月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
それぞれ独立したssです。
お兄ちゃんは大変です:タルタロス脱出時のライとイオン
トニー二等兵の受難:セントビナーに向かう途中の野営での出来事
王と若の遊戯:ピオニーとセイロンの手合わせ
以上の3本をまとめて載せてあります。
お兄ちゃんは大変です
「へぇー、二丁拳銃か」
ライは左手に銃を構え、右手をポケットに突っ込んだ状態で、金色の髪を結い上げた女と対峙した。
ライの背後にはイオン。
導師守護役であるアニスは神託の盾兵の一人が放った譜術の範囲からイオンを逃すため、自ら喰らいに向かい、タルタロスから落とされてしまった。
ライにイオン様をお願い!と叫び声を残して。
巨大化するあのぬいぐるみがクッションとなって衝撃を吸収するだろうから、多分、助かるはずだ。
ライはイオンをアニスに再会するまで、彼女の代わりに何としても守りぬくと自身に誓い、策を練る。
「リグレット、お願いです!引いて下さい!」
「それは出来かねます、導師イオン。…少年、導師を渡してもらおう」
「本人嫌がってんだろ」
「ならば、貴様を排除するまで」
「……なんか、どっかでやったことあるな、こういうやり取り」
要求を呑まないならば、排除のみ。
もっと平和的な解決手段があると思うのだが、どうしてこう短絡的なのだろう。
大体、イオンに銃弾が当たったらどうするつもりか。他の兵たちにも言えることだが。
フェアに近づく虫を片っ端から武力行使で追い払っている自分のことは棚にあげ、ライは嘆息する。
(早くフェアたちと合流したいんだけどな…)
ちっ、と舌打ちし、ポケットの中の石を一つ、握り締める。
「召喚、インジェクス!」
「なん、だ…?!」
リグレットの眼前に、人型の機械が唐突に姿を見せた。
空間を裂いて現れたそれに、呆気に取られたリグレットの反応が鈍る。
銃口を向けたときには、彼女はインジェクスが注射に似た武器から放った紫色の靄に包まれていた。
リグレットの身体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。リグレットの手から滑り落ちた譜業銃が、ガシャリと音を立てた。
「うぐぅ…!毒、か…っ」
「悪いな。俺としてもあんま好きじゃねぇけどさ、こういうの」
「あ、あの、ライ。リグレットは死んでしまうのですか…?」
「いや、ほっときゃ毒気は抜けるから、死んじまうまではいかねぇよ。でも、身体の自由は奪ったからな。俺たちを追うことはできねぇだろ」
「…ッ」
屈辱の怒りに燃えるリグレットに睨まれ、ライは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
ともに戦える仲間がいたならこんな手段は取らなかったが、今はイオンの安全が第一だ。
それに状況がわからない以上、一刻も早く逸れたフェアたちと合流しなければならない。
「行くぞ、イオン」
「はい。…すみません、ライ」
「何謝ってんだよ。友だちだろ?」
「ライ…。っ、ええ、そうですね!」
ぱっ、と嬉しそうに顔を輝かせたイオンの手を取り、ライはタルタロスの中を走り出した。
*
ブリッジに出たところで、ライは小さく笑みを漏らした。
空にはフレスベルグが旋回しており、安穏と出来る状況ではないが、それでも、やっと妹の姿を見つけられたことはライを安堵させた。
無事であることは響界種の共鳴か、はたまた三つ子のなせる業か、感じ取ってはいたのだが、フェアに大きな怪我もない様子に心底ホッとする。あとはあちらへと向かって行けば。
「っ!?」
ハッ、とライは顔を上げ、銃をフェアの上空へと向けた。
だが、距離と唸るような風のせいで銃弾が届くはずがないことに舌打ちする。召喚術の範囲もここからでは遠い。
「フェアー!」
ライは声を張り上げ叫んだ。
フェアがカサスやルークとともに立っている機関室の上に、燃えるような赤毛が翻っているのが見える。
その髪の色が、ギアンのものではないことに、ライは気づいていた。何より、あの服装は他の神託の盾兵が着ていたものとよく似ている。
男が剣を掲げ、切っ先に音素が集まっていくのを走りながら見つめる。男の存在に気づいたフェアが、ルークを背に庇い、さらにカサスがそんなフェアの前に立った。
男が何か言っているようだが、風が邪魔をし、ライの耳には届かない。男の剣が振り下ろされる、その寸前。
「!」
ライは強烈な圧迫感を覚えた。身に覚えのある、この緊張に満ちた空気。ザァッ、と鳥肌が立つような怒りが周囲に満ちている。空気がピリピリと震えている。
「ら、ライッ、あの、何が起きて…?」
「あー…。うん」
怯えるイオンの頭を撫でてやり、苦笑う。なんと説明したものか。
「…ある意味、天罰?」
凶魔獣レミエスが放つ、星呪の咆哮が晴れた空に響き渡った。赤毛の男がタルタロスから落ちていく。
生きてるといいな、と薄っすら同情し、手を合わせ、ライは呆然としているイオンを促し、ブリッジを進んだ。
頼もしい味方が増えた。そう思っておこう。正直、厄介者が来やがったという認識の方がライとしては強いのだが。
(何しろ、フェアに寄り付くもっとも厄介な虫だからな)
フェアもギアンには甘い。ギアンが生まれてから受けてきた境遇を思えば、ライとて幸せになって欲しいと思う。
が、それはそれ。これはこれ。
可愛い妹を嫁にやれるか、という問題とは別だ。ギアンは幸せになれるだろうが、フェアが幸せになれるかどうかはわからない。
ライはそっとため息を零す。大それたことを願った覚えはないのに、何故こうも次から次へと問題が降りかかるのだろう。
可愛い恋人と可愛い妹たちと一緒に平々凡々安穏とした堅実な人生を送りたいだけなのに。
出来ることなら、湖に閉じ込められたままの母も一緒だと嬉しいけれど。
ついでに、あの馬鹿親父がどこかでくたばってくれたらもっともっと嬉しいとは思っているけれど。
「あのライ、何してるんですか…?」
不安そうな顔で首を傾げているイオンににっこり微笑んでやってから、ライは左手に持ったままのプラズマブラストをギアンの頬すれすれの位置に構えた。
幸い、ギアンは背が高いため、ギアンに抱きしめられているフェアに銃弾が掠る心配もない。こちらに気づいたカサスが顔を蒼ざめさせているが、ライの目には入らない。
「よ、ギアン」
ライはあっさりと何の躊躇いもなく引き鉄を引いた。
だから、俺に断りもなく、妹に手を出すんじゃねぇよ。
END
トニー二等兵の受難
私とライ、宿屋と食堂やってるの。だから料理は任せてね、と微笑むフェアに、トニー二等兵たちマルクト兵は、なれば、と自分たちはジェイドの指示のもと、野営の準備を進めた。もちろん、その間も周囲への警戒は怠らない。
ライとフェアがカサスが背負っていた荷物を受け取り、食材を引っ張り出す様を、ちらりとトニーは見やる。どうやらまともな食事を取ることが出来そうだ。正直、干し肉といったような味気ないものとなるだろうと思っていただけに、ホッとする。
やはり、食事は大事だ。しかも、彼らが用意している食材はエンゲーブのものらしい。期待するなという方が難しい。
「ライ、何作る?」
「そうだなー。パスタ作るか」
「そうだね。トマトも悪くなっちゃわないうちに使いたいし」
メニューを決めたらしい兄妹が、それぞれ腰に提げている鞄を地面に下ろした。
ドスッ!
……何やら不穏な音が聞こえたのは、気のせいだろうか。トニーは仲間たちとともに、フェアたちを見やった。ライとフェアの二人が鞄を開くのが見える。フライパンに鍋にまな板に包丁と、次から次へときちんと収められていた調理道具一式が鞄から出てくる。軽く見積もっても十キロはありそうに見えるのだが、目の錯覚だろうか。
お皿も一杯持ってきておいてよかったね、そうだな、と兄妹は朗らかに笑っている。もしかしてあれは重そうに見えるだけで実は軽いのだろうか。
ふと、トニーはタルタロスで再会したというフェアたちの仲間であるギアンと目が合った。トニーの疑問を読み取ったらしいギアンが、どこか諦観の念が篭る笑みを浮かべ、首を振っている。
ああ、どうやらあれは見た目そのままに重いらしい。あんな小さな身体でどうやって運んでいるのだろう。しかも、あの二人は自分たちと同じ距離を平然と歩いていたはずだ。
見れば、死霊使いと敵味方ともに恐れられているカーティス大佐ですらも驚きの表情を浮かべている。珍しいものを見てしまったとサッと目を逸らし、トニーは仲間とともに簡易的なテントを設営するのに集中した。
ライとフェアの側では、ルークとティアが手伝いを申し出る声がする。ガイという名の使用人も、手伝いを申し出ているようだ。導師イオンも、僕も何かやらせて下さい、と頭を下げている。
兄妹は絶妙のコンビネーションでてきぱきと調理を進めながら、そんな彼らに指示を飛ばしている。宿屋と食堂の主人というのは本当のようだ。
それにしても、キムラスカの第三王位継承者とローレライ教団の導師にまで手伝わせてしまっていいのだろうか。トニーはちら、とジェイドに視線を送る。
ジェイドも同じことを思ったらしく、ルークとイオンに休んでいるよう言っているが、二人は頑固に首を振っている。二人は野菜を洗う手を止めようともしない。やがて、ジェイドの方が諦めて折れた。
今日は本当に珍しいものばかり見ている。でも、誰にも言えないな、とマルクト兵たちは目の前の出来事を、己の心の内だけに留めることにした。
ライくんもフェアちゃんも、まだ二人とも若いのに苦労してるんだろうなぁ、とトニーは自分も頑張らなければとテントを地面に固定するための杭に向かって、トンカチを振り下ろした。
目測を少しばかり誤ったトンカチは、トニーの親指を強打し、トニーの唇から悲鳴が零れ出た。
「…何をやっているんですか、トニー二等兵」
「うう、すいません」
頭痛がするというように米神を押さえながら、ジェイドがトニーの前に屈みこむ。見せてご覧なさい、と言われるままに、トニーは手を差し出した。じんじんと親指が痛む。
「ああ、血豆は出来ていますが、骨に異常はないようですね。少し冷やしておけば大丈夫でしょう。フェア、すみませんが」
「うん、これ、どうぞ」
「ああ、ありがとうございます。貴方は気の利く方ですね」
にこやかに微笑む死霊使いなど、そう見れるもんじゃないな、と思いながらも、マルクト兵たちは黙殺を決め込む。我らが皇帝ならば楽しげに笑うところかもしれないが、自分たちにはとてもではないが、そんな芸当は出来ない。そんな芸当が出来るようにもなりたくないが。
フェアが差し出したのは、近くの川からカサスが汲んできた水が入ったコップ。そのコップにジェイドが譜術を唱え、底の方を凍らせた。
見事な音素コントロールに、さすが、とマルクト兵たちは揃って目を瞠る。
「さぁ、これで冷やしておきなさい」
「は、はい。ありがとうございます!」
「気をつけてくださいね」
白に近い銀色の髪を揺らし、気遣うように笑みを向けてくれるフェアに、トニーはぺこりと頭を下げる。可愛い子だなぁ、と改めて思う。あのティアという少女も美人だが、自分はフェアのような素朴さのある可愛らしい子の方が好きだ。
薄っすらと桃色の頬も愛らしい。ちゃぷん、とコップに親指を沈め、そっとフェアを窺い見るトニーを、不意に凍てついた冷気が襲った。
(こ、これ…殺気…?!)
ぶるりと身体を震わせ、周囲を見回す。敵襲か。だが、周りの仲間たちは平然とテントの準備を進めている。どうやらこの殺気は自分だけに向いているらしい。ごくりと唾を飲み込み、トニーは殺気の主を探す。探して、ヒッ、と息を呑んだ。
射抜かんばかりにこちらを睨む、ギアンの赤い目とライの水色の目が、トニーに向けられていた。
金縛りにあったように、トニーの身体が竦み上がる。蛇に睨まれた蛙。まさに今の自分の状況だ。
「ライ、胡椒ちょうだい。ギアン、そっちの袋にバジルの小瓶があるから、取って来てくれる?」
フェアの呼びかけとともに、トニーの身体は自由になった。ほらよ、とライが胡椒を手渡し、ギアンがバジルを探しに向かったからだ。長く息を吐き、トニーはぐたりと座り込む。ああ、寿命が十年は縮まった気がする。
(フェアちゃんにはあんなに怖い二人がついてるのか…)
あれでは話しかけることはおろか、近づくことさえ難しい。
トニー二等兵の淡い恋心は、無残に散り。あとには親指の爪に大きな血豆が残るだけだった。
END
王と若の遊戯
仕事ばかりじゃ身体が鈍る、とピオニーはセイロンを中庭へと連れ出した。
城の奥に作られたそこは、太陽が燦々と気持ちよく降り注ぐ、ピオニーのお気に入りの場所でもある。
ゴツ、と拳を合わせ、セイロンを見据える。
ふん、と鼻を鳴らし、セイロンが扇をパチリと閉じた。
「余計な気を回しおって」
「あ?なんだ、バレてんのか」
「我を甘く見るなよ、小僧」
扇で笑う口元を隠すセイロンに、ピオニーは頭を掻く。
赤い髪と角という容貌と土地勘がないということもあり、セイロンは城でただ情報を待つ日々を送っているため、それでは退屈だろうから、せめて身体を動かせば気晴らしになるかもしれない、という考えは簡単に読まれていたらしい。
見た目は自分よりも若く見えるが、実際は倍を軽く超える年月を生きているという話は本当なのだろうと、こういうときに思わされる。
ゼーゼマンでさえ、彼から見れば小僧なのだから、一体何十年生きてるんだと、訊いてみたいような、恐ろしいような思いをピオニーたちは味わっている。
「まあ、よい。せっかくだ。相手をしてやろう」
「おう、行くぞ、セイロン」
ぐ、と足裏に力を込め、ピオニーは一気に間合いを詰めた。
上体を沈め、懐へと飛び込む。けれど、腰を捉えようとした腕はあっさりと払われた。
慌てることなく、身体をそのまま前に倒し、地面に手をつき。ピオニーは地面を蹴り上げ、腰を回し、鋭い蹴りをセイロンへと放った。風を切る音がピオニーの耳朶を打つ。
焦る様子すら見せず、軽やかな足取りで背後へとセイロンが飛び、それを避けた。
チッ、と舌を打ち、ピオニーは肘を曲げ、腕の力だけで飛び上がり、体勢を立て直す。
扇をぱらりと広げ、セイロンが目を細めて笑った。
「ほぅ、なかなかやりおるではないか」
「一発も当たってないのに褒められてもなぁ」
「…では、今度は我から仕掛けてやろう」
パチンッ。扇が閉まると同時に、風がピオニーの横をすり抜けた。
息を呑み、右腕を凪ぐ。気配はあった。だが当たる直前にそれが消え、ピオニーの腕は虚しく風を切る。
バッ、と左側から、ピオニーの眼前に扇が突き出された。
それが上下に揺れ動き、パタタッ、と朱色が目の前に広がる。
つ、とピオニーの頬を冷たい汗が伝い落ちていく。
「陛下!」
護衛を兼ねて見学していたアスランが、焦燥感に駆られて叫んだ。
それを片手で制し、ピオニーは僅かに顔を歪める。
「…見えなかった」
「あっはっは。だが、反応は悪くなかったぞ」
つい、とピオニーの前から扇を引き、そのまま、ゆったりと自分を扇ぐセイロンに、深くため息を吐き。
磊落に笑うその様を、ピオニーは悔しげに睨んだ。
「本気出させることも出来ねぇとはなぁ。俺もまだまだだな」
「我が本気を出しておったら、お主の骨は砕けておったぞ、ピオニー。我の蹴りは岩をも砕くからの」
さらりと吐かれたセイロンの言葉に、ひく、とピオニーの頬が引き攣る。
ちらりとアスランを見やれば、顔から血の気が引いている。
──アスランには悪いことをしたかもしれないと、ほんの一瞬だけ、ピオニーは反省した。
「…大体、ピオニー」
「ん?」
「お主とて本気ではなかったではないか」
ピオニーの蒼の目が瞠る。
気づかれていたとは思わなかった。「半分以上、本気だったけどな」とピオニーは頬を掻く。
わかっているというように、セイロンが頷いた。
たとえ、本気を出したところで、明確な実力差があるため、セイロンに勝てるとは思っていない。
それでも、本気を出し合えば、お互い、怪我をすることは必至。
アスランの手前、ピオニーは怪我をするわけにはいかなかった。自分が怪我を負えば、アスランは任務としてセイロンを捉えなくてはならなくなる。
王であるピオニーを、傷つけた罪人として。セイロンを客人として扱うピオニーにとって、それは不都合以外の何物でもない。セイロンとの戯れあいは、遊びの域を出てはならない。
それすらも、どうやら目の前の龍人とやらは読んでいるようだ。
年の功だな、とピオニーは苦笑した。
「だが、よい気晴らしではあったな。たまには稽古をつけてやってもよいぞ」
「お、言ったな。約束だぞ、セイロン」
「うむ。だが、その代わり、さっさとフェアたちの情報を探ってもらわねば困る」
「わかってるって」
「陛下、仕事もお願いします!さ、早く執務に戻りますよ」
「少しは休ませろよ、アスラン…」
「あっはっは」
扇を広げ、笑うセイロンの声と、ぐったりと項垂れ、唸るピオニーの声が、太陽の光が満ちる中庭に響き渡った。
END
うちのアスランさんは常に苦労人属性のようです(笑)
(ちなみに、ジェイドたちがセントビナーに着く前の話なので、ピオニーのところまでライフェアの情報は行ってません)