月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
2008.04.30
短編
黒ナタルク。ナタリアは真っ黒です。
幼いころから既に黒なナタリア殿下。逞しく、強かな姫君です。
黒ナタはアッシュとシュザンヌに冷たい…というか、厳しいです。
アシュナタ好きさんは回避で。
注!アッシュ&ガイ&シュザンヌ好き注意
黒ナタルク。ナタリアは真っ黒です。
幼いころから既に黒なナタリア殿下。逞しく、強かな姫君です。
黒ナタはアッシュとシュザンヌに冷たい…というか、厳しいです。
アシュナタ好きさんは回避で。
注!アッシュ&ガイ&シュザンヌ好き注意
何故、気づかないのだろう。
ナタリアはガイが持ってきた紅茶を啜る紅色の長い髪を背に垂らした少年を見つめ、小首を傾げた。
何故、あんなにも無防備にあんなものを飲めるのだろう。
(疑っていらっしゃらないのかしら)
気づきもしていないのだろうか。
「…ルーク」
「何だ、ナタリア」
「ガイを、どう思っていらっしゃるの?」
「…?よく働くし、気さくなやつだと思っているが」
「…そう、ですの」
おかしなことを訊くな、と和やかに笑うルークに、ナタリアは曖昧な微笑を返す。
目の前に置かれた紅茶にもクッキーにも、一切、手をつけることはしない。
ナタリアが口にするのは、目の前で毒味されたものだけだ。
(…ルークは、気づきませんのね)
ガイは、あんなにも冷たい眼差しを貴方に突き立てているのに。
ルークは、ガイの表面的なものしか見ていないのだ。
失望を覚えながら、ナタリアは内心、そっとため息を零した。
*
ルークが誘拐されたという報せを受けたとき、ナタリアはため息を零しただけだった。
それも、呆れたように。
手引きしたのは、ルークが信頼を寄せている人間だろう。
ヴァン・グランツ。おそらく、あの男だ。大して巧くもない笑顔の仮面を被っていた男。
ローレライ教団で謡将という地位についている男だけに、証拠もないのに、めったなことを口にするわけにはいかないが。
昔からルークには、信頼する価値もない人間に、信頼を寄せてしまう悪癖がある。
(本当に、何故気づかないのかしら)
寝込んでしまったシュザンヌを見舞いに行くために服をメイドに手伝わせて着替えながら、ナタリアはちらりと鏡を見やった。
金髪緑眼の娘が、醒めた顔でそこにいる。
「……」
王族の血を示さない髪の色。
目だけは緑だけれど、髪こそが赤であって欲しかった。
父とも母とも似ない色。
口さがない貴族たちから、陰口を叩かれていることを、ナタリアは知っていた。
あれは不義の子ではないのかと。王の血を引かないのではないのかと。
蒼き王族の血が、流れていないのではないのかと。
幼いころは、父王によく泣き縋ったものだった。
己の幼い振る舞いを思い出し、ナタリアは苦笑する。
今ではそんな振る舞いをしなくなったが、散々、父を困らせたことは変わらない。
「ナタリア様。必ず、ルーク様は見つかります」
気遣わしげに見上げてくるメイドに視線を落とし、ナタリアはええ、と頷いた。
沈黙を悲しみと取ったらしい。
苦笑しそうになる唇を右手で隠し、睫毛を震わせ、目を伏せる。仮面を被るのは得意だ。
年若いメイドが、なおいっそう気遣わしげに眉を寄せた。
(悲しくなど、ないのですけどね、本当は)
王位継承者が一人減った。それだけのことだ。
確かに、彼は婚約者ではあるが、出来ることなら別のもっと有能な人間がいい、とナタリアは思っている。
人を信じる。一見、美談に思えるが、権謀渦巻く宮廷では、愚考でしかない。
表面的なものしか見ず、その奥に隠されている嘲りや敵意を見極められる者でなければ、我が夫に、我が王に相応しくはない。
シュザンヌや公爵には悪いが、いっそルークがこのまま帰って来ない方がありがたい。
(あの『約束』だって、そう)
メイドが背を向けているのを確認してから、ナタリアは皮肉に形のいい唇を吊り上げた。
嘲りに似た微笑が、鏡に映る。
あの約束だって、彼が知らないからこそだ。
私が王族の血を引かぬのではないかと、そう陰口を叩かれていることを知らないから。
王女だと信じているからこその約束だ。
(もし私が王女でなかったとしたら、どんな顔をなさるのでしょうね)
騙したのか、と罵るだろうか。馬鹿馬鹿しい。
ナタリアはゆるく首を振った。柔らかな金髪がふわりと揺れる。
もし本当にこの身に王族の蒼き血が流れていなかったとしても、このプライドは誰にも折らせやしない。
キムラスカ=ランバルディア王国を誰よりも思っているのは、他でもない私なのだから。
ファブレ邸に向かうべく、優雅な足取りで毅然とした態度を崩さず、ナタリアは城を出て行った。
ナタリアを見送る兵やメイドたちは、何と気丈で健気な姫君だろうと、ますますナタリアへと心酔していった。
*
ルークが帰って来た。──それも、ヴァン・グランツによって救出されて。
その報せを聞かされたとき、ナタリアは父王の横で内心、眉を寄せた。顔には喜びを浮かべることを忘れない。
「よかったではないか、ナタリア」
「ええ、お父様。本当に」
娘を思って微笑んでくる王に、微笑みを返しながら、ナタリアの思考は滞ることなく巡る。
ナタリアはヴァンを信用していない。ルーク救出の裏に何かあるのではないか、と疑いを抱く。ちらりとファブレ公爵邸より報せを持ってきた白光騎士を見やれば、今は兜に隠されていない目が忙しなく泳ぎ、動揺が窺えた。
「…ルークに何かありましたの?」
「は…、いえ、その」
「はっきり言ってくださいな。覚悟は出来ております。誘拐されていたのです。危害を加えられていたとしてもおかしくはないですものね」
きゅ、と両手を組み、ナタリアは儚げな微笑を浮かべた。金色の睫毛を震わせ、目を伏せる。
騎士が慌てて首を振り、顔を蒼ざめさせた。
「ルーク様の御身には御怪我一つございません!ですが、その…ッ」
「構わぬ。言うてみよ」
「ご…御記憶を、失っておられまして…。医師が言うには、誘拐された際のショックではないかと」
「まあ、それは…。どの程度の記憶喪失ですの?誘拐されていた間のことなのか、それとも」
「すべてを、です」
「すべて?」
「はっ。ルーク様は、すべての記憶を失くされ、赤子のようになってしまわれておいでです」
騎士のその言葉に、さすがに、ナタリアも王も絶句した。一時的な記憶喪失や、恐怖が故に誘拐されていた間の記憶を失ったというのならば、わかる。
だが、赤子のようになってしまった、とは。どういうことかと詳しく話を聞けば、話し方も歩き方も忘れてしまったということらしい。
(そんなことが…ありえますの?)
ナタリアはますますルークの誘拐騒動への疑念を高める。この目で確かめなくては。
百聞は一見にしかずだ。
「お父様。私、ルークに会って来ますわ」
「だが、ナタリア」
「私ならば、大丈夫です。何もわからないルークの方が不安に決まっていますもの。少しでも、慰めて差し上げたいのです。それに、本当に記憶を失くしたのでしたら、早く私のことを知ってほしいですもの」
ね?と小首を傾げ、懇願の目を向ける。この目に父が弱いことを、娘はよく知っていた。
インゴベルトが呻き、わかった、と頷いた。内心、ナタリアはぺろりと舌を出す。
「あなた、先に屋敷に戻り、私の訪問をお伝え下さいな」
「はっ、畏まりました!」
ナタリアの言葉に感激したらしい騎士が、ナタリアへと尊敬の念を礼にて示し、謁見の間を出て行った。
それを見送ってから、ナタリアはそそくさと部屋に戻り、メイドに訪問着を用意させ。
着替え終わると、鏡の前に立ち、さっと装いを見直してから、ファブレ邸へと向かった。
ファブレ邸に着くやいなや、執事であるラムダスに出迎えられ、ナタリアは玄関ホールに押し留められた。不快そうに眉を寄せれば、ラムダスが畏まった様子で、ナタリアに無礼を詫びる。
「申し訳ありません、殿下。ですが、ルーク様は…」
「記憶を失くしたことならば聞きましたわ。私のことならば心配いりません。ルークに会わせて下さいな」
「ですが…」
「そこをどきなさい、ラムダス。私は誰が何と言おうと、婚約者に会います」
きっぱりと言い放ち、ラムダスを睨む。
幼いながらも王者の威厳を纏うナタリアの態に、ラムダスが息を呑み、ホールへと顔を出した公爵が、ラムダスに下がるよう、言い渡した。
眉を寄せ、顔を顰める公爵と怯むことなく、ナタリアは向き合う。
「殿下、ルークは本当に赤子のようなのです。覚悟はおありですか?」
「愚問ですわ」
「…それでは、ルークの部屋にお向かい下さい」
道を開けた公爵に一礼し、真っ直ぐにルークの部屋へと向かう。中庭を抜けるとき、ぱたぱたとメイドたちが公爵夫妻の寝室へと駆けていくのが見えた。
おそらく、シュザンヌがショックで倒れたのだろう。相変わらずだと、首を振る。
あの叔母は、昔からそうだ。病弱であることを理由に、何かと寝込んでは、己の身に降りかかった災難を嘆くのだ。そして、それを本当は心のどこかで楽しんでいる。
自分も人のことが言えた義理ではないが、悪趣味なことだとナタリアの口からため息が漏れた。
それは悩ましげな響きを持ち、それを聞いたナタリアに頭を下げるメイドたちは、婚約者を心配しているに違いないと、幼い姫君に同情する。この姫君のために自分たちも頑張らねば、と決意新たにする者もある。
ルークの部屋の前で、ナタリアは歩みを止めた。中から泣き声が響いてくる。癇癪を起こした子どもの声。
確かにルークの声だ。
(…赤子のように、というのは本当のことのようですわね)
一つ、深呼吸をし、ナタリアは部屋のドアをノックする。二度、三度と繰り返せば、がちゃりとドアが開き、中から泣き声が大きさを増し、溢れてきた。
部屋からは、金髪の少年が顔を見せた。使用人であるガイ一人だけしかいないことに、ナタリアは眉を寄せる。
この屋敷の人間は、本当に何を考えているのだろう。何故、ガイの暗い視線に気づかない。
赤子のようになったルークの世話まで、ガイ一人にさせるとは。ルークに何かあったら、どうする気だ。
「これは、ナタリア殿下…!」
「出て行ってくださいな、ガイ」
「ですが、その、ルーク様は」
「私は頼んでいるのではありませんのよ」
キッ、とガイを睨み付ける。ガイに対して、ナタリアが友好を示すことはない。友好を示せば、他の使用人たちはナタリアへの敬愛の念を高めながらも、礼儀を崩すことはないのに対し、ガイの場合は、付け上がるだけだと知っているからだ。
怯んだようにガイはたじろぎ、渋々とナタリアを部屋へと通すと、ちらちらとこちらを見ながら、部屋を出て行った。
ナタリアは背後でぱたんとドアが閉じる音を聞きながら、ルークへと向き合う。
泣きじゃくるルークは、自分の知るルークとは違うように見えた。
(…いいえ、見えるだけではないわ)
実際に、違う。これは自分の知るルークではない。
ナタリアの若草色の瞳が驚きに見開かれる。よく似ているが、これは違う。
ルークの髪の色は、もっと血のように紅かった。こんな夕焼けのような朱色ではなかった。まして、毛先が金色へと色を変えてはいなかった。
こくりと唾を飲み、ナタリアはルークへと歩み寄る。ナタリアに気づいたらしいルークが、ぴたりと泣くのを止め、じ、とその翠の目をナタリアに向けた。
その色に、ナタリアは見惚れた。
(なんて…美しいのでしょう)
涙で濡れた翠は、きらきらと光って見える。その目が、こちらを窺うように見つめている。
敵か味方か、推し量るように。子どもがこの大人はいい人間か、悪い人間か、知ろうとするかのように。
「…ルーク」
ナタリアはそっと呼びかけてみた。子どもは何の反応も返しては来ない。
ただ、じ、と自分を見つめ続けている。
しゃがみこみ、ゆっくりとルークへとにじり寄り、手が届く一歩手前でナタリアは進むのをやめた。
ルークが自分をどう判断するか。それを見守る。
「私は、ナタリアですわ」
「…なーた…?」
「ええ、ナ・タ・リ・ア、ですわ」
「なあ、いー」
「ふふ、それでもいいですわ」
あどけない舌ったらずな子どもに、にこりと微笑む。すれば、ルークもまた、にこ、と微笑みを返してきた。
安心したように、子どもが進み寄って来る。自分と変わらぬ大きさの手が、頬へと伸びてくるのを、ナタリアは身動きせずに待った。
ひた、と頬に触れてくるルークの手のひら。温かい、手のひらだった。
「なー」
にこにこ、ルークが笑う。さきほどまで、泣きじゃくっていたのが嘘のようだ。
ああ、もしかして、とナタリアは自身もまたルークの頬へと手を伸ばし、涙を拭ってやりながら、思う。
「もしかして、あなたはガイが怖かったのではなくて?」
「?」
「さきほど、あなたとここにいた者のことですわ。金色の髪の」
「…うー」
ぎゅ、と眉間に皺を寄せるルークの様子に、一人、納得する。
だから、彼は泣いていたのだ。ガイが側にいたから。ガイをこの子は怖がったのだ。
ナタリアはルークの頭をそっと撫でた。ルークがきゃっきゃと嬉しそうに笑う。
無垢な子どもの笑顔。無垢だからこそ、敵味方を選り分けることに長けている。
人の悪意に怯えることが出来る子ども。
(ああ、確かに、このルークはあのルークとは、違う)
この屋敷の人間たちは、キムラスカに繁栄を齎すという『聖なる焔の光』が返って来さえすればいいのか、それとも、赤子のようになったルークから目を逸らしているのか、子どもが別人であることに気づいていないが、ナタリアは気づいた。
そう、この子どもは、あのルークではない。あの、人の本質を見抜くことの出来ないルークではない。
ナタリアの身体が、喜びに震える。このルークが何者であるのかはわからない。このルークを屋敷に連れて来たヴァンの企みもわからない。
だが、利用させはしない。渡しはしない。このルークは自分のものだ。わからないことは、すべて暴けばいいだけだ。必要な駒を揃えなければ。
いろんなことを教えよう。始めから、我が夫として、我が王として相応しい『聖なる焔の光』として育て上げてみせる。
そのためには、優秀な家庭教師を見つけてやらなければなるまい。心当たりはある。自分に教育を施してくれた彼女がいる。彼女にルークにもついてくれるよう、頼もう。彼女ならば、このルークを正しい道へと進めてくれる。
もちろん、自分もそのための努力は惜しまない。暇を見つけては、ルークに会い、ルークを守ってみせる。ああ、誰にも渡すものか。
「大丈夫ですわ、ルーク」
「う?」
「あなたには、私がおります。私は、あなたの味方ですわ」
私の未来の王。私の『聖なる焔の光』。
ナタリアは大輪の薔薇のごとき輝かしい笑みを浮かべ、ルークの頬に口付けた。
ルークがくすぐったそうに笑い、真似るように、ナタリアの頬へと口付けを返した。
幼い誇り高き姫君の誓いを知る者は、まだ誰もいない。
END
ナタリアはこれから王家直属の暗部や騎士、白光騎士にも忠誠を誓わせ、自由には動けない自分の手足となる人間も見つけて、ヴァンの企みや預言のこと、アッシュのことを探っていくことになるかと。間違いなくアッシュを切り捨てるな、この黒ナタ。
その間もルークの教育は忘れません。特に家庭教師の名前とか具体的なことは考えてないんですが、その人とともにルークを立派に育て上げて、そのうち、ガイの正体も突き詰めて、マルクトへの交渉材料にする気満々。
ヴァンにもルークは懐くものの、ナタリア>家庭教師>>>>(越えられない壁)>>>>ヴァン>公爵夫妻。ナタリア一番。ナタリアもルークが一番。ルーク、黒いけどピュアな子に育つかな。
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