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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.05.01
短編

シンルク。瘴気中和のダアトイベント。
シンクはルークとこっそり通じ合ってたので、タルタロスの妨害もしてないし、地殻にも落ちてません。
ヴァンと袂を分け、一人でふらふらとルークの周囲をうろついてた感じです。
被験者大嫌いなシンクの話。
ピオニーたち王への風当たりも強め。

注!同行者厳しめ






一言でいいのだ。
シンクは深く深くため息を吐く。
一言。たった一言でいい。
連れ出して、と言ってくれれば。逃げたい、と言ってくれれば。
なのに、ルークはそれを言わない。あのろくでもない同行者たちに罪を押し付けられ、贖わなければと足掻いている。
シンクは苦痛に顔を歪め、拳を握った。怒りが身体中を駆け巡るのがわかる。血が沸騰しそうだ。
ルークは世界を憎まない。ルークは人を憎まない。その代わりのように、ルークは己を憎む。
僕たちレプリカは、望んでもいない生を与えられたのに、人間の都合で勝手に作られたのに、それでも、ルークは。

「…優しすぎるよ、あんたは」

淡い緑の髪をくしゃりと握り、シンクはきつく目を閉じた。
どうか、世界があの優しい彼を、これ以上、傷つけませんように。



──シンクの儚い祈りは、無残に散った。



一万人のレプリカたちとともに、超振動で瘴気を中和するよう、各国の王たちに懇願されるルークの背を、シンクは音素に溶けて見つめた。
わかりました、と頷いたルークの背中は、静かだった。きっとあの翠の目も、今は静かな色を湛えているのだろう。
アクゼリュス以降、ルークは感情の欠けた目をしていた。

(何が、ともに、だ)
あまりの怒りに目の前が赤く染まり、くらくらと視界が歪む。頭に血が昇りすぎて、気持ちが悪い。
要するに、彼らは生贄に捧げると言っているのだ。ルークを、一万人のレプリカたちを。
それも、被験者ルークを生かすため、被験者の第七音素譜術師たちを生かすため。彼らの代わりに死ねと、言っている。
卑怯なのは、そうはっきりと言わないことだ。曖昧に耳障りのいい言葉で誤魔化そうとしている態度が許せない。
なんて身勝手な人間たちだ。吐き気がする。
ルークを止めようとする、ルークの同行者たちの声がシンクの耳朶を打つ。
死のうとするな!とガイが叫び、ルークの頬を張った。
お前はまだ七歳なんだぞ、と顔を真っ赤に染め上げ、叫んでいる。
気づけばシンクは姿を現し、ガイを殴り飛ばしていた。

「な…ッ」
「え、し、シンク?!」

ティアたちが驚愕の声を口々に上げる。シンクは彼らをぎろりと睨み、サッと踵を返すと、ルークの腕を掴んだ。呆気に取られているルークの腕を引っ張る。

「行くよ」
「い、行くってどこに…」
「とにかく、こいつらのいないところだよ。今までずっと見た目の十七歳として行動させておきながら、十七歳として罪を押し付けておきながら、今さら、七歳児扱いしようなんて、馬鹿にするのも大概にして欲しいからね」

付き合いきれない。
シンクは怒りに声を荒げ、吐き捨てる。ルークが困ったように眉を寄せ、足を止めた。
その手を、そっと重ねてくる。

「シンク、俺」
「待ちなさい、烈風のシンク。ルークを連れて行かせるわけにはいきません」
「瘴気中和を邪魔しようと言うのでしょうけれど、あなた方の思い通りにはさせませんわ!」

何を言っているのだ、こいつらは。
呆れを隠すことなく、仮面の奥からシンクはジェイドたちを睨んだ。
弓を構え、息巻くナタリアを、不快だと言わんばかりに舌を打つ

「へぇ、つまり、あんたたち、ルークに死ぬなって言っておきながら、本当は瘴気中和させる気満々なんだ」
「わ、私はそんなつもりでは…!」
「いい加減にしなよ、考えなしのお姫様。自分の言葉と行動に責任持ちなよね。それすらも出来ないなら、王女なんて名乗るもんじゃないよ。あんたの本音は、アッシュが生き残るなら、ルークが死んでも仕方ないってところなんじゃないの」

一瞬、ナタリアの顔がサッと蒼ざめた。すぐに怒り露わに頬を紅潮させたが、もう遅い。
ルークが悲しげに呻き、顔を伏せた。「やっぱり…」と小さく呟くのが、シンクには聞こえた。
ルークの腕を掴む手に、力を込める。
ジェイドは何も言わず、眼鏡のブリッジを押さえているだけだ。言い訳をするつもりはないらしい。それを潔いと片付けてやれるほど、シンクは寛容ではない。
嘲りに片頬を吊り上げ、ジェイドに向ける。

「死霊使いの名の通り、戦場でだけ使われてればいいものを。己の罪から逃れたいあまり、出来の悪い手しか思いつかないんならさ」
「…どういう意味です」
「そのままの意味だけど?一万人のレプリカを犠牲にする意味がどこにあるのさ。彼らの第七音素量に匹敵するだけの量の第七音素の塊がせっかくあるっていうのに」
「そんなのあるのか?」
「あんたまで何言ってるの、ルーク。ほとんど目の前にあるじゃない。フェレス島っていう、巨大なレプリカが。それでも足りないなら、ヴァンの奴が作ったレプリカホドも使えばいい」
「あ…」

ルークと同じく、ぽかん、とする一同に、シンクは呆れを隠せない。調査のために乗り込んだのは、どこの誰だったのか、もう忘れたのか。
だが、そんな一同の中で、ジェイドだけがぴくりと眉を動かしたのを、生まれて二年で参謀としての実力を備えた烈風は、見逃さなかった。

「…気づいてたんだ、死霊使い」
「私は…」
「気づいてたんでしょ?なのに、黙ってたんだ。そりゃそうか。生体レプリカは、あんたにとって見たくもないおぞましい罪の証そのものだからね。これを機に全員消えてくれたら、とかくらいに思ってたんじゃない?」

最低だね!
憎悪の目で、シンクはジェイドを貫いた。ルークもまた、失望の目をジェイドに向け、ジェイドの赤い譜眼が慄きに揺れる。
ピオニーが苦虫を噛み潰したように顔を顰め、顔を両手で覆っている。ろくでもない懐刀を持ったものだ。嘲笑に等しい同情を、シンクはピオニーに抱いた。

「じゃあ、レプリカたちは死ななくていいんだな」

ホッとしたように息を吐くルークに、唇を噛み締める。自分はフェレス島とともに消える覚悟だと、言外に含ませているのがわかったからだ。
冗談じゃない。シンクはルークの腕をきつく掴む。指の跡が赤くくっきりと残る。冗談じゃ、ない。

「あんただって、死ぬ必要なんてないよ」
「シンク…、でも…」
「ルークを返せ!シンク!」

殴り飛ばされた衝撃から立ち直ったらしいガイが、ふらつく足で立ち上がる様に苛立ちが募る。いっそ殺してやればよかった。首の骨を折ることくらい、容易かったのに。
見捨てておきながら、迎えに行ったのだから、自分は他とは違うと言わんばかりに以前と変わらずルークと接しようとするガイが、シンクは以前から気に入らなかった。

「返せ?まるで、ルークがあんたのものみたいに言うんだね、ガルディオス伯爵。ルークを誰よりも殺したいと思ってるのは、あんたじゃないの?」
「それは昔のことだ!今は…今は、ルークは俺の親友だ!」
「はっ!馬鹿馬鹿しい。都合のいいときだけ、親友面してるだけじゃない。本当にそう思うなら、何でルークを連れて逃げ出さないのさ。七歳なんだから、死に急ぐな?死に急がせてるのはどこの誰さ。あんたはルークを止めたって事実が欲しいだけじゃないか!」
「違う!俺はルークの意志を尊重してやりたいだけだ!お前こそ、ルークの意志を無視してるじゃないか!」
「ああ、そうだよ」

あっさりと頷けば、ガイが言葉を失くし、ルークが目を丸くする。シンクはルークを見上げ、仮面の下で苦笑した。

「僕はルークの意志を無視したって、ルークを逃がすよ。だって、ルークに生きてて欲しいからね」
「…シンク」
「僕はルークに生きていて欲しい」

エゴだろうと、なんだろうと構わない。生きていて、欲しい。世界?知ったことか。傲慢だと罵るなら、好きにしろ。
ずっとずっと空っぽのまま、死んでいくのだと思っていた自分に、笑顔をくれたルーク。優しさで埋めてくれたルーク。彼に生きていて欲しい。生まれて初めて抱いた心からの願いなのだ。叶えたいと願うのは、当然だろう?
ルークに生きていて欲しい。ただそれだけをシンクは望む。
はっきりとルークの生を口にするシンクに、ガイが愕然と立ち竦み、やがて身体を震わせ、膝を折った。
ルークがそんなガイを悲しげに一瞥し、シンクが掴んだ己の腕に視線を落とした。

「でも…、俺は罪を償わないと…」
「何の?」
「え?」
「一体、誰の、何の罪を償うっていうのさ」

シンクの問いに、きょとん、とルークが翠の目を瞬かせ、アニスとティアが、馬鹿にするように肩を竦めた。馬鹿はどっちだ。
保身にばかり長けた導師守護役に殺された七番目のレプリカイオンを、助けてやる価値もない愚かなユリアの子孫を助けて死んだ七番目のレプリカイオンを、シンクは哀れんだ。

「アクゼリュス崩落の罪に決まっているでしょう」
「ほかに何があるっていうのよ」
「なら、あんたたちも罪を償ったら?罪状をあげるのも馬鹿馬鹿しいくらいに罪深いティア・グランツに、モースのスパイで導師殺しのアニス・タトリン」

アニスの顔から血の気が引く様を、何の感慨もなく見やる。どうやらアニスはまだ己の罪を自覚しているらしい。ティアの方は誰が罪深いのかと、憤慨しているばかりで、自覚している様子はないが。
ヴァンといい、ティアといい、ユリアの子孫はなんて救いがたい愚か者ばかりなのだろう。天国なんてものがあるかどうかは知らないが、あの世でユリアも今頃、嘆いていることだろう。
シンクは首を振り、椅子に座り込む王たちを見回した。

「アクゼリュス崩落の罪なら、外殻大地降下の功績で十分償われているはずだよね。何しろ、アクゼリュスの崩落の主犯はヴァンで、ルークは暗示で操られていただけなんだし。それに、罪という話なら…」

ちら、と意味ありげにアクゼリュスでルークとともに在った者たちを睥睨する。王たちが呻き、頭を抱えた。どうやら、彼らはともに在った者たちにもまた、ヴァンの凶行を止められなかった、ルークから目を離し、ルークを守れなかった罪があることを理解しているらしい。

「話を戻すけどね。ルーク、瘴気は誰の罪かわかってる?」
「え?」
「瘴気は、被験者どもが昔、愚かな戦争を起こした結果だ。大地が汚染されるほどね」
「あ…」
「そう、瘴気は被験者の罪。それをどうしてレプリカが償わなくちゃならないのか、僕には理解出来ないね。それでも、レプリカに瘴気を中和させたいっていうんなら、僕たち一人一人に、被験者の代わりに死んで下さい、って頭の一つでも下げたらどうなの」

出来やしないだろうが。
彼らにとってレプリカは被験者を犠牲にし、生まれた者であり、搾取されるべきものだ。口では違うと言うだろうが、意識としてそういった考えが存在していることは否めない。まるで家畜のようではないか。忌々しげに、シンクは唾を吐く。

「…俺は」

ぽつりと呟き、被験者たちをゆっくりと一人ずつ見つめるルークの横顔を、黙って眺める。ルークの翠の目は何の感情も乗せていない。ただ、じ、と被験者たちの顔に浮かぶ表情を観察している。
最後の一人、ティアを長く見つめ、ルークがゆっくりと首を振った。誰もが、ルークから目を逸らしていた。
シンクへと、翠の目が戻ってくる。シンクはその翠を、目を逸らすことなく、見返した。

「シンクは」
「うん」
「俺に生きてて欲しい?」
「当たり前でしょ」
「…そっか」

ほぅ、と息を吐き、ルークがふわりと笑みを零した。シンクは泣きたくなるくらいに優しいその笑みに、きゅ、と眉根を寄せる。死んでなんて欲しくない。生きていて欲しい。誰よりも、そう思う優しい綺麗なルーク。

「俺もシンクに生きてて欲しい」
「ルーク」
「…シンク、一緒に行こう」

それは、生きよう、とシンクには聞こえた。
ルークが髪を切ってから、誰にも向けてこなかった笑みを目の当たりにした一同が、身動き取れずにいる様を振り返ることなく、シンクは嬉しそうに自身もまた笑み、頷いて。

「行こう、ルーク」
「ああ」

ルークと手をしっかりと繋ぎあい、音素に溶け、ダアトから姿を消した。
残された者たちは、被験者の愚行に顔を蒼ざめさせ、唇から呻き声を漏らした。

瘴気中和は、公爵邸襲撃並びに第三王位継承者誘拐犯であり、世界を脅かす大罪人である兄の罪を連座で背負わされたティア・グランツと、世界を思う心優しきキムラスカの姫君の間で擬似超振動を発生させることによって、フォミクリーで作られた二つの島を用い、行われたと発表された。
その後、ヴァン・グランツと、行方不明となった烈風のシンクと鮮血のアッシュを除く六神将も捕らえられ、公開処刑となった。
ローレライは、鮮血のアッシュと酷似したルーク・フォン・ファブレの手により、解放されたと広く伝えられた。

そして、被験者には伝えられなかった事実もある。
レプリカたちはローレライの加護のもと、被験者たちの干渉を排除したレムの塔に集められたというものだ。
レムの塔で、朱色の髪をした少年と緑の髪をした少年が、一人、また一人と乖離していくレプリカたちの儚い生を見届け、最後のレプリカとなった彼らもまた、手を握り合い、一筋の光となって、ローレライのもとへと還っていくのを、青い空の下で笑いながら駆ける子どもたちだけが見送った。


END

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感動ですっ!!
確かにありましたね、でっかい第七音素の塊っ!!
今まで色んなサイトさんを見てきましたが、そこに目をつけている人はいませんでした。読んだ瞬間に「あぁ~~~っ!!」って、手を打ってしまうほどに・・・・・
本編のジェイドは本当に気付いてなかったのでしょうか?ちょっと気になるところです(笑)
一条由希: URL 2008.11/16(Sun) 22:09 Edit
コメントありがとうございます!
いらっしゃいませー。コメントありがとうございます!
そうなんですよね。あるんですよねー、大きな第七音素の塊が。しかも目の前に。
フェレス島とか、あれ、海に放置したままとかの方がむしろ問題なんじゃ…(笑)エルドラントと合わせたら、レプリカ一万人はゆうに超えるような量になりそうですよね。
うーん!本編のジェイドはどうなんでしょうねー。気づいて欲しかったな、とは思いますが(苦笑)ワイヨン鏡窟でも、データは見てますしね。本当、気になるところですよね(笑)
2008/11/21(Fri)
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