月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
目次で短い話を分けました。
カテゴリーは分けてませんが…分けたほうがいいのかしら。
ルクノエ。ED後。アッシュとルーク、二人で帰還してます。
ルークの記憶はアッシュのものとなってしまっていますが、エピソード記憶のみアッシュに行っただけで、意味記憶は残ってる設定です。
ボロが出ないように(お前)簡単に言えば、日常生活には支障がない、ということです。
話の中に厳しめ要素はありませんが、あとがきではあります。
真剣な表情でジャガイモの皮をピーラーで剥くルークに、ノエルは微笑んだ。
もう二度と、会えないと思っていた人。
たとえ、『帰って』きても、それは自分のもとではないと、思っていた人。
けれど、ルークは自分の前に姿を現した。荒野に立ち、ルークが取り戻し、そして消えていった空を見上げ、一人、涙を流していた自分の前に。
(私のもとに、帰ってきてくれた)
あの瞬間を、ノエルは忘れない。今でも、瞼を閉じれば思い出せる。
晴れ渡る青い空の下、朱色の髪を靡かせるルークの姿を。にこりと微笑み、「ノエル」と呼んでくれたルークの声を。
──ルークが覚えていたのは、それだけだった。
「…ノエル、こんな感じ?」
「はい、お上手ですよ、ルークさん」
「よかったー。こっちもやっちゃうな」
「お願いします」
ホッと息を吐くルークに頷き、ノエルはルークが剥き終わったジャガイモをサッと水で洗い、まな板に乗せた。
包丁を手に取り、一口大になるよう、四等分する。
帰ってきたルークは、記憶を失っていた。兄から聞いた話では、ルークの記憶はアッシュが持っているらしい。
大爆発という事象だと説明されたが、説明してくれたギンジ自身、又聞きでよくはわからないらしく、要領を得なかった。
ノエルは不思議そうにきょろきょろと部屋を見回すルークの隣で、ギンジとともに、何にせよ、二人が帰ってきてくれてよかった、とだけ結論を出した。
記憶を失っていても、ルークはルークなのだから。
「なぁ、ノエル」
「はい?」
ジャガイモを剥く手を止め、視線を半分ほど剥けた皮に落としているルークに、ノエルも包丁を持つ手を止め、ルークを見つめた。
長い髪は今は後ろに一つに結わえられているため、ルークの横顔は露わになっている。翠の眼差しが鎮痛な色を浮かべていることに、ノエルは首を傾いだ。
「どうしたんですか、ルークさん」
「俺、迷惑じゃないのかなぁ、って」
「ルークさん…」
「ごめん、なんかいっつも言ってるよな。でもさ、俺、自分が誰かも思い出せないんだぜ?覚えてるのは、ノエルのことだけ。って言っても、名前と顔だけだけど」
ルークが苦笑い、息を吐く。思い出を、ルークは持っていない。こうしてジャガイモを剥いたり、話したり、日常生活に支障のない記憶は失っていないが、思い出と呼ばれる記憶は、すべてアッシュのもとに行ってしまった。
そのことを、ルークが不安に思っていることをノエルは知っていた。
そして、だからこそ、自分たちに面倒をかけてしまっているのではないかと、危惧していることも。
(記憶がなくたって、ルークさんは優しい)
魂は、変わらない。だから、私は。
ノエルはにこりと笑み、包丁をまな板に置くと、ルークに向き直った。ルークがきょとん、と瞬く。
「ルークさん。私ね、記憶があるときのルークさんが好きでした。今でも、好きです」
「あ…、えっと、その、ゴメ…」
「でも!」
俯き、落ち込んでいこうとするルークを引きとめようとするように、声を張り上げる。肩をびくりと跳ね上げ、ルークの翠の目が丸くなる。
「今のルークさんのことも好き。毎日、ううん、一秒一秒、こうして一緒にいるだけで、どんどん好きになっていくんです」
「ノエル…」
「私はきっと、記憶のない今のルークさんに一目惚れしたんでしょうね」
「え」
「ふふ、だって」
だって、貴方は。貴方は、私を覚えていてくれたから。
アッシュさんへと流れていく記憶の中で、「ノエル」という存在を抱きかかえ、守り通してくれたから。
そんな人を、どうして嫌いになんてなれるの。
ノエルは頬を染め、ふわりと笑んだ。
「ノエル、って呼んでくれたルークさんは今のルークさんでしょう?私、そのとき、ルークさんに一目惚れしちゃったんです」
ルークの手の中にはジャガイモがあって。ノエルの側にはまな板や包丁があって。何より、場所がキッチンでは、ムードに掛けるけれど、ノエルは素直な思いを吐露することを躊躇わない。
決して伝えることなど出来ないと思っていた言葉たち。それを口に出来る幸せを、どうして躊躇う必要がある。
「ねぇ、ルークさん」
「うん」
「私は、昔のルークさんを知っているから、今のルークさんに重ねてしまうこともあると思います」
「うん」
「でも、これだけは知っておいて欲しいんです。私は今のルークさんのことも、大好きだってこと。今のルークさんと、一緒にいろんな思い出を築いていきたいと思っていることを。…お願い、できますか?」
小首を傾げ、ノエルはルークを見つめる。さらりと柔らかな金色の髪が揺れた。
ルークが、ぐ、とジャガイモとピーラーを握り締め、涙を耐えるように顔を歪めた。唇を噛み、眉を寄せたそのままの顔で、こくこくと何度も頷く。
「ありがとう…、ありがとう、ノエル」
耐え切れず、頬へと零れ落ちた涙を親指の腹で拭ってやり、ノエルはルークを抱き寄せた。
END
ルークが帰ってきていることを知ってるのは、シェリダン面々とアッシュだけです。
ティアたちが知ったら、ルークを強引に自分たちのところへ連れて行こうとするのが目に見えてるので、内緒にしてます。
まるでノエルが泥棒ネコのように非難しそうなんだよなぁ…。アニスとジェイドあたりは悟りそうかなぁ、とは思うんですが。