月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ピオルク+ジェイルク。
が、ルークは瘴気中和時に乖離してます。
ローレライ解放は、ヴァンを倒したあと、アッシュが行い、キムラスカに戻ってます。
そのローレライ解放後の話。ローレライの怒り。
救いのない話で、ピオニーとジェイドがひたすらぐだぐだしてます…。
注!キムラスカ&被験者に厳しめ
タイトル拝借:「悪魔とワルツを」さま
ピオニーにとって、雪は見慣れたものだった。
ケテルブルクで過ごしていた幼いころと違い、グランコクマでは、めったに降らないから、見る機会は減っていたものの、それでも、子どものころ、嫌というほど、慣れ親しんでいたものに違いはない。
だから、グランコクマで降るのを見たところで、珍しいとは思っても、驚くほどのことではなかった。
──それが、黒くさえ、なければ。
「…こりゃ、また」
唐突に、青い空を厚く、見るからに重たい灰色の波打つ雲が覆ったかと思うと、降り出した、黒い雪。
それが宮殿の上にも、ちらちらと降り注いでくる。はらはら、ちらちら。雪が降る。
黒い黒い雪が、降ってくる。
まるで、子どもが見る悪夢のようだと、ピオニーは私室の窓からそれを眺め、頭を掻いた。さて、これは何なのか。──薄々、見当はついているが。
「陛下」
コンコン、とノックの音。入室の許可を求める声。
その声を聞く前から、ピオニーにはそれが誰かわかっていた。こんな非常事態に真っ先にこの部屋を訪れる者があるとすれば、それは、ジェイドの役目だ。
「入れ」
「…外が…ああ、ご覧になられていますか」
「ああ。…見ろよ、可哀想に。ブウサギたちが怯えてる」
腰を曲げ、ピオニーは足元に固まり、ガタガタと震えているブウサギたちから、一匹を抱き上げた。
淡い桃色の毛を持つ、ブウサギ。ルークと名づけた、ブウサギだ。あの子のように優しくも強くあれ、と思ってつけたのに、瘴気を中和し、同胞たちとともに消えてしまった、哀しい英雄の名になってしまった。
「で、あれは何だ」
「まだ調査段階ですが…第七音素だと思われます」
「第七音素、ねぇ」
譜眼の威力を抑える眼鏡を押し上げ、ジェイドが言う。
第七音素。それは、ピオニーにローレライの存在を感じさせる。ジェイドも同じらしく、一つ頷いた。
「ただの第七音素じゃねぇんだろ」
「ええ…」
「汚染された第七音素か」
わざとらしいまでに黒く染め上げ、見るからに毒々しいそれに、く、と笑う。
あれが雪と変わらぬ白であったなら、ジェイドも気づくのに遅れただろうに、色をつけたのは、ローレライの慈悲か──あるいは。
「俺たちの慌てふためく姿を楽しもうって、ところかね」
「……」
厚い雲に覆われ、姿が見えない音譜帯を探すかのように、ピオニーは空を仰ぐ。
ちらちら。雪は降り続ける。雪を装った瘴気の塊が、ちらちらと、ちらちらと。
「なぁ、ジェイド」
「…何でしょうか」
「あいつ、どうしてると思う」
ジェイドの顔に、苦痛が走る。
ピオニーはそれを見なかった。見ようとしなかった。けれど、ジェイドがどんな顔をしているか、よくわかっていた。
窓に映るピオニーの顔にも、同じ苦痛があったから。
「あの子は、優しい子ですから」
「ああ。…泣いてるかもなぁ」
ローレライのように見捨ててしまえばいいのに、きっとあの子は見捨てられない。
裏切られたのに、犠牲にされたのに、被験者のためにと一万の同胞たちとともに生贄に捧げられたのに、それでもあの子は──ルークは、人を見捨てられない。
「相当、怒ってるみてぇだなぁ、ローレライは」
我が子同然のルークを『殺された』のだ。当然だけどな、とピオニーは淡々と言う。
雪を止めて、とルークのことだ、泣いているだろうに、ローレライは止めない。
子どもの声が耳に入らぬほどに、子どもの父は、怒り狂っているに違いない。それが、この雪なのだろうから。
「お前の悪運もここまでだな、ジェイド」
ルークが瘴気を中和したときと違い、瘴気を消す術は残っていない。ローレライの剣は、アッシュがローレライを解放したとき、ローレライが持っていってしまった。
いくらアッシュが被験者だとは言っても、ローレライの剣もなく、また、瘴気を消し去るに足るだけの第七音素も世界から枯渇している今、超振動の力を揮ったところで、瘴気を消すことは不可能だ。
無駄死にするのが目に見えている。
「どこで、だろうな」
「はい?」
「どこで、俺たちは最後の引き金を引いちまったんだろうと思ってな」
この日が訪れることが、人が滅びる日が決まったのは、いつなのだろう。
静かに降り積もり、人が生活する大地を汚し、飲み水を黒く染めていく雪を静かに眺めながら、ピオニーは考える。
レプリカであったルークの功績をすべて、被験者であるアッシュのものとし、七年間もの間、子どもが擦り返られたことに気づかなかった汚点を消し去りたいキムラスカ王たちならば、ルークが『作られた』ときだと言うだろう。
忌々しそうに、すべてルークが悪いのだと悪し様に罵るさまが容易に想像でき、ピオニーは嘲りを薄っすらと唇に乗せる。都合のいい面ばかりだけを見つめ、その結果を考えもしない国ならば、当然のようにそう思うに違いない。
(俺はそう思わないがな)
生まれたことが悪いなど、そんなふうに考えることは嫌いだ。生まれてこなければよかったのだ、などと子どもに言える大人など、消えてしまえばいいとすら思う。
預言に王となることが詠まれていたピオニー自身、言われたことがあるだけに、その辛さを知っていた。
腹違いの兄弟たち。その兄弟たちの母親。彼らに揃って、ピオニーは罵られてきた。お前さえいなければ。何故、お前が。
死んでしまえば、いいのに。
実際、向けられた刺客は両手の指に足の指を足しても足りないほど。
ルークは、生まれてきてよかったのだ。
ルークが生まれたことで、起こった悲劇はあるだろう。アッシュは苦しんできただろう。
それでも、生まれてこなければよかった、などとピオニーは言えない。思えない。
あの朱色の髪の心優しい少年に、出会えたことを感謝している。
王でさえなければ、あの手を取って。
──いや、これは夢物語でしかない。ピオニー・ウパラ・マルクトは、王以外の何者でもない。
「ジェイド。これは俺の独り言だから、聞き流せよ」
「…王に相応しくない独り言、ですか」
「さすが。わかってるなぁ、幼馴染」
にや、と口の端を吊り上げる。ジェイドがため息を零しながらも、頷く。
腕の中の『ルーク』を撫でながら、ピオニーは呟きを落とした。
「子どもを犠牲にする道しか見出せなかった時点で、俺たちはその場で滅びちまえばよかったんだ」
こんなことなら、ルーク連れて、何もかも放り出して、逃げだしゃよかった。
嘆息交じりに、呟く。すべてが後の祭りだし、もしも、なんて為政者にあるまじき言葉だ。
だから、これは独り言。誰も知らない独り言。
知っているのは、怯えているブウサギたちだけ。つぶらな瞳の獣だけ。
ピオニーは失われた朱色を愛でるように、『ルーク』を撫でる。
「だから、お前は悪くないからな、ルーク」
泣いているなら、泣かなくていい。ローレライの怒りは当然のものなのだ。
お前に責任なんてない。責任があるのは、お前に同胞殺しを押し付けて、犠牲にした、自分たち、被験者にあるのだから。
あーあ、とピオニーは『ルーク』に頬を摺り寄せる。ブウサギの毛は柔らかくはないけれど、温かい。
何をしているんですか、とジェイドが呆れたように肩を竦めた。ジェイドの態度は普段のそれと変わらない。自分だって似たようなものだ。
二人揃って、呑気なもんだよな、と笑う。
「もっと抱きしめときゃよかった」
「その倍、私も抱きしめておけばよかった」
「何だよ。今更、素直になりやがって」
「それは、貴方もでしょう、ピオニー」
迫り来る死滅の予感。終わりの予感。
降り積もる、黒い雪。死の雪。
雪が止む様子はかけらもない。人類が滅びるまでのカウントダウンは、きっともう半分を過ぎている。
同じだけの年数を生きてきた二人の幼馴染は向かい合い、にたり、と笑った。
「俺の方があいつを好きだったぞ、ジェイド」
「ご冗談を。私に決まっているでしょう」
「そこは譲れよ。俺は王だぞ」
「それも、今更、でしょう」
ス、と二人の顔から笑みが消える。
蒼い目、紅い目。
二人の目に宿るのは、無。
「本当に、今更だな」
「ええ。…後悔は、いつでも取り返しがつかなくなってからではないと、出来ないものですからね」
違いない、とピオニーは鼻を鳴らす『ルーク』のぬくもりを感じながら、自嘲で目尻に皺が寄った目を閉じた。
黒い雪は降り積もり降り積もり。
すべてを汚し、すべてを呪い。
やがて世界は、そして人は──。
END
昔に読んだ小説にこんな台詞があります、「犠牲を必要とする世界なんざ存在する価値はねえよ……ただ一番の問題は、犠牲を必要としない世界が何処にも無いってことだ」と。
ゲームにしろ小説にしろ、世界を救うお話は数多ありますが、共通して、救いに際して犠牲になった存在は深く語られません。記念碑が立てられたり、伝承歌になったりはしますが、そのものが人々の記憶に残り続けることは滅多にない。「何時までも過去を振り返ってないで、未来をこそ見詰めよう。それが犠牲者の願いでもあるんじゃないか?」とか言う台詞も見られますが、それは食い潰して生き残った者の勝手な言い分でしかないのでは、と私は思う。当の犠牲者にしてみれば、「事ある毎に贄に奉げられた自分を思い返せ」と言いたかったにしても最早死んでいるから伝えられない。そして生存者は自身の勝手な言い分に従って犠牲者を忘却し、或いは都合の良い理想像に当て嵌めてゆくんだろうなー。って、アレ? 書いてる内に何が言いたかったのやら、忘れてしまいました。
ルークらの行動によって、預言(スコア)は覆されました。ローレライも「私の見た未来が僅かにでも覆されようとは~」とか言ってます。が、『僅かに』でしかないんですね。ユリアが詠んだのは「星の記憶」即ち「終わりまで」です。預言の中で星は確実に死を迎えている。そして預言を記した譜石は第七までで、時節は既にそこに突入している。 ……何が言いたいのかってゆーとー、滅亡はほんの少し先延ばしされただけで、惑星オールドランドの寿命は既に最末期なのではないのか、ってこと。恐らくはTOAの登場人物の大半が存命中に、不可避の終焉が訪れるんじゃないか。
まあ、ならば、二次創作で多少早めたって、責められはしないよなw
うーん、確かに、英雄は祭り上げられて、伝説と化しても、結局、それだけですよね。英雄自身が、英雄に近しい人たちがその犠牲でどんな苦痛を味わったかということは、決して伝わらないもの。「何時までも過去を振り返ってないで~」というのは耳障りはいいものの、犠牲された者たちからすれば、苦痛ごと忘れさられることと同義なのかもしれません。
そうですね、預言に詠まれたオールドラントの寿命はとうに尽きているし、ローレライの言葉から察すれば、結局、僅かしか変えられなかったとなのだとすれば、ED後、滅びが来てもおかしくないのかもしれませんね。