月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
「淋しい笑顔を包み込もう」
ギンルク。
グランコクマでの偶然の出会い。
ルークを守ってあげたいと思うギンジとミュウ。
注!同行者(特にガイ)に厳しめ
アッシュとともに立ち寄ったグランコクマで、情報集めに駆け回るアッシュから離れたギンジは、朱色を見つけた。
ルークが堤防に腰掛け、ぼんやりと海を眺めている。
その傍らには、チーグルの仔が寄り添っていた。大きな耳をゆらゆら揺らしながら、主人の側に付き添う姿が愛らしい。
けれど、その主人の背は、ひどく頼りなげで、寂しそうに見えた。
「…ルークさん」
ギンジは近寄り、ルークの背に声をかけた。
ぴく、とルークの肩が跳ね、項でぴょこ、と朱色の髪が揺れる。
一瞬、殺気がギンジを刺した。
ルークのものか、とごくりと唾を飲み込むが、ルークはまだ前を向いたままだ。鋭い視線はルークのものではない。
それは、ミュウが発しているものだった。
声をかけたのがギンジだと気づくと、魔物の仔はパッ、と笑顔を零した。
「ギンジさんですのー!」
「ど、どうも」
「あ…。久し振り、ギンジ」
(…ああ、そっか)
振り向いたルークに笑みながら、この幼い魔物の仔は、主人を守っているのだと、ギンジは気がついた。
グランコクマは治安のいい街であり、今は和平が成ったとはいえ、長年のマルクトとキムラスカの確執は簡単に消えるものではない。
一目でキムラスカの王族とわかるルークが一人でいれば、いらぬトラブルに巻き込まれる可能性は高い。
だから、この仔は小さな身体で主人を守ろうと必死なのだろう、とギンジは微笑み、ミュウの頭を撫でた。
本来ならば、その役目はルークの護衛剣士であるガイの役目なのだろうに、彼は何しているのだろう、と首を傾げながら。
心地よさそうに、ミュウが鳴いた。
「どうしたんスか、こんなとこで」
「ん、なんかちょっと…疲れたって、いうか」
「おいら、いない方がいいッスか?」
「いや。時間があるなら、隣座れよ」
こくりと頷き、ギンジはルークの隣に腰をおろした。
腕っ節に自信はないが、いざとなれば盾くらいにはなれるだろうか、などと考えながら、ルークとともに海を眺める。
ちら、と横目でルークを伺い見る。長い睫毛が頬に影を落とし、翡翠の目は暗く翳っている。
「…ノエルは、元気ッスか?」
「うん、頑張ってくれてる。アッシュ、元気?」
「元気ッスよ。毎日、何かと怒られてばっかりッス」
そっか、と頷くルークがちらりと見せた笑顔は、暗かった。
ギンジは思わず、手を伸ばし、朱色の頭を撫でる。
きょとん、と目を見開くルークに、我に返って手を引けば、ルークが目を細め、泣きそうな顔で笑った。
「ありがと、ギンジ。ちょっと元気出た」
何があったのかは、わからない。訊いたところで、ルークも答えないだろう。
悔しい、とギンジは腿の上で拳を握った。
皮の手袋が、ギュ、と音を立てる。
(ルークさんの側には、アッシュさんより、たくさんいるのに)
ルークの周りには、仲間がいるはずだ。
なのに、何故──ルークの方が寂しそうなのだろう。
きゅ、と唇を引き結び、ギンジは手袋を取ると、右手でルークの左手を握った。
「ギンジ?」
「…少しだけ、こうしてていいッスか?」
「……ん」
ありがとう。
笑うルークの笑顔は嬉しそうなのに、瞳の奥に寂しさが見え隠れしていて、胸が詰まる。
きっとこの人の本来の笑顔は、もっと煌めいているものだろうに。
「ミュウも握るですの!」
ぴょん、とルークの膝に飛び乗ったミュウが、きゅう、とルークの右手に抱きついた。
ギンジも負けじと、握る手にもう少しだけ、力を込める。
「…ギンジもミュウも、あったかいな」
潮風に当たりながら、ギンジは儚げな眼差しを海へと向けるルークの手を握り続けた。
波が耳に優しい音を奏で、二人と一匹の耳朶を打っていた。
END