月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
スレルクアリ。
ヴァン捏造ありで、出張ってます。他にもいろいろ捏造。
時期としては、外郭降下後、ディバイディングラインでも抑え切れず、蔓延した瘴気中和問題あたり。
外郭降下はヴァンによる妨害がないため、超振動による命令がいらないため、各国の精鋭が行ってます。ユリア式封咒はヴァンが。
ルークはアクゼリュス以降、同行者たちから離れてます。
同行者たちはアクゼリュス以降、なかなか帰国しなかった間にそれぞれの罪で指名手配中。
注!同行者厳しめ(アッシュ含)
タイトル拝借:「ロメア」さま
発声練習のためにと開かれたアリエッタの唇から零れ出たのは、譜歌だった。
伸びやかな澄んだ歌声が、ステンドグラスから差し込む光に調和し、集まった人々の心へと染みていく。
これこそが譜歌なのだと、アリエッタの隣で白黒の鍵盤に指を滑らかに走らせる男が笑った。これこそが、音素に愛された者の歌声なのだと、ピアノの音色が弾む。
ルーク・フォン・ファブレ誘拐の罪や謀反の罪で掛けられた指名手配はヴァンによる罠だと考え、導師イオンに接触しようと、こっそりと忍び込んでいたユリアの子孫が蒼ざめ、身を隠していたのも忘れ、金切り声を上げた。
不協和音としか言いようのない声に、桃色の少女の歌声にうっそりと微笑みすら浮かべていた者たちは、不快だと眉を顰める。
その様に気づくことなく、ティアはアリエッタへと詰め寄った。が。その前に神託の騎士たちに阻まれ、ティアが指名手配されている身だと知れると、緊張が走った。ティアがそれに気づかず、ただ叫ぶ。
「どうして、あなたがユリアの譜歌を…ッ」
「アリエッタも、ユリアの子孫、だからです」
「何を馬鹿なことを言ってるの!」
「…馬鹿なのは、お前だ、ティア」
深い深いため息とともに、白いグランドピアノの影から姿を見せたのは、ヴァンだった。妹と同じ水色の瞳が、窺うようにピアノの奏者へと向く。
フードを深く被り、顔を隠した奏者は何も言わず、ただ軽く肩を竦め、アリエッタを手招きするだけだった。
好きにしろと言われているのか、妹の責任はお前が取れと言われているのか。どちらでも同じことか、とヴァンがまたため息を零し、ティアへと向き直る。
目を吊り上げたティアの身体は、怒りでぶるぶると震えていた。やはり、ユリアシティのような閉鎖的な土地で育つのに任せたのは、失態だったか、とヴァンはもう何度目になるかもわからないため息を吐く。
視野の狭い子だと、わかっていたつもりではあったのだが、ここまでとは。指名手配された理由もわかっていないに違いない。だからこそ、こうして教団に忍び込んだのだろうが。
それは、おそらく、ティアとともにいるであろうナタリアたちにも同じことが言える。誰もが、己の罪を理解していない。
「少し考えてみればわかることだ。ユリアが死んでから、二千年。確かに、フェンデの者はユリアの直系ではあるが、その間に傍系が存在しなかったとでも?直系しかいなかったなら、当にユリアの血は滅んでいただろうな」
二千年前、最初のころは、ユリアの血を色濃く守ろうと、近親婚を繰り返していたであろうことは想像に難くないが、近親婚には問題も多い。実際、フェンデの者はガルディオス家の者と婚姻を結ぶことも多く、もちろんそれ以外の相手を伴侶に選ぶ者もいた。
ホド諸島には血は薄くとも、多くのユリアの子孫が存在していたのだ。
何故、そのくらいのことにも考えが及ばないのかと、ヴァンはため息を禁じえない。
ティアは、己こそが特別だと信じて疑わない。その考えこそが自身を孤独にし、思い上がらせ、傲慢にさせているのだと、気づきもしない。
くすくすと、背後から聞こえてくる密やかで甘やかな笑い声に、ヴァンは肩を落とす。
ちらりと見やれば、奏者がアリエッタを膝に乗せ、何やら耳元で囁いているのが目に留まる。アリエッタが頬を赤らめている様子を見るに、甘い言葉の一つでも吹き込んでいるのだろう。
あの白く、細かな彫刻が為されたグランドピアノの周りだけ、空気が違うのが気のせいではないはずだ。
フードの奥から、翡翠がちろりと覗く。咎めるようなその視線に、わかっていると、ヴァンは頷いた。
「おとなしく投降することだ、ティア。これからローレライ教団が誇るディーヴァによる儀式が始まるのだからな」
「ディーヴァって…何を企んでいるの、兄さん!」
サッ、と武器を構えるティアに、周囲のダアトの民や神託の盾騎士たちがざわめき出す。ティアの周りに、加勢しなくてはとばかりにガイやナタリアも駆け寄り、ヴァンへと武器を向けた。指名手配犯が勝手に揃ってくれたようだな、と内心、失笑を零しながら、あからさまな敵意に、辟易する。
武器を構えず、ティアの元にも駆け寄らず、周囲を冷静に分析しているのは、ジェイドただ一人だ。群集に紛れ、姿を隠したままでいる。
普段は周囲の雰囲気に敏感なアニスも、アリエッタへの嫌悪や妬みで頭に血が昇っているらしく、トクナガを巨大化させ、駆け寄ってきた。
(死霊使いは…隠れたまま、か)
だが、それも、首の皮一枚が繋がっている状態に過ぎない。彼が犯した罪は重く、彼もまた指名手配されている身だ。この場から逃がすつもりはない。
ルークをアクゼリュス崩落犯と一方的に決め付けておきながらも、そのルークをユリアシティに放置していったことなどの職務怠慢や、キムラスカの第三王位継承者への不敬と、彼が自国マルクトにもたらした損害は無視できぬほどに大きいのだから。
ヴァンは儀式の始まりを裏で待っている、導師イオンと二国の王たちを頭の隅に思い浮かべる。どちらも頭を抱えていることだろう。
イオンはアニスとティアの非常識さとその戦争すら起こしかねない罪の重さに。
ピオニーは、ジェイドのことと、ガイが元マルクト貴族であることに。
インゴベルト王は、王女ナタリアの度重なる失態に。
知らぬは本人ばかりなり、とヴァンは呆れを多分に含んだ眼差しを武器を構えたティアたちへと向けた。
「何を説明したところで、どうせ自分たちにとって都合のいいようにしかお前たちは解釈できないではないか。教えるだけ無駄というもの。何を考えてこの場に顔を出したかは知らないが、ちょうどいい機会だ。全員、捕らえろ」
「捕らえられるのは、貴方の方ですわ!」
「私が?何故、私が捕らえられねばならぬのです。お教え頂けますか、ナタリア殿下」
「まあ、何と図々しい!ルークにアクゼリュスを崩落させた罪を忘れたとは言わせませんわ!」
「…あれは、自然崩落ですが。ルークは私とともに、パッセージリングの調査に出向いただけのこと。ああ、超振動でパッセージリングを壊したと?第七音素はキムラスカにおいても、マルクトにおいても観測されていないのに、ですか。馬鹿馬鹿しい。アッシュに何を吹き込まれたのかは知りませんがね」
少しは考えてから物事を口にされてはいかがです。
嘲笑を込め、ヴァンは言う。ナタリアの頬が真っ赤に染まり、怒りで緑の目が吊り上がる。
ティアもまた、言い逃れなんて見苦しいわ!と見当違いの声を上げた。ガイからの視線も険しい。
アニスは一人、奏者の腕に抱かれ、にこにこと笑っているアリエッタへと射殺さんばかりの目を向けている。
「あんたなんか、根暗ッタなんかがユリアの子孫なわけないじゃん!バッカじゃないの!」
「…アリエッタが『特別』なのが、そんなに気に入らないのか、アニス?よっぽどアリエッタにコンプレックスを抱いているらしいな」
くすくすと奏者の口から嘲笑が零れる。アニスの顔もまた怒りで染まり、何よ、それ!と声を荒げた。
アリエッタの緋色の目が、アニスを睨む。けれど、その口を開く前に、桃色の髪に奏者の長い指が絡まり、閉ざさせた。まるで、アニスのために可憐な声を出すのは、もったいないとでもいうように。
「…その声、まさか」
ガイが戸惑いの目を奏者へと向けた。奏者が肩を竦め、アリエッタにフードを下ろすように頼み──フードの下から、長い朱色の髪が流れ出た。
さらりと落ちる朱色の前髪の下で、翡翠の目が弓形に細められている。
「イオンに会いに来るかもしれないとは思ってたけど、本当に来るとはな。しかも、自分たちから姿を見せるとはなぁ」
「ルーク!探したんだぞ…!?」
「俺を吊るし上げ、お前たちのはけ口にするためにか?冗談じゃない。これ以上、お前たちになんて付き合ってられるか」
「何、言ってるんだ、お前!アクゼリュスのこと、逃げるつもりなのか?!」
「…今、総長が、自然崩落、って言ったです」
「都合悪いから、聞き流したんだろ。おい、ヴァン。これ以上、儀式伸ばすわけにはいかないだろ、早く捕まえろよ。早く世界中の瘴気を消さなきゃ、どんどん人が死んじまう。それとも、お前たちはそれが目的か?超振動の力と一万人の第七音素師によって、瘴気を消す、だっけ。お前の理論は、なぁ、ジェイド。いるんだろ。なぁ、ナタリア。罪深き亡命者であり、自国に牙さえ向いたアッシュを救世の英雄に仕立て上げ、罪をうやむやにするのが目的か?愛しい婚約者のためなら、自国の民たちを平気で蔑ろにするお前だもんな。それくらいやりかねないよなぁ」
何を言っているのだと、困惑と怒りを向けてくるティアやナタリアたちに、ルークがアリエッタの髪に指を絡めながら、笑う。馬鹿馬鹿しいとその顔は言っていた。
王命に背き、親善大使一行に勝手に加わったことで、どれだけの人間が裁かれたのか、ナタリアはいまだに理解していない。集まった人間の中にはキムラスカの民もおり、嫌悪の目をナタリアへと向けている。
ヴァンがまたため息を零し、胃の辺りを撫でながら、部下に命令を下した。即座に、ナタリアたちの身が拘束される。無礼な!という声にも、誰も手を止めることはなかった。
裏に待機したままの王たちも。
「…瘴気を消す、というのは?」
逃げることは難しいと判断したらしいジェイドが、眼鏡を押さえながら、一歩進み出た。同じく、拘束されるジェイドを眺めながら、ルークが首を傾ぎ、肩を竦める。そんなこともわからないのかと、その細められた目は、明らかにジェイドを侮辱していた。
「瘴気は第七音素だ。ならば、第七音素集合体であるローレライに中和させればいい。何で、それくらい思いつかないんだ?犠牲ありきなんて考え方しか出来ないのか、死霊使い」
「……ローレライは不確かな存在です。そんな存在を利用するのは…」
「不確か、ねぇ。…ヴァン、儀式を始めよう。そいつらにも猿轡をし、そこらへんに放置しとけよ。もったいないが、聞かせてやる。真なる譜歌を。真なるディーヴァの歌声を。冥土の土産にでもすればいい」
アリエッタの手の甲にそれぞれ口付けを落とし、ルークがアリエッタをピアノの前に立つよう促す様に、ヴァンはまたピアノの影にと下がる。王たちがス、と歩み出で、ナタリアたちから向けられる縋るような視線に応えることなく、用意された椅子へと腰をおろした。
シン、と教会も静まり返り、誰かがこくりと唾を飲む。
ここから先は、魔物はもちろんのこと、自然に愛され、音素に愛される少女と、第七音素のみで構成されたレプリカの身体を持つ、ローレライの半身たる少年の独断場だ。何人も邪魔は許されない。
それゆえに、アッシュは既に邪魔が出来ぬよう、キムラスカによって捕らえられている。タルタロス襲撃はモースの命令であったことが考慮されているものの、第三王位継承者襲撃、並びにカイツール軍港襲撃においての罪は裁かれることが決定している。ルーク・フォン・ファブレの被験者であることを秘されたまま、六神将『鮮血のアッシュ』として。
ルークの役目は、アッシュでは出来ないものである。アッシュもまたローレライの力を持つ身であり、同位体ではあるが、第七音素以外が混じる人間の身体である限り、真の意味で完全同位体とは言えないからだ。
だからこそ、ヴァンはかつて自分からすべてを奪った技術と知りながらも、レプリカ技術を欲し、ルークを作り出した。預言に縛られぬ存在として、完全なるローレライの半身として。
そして、アリエッタの役目もまた、自分では埋められない。大譜歌こそ歌えるものの、ローレライに愛された身ではない自分は役不足だからだ。
だが、それをヴァンはティアとは違い、恥じたことはない。むしろ、ユリアの再来とも言えるアリエッタに大譜歌を教えることが出来たことを誇りに思う。
この日のために自分は生きながらえてきたのだと、そう思えた。
ピアノの音がポーン、と響き、続いて溢れるような音色が続く。その音に溶け合うように、アリエッタの声も響き出す。
音色は重なり、絡まりあい、響いていく。ユリアを象ったステンドグラスから差し込む光を受けるルークとアリエッタの姿は、ことさらに美しく、荘厳で、音色と色彩豊かなの光に包まれたピアノは聖域を思わせた。
誰しもが、聞き惚れ、見惚れる。捕らえられた者たちもまた、呻きながらも、その音に魅せられていた。
ぽぅ、と光が集まりだしたのは、第一譜歌を歌い終えたあたりからだろうか。
ヴァンは少しずつ歌に、音に惹かれるように集まってくる第七音素の光を眺めた。光は二人を取り巻き、キラキラと煌く。
七色の焔は揺らめき、ディーヴァとその奏者を祝福していた。
そして、アリエッタが大譜歌を謳い終えると同時に姿を見せたのは、揺らめく焔。ローレライの半身であるルークが奏でるピアノの音色と、音素に愛されたアリエッタの声が重なることで、鍵となり、ローレライを喚んだのだ。
『美しき音、美しき声。重なるお前たちこそが、我を喚ぶ鍵となった』
「ローレライ、地殻からお前を解放しよう。その代わり、瘴気をすべて持っていき、瘴気障害に苦しむ人々を癒して欲しい」
『そのくらい、たやすいことだ。お前たちに感謝を。我が半身、そして、愛しい娘。お前たちの未来に幸多きことを、我は祈る』
ローレライが歌うように笑い、世界に蔓延していた瘴気を浄化し、音譜帯へと昇っていく。
儀式は無事終わったと、ルークが笑い、アリエッタがその広げられた腕に飛び込むのを見てから、ヴァンは呆然とするジェイドを見やり、ティアたちを見やった。
人々の歓声が教会中に轟く。この歓声は洪水となり、世界に喜びを伝えていくのだろう。
己の役目をやり遂げた安堵を覚えながら、ヴァンはゆっくりとルークたちへと背を向け、罪人たちへと歩み寄る。彼らを待ち受けるのは、ローレライに祝福された二人と違い、地獄だ。
それは己にも言えること。妹の罪は重い。兄である自分も無事ではすまない。
どうせ、この身は瘴気を取り込み、長くはないが。
(だが、まあいい)
すべては終わった。『聖なる焔の光』は死ぬことなく、戦争も回避され、未来は道を変えたのだから。そして、ローレライは解放され、預言はもう詠まれない。
詠むことの出来ない道は、不確かなものだが、自由でもある。
すべては、ここからだ。先を見ることが出来ないかもしれないことは少しばかり残念ではあるけれど、預言から外れた存在であるルークがアリエッタとともに自由な未来を見届けてくれるなら、悔いはない。
「…私も祈ろう」
お前たちの幸せを。
最後にもう一度、人々の笑顔に応え、ピアノを奏で、歌い出したルークとアリエッタに微笑を向け、ヴァンはティアたちを連れ、その場を辞した。
END