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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.19
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2008.12.26
WEB拍手ログその3

「アンダースタンドサースティ」
ブラッディサースティ」の続編。
アッシュを怖がりながらも、歩み寄るルークの話です。




ふと、ルークは足を止め、首を傾げた。ラクダの背に、水をたっぷりと汲んだ皮袋を提げている旅人が目に留まったからだ。
一つ、二つ、三つ、四つ。
ラクダの背に提げられたそれを数える。
旅人は一人であるのに、あんなに水が必要なのかと、立ち止まったルークに気づき、どうしたの?と声を掛けてきたティアに、ルークは、うん、と頷いた。

「あれ、全部、水だよな。ずいぶんたくさん持つんだと思って」
「そうね。砂漠を越えるつもりなのではないかしら」
「砂漠って水ねぇの?」
「え?…ああ、ルークは、海も見たことがないと言っていたものね。ええ、砂漠はね、砂ばかりで、水はないわ。植物が育つことが出来る、水が湧くような、オアシスを呼ばれる場所を除いては。だから、砂漠を越える人たちにとっては、水はとても大切なものなのよ。命に関わることですもの」
「ふぅん」

領事館に行きましょう、と促されるままに、ティアの後に続きながら、考える。
命に、関わる。
水がそんなに大切なものだなんて、今まで考えたことはない。
望めば、いつでも手に入るもので、身近なものだとそう思ってきたけれど。

(…渇く、かぁ)
ガシ、と頭を掻き、ルークは先を行きながらも、自分を身を案じるように時折、振り返ってくるアッシュを見やった。
パチ、と目が合い、慌てて、逸らす。ため息が聞こえてくる気がする。

(…だって、仕方ねぇじゃん)
敵意がないことはわかっている。本当は優しいこともわかっている。
小さな傷であったのに、心配してくれたことも覚えている。あのときの、嬉しさも覚えている。
それでも、受けた恐怖は身に染み付いていて、なかなか薄れてくれない。
恍惚とすら言える表情で、手の甲に負った傷から血を啜るアッシュの顔が、ルークの脳裏に過ぎる。
赤い唇から覗く、赤い舌。うっそりと細められた、翡翠の目。
キュ、とルークは唇を引き結ぶ。
怖かった。怖かったのだ。

(あの目、は)
見ていたら、触れてはいけないものに触れてしまいそうで。
どこか遠くへ連れて行かれてしまいそうで。
自分の中の何かを、起こしてしまいそうで。

(…バッカみてぇ)
アッシュの気遣わしげな視線を感じる。
小さく小さく、ルークは舌を打った。
そんな優しい目なんて、いらない。
アッシュが欲しいのは、俺の血だけのくせに。血さえあれば、それでいいくせに。

(……渇く、か)
ちろ、とルークは傷の癒えた手の甲を見やり、吐息する。
この身体に流れる血を欲さずにはいられないほどの渇きとは、一体、どんなものなのだろう。
どれほどのものなのだろう。
翡翠の瞳が、重そうにのっそりと歩き出したラクダを一瞥した。





「…で、何をしているんだ、お前は」
「本当に、どれだけ心配したかわかってますか、お坊ちゃま?」
口調こそ静かではあったけれど、内に篭められた怒りをアッシュとガイの二人の声の端々に感じ取り、宿のベッドへと横たえられたルークは喉奥で呻いた。
腕には、ジェイドがケセドニアの医療施設で用意させた点滴の針が刺さっているせいで、満足に身動きも取れない。
つまり、二人から逃げることは出来ないということだ。

「気づけなかった俺にも責任はあるけどな…」
「…ガイは悪くぬぇーよ。気づかれねぇように、してたんだし」
「ルーク、そういう問題じゃないんだ。大体、何で、こんな真似したんだ?」

この炎天下のケセドニアで、一日、水も飲まずにいたなんて!
ガイが心配故の苛立ちで強く頭を掻く様から、ルークは気まずげに目を逸らす。
アッシュもまた、はぁ、と小さくため息を零した。

「…貧血で、倒れたのかと」

呟かれた言葉には、安堵が見えた。
ルークが倒れたのが、自分のせいであったとしたら、悔いても悔いても後悔は尽きないとそう言っているようで。
ルークはきゅ、と身体に掛けられたキルトを握り締め、喉奥で呻くように言った。

「…渇くって、どういうことだろう、って思ったんだよ」
「え?」
「アッシュが、お前が、すげー強ぇのに、俺の血がないと生きていけない、みたいな顔するから、だから、そんなに渇くことって、辛いのかと、思って」

掠れ、消えていく語尾に合わせるように、ルークの眉間に皺が寄っていく。
呆気に取られるガイやアッシュから隠れるように、キルトを引き上げ、顔を覆う。
恥ずかしくて仕方がない。顔も熱い。

「ルー…ク」

間の抜けた、アッシュの声。きっと顔に浮かんでいる表情も間が抜けているに違いない。
自分と同じ顔かと思うと、笑うに笑えないが。

「…苦しかった」
「…そうか」
「だから…」

怖いけど。まだ怖いけど。
傷口を抉られるように舐められるのは、血を啜られるのは、痛いけれど。
だけど、自分は知ってしまった。
喉の渇きを知ってしまった。
自分はたった一日の渇きしか知らないけれど、アッシュの渇きはきっともっと深くて長く続く苦痛であるのだろうから。

「…痛くしねーんなら、いい」

キルトで顔を隠したままのせいで、声はくぐもっていたけれど、聞こえたはずだ。なのに、なかなか返事が返ってこない。
訝しさに、ひょこ、と目だけをキルトの下から覗かせれば、ガイとアッシュの二人が鼻を押さえ、天井を仰いでいるのが見えた。何してんだ、と首を傾げる。

「いや、その…善処する」
「…おう」

変な二人だと思いながら、ルークは欠伸を零した。意識していなかったけれど、旅の疲れが溜まっているらしく眠くなってきてしまった。ベッドに横たわっているせいもあるのだろう。
ああ、でもアッシュに血をあげなきゃ、とぼんやりと頭の隅で思う。眠っているうちに飲んでくれたら、きっとそれが一番いい。
あの蕩けるような翠を見ないですむし、痛みもわからないだろうから。

「…アッシュ」

眠気で常よりも舌ったらずの甘い声でアッシュを呼び、ルークは自由な左手を差し出した。アッシュがその手を掴み、いいのか、と躊躇いがちに訊いてくる。
タルタロス以降、アッシュはずっとこうだ。自分が怖がっているせいだろうけれど。

(やっぱこいつ、優しい…)
うと、と瞼の重さを覚えながら、かろうじて頷く。指先にチクン、と痛みが走ったけれど、それはルークの眠りを妨げるほどではなく、確かに善処してくれたらしいと落ちた夢の中、ルークは笑った。


END

 

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アッシュの話です。
楽しんで頂ければ、幸いです。

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