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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.12.19
短編

フリルク。ルークは女の子です。アッシュとは双子の兄妹。
いろいろと捏造してあります。預言はありますが、内容が違います。
世界の構造も違ってます。瘴気は地殻にローレライごと封じられ、外殻大地が構成されていません。魔界がなく、空いた空間がないというか。瘴気中和方法ももっと簡易的になってます(ご、ご都合主義…)
出番があるのは、ファブレ一家とピオニーとアスランのみ。
死にネタの悲恋物なので、苦手な方はご注意を。






キムラスカに行って、ファブレ公爵家の子息に剣を教えて来い。
有無を言わさぬピオニーの命令で、アスランは剣の指南役として招かれることになったファブレ邸の前に立ち、ため息を噛み殺した。
ファブレ邸からマルクトへと、友好を深めるためにも一年間、剣術指南役を送ってはくれないだろうかと打診があったのが、二週間前。それから、すぐにアスランが任命され、その準備で二週間はあっという間に過ぎ去り、今、こうして港から白光騎士に連れられてきたという次第である。
何故、自分に白羽の矢が立ったのだろう。不思議でならない、とアスランは思う。

(それにしても…陛下は何故、あのような)
行ってこい、と自分を送り出す際に一瞬、ピオニーが見せた表情。
それは、酷く哀しげで痛ましげで。今まで見たことがない、その表情に、アスランは目を瞠ったが、それをあっという間にかき消したピオニーに早く行け、と背中を叩かれ、問いかけることは出来なかった。

白光騎士のあとに続き、門を潜り。アスランはファブレ邸へと足を踏み入れた。
数年前までは、キムラスカ軍を率いる元帥として、アスランも何度も苦渋を舐めさせられた相手の屋敷だと思うと、心中、複雑なものはあったが、それを顔に出すような真似はしない。
キムラスカとマルクトは現在、和平を結び、友好関係にあるのだ。マルクトのためにも、それを少しでも害するような真似は出来ない。

「貴殿がアスラン・フリングス少将殿か。よくいらした。歓迎する」

執事だと名乗ったラムダスに連れられ、応接間に通されたアスランは、深々と頭を下げ、クリムゾンと挨拶を交わした。そうかしこまらずともよい、と許しを得てから顔を上げれば、応接間のテーブルには、クリムゾンの他に三人の姿があった。
赤い髪、翠の目。それだけで、彼らの素性をアスランはすぐに悟る。
そのうちの二人、アッシュとルークの双子の兄妹には、一年ほど前にグランコクマの宮殿で会ったことがあった。和平の一環として、二人が外交経験を積むためにもと、一ヶ月ほど宮殿に滞在していたことがあったからだ。
もっとも、謁見の間に二人を案内したときに少しだけ話したことがある、という程度ではあるが。

「紹介しておこうと思ってな。妻のシュザンヌだ」
「お目にかかれて光栄です。シュザンヌ様」
「私も光栄に思いますわ、フリングス将軍」

おっとりと、シュザンヌが微笑む。気品漂う美しさは、さすがに若いころ、その美貌で名を馳せた王女なだけはある。
けれど、シュザンヌの笑みを浮かべた瞳の奥に、哀しみを読み取り、アスランは内心、首を傾げた。何故、彼女もまた、ピオニーと同じく、あんな悲しそうな眼差しをしているのだろう。

「アッシュとルークには、会ったことがあるそうだが」
「ええ。お二人には以前、グランコクマの宮殿で…。お久しぶりです、アッシュ様、ルーク様。お二人ともお元気そうで何よりです。私のことは覚えていらっしゃらないかもしれませんが…」
「いえ、覚えています。ピオニー陛下に謁見するのに緊張していた俺たちに、親切にしてくれたこと、感謝していますから。剣術の指南、よろしく頼みます」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします、アッシュ様」

にこやかに微笑むアスランに、アッシュもまた笑みを返してくる。その奥に、やはりシュザンヌと同じ哀しみを見つけ、アスランは一人、動じた。
一体、何だと言うのだろう。自分の知らないところで、何か起こっているらしい。
そして、と最後に娘へと顔を向けたクリムゾンの目にも、同じ哀しみがあった。

「その節は、本当にありがとうございました、フリングス将軍」
「いえ、そんな…。私は大したことは。こちらこそ、お優しいお言葉、ありがとうございます、ルーク様」

薔薇色に頬を染め、ルークがにこ、と微笑む。その愛らしい様子には、他の家族と違い、哀しみのかけらもない。
長旅と周囲のわからぬ哀しみに疲れを覚えていたアスランは、ルークの明るい笑みに癒された。内心、ホッと息を吐く。

(とにかく…ここで頑張るしかない)
一年、その間、頑張ればいいのだ。
得体の知れない哀しみが漂ってはいるが、居心地が悪いとも言い切れない。長年の確執を思えば、もっと敵意を向けられたとしても可笑しくないのに、それはない。それだけでもありがたいことだ。
何より、ルークが向けてくれる歓迎の笑顔がアスランの心を励まし、慰めてくれて。アスランは一人、二国の友好のためにも頑張らねば、と決意を新たにした。





稽古を終え、汗を互いに拭ったところで、お茶にしよう、とアスランとアッシュの二人に声が掛かった。声をかけたのは、ルークである。
一週間もしないうちに打ち解けた二人と、アスランは稽古後によくお茶会をしていた。晴れた日は、中庭で。雨の日は、応接間で。
何だか、すっかり恒例になったな、とアスランは小さく笑う。

「どうかした?アスランさん」
「いえ、ルーク様とのお茶会は、もう稽古の後には欠かせないものだと思いまして」
「そう言ってもらえると、嬉しいな」
「よかったな、ルーク」
「うん、兄上」

本当に嬉しそうに、ルークが笑う。朱色の長い髪をたゆたせ、にこにこと幸せそうに。
花が咲いたようなその笑みが、実はお茶会よりももっと楽しみなのだと言ったら、どんな顔するだろう。ふと、アスランはそんなことを思う。

(…言えるわけもないが)
アッシュもルークも気さくに接してくれているが、二人との間に横たわる身分差は、自分が容易く踏み越えていいものではない。客員の身として、もったいないほどの待遇を受けていても、アスランは驕ることなく、己の分というものを忘れない。
自分は一介の軍人であり、皇帝直々の命令を受けている以上、マルクトの恥になるような振る舞いは許されないと、アスランは思っている。
それに、と心のうちでひっそり考える。ルークは王族の一員でもある。将来、和平をより強固なものとするためにも、未だ独身のピオニーとの婚姻も考えられる。この胸のうちに芽生えつつある想いは、今のうちに摘み取らねば。
アスランはルークの笑みに愛しさと辛苦を同時に覚えていたが、それを二人に気取られるような愚行は犯さなかった。

「今日のお菓子は、モンブランだって」
「美味しそうですね。紅茶は私が注ぎますから、お席にどうぞ、ルーク様」

中庭に稽古の終わりを見計らって、使用人たちが用意していったテーブルに添えられた椅子を一脚、ルークのために引く。
ありがとう、とはにかみながらも顔を綻ばせ、ルークがその椅子に腰を下ろした。ちら、と見やったアッシュの目が、妹を眩しそうに見つめていることに気づく。

(いつも、アッシュ様はああいう目で、ルーク様を見ている、ような)
時折、哀しみが混じることもあるが、アッシュはルークをよく眩しそうに見つめていることがあった。そのときの表情は幸せそうでもあり、辛そうでも、あり。
ルークに関することで、彼らの間に何か秘密があり、それをおそらく、ピオニーも知っているのだろう、とアスランは考える。けれど、彼らが隠す秘密ならば、自分が訊ねるわけにもいかず、疑問は常にアスランの胸の中で燻り続けた。

「どうぞ」

アスランはゆるりと首を振り、ティーポットを手に取り、カップへと紅茶を注ぐと、まず、ルークへと差し出した。次に、アッシュへと差し出す。そして、最後に、自分。
程よく茶葉が蒸れた赤茶色の紅茶から、華やかな香りが立ち上ってくる。今日の紅茶は、アールグレイらしい。
ルークはたっぷりのミルクと角砂糖を一つ。アッシュは何も入れず、そのまま。アスランは輪切りのレモンを一枚浮かべ、取っ手に指を掛けた。ふぅ、と息を吹きかければ、レモンの端が紅茶に僅かに沈み、広がる波紋を乱す。
アールグレイの香りにレモンの酸味がある爽やかな香りが混じり、稽古後で心地よく疲れたアスランの疲労を癒した。

「んー…ッ、このモンブラン、美味しい!」

ルークの感嘆に誘われるように、アスランは、一番上にシロップ漬けの渋皮がついた大粒の栗が飾られたモンブランに視線を落とした。サックリとしたビスキュイの土台に、たっぷりと刻んだ栗入りの生クリームが乗せられ、それを包みこむように幾重にも巻かれた栗のクリームに、アスランもフォークを突き刺す。ストン、と柔らかなクリームにフォークが沈む。
フォークにクリームを乗せ、口に運ぶ。甘すぎない栗の風味をしっかりと楽しめるクリームは、アスランの舌を楽しませた。

「本当に美味しいですね」
「うん!」

にこにこ笑うルークに、アスランの頬も自然と綻ぶ。本当によく笑う少女だと、目を笑みに細める。
愛らしい無邪気な笑みは、温かな日差しのようで、それだけで場を明るくさせる。それだけに、アスランには、アッシュの目、シュザンヌの目、クリムゾンの目の奥に潜む哀しみが理解できない。
ルークへと向けられる憂いが、わからない。

(彼女はこんなにも幸せそうなのに)
眩いくらいの喜びに満ち溢れ、毎日、笑っているのに。
ルークの笑みに微笑を返しながらも、アスランは漂う憂いに、眉を顰め、不安を覚えずにはいられなかった。





一年があっという間に過ぎ、最後まで笑顔だったルークに見送られ、アスランはマルクトへと帰国した。──その一週間後。大きな地震がルグニカ平野に起き、大地がひび割れた。そして、そこから地殻に封じられてた薄紫の瘴気が溢れ出し、世界に蔓延した。
混乱するマルクトの民たちの前に立ったピオニーが宣言したのは、一週間後、この瘴気は晴れる、というもの。預言にそう詠まれており、それを実現するため、今、動いているところなのだと水の皇帝は、瘴気障害を恐れる民たちを安心させた。キムラスカやダアトでも、同様の発表がなされた。
実際に、ピオニーの宣言から一週間後、瘴気は嘘のように綺麗に中和された。空には青色が戻り、空気は澄み切った。世界中が、歓喜に沸き、深い安堵に満ちた。
その一方で、瘴気が消えた三日後、アスランのもとに届けられたのは、一通の悲報だった。
それをアスランへともたらしたのは、アッシュだった。

「……ご冗談、でしょう?」

何を仰ってるのか、わかりません。
アッシュの表情を見れば、それが冗談ではないことなど、アスランにもすぐにわかった。わかっていたけれど、否定せずにはいられない。認めたくないと、首を振る。
そんなアスランから、アッシュの背後に立ったピオニーが、痛ましげに目を逸らす。その顔に浮かぶのは、一年前、キムラスカへとアスランを送った日に浮かべていた、哀しみだ。
アスランは愕然と言葉を失い、顔から血の気が音を立てて引いていく。ともすれば、その場にしゃがみこんでしまいそうなほど、膝が震えた。

「嘘でしょう、アッシュ様。陛下も…どうか、どうか嘘だと仰ってください…ッ」

悲痛な叫びが、ピオニーの私室に響く。謁見の間でも、応接間でもなく、私室へと自分を呼んだのは、ピオニーが自分を気遣った故なのだろうと気づきながらも、アスランはそれに感謝するだけの余裕もない。
ひたすらにアッシュから告げられた訃報を信じたくなくて、首を振る。アッシュが苦しげに呻き、顔を俯けた。アッシュ様、と縋るように、アスランは呼びかける。沈黙が、三人の間に落ちる。
深く息を吐き、口を開いたのは、ピオニーだった。

「事実から逃げるな、アスラン。目を逸らすな」
「ッ」
「…お前がどんなに否定したところで、事実は覆らない」
「……あ」
「ルーク・フォン・ファブレは死んだんだ」

ピオニーの蒼の眼差しが、アスランを辛そうに見つめる。アスランは、どうして、と戦慄く唇で呟いた。
アッシュが喉奥で、唸る。

「あんなに、幸せそう、だったのに。元気だったのに…。何故、…何故、ですか。どうして、彼女は…」

頭を過ぎるのは、彼女の母親。病弱なシュザンヌ夫人。アスランがキムラスカに滞在していた間も、ベッドから抜け出せない日がよくあった。
ならば、彼女の血を引いたルークもまた、そうであったのだろうかと、アスランはルークを思い出す。けれど、あの明るい笑顔しか、思い出せない。元気のない様子など、彼女は見せなかった。
別れの日を、迎えても。ルークは涙一つ、アスランに見せたことはなかった。

「…預言に詠まれていたんだ」

ぽつりとアッシュが呟く。苦しげに辛そうに、吐き出すように、呟く。
アスランは呆然と、アッシュへと顔を向けた。

「ND2000、ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は、王族に連なる赤い髪の女児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼女は世界の希望となるだろう」
「聖なる焔の光…。ルーク様のこと、ですか」

こくりとアッシュが頷く。アッシュの目の下に、濃い隈が浮いていることに、アスランは気づいた。頬もこけ、やつれている。
アッシュの顔に刻まれた深い悲しみに、アスランの胸が痛んだ。ルークの死が、現実のものとして圧し掛かってくる。

「ND2018、ルグニカの大地が揺れ、罅割れ、そこより溢れた瘴気が世界へと蔓延す。世界は未曾有の危機に瀕するであろう」
「っ、それは…そんな預言が詠まれていたのですか…!」
「秘預言だ。迂闊に民たちに広がれば、悪戯に混乱を招きかねないからな」
「…続きがある。しかし、ローレライの力を継ぐ少女、その力をもって、瘴気を中和し、消滅す。これにより、世界は救われるであろう」
「……消、滅?」

では、とアスランは震える唇で二人に問う。それでは、ルーク様は。彼女は。
瘴気を中和して──死んだというのか。世界を守るために、その身を犠牲にしたと。彼女を捧げて、世界は救われたのだと、そう言うのか。
アッシュが拳を握り、自身への怒りと悲しみに翠の目を燃やし、そうだ、と答えた。

「あいつは超振動と呼ばれるローレライの力を持って生まれた。そして、来るべき日のために、超振動を自在に操るための訓練をずっと受けさせられてきた」
「ずっとって…。わかっていたって、ことですか?ND2018に、ルーク様が瘴気を中和して、死んでしまうってことが。それがわかっていて…他の手は打たなかったんですか?」

アスランの声に、思わず、責める色が混じる。
アスラン、とピオニーが咎めるように名を呼び、眉を寄せた。

「そんなわけないだろう。預言は一つの指針だ。従わずとも道があるなら、ともちろん、キムラスカでも、マルクトでも探したさ。キムラスカではベルケンド、シェリダンでずっと研究されてきたし、うちでもジェイドとサフィールに研究させてきた。だが…」
「…だけど、見つからなかったんだ。小規模ならまだしも、世界を蔓延するほどの瘴気を中和する方法は」

そんな、とアスランの口から力のない声が漏れる。アッシュが一度、きつく目を閉じ、ゆっくりと開いた。
静かな眼差しが、アスランに向けられる。
アッシュたちの目の奥に覗いていた哀しみの理由が、今ならよくわかる。

「…俺たちが、以前、グランコクマに滞在していたことがあっただろう」
「ええ…」
「あれは、俺の場合は確かに外交経験のためだったんだがな。ルークの場合は…父上や母上が、世界一美しいと言われる水の街を見せてやりたいと、そう思ったからだったんだ。最後まで足掻くつもりではあったが、十七で死ぬと詠まれたルークが喜ぶことを何でもしてやりたいと、両親は思ってたからな。…俺もだが」

ふ、と悲しげに微笑むアッシュの目には、限りない妹への愛情があった。ああ、とアスランは息を吐く。
彼らの苦しみはどれほどのものだったのだろう。そして、ルーク。彼女は何を思って、笑っていたのだろう。笑ってくれて、いたんだろう。

「あいつは、我が侭の一つも言ったことがなかった。弱音の一つすら、吐いたことはない。俺ならきっと逃げてた。でも、あいつは…逃げなかった」
「……」
「そんなあいつが、一つだけ、たった一つだけ、最初で最後の我が侭を言った。一年前、言ったんだ。残りの一年、あの人の側にいたいって。…お前のことだ、アスラン」
「え…?」

アスランは目を瞠り、言葉を失う。自分がキムラスカへと送られたのは、偶然ではなかったのかと、ピオニーを見やる。
ピオニーが頷き、アスランはふらりとよろめいた。

「でも…ルーク様が、どうして私を…」
「…俺も理由は知らない。あいつは言わなかった。内緒だって、笑って。…ただ、これを預かった」

アッシュが胸のポケットから取り出し、アスランへと差し出したのは、一通の手紙だった。表には、アスランさんへ、と書かれている。ルークの筆跡だった。
震える手で、アスランはそれを受け取る。アッシュの胸ポケットに入っていたそれは、温かかった。
まるでルークのぬくもりが残っているかのような錯覚を受ける。──彼女がこれを書いてから、少なくとも三日以上は経っているのに。

「ルークは、この一年、本当に幸せそうだった。毎日笑顔で、アスランの側にいるのが嬉しくって仕方ないって顔して…」

言葉を切り、アッシュはゆっくりと息を吐く。
翠の目の端に、涙が滲んでいた。きっと彼の脳裏には、ルークの笑顔が浮かんでいるのだろう、とアスランはぼんやり思う。

「ありがとう、アスラン」

深く頭を下げるアッシュに、アスランは返す言葉を持たなかった。





私室で一人、アスランはテーブルに置いたルークの手紙を見つめ、ルークと過ごした一年間に思いを馳せた。
脳裏を過ぎるのは、笑顔。明るく輝いた、ルークの笑顔。
見つめているだけで幸せになれる。そんな愛しい笑顔しか、浮かばない。

「……」

アスランはルークの手紙を手に取り、封筒にペーパーナイフを当てた。ピッ、と封を切り、中身を取り出す。
カサ、と紙の触れ合う音をさせ開いた手紙には、ルークの想いが綴られていた。
そこには、己の不遇を呪うような言葉もなく、まして、悲嘆にくれるような言葉もなかった。

──アスランさんはきっと覚えていないでしょうけれど、と手紙にはあった。グランコクマの宮殿で謁見の間に案内してくれるとき、ルークという名を綺麗ですね、と褒めてくれたことが嬉しかったと、そう書いてあった。
『聖なる焔の光』という名は、希望の象徴でもあるけれど、同時に、彼女を愛する者たちにとっては、悲しみの象徴でもあって。だから、ルークは己の名を誇りにこそ思えど、好きにはなれなかったのだと、綴られていた。

──だけど、アスランさんに綺麗だと言ってもらえて、初めて好きになれました。
そして、優しく微笑んでくれたアスランさんに、恋をしました。
少女の想いが、どこか照れくさそうに、手紙に刻まれていた。アスランの目からぽたり、と涙が手紙に落ち、インクが滲む。
慌てて、アスランは袖で涙を拭った。ルークの文字が己の涙で滲んでしまうのが、嫌だった。

一年間、アスランと過ごした日々がどんなに幸せなものだったか。そんなことも綴られている。
楽しくて、幸せで、嬉しくて。本当に、ありがとうございました、と素直な想いが、そこにある。手紙の文面は温かく、ルークの笑顔が頭から消えない。ルーク様、と呼べば、彼女の声が聞こえてくるような、そんな気すらしてくるほど、手紙は生き生きとしていて。
けれど──最後に記されていた数行が、ルークがもうどこにもいないことを、アスランに知らしめた。

アスランさんの幸せを、祈っています。
さようなら。

ルークの字は、最後まで歪むことなく、記されていた。きっと悲しかったろう。辛かったろう。泣き腫らした日もあるだろう。
だが、手紙からはそんな悲しみの片鱗も伝わってこない。アスランへの想いに溢れ、優しさに溢れ。彼女そのもののような、手紙だった。
手紙を、アスランは胸に抱く。ぬくもりはもう残っていない。

「ルーク、様」

あの笑顔を見ることは、もう出来ないのだ。
アスランさん、と呼んでくれることもない。
彼女のために紅茶を淹れることも、椅子を引いてやることも、もう出来ない。

「っ、あ、うあ、あ」

私は、貴女が。
私も、貴女のことが。
アスランの慟哭が、部屋に響き、空気を震わせた。
涙が溢れ、アスランの頬が濡れる。
アスランの瞼の裏には、ルークの笑顔が浮かび、消えることはなかった。


END

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はじめまして
はじめまして。瑠衣と申します。

最近、アビスに嵌まっていまして。ルーク中心サイト様を手当たり次第という感じです。
此方のサイト様は友人に紹介していただきました。
PTに厳しく、ルークが愛されていて、実に大好物ばかりのサイト様です。

まだ全ての作品を読ませていただいていないのですが、少し気になる誤字を見つけまして。
単なる入力間違いだと思うのですが。

中盤あたりでアッシュとアスランが会話をしている所で。
「ND2081に、ルーク様が瘴気を中和して~」とアスランが言っているのです。

それだけなのですが・・・。
失礼致しました。
瑠衣: URL 2009.06/21(Sun) 16:30 Edit
Re:はじめまして
初めまして、瑠衣さん。最近、アビスに嵌られたとのことで…。
ご友人に当ブログを紹介されたとか。わざわざ遊びに来てくださり、ありがとうございます。ご友人さまにも、よろしくお伝えください。

ご指摘のあった箇所ですが、18を81と入力が逆になっていたようで。修正しておきました。
ご指摘、感謝致します。
またお暇のあるときにでも、遊びに来て頂ければ幸いです。
2009/06/21(Sun)
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