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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.11.18
ss

ピオルク。前世物です。
切なさが漂う話となりました。
ファブレのメイドさんが天気の預言のことを言っていたのと思い出して、そこからふと思いついた話。






知ってるか、と青年が天を指差し、笑った。
少年は何を?と訝しげ首を傾ぐ。
何が楽しいのか、男はよく笑っていた。笑顔は福を呼ぶのだと、そう自慢げに胸を張り、少年に諭すように言ったこともある。
だから、笑えと、少年の頬を引っ張ったことも。笑えば、それだけで幸せに近づける気がするだろう。
何が福か、幸せかと思ったものだったが、あれは彼なりの願掛けだったのだろうかと、少年は後に思う。一兵士として生きる彼にとって、笑うということには平和への願いのようなものがあったのかもしれない。

「昔の人間たちは、天気を読んでたって、知ってるか?」
「天気を読む?」
「そう、雲の流れとか風の向きとか、そういうものだな。そういったものから、気候を予想していたらしい。この間、読んだ本に書いてあった」

ふぅん、と気のない相槌を打ち、見上げた空は晴れ渡り、浮かぶ音譜帯がよく見えていた。
音譜帯に譜石を連想する。預言がある今では、男が言う天気を読む術は、不要のものに思えた。
少年は預言を盲目的に信じていたわけではないが、便利なものではあると思っていた。人々の間にに預言は浸透し、世界にとってそれは従うべきものであり、絶対のものであると認識されていることは十分承知していたけれど。

「お前の言いたいことならわかってるぞ。預言があるじゃないか、だろ」
「…何も言ってないだろ」
「目が言ってるんだよ、目が。まあ、確かにな。天気を読むったって、百パーセント確実に当たるってわけでもなかったみたいだし、預言の方が便利なのは、確かだけどよ」

味気ないだろ、そんなの。
力説する男に苦笑する。そうは言っても、人は確実なものを頼るものだ。
外れる可能性があるのなら、確実性の高い預言に頼るのも道理。だからこそ、男の言う方法はいつのまにか廃れていき、今では書物に記されているだけのものとなってしまったのだろう。
そういった知識が一つ、失われてしまったことは、少年としても残念に思うが、仕方のないことでもあるのだろう。

「だけど、確実な方が、手間も省けるじゃないか」

例えば、どんよりと曇っている日。雨が降るのか降らないのか、はっきりしないようなときには、傘を持っていくべきか悩むものだ。もし降らないと事前にわかっているなら、傘は必要ない。それだけで荷物が一つ減る。
農業に関してもそうだ。天気が、気候がわかるのならば、計画も立てやすい。
何日に種まきをし、何日に肥料を与え、何日に収穫するかを決める。それだけで生産性はあがるはずだ。
それはそうなんだけどな、と男が寂しげに肩を竦めた。

「このままで本当にいいのか、って思うんだよ」
「?」
「預言に詠まれているから、だから、それに従う。それでいいのかって。だって、昔は、天気を読んでいたような昔は、なかったんだぜ、そんなの」

人は預言なんてなくたって、生きられるはずなんだ。
顔には相変わらず笑みが浮かんでいたけれど、その声は深く、強く。願いすらこめられているかのようで。
少年は翡翠色の目を瞠り、青年を見上げた。何故、そんなことを言うのだと、困惑とともに。

「お前さ、生まれ変わりって信じるか?」
「は?」

唐突な話題変換についていけず、眉根を寄せる。今度は何を言い出すのだ。
酔っ払ってでもいるんじゃないか、と訝しむ。だが、青年は常と変わらぬように見えた。
青年の海を思わせる深い蒼の瞳も、アルコールで濁っている様子はない。サラ、と青年の金色の髪が日の光に煌いた。

「生まれ変わるなら、俺は、次は王になるぞ」
「何で?」
「国王になれば、国を動かせるだろ。預言に従うのを止めるってお触れだって、出せるじゃないか」
「…そんな簡単なもんじゃないだろ」
「いいんだよ。夢物語なんだから」

ケチつけるなよ。
大きな手が、わしゃわしゃと少年の頭を乱暴に撫で、背の半分ほどまで伸びた朱色の髪を乱す。
もう止めろよ、とその手を払えば、青年は可笑しそうに腹を抱え、磊落に笑った。
その笑い声は聞き慣れたものよりも沈んで聞こえ、少年の不安を煽る。今日の青年は、あまりにいつもと様子が違っている。

「なぁ、何かあったのか?」

青年の服を掴み、顔をしかめて見上げる。青年が穏やかに目を細め、ゆるりと首を横に振った。
少年の問いへの答えを持っていないというように。
答えることを穏やかに拒絶するように。

「…なんでもないさ」

嘘つきめ。
喉奥まで出掛かった言葉は、結局、吐き出されることなく、少年の腹の中へと落ちて消えていった。

そして、翌日。
少年は兵士である青年が、激戦区へと送り込まれたことを知り。
その六日後。
敵の譜術をまともに喰らい、全身に大火傷を負って、治療の甲斐なく戦死したことを知った。

そのすべてが、預言に詠まれていたかどうかを、少年は知らない。
預言に詠まれていたことかどうかを、青年が知っていたかどうかも知らない。
知っているのは、理解できるのは──青年が二度と、大きな手で頭を撫でてくれることはないのだということだけ。
青年が幸せを呼び込む笑顔を零すことはないということだけ。

「……」

青年の墓の前に、少年は佇んだ。踏みしめた大地の下、青年の無残な遺体を収めた棺が埋まっている。
膝をつき、真新しい墓石を撫でる。刻まれた名に指を這わせる。
まだほとんど風雨に晒されていない名は、どの文字も欠けることなく、くっきりと形を残している。

「生まれ変わったら、か」

あんたが王になるというのなら、俺は何になろうかな。
くす、と小さく笑い、目を細める。
なぁ、何になればいいと思う?

「あんたが預言を失くす手伝いが出来るような、いや、預言なんて覆せるような、そんな人間に生まれ変わりたいな」

『人は預言なんてなくたって、生きられるはずなんだ』
青年の声が、頭に響く。天気を読んで、日々の生活を自分で考える。
それはきっと大変なことで、預言にすべてを委ねてきた人間には、難しいことだ。
それでも、『生きられるはずなんだ』
そう言い切った青年の顔が忘れられない。そう願うように言った彼の声が耳に残って消えない。

「…生まれ変わったら」

また、会おうぜ。
青年が好きだった華やかな花である芍薬を墓に捧げ、少年はゆっくりと瞬き、静かに一粒、涙を零した。
ぽたん、と真っ白な墓石に雫が落ちた。





「知っているか、ルーク」

にこにこ笑うピオニーに、ルークはきょとん、と瞬いた。何をですか?と首を傾ぐ。
ス、とピオニーが天を指した。

「預言なんてものがないころの人間たちには、空が読めたんだぜ」
「空、を読む?」

どういう意味かと戸惑い露わにピオニーを見上げる。
腕の中のミュウが、わかったですの!と声を上げた。

「お天気がわかるってことですの!」
「そのとおりだ。雲の動きとか風の流れとか…そういったもんで、昔の人間は天気を予測してたらしい」
「へぇ」

ぱちくり目を丸くし、ルークは空を見上げた。ゆっくりと白い雲が青い空を流れていく。
いったい、どうやって天気を読むのだろう。
天気を予測するなんて、考えたこともなかったな、とふと思う。毎日、毎日、メイドが「今日の天気」の預言を朝の挨拶とともに伝えてきたから、わざわざ自分で予測するまでもなかったということもあるけれど。

「長老が風の匂いで雨が降るかどうか、わかるって前に言ってたですの」
「風の匂い…」

スンスン、とミュウと一緒に鼻を鳴らす。グランコクマの宮殿の中庭では、澄んだ水の匂いと甘い花の香りが漂ってくるけれど、わかるのはそれくらいだ。
うーん、と唸っていれば、ミュウもわからないのか、うーん、と唸った。
ピオニーが可笑しげに声を上げて笑う。

「なんつーか、もったいないよな。そういう知識が受け継がれてねぇってのは。まあ、雲が多けりゃ、明日は雨が降るかもしれないとか、そういう簡単な予想なら今でも誰にでも出来るだろうが」

預言に頼ってきた間に、失われてきたものは多いんだろうな、と呟くピオニーに、内心、嘆息する。ピオニーの言うとおりだろうな、と思う。
預言に頼って、楽な方へと頼ってきた二千年の間に、失われた知識はきっと多いのだろう。中には、書物にすら残されていないようなものもあるに違いない。
もったいないなぁ、とルークは思う。そして、不安になる。
預言がなくなった後も、人は生きていけるのだろうかと。路頭に迷い、破滅していくだけなのではないかと。
たくさんの知識を失うほどに、こんなにも、人は預言に頼ってきたのに、本当に生きていけるのだろうか。

(これから、預言から脱却しようっていうのに)
そういう世界を築こうとしているときに、こんな不安に駆られるなんて。
きゅ、と唇を引き結び、俯く。すれば、ポン、とピオニーの手が頭に乗った。
そのまま、くしゃりと撫でられる。

「大丈夫だ」
「え」
「人ってのは強かな生き物だからな。それに、先祖が出来ていたことなんだ。子孫である俺たちにだって、出来るさ」

大丈夫だ。
頼もしい笑みを浮かべ、ピオニーが海の色によく似た深い蒼の瞳を細める。金色の髪もさらりと揺れる。
力強く優しいその眼差しに、ルークは頬を緩め、唇に笑みを滲ませた。

「…そうですよね」

ピオニーの大きな手に頭を撫でられながら、頷く。
ピオニーが大丈夫だと言う。それだけで安心出来るから不思議だ。
ピオニーがいてくれるなら、彼が王として、国を、世界を救いたいと思っているのならば、そのための手助けがしたいという思いがルークのうちで沸いてくる。
それは、そのまま、ルークの力となった。

「俺、陛下に撫でられるの、好きです」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ」
「ミュウは、ご主人さまに撫でられるのが好きですの!」
「聞いてねぇっつーの」

しょうがねぇな、と苦笑しながら、わくわくとつぶらな瞳を輝かせるミュウを片手に抱きなおし、ルークはミュウの頭を撫でる。嬉しそうに目を細め、気持ちよさそうにミュウが鳴いた。

「ルーク」
「はい」
「生きていこうな。預言のない世界を」
「……」

はい、と答えたかったけれど、ルークは曖昧に笑むに留めた。
この身はもう長くない。音素が乖離し、消えてしまう日は遠くない。
けれど、それをピオニーに伝えることは出来なくて。どうしても、出来なくて。
ピオニーがわかっているというように、寂しげに微笑んだ。

「…もし、生まれ変わりなんてもんがあるとしたら」
「……?」
「そのときは、お前だけを守って、愛していけるような人生を送りたいもんだ」

国や民を第一に考え、愛する王としてではなく、ただ一人だけを愛していけるようなそんな人間として。
ルークは淡く微笑み、夢見るように目を閉じる。もし、生まれ変われるとするならば、そのときは。

「俺も、そんな人生が送れるような人間がいいです」

国も世界もなく、ただ二人で手を取り合って、笑っていけるような。
幸せを呼び込むような笑顔を浮かべあって生きていけるような、そんな人生を送っていけたら、いい。
そんな幸せの中、生きたい。

(生まれ変わりなんてものがあればの話だけど)
そして、再び、ピオニーと巡り会えたらの話だけれど。
すべてが夢物語のような話でしかないけれど。
ピオニーの手を温かく、優しく、──どこか、懐かしく。
きっと、とルークは祈りを込め、ピオニーに笑んだ。
ピオニーもまたルークへと笑んで。
そんな二人に、ミュウが二人の願いが叶いますように、と願いながら、涙を隠すように目を伏せた。


END

 

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