月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ルクアリ。いや、ルク→アリか。
フーブラス川イベント。
ルークが同行者たちと決別してます。
イオンやミュウにも厳しめです。
注!同行者厳しめ(イオン&ミュウ含)
箱庭から攫われ、連れ出された外で、ルークは血の匂いを知った。
争いを知った。
死を知った。
憎しみを、知った。
怒りと憎悪が宿る緋色の瞳を向けてくる少女を前に、ルークは立ち竦んだ。
桃色の髪を背に垂らし、目尻に涙を溜めながらも、睨むことを止めない少女。
その目はイオンに向けられるときにだけ悲しみに揺れるけれど、自分たちに向けられるのは、紛れもない敵意。
ルークは心臓を押さえた。
水が流れる音が聞こえ、水の匂いが鼻腔を擽る川の近くで、ライガを従える幼獣のアリエッタを前に、身体が震えた。
あの子のママを、自分たちが殺した。ライガクイーンを、殺した。
(違う、俺は、俺は違う…ッ)
止めようと、した。けれど、ティアは始めからライガクイーンを殺す気で、イオンも早々と説得を諦めて、そして、ジェイドが止める間もなく、留めを刺した。
ああ、でも、きっと彼女にとっては同じことだ。
止められなかったのは事実なのだから。あの場にいたのは、事実なのだから。
ライガクイーンを救えなかったのは、事実なのだから。
ぼろりとルークの目から、涙が落ちた。
足元に転がるミュウを見もせずに、アリエッタに向かって走る。
ガイが止める声も、ジェイドが舌打ちする音も聞こえた。ティアの怒声も。
けれど、どれも知ったことではなかった。
ルークにとって、今、自分が為すべきことは、たった一つだったから。
身構えるアリエッタとライガの前で、転げるようにルークは膝を折った。
アリエッタと目線が合うように、地面に膝を着き、手をつく。
アリエッタの緋色の目が、戸惑いに見開かれた。
綺麗な目だと、場違いにも思う。
「ゴメンな」
「…今さら、謝ったって、許さない、です」
「ああ、そうだよな。許せないよな。でも、ごめん」
ゴメンなさい。ごめんなさい。
死なせてしまったのは、クイーンだけではなかった。せめて卵だけでも守ってやれればよかった。守ってやれなくて、ゴメン。
お前の兄弟たちを、卵のまま、死なせてゴメン。
だけど、なぁ、だけど、さ。
ルークは地面に薄く生えた草を、ぐしゃりと握る。
青臭い草の匂いが、鼻に衝いた。
「青い空とか、青い海とか、そういうのだけでも、見せてやりたかったけど、でも、さ」
「何、ですか」
「汚いもんも、一杯だから、そういうの、見せずにすんでよかったって、ちょっと思う」
特にあの場には、そんなものばかりが溢れていた。
あそこには、人間のエゴが、溢れていた。
己の主観を優先し、人間にとって害ではないから、チーグルが正しいと決め付ける馬鹿な人間ばかりだった。
それに気づかない人間ばかりだった。
あんなもの、見せずにすんでよかったと、ルークは思う。
だって、自分は見たくなかった。外の世界が本当は汚いものだったなんて、知りたくなかった。
ずっと箱庭しか知らなかった自分に、平気で人を殺させる人間になんて、会いたくなかった。
血の匂いなんて知りたくなかった。甘いと言われようと、知りたくなかった。殺したくなかった。殺したくなんて、なかった。
ぼろぼろ、ルークの頬を涙が滑る。
誰かを悲しませたくなんてなかった。アリエッタに、辛い思いなんてさせたくなかった。誰かに憎まれたくなんてなかった。
嫌だ、外の世界なんて。どこもかしこも嫌いだ。
綺麗なものは、自然だけ。人間なんて汚いやつばかりだ。
ガイだって、そう。迎えに来たなんて言いながら、俺を戦わせることを止めさせない。戦って当然だと思ってる。きっと俺が死んでもいいと思ってる。そうじゃなきゃ、前に出て戦えなんて、普通、言わない。言わないだろう?
アリエッタに吐露したところで、どうにかなるなんて、ルークだって思っていない。困らせるだけだとわかっている。
実際、アリエッタは困惑に視線を揺らしている。アリエッタの隣のライガも同じだ。
困らせて、ゴメン、とルークは泣きながらアリエッタに謝った。
アリエッタがゆるゆると首を振る。そうじゃないです、と小さく添えて。
「それ、ぜんぶ…ホントのこと、ですか?」
「ああ、うん。そう、だけど」
「……ルーク、可哀相、です」
ふわりと、小さな手で、ルークは頭を撫でられた。優しいその手に、驚いて涙が止まる。
パタタッ、と散った涙が地面を濡らす。
ライガが側に寄ってきて、ルークの頬をぺろりと舐めた。
「イオン様は、それ、側で見てただけ、ですか?」
守られる立場で安穏として、止めもしなかったのかと、アリエッタが咎めるようにイオンを見やる。
イオンがびくりと身体を震わせ、ティアが庇うように前に出た。
「ルークが戦うのは当然でしょう!剣を持っているんだから」
「何、言ってるですか?ルークは、キムラスカの第三王位継承者、です。貴族で、次期国王です。なのに、何で、戦うですか?」
わからないとアリエッタが眉を潜め、首を傾ぐ。
ルークはきょとん、と目を丸くし、アリエッタを見つめた。憎悪を向けてきたはずのアリエッタが、一番、優しい。一番、正しいことを言っていると、そうルークには思えた。
「人手が足りませんから、当然でしょう?貴方方のおかげで、タルタロスは奪われ、乗員も全員、殺されてしまいましたからね」
皮肉のつもりだろう。肩を竦め、片頬を吊り上げるジェイドを、アリエッタが訝しげに睨む。
正気か、と疑うように。
「アリエッタたちは、乗員を皆殺しになんて、してません。そんな馬鹿な真似、するわけない、です。マルクト、敵に回して、どうするですか。タルタロスだって、止めたのは、あなた、です。あなたがイオン様を攫ったから、アリエッタたちは、取り戻しに行っただけです。それに、人手、足りないなら、セントビナーで頼めばよかったです」
アリエッタの台詞に言葉を失くすジェイドに、ルークはなるほどと頷きながら、呆れの眼差しを向ける。
ガイがルークに近寄ろうとし、ライガがルークを隠すように進み出た。ガイが慄き、立ち止まって、唇を噛む。
ルーク、と呼ばれたが、ルークには立ち上がり、ガイの側に戻る気が起きなかった。ガイとは違い、ライガの身体には圧倒的な安心感があった。庇護されているという、絶対の安心感が。
ガイは、守ってなどくれなかったのに。
「イオン様が守られるの、当然です。でも、ルークだって、同じ。…ルーク様だって、同じです。なんで、わからないですか?それに…イオン様」
「は、はい」
「…どうして、ママがアリエッタのママだって知ってるはずのに、助けてくれなかったですか?」
「あ…、ぼく、僕は…」
「イオン様…、まるで、そのこと、知らなかったみたい、です。ママも、イオン様のことなら、知ってるはず、なのに」
会わせたことだってあるのに。なのに、どうして。
どうして、お互いに気づかなかったのか。
アリエッタがきゅ、と唇を噛み、ぬいぐるみに顔を埋める様に、ルークは胸に痛みを覚える。
可哀相だと、言ってくれた、アリエッタ。優しい優しい少女。
世界は醜いもので一杯だけれど、アリエッタは綺麗だと、吐息する。
桃色の髪も、緋色の目も、鮮烈な憎悪さえも。
ルークは今度は自分の番だと、アリエッタの頭に手を伸ばし、頭を撫でた。柔らかな髪が、指に心地いい。
緋色の目が、涙を滲ませ、ルークを見、ぽす、と小柄な華奢な体躯が抱きついてきた。
背に手を回し、抱き締める。強く抱き締めたら、壊れそうだ。
アリエッタの身体は、温かだった。日の光の匂いが、アリエッタの髪から漂ってくる。
「本当は、気づいてた、けど…」
ぽつりとアリエッタが呟いた言葉の意味は、ルークにはわからなかった。けれど、アリエッタが泣くから、ぐい、と涙の残る己の目を袖で拭い、アリエッタを抱き上げ、立ち上がる。
ぽんぽん、と背を叩いてやれば、ひく、としゃくり上げ、細い腕を首に絡ませてきた。アリエッタの髪に顔を埋め、大丈夫だ、と囁く。
泣き止んで欲しかった。笑って欲しかった。守ってあげたかった。
守れなかった、助けてやれなかったアリエッタの家族の分も。
「あ、…アリエッタ、僕は…」
イオンが唇を戦慄かせ、顔を蒼ざめさせる。ルークはそんなイオンに醒めた目を向けた。
イオンは優しいと思っていた。でも、それは少し違うのかもしれないと、考えを改める。
イオンは優しいのではなく、嫌われまいとしているだけなのかもしれないと。
(多分、それは、悪いことじゃねぇけど)
自分だって、そういうところがある。他人に嫌われたいと思う人間はそうそういない。
でも、その『優しさ』がアリエッタを傷つけている。なら、近づけるわけにはいかないと、少女を抱き締めたまま、ルークは唇を引き結ぶ。
誰かを守りたいと思ったのは、生まれて初めてだった。
戦うのも殺すのも嫌いだけれど、アリエッタを守るためなら、アリエッタへの償いになるのなら、剣を振るうことも恐ろしくない。
自分のためにも、ティアたちのためにも振るうのは嫌だけれど、この傷ついた少女のためになら。
「行こう、アリエッタ。えーと、そこのライガも」
「カウ」
「何言ってんだよ、ルーク!どこに行くって言うんだッ」
「お前らのいないとこ」
冷えた目を、ルークはガイたちに向けた。ご主人さま、と呟くミュウに一瞬、顔を歪めるが、目は向けなかった。向ければ、情が湧く。けれど、ミュウはライガたちにとって、アリエッタにとって何よりも許しがたい存在のはずだ。
外の世界のことは何も知らないし、どこに行けばバチカルに着くかもわからないが、どこか人里につけばどうにかなるはずだ。ライガかアリエッタが近くの村か街を知っているだろう。
荷馬車が通り掛かれば、それに乗って行ってもいい。その場合、ライガには離れたところから着いてきてもらわねばならなくなるが。人は魔物を恐れるから。
「何を馬鹿なことを。行かせるわけには…」
槍の穂先を向けてくるジェイドに、ルークは目を瞠る。まさか自分に武器を向けるとは。
和平の橋渡しをしなければ、幽閉するという脅しは、やはり本気の脅しだったということなのだろう。
ティアも同じく、杖を構えている。
ライガが唸り、アリエッタが信じられないとばかりに声を上げた。
そのとき、地面が大きく揺れた。
「?!」
「地震、です!」
立っていられないほどの揺れに、全員が動揺する。
ライガがルークたちに駆け寄り、倒れそうになる身体を支えた。
「うわ?!」
ひび割れた大地から、濃い紫の煙が上がり、ルークはアリエッタを強く抱き締め、退いた。ライガも慌てて、後ずさる。
煙はルークの視界の阻み、ガイたちの姿を隠した。
嫌な煙だった。息を止め、顔を逸らす。ライガも嫌悪露わに煙に唸っている。
「…でも、チャンス、だよな、これ」
ガイたちの姿が自分たちから見えないということか、ガイたちにも自分たちが見えないということだ。
煙の向こうで、自分を呼ぶ声が聞こえる。
ルークは不安そうなアリエッタににこりと笑み、ライガに乗っていいかと訊ねた。
アリエッタがライガを見やり、こくりと頷き合って。ルークはホッと息を吐き、アリエッタを先にライガに跨らせると、自分もアリエッタの後ろに跨り、ライガの鬣をしっかりと握った。
ライガが一声鳴き、地面を蹴る。ライガの足は速く、煙があっという間に遠ざかり、景色が次から次へと過ぎていく。
同じようにライガにしがみついているアリエッタを風から守るように、ルークはアリエッタの上に覆い被さった。
アリエッタが小さく小さく、ありがとうです、と呟いたのが、風に紛れて聞こえたような気がした。
(不安、だけど)
これからのことを考えれば、不安で不安で仕方ないけれど。
可哀相だと言ってくれたアリエッタのためにも、出来ることをしたいと、ルークは強く誓う。
アリエッタがいつか許してくれるまで。アリエッタが笑ってくれるまで。
(俺の力なんて、たかが知れてるけど)
強くなりたい。アリエッタを守れるように。
二度と、クイーンを死なせてしまったときのような後味の悪い思いをしないでいいように。守りたかったのに、と後悔しないでいいように。
ルークは朱色の髪をたなびかせ、腰の剣の重みを確かめた。
END
最初のうちは、アリエッタに守られてばかりで、ルーク、凹みまくりそうですが(笑)アリエッタの騎士みたいになっていけばいいんじゃないかな…!(萌)
他六神将もまともだと思うので、ルークの意思に触れ、預言脱却のために本当になすべきことは、とヴァンから離脱。
アッシュもアリエッタのために頑張るルークの姿を、自分とは違う個と認めて、お兄ちゃんすればいいと思います。(最近、そればっか)
アクゼリュス崩落編で世界の危機を知らしめて、六神将+ルークで外殻大地降下&瘴気中和&ロー様解放。
ルークはアリエッタと他六神将とでコーラル城で幸せに。アッシュはファブレに戻ることになりそうですが、コーラル城にちょくちょく顔見せてそう。