月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ss
いろいろ捏造しています。主に預言とユリアを。
カプというほどでもないですが、ヴァンルク。
ルーク=?なネタです。
こういう話は何を言ってもネタバレになるなぁ…。
注!同行者&被験者全般厳しめ
努力はしたんだよ、とルークは困ったように笑って言った。罪の償いのための同行にも関わらず、自分たちは世界を救う英雄一行なのだと思い上がった『仲間』たちへと向けて。
彼らが一様に眉を顰め、何を言っているんだと、武器を構え、ルークにも早く剣を抜け、と促した。相変わらず、ルーク・フォン・ファブレが前線に立つことに何の疑問も覚えぬままに。
彼らの敵意の矛先は、ルークの奥にいるヴァンへと向けられていた。
その様を、ヴァンは滑稽だな、と小さく笑った。彼らにとっての『真』の敵は自分ではない。だが、もう遅い。
「だから、言ったんだ、私は。努力するだけ無駄だと、七年前に」
くく、と低く、喉を鳴らして笑う。訝しげな視線が、今度は自分へと向けられるのを感じる。
ジェイドが眼鏡を押し上げ、何を、と低めた声でヴァンへと問いかけてきた。
「貴方がたは、何を言っているんです」
「努力の話さ、死霊使い」
「何に対する努力です」
「何故、答えねばならない?お前達はルークに教えることを拒否しておいて。自分たちばかり答えを欲しがることを恥とは思わないのか」
ルークがヴァンをちらりと振り返り、嗜めるように首を振る。
おや、とヴァンは眉を跳ね上げた。随分と人間の真似がうまくなったものだ。
ルークがヴァンの心のうちを読み取ったように、肩を竦めた。
「俺はね、ジェイド。お前達を、人間を好きでいようと、努力したんだ」
「…何を、言って」
「何言ってるんだよ、ルーク」
困惑を露わにするジェイドやガイたちに、ルークが首を傾ぐ。その顔には、やはり困ったような笑顔を浮かべて。
ルークの横へと、ヴァンはゆっくりと歩を進めた。ジェイドたちの武器を持つ手に力が篭り、切っ先が向けられる。それを意に介することなく、ヴァンは進む。
武器も譜術も飛んでくることはなかった。こちらがまだ剣を抜いていないからだろう。
本気になれば、抜刀の一閃で前に立つガイやアニスを仕留めることくらい、簡単なことであるというのに、と心のうちに失笑を隠す。
「答えは出たようだな」
「…お前の言うとおりだったよ、ヴァン」
ああ、残念だ。
ルークが吐息混じりに言う。七年間、人の振りをしていただけに、本当に人の真似がうまくなったものだ。
七年前は、表情もなく、それどころか、レプリカという器を動かすだけでも一苦労していた姿が嘘のようだ。
ヴァンはぽん、とルークの肩に手を置いた。
ルークから離れなさい!とナタリアの怒声が飛んでくる。ティアからももまた、何をボーっとしているの!とルークへと叱責が飛んできた。
彼らはまだ気づかない。ルークが困ったように笑う姿に、疑問を抱かぬわけでもないだろうに。
「ルーク、人間を好きでいようと努力したというのは、どういう意味なんですか」
「そのままの意味だよ、ジェイド。努力、したんだよ、俺。七年前から、ずっと。屋敷の中でも、記憶がないから、って蔑んで、嘆く奴らばかりだったけど、中には俺に優しくしてくれたメイドや白光騎士もいたから。ティアに外に連れ出されてからは、もっともっと人の好きになれるところを探そうと思った。俺を知らない人たちばかりだったし、いい機会かな、って」
でも、とルークが肩を落とす。朱色の眉を寄せ、朱色の睫毛を震わせて、目を伏せる。
ヴァンはルークの『背』を押し──いや、突き落とした『仲間』たちを眺めた。
自分たちこそがルークに観察され、審判を下されていたのだと、気づきもしなかった彼らを。
自分たちこそがルークを裁き、審判を下す側なのだと思い上がっていた彼らを。
愚かな人間たちを、眺める。
「でも、エンゲーブの人たちはよそ者ってだけで俺を捕まえた。こちらが弁解する声すら聞かず、猜疑心の塊だった。彼らだけじゃない、みんなそうだ。戦争が起こるのも、人が人を憎むからだ。信じないからだ。心がありながら、分かり合える心がありながら、それでも人を妬み、嫉み…そんなことの繰り返しで。お前たちもそうだろ。俺を蔑んで楽しかったか?蔑む存在がいて、ホッとしていたんだろう?自分よりも下の存在がいる。そのことにホッとしてたんだろう?自分たちが馬鹿にされることはないって」
怒りも何もなく、淡々とルークは語る。ヴァンは隣に立ち、顔色をなくす妹を眺めた。怒りに頬が紅潮していくのがわかる。
失礼な、とその唇が動く。
「だが、事実だろう。お前達はルークを一人のけ者とし、はけ口にしていたではないか。己の不満をすべてルークに責任があると転嫁し、罪も押し付け、優越に浸ってきたのは、貴様らだ」
はは、とヴァンは笑い、ルークの顎を掴んだ。ぐい、と自分へと顔を向けさせる。
ヴァンが映る翡翠の目が、ゆっくりと瞬く。
「好きになどなれるわけがないと、七年前にも言っただろうに」
「…そうだな。ユリアが哀れだ。彼女は人を想っていたのに。人が好きだったのに」
「私はそう思わないがな。預言を残したのはユリアだ。人が心酔することも、彼女は計算に入れていただろう」
「……」
「だからこそ、一族の長子にのみ伝えてきたのだ。二千年後、つまり、七年前。『聖なる焔の光』より、器を作れと」
レプリカ技術は預言に詠まれていたのだと、ヴァンは笑ってジェイドを見やった。眼鏡の奥で赤い譜眼が見開かれている。
レプリカは預言に詠まれぬ存在。そう信じてきた彼らが、揃って愕然としている様に、くつりと笑う。
ユリアが詠んだ預言は、二つあった。レプリカの存在が詠まれぬ預言と、レプリカすらも詠んだ預言と。
預言は指針に過ぎない。導師イオンは正しかったのだ、とヴァンは哂う。預言は幾つもあった。それだけ、未来の数があった。
ユリアがその中のよく似た、だが、決定的に違う二つを選び、ローレライと契約を交わすことでそれ以外の預言を詠むことが出来ぬようにしてしまっただけで。ローレライが隠した預言すら詠むことが出来るほどの力を持った預言者が生まれてこなかっただけで。
そして、ユリアはレプリカが詠まれた預言を、隠した。己の一族の、それも長子にのみ伝わるものとして、口伝として残した。
秘預言はのちのローレライ教団が、己らの判断で隠したものに過ぎない。
ルークの唇から、ため息が漏れた。
「彼女は試したのかもしれないな。二千年も掛けて」
「『聖なる焔の光』が生まれるのが詠まれたのが、そうだったからな。そう、ルーク、いや、ローレライ。お前の器のもととなる存在が生まれるのが」
ローレライの名に、ティアたちが息を呑む音が聞こえたが、ヴァンは覗き込んだ翡翠から目を離さなかった。時折、思い出したように瞬く翡翠を、美しいと思う。
翡翠に浮かぶ自分の顔が、笑んでいることにヴァンは気づいた。
ユリアの真なる預言が、願いが叶う日が来たことに、自分の身体が歓喜に震えていることにも。
祖たる聖女の願いを幼いころに父から聞かされ、お前こそがその願いを叶えるのだと、そう言われたときの高揚を今でもヴァンは覚えている。
このときを、どれほど待ち侘びたことか。どれほど夢見てきたことか。
「さぁ、聞こうか」
答えはとっくに出ているが。
ルークの、ローレライの顔を覗き込みながら、ヴァンは問う。
さぁ、どうする、ローレライ。お前が出した答えは。
「…わかっていて、聞くのか。本当に悪趣味だな、『栄光を掴む者』」
まさに与えられた名のとおり、断罪を下す第七の音素の器を作り出す『栄光』を掴んだ男は、笑みを深め。
赤い艶やかなルークの唇から、ローレライは『好き』になれなかった人類へと断罪を下した。
外郭大地を降下させる命令が下されることなく、アブソーブゲートが崩落を始める。
慌てふためき、崩落を止めようと動き出したジェイドたちを嘲笑いながら、ヴァンはローレライを抱き上げ、揃って地殻へと身を投げた。
ヴァンの哄笑が響く中、己の傲慢を罪を自覚することなく、断罪への道を推し進めていた『仲間』たちは絶望の声を上げ、膝を着いた。
END