月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
サフィスレルク。
ルーク愛のサフィールです。
かっこいいサフィールを目指した…んですが。あと色気とか。
微エロな表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。
また、グランツ兄妹に特に厳しめです。
注!同行者(ティア&ジェイド&ガイ)&ヴァン厳しめ
いつのまにか、なんて考えるだけ馬鹿らしいというものだ。
感情に理屈をつけることを馬鹿馬鹿しいと思わせたのは、彼なのだから。
どうしようもなく、自分は彼に魅せられてしまっただけ。重要なのはそれだけだ。
サフィール・ワイヨン・ネイスの存在理由は、ルーク・フォン・ファブレのレプリカである、彼。ただそれだけ。
そのことに、身体が震えそうなほどの歓喜を覚える。鮮やかな朱色の光に、朱色の闇に囚われる、この心地よさといったら。
「ルーク」
「なぁに、サフィール」
唇を吊り上げ、少年が笑う。あどけなく、それでいて、艶やかに。
『聖なる焔の光』より生まれた光の欠片は、危うく見えて、その実、強かだ。
嫌な子どもだと、サフィールと呼ばれた死神も笑う。
愛しい子どもだと、死神は朱色に見惚れる。
「死神に愛される気分はいかがです?」
最高、とルークが掠れる吐息の下、囁き、サフィールを捉えてやまない翡翠の目を細めた。
うっそりと、うっとりと。
*
ベルケンドの領事館の地下に作られた、暗く冷えた檻の中、罪人が喚いていた。己の罪を理解せず、己の愚行を理解せず。ただただ己の身を不遇と嘆き、正当な罰を理不尽だと訴える。
蝋燭の火が揺らめくランプを掲げ、サフィールは吐息した。
ああ、こんな愚かな女のせいで、あの子の身には。
「貴方、六神将の…。やっとダアトが抗議してくれたのね。さぁ、早くここから出して!」
苛立ち露わに、己の立場を甚だしく勘違いした女が甲高い声で叫ぶ。その首には、譜歌を封じる譜業。簡易的ではあるが、封印術の役目を果たしているものだ。
この女の声が奏でる譜歌だけはよかったのに、と評価していた者がいたが、一度、医者に診てもらった方がいいのではないかと思えるほど不快な声に、サフィールは隠すことなく眉を顰める。それとも、言動が不快だからそう思えるのだろうか。
耳障りで仕方ない。猿轡も嵌めておけばよかったのだ。手足の枷だけでなく。
サフィールは深いため息を零した。ともに来たキムラスカ兵も嫌悪をその表情に滲ませている。信じられないと女の言動を疑ってすらいる。
ローレライ教団の軍事教育はどうなっているんだとでも思っているに違いない。
当然か、とサフィールは肩を竦める。彼女は、自分が六神将の一人であったと認識している。つまり、自分は上官に当たるのだ。たとえ、直属ではなくとも、軍においては、上官というだけで礼儀を払うのが当然だ。
にも関わらず、彼女は態度を改めない。彼女に礼儀を払うつもりは一切ないらしい。
むしろ、己の憤懣をぶつけることを、当然だと思っている節がある。自分が今、牢に繋がれているのは、ダアトの怠慢が故だと。
(確かに六神将は、彼女の兄、ヴァン・グランツの部下、でしたがね)
兄の部下は己の部下だとでも思っているのだろうか。己にも従うべきだと、ローレライ教団に所属する者は、導師だけではなく、ユリア・ジュエの血族にも従うべきだとでも思っているのかもしれない。
他国の軍人、マルクトのジェイド・カーティスは大佐と呼び、敬語を使っていたと報告があったが、彼女の中の基準はどうなっているのだろう。
理解出来ませんね、と首を振る。もっとも、理解してやる気もない。
他国の軍人には敬意を払えても、同じく他国の王族には敬意を払えないような愚者の思考などに興味はない。
「ダアトは抗議なんてしていませんよ」
「何ですって?!」
「いちいち声を張り上げないでもらえませんかね。耳障りなんですよ、あなたの声。大体、どうしてダアトが抗議しなくちゃならないんです。何の関係もないのに」
「何を言っているの?」
意味がわからないと、ティア・グランツは首を傾ぐ。その水色の目に覗くのは、訝しさと嘲り。己の理解出来ないものを、彼女は排除しようとする。愚かなものとして。
真に愚かは己であるというのに、己の常識こそが正しいと信じて疑っていないのだ。
よく似た兄弟だと、サフィールは哂う。ヴァンも同じだ。己の憎悪こそが正しく、世界は間違っていると決め付けて、そして、その憎悪に賛同する声を当然だと思い込んで。
結果、彼は妹の失態をこれ幸いとばかりに捕らえられ、地位も失った。ヴァンを脱走させようとしたリグレットやラルゴも同じく。
そして、サフィールは、ヴァンが捕まる前に、六神将を辞し、ディストという名も捨て──今は、以前より伝があったキムラスカに身を寄せていた。
「ですが、あなたはユリア・ジュエの直系ですからね。レプリカ情報だけは頂きましょう」
「だから、何の話をしているの!」
苛々とティアが叫ぶ。本当に耳障りだ。説明したところで、どうせ理解しやしないだろうに。
己に都合のいいように、曲解するだけだだろうに。
はぁ、とサフィールはまたため息を零し、頭を振った。
「あなたはね、切られたんですよ。あまりに罪が重すぎて、たとえ、ユリアの子孫だろうと、ダアトは庇い切れない、とね」
「罪だなんて…!あれは事故だと」
「公爵邸に、王族の屋敷に侵入したことも事故だと?そして、ルーク・フォン・ファブレ様のお身体に傷を負わせたことも」
それも、深い深い傷だ。ルークの胸に刻まれた刀傷が、サフィールの脳裏を過ぎる。
この音律師は治癒術師としてはまだまだ未熟で、血を止めることは出来ても、傷を完全に癒すまでの力はなかったのだ。それゆえに、ルークのあの白い身体には傷が残った。残ってしまった。
それだけで、戦争の理由となるのだと、この女は気づかない。
「あなたのせいで、ダアトは今後、キムラスカの属国扱いですよ。あなたのレプリカ情報も、キムラスカのものです。ユリアの音素情報も譜歌も今後は、キムラスカによって『保管』されます」
キムラスカに頭が上がらないのは、ダアトだけではない。マルクトも同様だ。
和平の使者としてキムラスカを目指しておきながら、ジェイド・カーティスはその道中、偶然にも発見したキムラスカの第三王位継承者を脅し、侮辱し、あまつさえ、前線に出し、怪我まで負わせたのだから。
(やれやれ)
道化にもなれぬ愚か者ばかりが、よくもまあ、ここまで集ったものだ。
道理で、彼が腹を抱えて笑っていたわけだと、サフィールはずれた眼鏡を押し上げ、直す。道化を演じながら、真に愚者である者たちを手のひらの上で転がすことくらい、彼にはわけもなかっただろう。
こうして牢に放り込まれ、考える時間だけならばたっぷりとあったにも関わらず、反省の一つも出来ぬような愚か者が相手だったのだから。
「開けてください」
もう話すのも面倒だ。付き合いきれない。時間は無限ではないのだ。
それに、これ以上、待たせておけば、あとがうるさい。彼の機嫌を損ねるのはご免だ。
サフィールは牢の扉が開くと同時に、騎士たちが枷を嵌められているティアを押さえつけ、猿轡を嵌めるのを待ってから、牢へと踏み込んだ。
用意してきた薬剤を入れた注射を取り出し、躊躇うことなく、軍人とは思えぬ細腕に突き刺す。身動き一つ取れない女の身体はすぐに弛緩した。
「さて、さっさとレプリカ情報を抜いてしまわないと」
研究所のほうに運んでください、とサフィールは兵に告げ、薄暗い牢を出た。
レプリカ情報を抜いたあとには、ヴァンが受けたのと同じく、譜歌を聞き出すための拷問がティアを待っているが、大切な少年を傷つけられたサフィールにとっては些事に過ぎない。
*
これでも急いで戻ってきたのに、とサフィールは情けなさそうに眉尻を下げた。ベッドに座り、枕を抱え、むっつりと頬を膨らませて背中を向けているルークを前に。
何度、謝ったことかわからない。少なくとも、両手の指に、足の指を足しても足りないほどだ。
けれど、まだルークの顔はこちらを向かない。
「ルーク」
懇願するように、ルークを呼ぶ。はぁ、と小さくため息が聞こえた。
違うだろ、と声が続く。
「何がです?」
「謝るより、することあるだろ。俺はお前の何なの」
拗ねた声は幼さを匂わせておきながら、誘うものでもあって。サフィールは気づかれぬように苦笑し、ルークへと歩み寄ると、背後から腕を回し、その頬に口付けを落とした。
膨らんだ頬からぷしゅっ、と空気が抜け、ぺこんとへこむ。
「…お帰り、サフィール」
「ただいま、ルーク」
にこ、とルークがやっと笑みを向けてくれた。
眩暈がするほど、この子が愛しい。だからこそ、彼らの振る舞いが許せない。
この子の身体に傷を残したことが許せない。
そのすべてが、得た偶然を徹底的に利用することにしたルークの思惑の結果だとしても。
「まったく、無茶をして」
ルークの胸に手を這わせ、服の上から傷を撫でる。痛みも何も、もう残ってはいないだろうが、くすぐったくはあるのだろう。
ルークがくすくす笑って、身を捻る。このくらい安いものだと、言いながら。
「これでダアトもマルクトも従えられるなら、安いもんだってお前だって思うだろ?」
キムラスカはとっくの昔に俺のものだし。
新しい玩具を手に入れた子どものように、ルークが頬を紅潮させ、目を猫のように煌かせる。それに、サフィールはいいえ、と首を振った。
え?とルークの目が見開く。
「むしろ、高いですよ。貴方が苦痛を覚え、貴方の身に傷が残ったんですから」
「…お前、本当、俺が好きだなぁ、サフィール」
「愛していますからね」
さらりと言い放ち、あはは、と嬉しそうに声を上げるルークの唇を、己の唇で塞ぐ。くぐもった笑い声が、口の中に響く。
とろりと欲に濡れた翡翠が、サフィールの同じく欲の滲む顔を映した。
ゆっくりとルークの身体をベッドへと押し倒す。朱色の髪に指を滑らせ、額にも口付けを落とせば、ルークが密やかな声で言った。
「邪魔者も、もう来ないぜ」
「いつもいいところで、邪魔してくれてましたからね、彼」
ルークの言う邪魔者は、どれほどきつく部屋に来るなと言い渡しても、立場も時も弁えず、唐突にこの部屋を訪れていたガイのことだ。
ルークの主治医として、数年前からファブレ邸に出入りするようになったルークとの密かな逢瀬を、何度、邪魔されたことかわからない。ルークの側にいるのは、さも当然の権利だと言わんばかりの顔で、その実、ルークがヴァンと自分以外に懐かないようにと、ガイは自分を見張っていた。
だが、もうそのガイもいない。不敬罪とその素性故に、キムラスカを追放され、マルクトで秘密裏のうちに処分された。ホドの伯爵であったことは決して公にされずに。
当然だ。ただでさえ、ジェイドのせいで弱みを握られたマルクトにとって、これ以上、弱みとなる人間を増やすわけにはいかないのだから。
笑み続けるルークの服に手を掛け、前を肌蹴させる。
白い肌に走る、刀傷が否応なく目に留まる。傷口の周囲の皮膚が、引き攣るように寄っている。
それを指で辿り、そっと擦れば、ん、と小さくルークが鳴いた。
「死んでいたかも、しれませんよ」
「そんなヘマ、俺がするかよ。ティアの奴の能力、ギリギリ推し量るくらい、なんてことない。いざとなれば、俺も治癒術使えるし」
サフィールは心配性だなぁ。
くすくす笑うルークに細い眉を寄せ、サフィールは滑らかな肌の上ででこぼこと歪む傷跡に爪を引っ掛けた。ピクン、とルークの腰が跳ね、朱色の眉が寄る。
甘い吐息が、ルークの淡い赤色の唇から零れた。
「…サフィールって、サドだよな、意外と」
「貴方がそうさせるんでしょうに」
「そんなこと言って、ティアのやつの拷問、楽しんできたんじゃねぇの?ヴァンの情報と差異がないかどうか確かめるために、立ち会ったんだろ。興奮した?」
言葉こそからかうものであったが、翡翠の目に浮かぶのは嫉妬。それを読み違えることなく、サフィールは鼻を鳴らし、肩を竦める。
賢しいくせに、妙なところで鈍いのだから困る。愛しくて身も蓋もないほどに乱したくなる。鳴かせてやりたくなる。
「私が興奮するのも、欲情するのも、貴方だけです」
眼鏡を外し、枕元に置き、紅い目で翡翠を覗き込んで、サフィールは、はっきりと告げた。
パッとルークの頬に朱が散り、唇がにんまりと吊りあがる。嬉しそうに喉を鳴らしながら、ルークが腕を首へと絡めてきた。
体温の低いサフィールの身体が、ルークのぬくもりで温まっていく。
「やっぱりさ、サフィール」
「何です?」
「俺は大丈夫だよ。お前の側から消えたりしない」
少しばかり爪が伸びたルークの指先が、サフィールの頬を撫で、薄い唇を撫でる。指先を誘われるままに舐め、唇で食む。
軽く歯を立てれば、ルークの喉が物欲しそうに唾を飲み込み、上下した。
「だって、死神は俺に魅入られてるんだからさ」
だから、死神が自分から俺を引き離すわけがないだろう?
悪戯めいた笑みを浮かべ、朱色の子は笑う。可笑しそうに、楽しそうに、満足そうに。
喉を低く鳴らし、サフィールも笑う。
なるほど、確かに。
「確かに、私は貴方のものですからね」
死神さえも手中に収め、この少年はこれから何を望むのだろう。
深く甘い口付けを交わしながら、サフィールはルークが築く未来を思い、そして、それを誰よりも間近で見ることが出来るという事実に、感動し、興奮し、身を震わせた。
END