。ガイは町奉行の息子で幼馴染。
…ガイの役職が大変曖昧というか、嘘くさいです…orz
家督はまだ継いでないしな、と、旗本の身分ではあるんですが、父上の手伝いと市井を知るために、と同心たちに混じって、定町廻りに加わってます。
やっかみ買いそうですが、そこはガイなので、うまく立ち回るだろうな、と。
一応、他のキャラの役回りも決めてるんですが、需要があるのかな、これ…。
月もなく、深い闇に沈む夜道を、ファブレの家紋が入った提灯がぼんやりと照らした。
夜道に提灯一つは頼りないものであったが、明かりはそれしかない。自然、代々、江戸家老を務めるファブレ家の跡取りであるルークの身体は、提灯を掲げ持つ幼馴染みで、北町奉行を務めるガルディオス家の跡取りであるガイへと、袖が擦れ合わんばかりに近寄った。
現在、ガイは父を支えるために定町廻りとして奉行所に勤めており、今日はガイが非番のため、久々に二人で両国へと赴いた帰りだった。
「昼間の人の多さが嘘みたいに寂しいな」
「そうだなぁ。華のお江戸とは言っても、夜となるとな」
「もっと早く帰っときゃよかったぜ」
「そんなこと言って、せっかく両国まで足を運んだんだから、遊び倒さなきゃ損だ、とか言って長居したのは、ルークだろ。…ああ、さては、怖いのか?大丈夫だって。俺がついてんだから」
「怖いなんて言ってねぇだろ!」
「はいはい」
頬を膨らませ、ルークはガイの腹を小突く。わかったわかった、とガイが苦笑し、身体をくねらせた。
腰に提げた二本差しが、カチン、と鞘を触れ合わせ、音を立てた。
「でもよ。最近、ろくな噂聞かねぇじゃんか」
「ああ、辻斬りのことか?奉行所でも頭抱えてるよ。父上も見回りを増やすみたいなことを仰ってたな。どうも春先は妙なのが出てきて困るよなぁ」
早く捕まえないとな、とルークは腰に提げた刀の柄に触れる。ガイがぽん、とルークの肩を叩き、眉を寄せた。
提灯の明かりが、ゆらりと揺れる。
「…おかしな気は起こすなよ?武士にも犠牲者が出てるんだ。道場の稽古しか知らないお前じゃ、辻切りと出くわしても、足が竦んで何も出来ずに斬られるだけだ」
「ちぇ、わかってるよ。父上と同じこと言うなよな」
「シュザンヌ様はお身体が弱いんだから、あんまり心労掛けさせてやるなよ、道楽息子」
「だーれが道楽息子だっての!俺は立派に父上の跡を継ぐべくだなぁ」
「はいはい」
「ちゃんと最後まで聞けよ、馬鹿ガイ!」
口を尖らせるルークの頭を、ガイが苦笑を零して撫でる。どう見ても、子どもをあやしているようなそれに、ルークの眉間の皺がますます深くなる。
そういう顔してると、お父上そっくりだな、と笑うガイに、ルークがはぁ、とため息を零した。
「そうやってヘラヘラしてっから、マリィベル姉ちゃんが、いつまでたってもあの子は…って心配すんだぞ」
「…おかげで、ここんとこ、毎日、見合い話ばっかり持って来てるんだよな、姉上。それも年上ばっかり」
「ガイにはしっかりもののお嫁さんの方がいいわね、お尻を叩いてくれるような、とか言ってたな」
「……口真似つきで言うなよ」
ぐったり項垂れるガイに、先ほどまで膨れていたのを忘れ、ルークはけらけら笑う。
ちぇ、と嘆き、頭を掻いていたガイの顔が、不意に緊張した面持ちへと変貌した。
「…ガイ?」
提灯に照らされる常にない幼馴染の顔に、ルークの声に不安そうな色が混じる。
ガイの手が腰の刀へと伸び、提灯をルークへと押し付けてきた。ルークはごくりと息を呑み、それを受けとる。
「何だよ」
「しっ」
口を閉じていろと促され、こくりと頷き、口を噤む。ガイが凝視している闇の先へ、ルークも視線を向けた。
闇は濃く、一寸先も見えない。江戸の町はこれほどに暗いのか、とルークは改めて闇の深さを知る。
せめて二八蕎麦でも出す屋台が出ているならば、もう少しは明るいのだろうが、前にも後ろにも、そんな明かりはない。
とっぷりとすべてを飲み込むかのように深い闇だけが、広がっている。
──その闇の中から、じゃり、と砂を噛む音がした。チャキ、と刀の鍔鳴りもし、ガイがカチン、と鯉口を切る。
何かが、闇に潜んでいる。まさか、とルークの顔から血の気が引いた。腰に提げた刀を震える手で掴む。
「俺たちに何の用だ」
ガイが闇へと声を投げた。
闇はしぃん、と沈黙している。が、またジャリ、と草履が地面を滑る音がし、声が返ってきた。
「──桜が」
提灯を声へとルークは掲げた。広がる光の先に、爪先が見えた。
黒く汚れた足袋を、その足は履いている。泥か、と思ったルークの鼻先に、得体の知れぬ匂いがした。
ガイがルークを庇うように、前に出る。
「桜が血が欲しい、と」
嘆いておるのだと、男の声が言う。それは、平坦で、抑揚のない声だった。
感情の機微を感じぬ声は、男の狂気を二人に思わせた。
「ガイ、こいつ」
「ああ、わかってる。…下がってろ、ルーク」
ぬぅ、と闇の中、人影が浮かぶ。その身なりに、ルークは目を瞠った。
武士の格好をした男の身なりは、整っていた。腰に刀を提げ、髪も油で撫で付けられて、すっきりとしている。着ているものも暗くて見えづらくはあったが、上等の着物と知れた。
一見したところでは、どこにも異常は見られない。
だが、顔は違った。目が、ぎらぎらと光り、口がにたりと裂けている。頬もこけ、青白い。ゆらゆら、首も揺れている。
まるで病人のような顔つきだ。けれど、男が踏み出した足は顔を裏切るように、力強い。
「…ガイ」
男の身体からは、狂気じみた殺気が放たれていた。ルークの身体がぶるりと震える。こんな殺気をぶつけられたことは、初めてだった。
男の手には、一振りの刀。その先から、ぽたぽたと雫が滴っていることにルークは気がついた。提灯をぐ、と突き出す。
突き出し、ルークは悲鳴を上げかけた口を噛み締め、閉ざした。
男の着物は赤黒く染まり、刀から滴っているのは血だった。匂いの正体を、ルークは知る。
これは、血の匂いだ。
あの足袋の汚れも、血が染みているからだ。吐き気がルークを襲った。
「お前が辻斬りだな」
ガイの声音が鋭いものへと変わる。ルークが聞いたことのない声だった。
ガイが身体を低く下げ、身構える。抜刀の構えだと、ガイと木刀をあわせたことがあるルークは知っていた。
「桜が、笑うのだ」
辻斬りが、ぶつぶつと呟く。愛しい女子(おなご)のことを語るかのような口調に、ルークの背筋がゾッと冷える。
ゆらり、と辻斬りの身体が揺れている。
「ぬし様がわちきに注いでくれる血のおかげで、わちきは美しくなりんした。もっともっとぬし様のために美しゅうなりとうおざんす。もっともっともっと血が欲しいでありんす、と俺に甘えるのだ」
だから、血を寄越せ。
お前の血を寄越せ。
辻斬りがスゥ、と鈍く光る切っ先を向けたのは、ルークだった。びくりとルークの肩が跳ねる。また、ぽたりと血が滴る。男は既に人を切ってきたところなのだ。
灯りで照らせば、刀が人の膏で濁っているのがわかるだろうと思うと、冷たい汗がルークの背を落ちていく。
どうして俺なんだ、と震える声で訊ねれば、辻斬りがにぃと笑みを深めた。
「赤い髪の男の血がいい、と桜が言うからだ。お前の髪ならば、きっとあれはもっと美しく赤く染まって咲くだろう、俺のために」
美しいだろうなぁ。
夢見るように、辻斬りが笑う。
ひく、と喉を引き攣らせたルークを背後に隠し、ガイがふざけるな、と声を荒げた。
「ルークをお前なんかに切らせてたまるか。お前はここで俺が切ってやる」
「お前の血も、あいつにやろう。あいつのために、ここで死ね」
血を寄越せ!
辻斬りが大声で猛り、走り出した。詰め寄ってきた辻斬りを、ガイが鞘に刀を走らせ、一閃する。が、あと一歩というところで男が留まり、ガイの刀は辻斬りの腹を薄く裂くに留まった。
辻斬りの着物が真一文字に裂け、男自身の血が滲むが、動きを止めるほどのものではない。チッ、とガイが舌を打つ。
(どうしよう)
ガイを援護しなければ。そう思うのに、足が竦んで動けない。辻斬りの狂気に当てられて、動けない。ぎらぎらと光る男の目が、怖くて仕方がない。
動け、動け。ルークは必死で自分に言い聞かせる。動かぬ足を叱咤する。
提灯を持つ手が震え、ゆらゆら、火が揺れる。光が揺れる。照らされる影も揺れた。
「逃げろ、ルーク!」
「だ、だけど、ガイ…!」
「いいから、行け!」
早くしろ、とガイが辻斬りの刀を弾き、怒鳴る。その声には焦りが覗いていて、ルークの不安をいっそう掻き立てる。
自分がいる方がガイにとっては邪魔になるに違いない。けれど、ガイを見捨てて一人で逃げるなど、出来ない。親友なのだ。
いつか、自分が父の跡を継ぎ、ガイが町奉行となるまでに出世したら、二人で将軍と江戸をよりよく導き、守っていこうと語り合った友なのだ。見捨ててなど、いけない。
ぐ、とルークは唇を引き結び、刀の柄をしっかと握った。提灯は唯一の灯り。消えぬよう、地面に置いて、そして。
「…下がってろ」
「え」
不意に、ルークの前に影が一つ、降り立った。目を見開くルークの目に、頭巾を被った頭が飛び込む。それは、黒い装束に身を包んだ、男だった。
ちらりと、提灯の灯りに点された頭巾から覗く髪は。
その、色は。
男が小刀を構え、ガイの横をすり抜け、辻斬りの懐に潜り込む。
俊足の刀の使い手と仲間内から称えられているガイをも超える素早さで、男は辻斬りの腹に深く小刀を突き刺し、左手に隠し持っていた苦無を辻斬りの喉へと突き立てた。
辻斬りの身体が大きくよろめく。ひゅうひゅう、と口から息が漏れている。喉元を突かれたことで、声を出せなくなったらしい。
辻斬りは苦無を掴み──抜くことなく、そのまま、どぉ、と背後へと倒れた。
「…君は、一体」
自分が攻めあぐねていた辻斬りをあっという間に仕留めた男に、ガイが戸惑うように声を掛ける。敵か味方かを、判じかねている。
ルークはよろりとよろめく足取りで、男へと手を伸ばした。暗闇へと、逃れるように男が下がる。
「こいつは俺が預かる」
「な…ッ、ちょっと待て!そいつはこの界隈を脅かした辻斬りだ。北町が預かり、身元を…」
「世の中には、知らない方がいいこともある。引き下がって頂こう、ガイラルディア殿」
「俺を知って…?」
こくりと男が首肯する。
ちら、と男の顔がルークへと向き、ルークは男を見つめ返した。男の眼差しを、知っている気がした。
どこか悲しい、愛しい、懐かしさが混ざった視線を。
「……」
男は何も言わず、死んだ辻斬りの身体を肩に担ぐと、闇の中へと消えていった。後を追おうとするルークを、ガイが袖を掴んで、引き止める。
首を傾ぐルークに、ガイが首を振った。
「多分、だが…あれは御庭番かもしれない」
「御庭番って…なんで」
「それだけ、あの辻斬りの素性がやんごとない方ってことだろ。知らない方がいいってのは、おそらく、そういうことだ」
「…それでいいのかよ」
「よくはないさ。だけど、御庭番が関わってるとなるとな…。…父上には、報告しておくよ」
ん、とルークは頷き、提灯を拾うために、しゃがみこんだ。自分は元服したとはいえ、まだ職らしい職についていない身だ。父に習い、少しずつ、仕事を覚え始めているとはいえ、所詮、見習いにすぎない。
その自分が市井で働くガイの仕事に口を出すことは好ましくない。
それに、今のルークには、辻斬り以上に気になることがあった。
「それにしても…赤い髪、ねぇ」
ガイがぽつりと呟く。その低められた声音に、ルークは物問いたげに顔を向けた。
いや、と躊躇うようにガイが頭を掻く。
「何だよ、言えよ」
「…赤い髪。そして翡翠の目。御三家の一つ、キムラスカ家の特徴だろ?ファブレ家も、将軍家の血を継ぐ家柄だし。シュザンヌ様にいたっては、現将軍の妹君。…なんか、嫌な予感がするな、と思ってな」
何事もないといいんだけどな。
不安そうに呟くガイに、ルークは提灯へと視線を落とした。
(赤い髪、か)
辻斬りが倒れたあたりを、ちらりと見やる。そこに砂と混じった血の後が見え、ルークは視線を逸らし、ぶるっと身体を震わせた。
脳裏を提灯が照らした頭巾姿の男が過ぎる。
(あいつの、髪も)
見間違いでなければ──あの男の髪も、紅かった。
ガイに言おうか。ルークはしばし迷ったが、結局、何も言わず、口を噤んだ。提灯の灯りしかなかったのだ。見間違いの可能性は低くない。
「…早く帰ろうぜ、ルーク」
「ん」
震えるルークを気遣うように、ガイが肩に手を置き、歩き出す。
つられるように足を進めながら、ルークは男の眼差しを思い出していた。
END
御三家は他にマルクト家とダアト家があって、マルクト家の跡取りはピオニー。ダアトはイオン。
現将軍はインゴベルトで、高齢なので、次の将軍はピオニーだろうと噂されてます。
書いている私は楽しかったです…(笑)
参考資料は時代物の小説だけなので、突っ込みはなにとぞ優しく…(汗)