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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.12.30
ss

アシュルク。
ですが、ギンジとノエルの兄妹が目立ってます。
瘴気中和に関する話。
ティアとガイに特に厳しめです。

注!同行者厳しめ





白い息を吐く。はぁ、と零した息は翡翠の視界を煙らせた。
手袋をした手で頬に触れる。手袋越しでもわかる冷たさに、苦笑する。
寒いですのー、と真っ白な雪の上で、ガタガタ震えながら、ミュウがぎゅう、と足にしがみついてきて、ルークは仕方ねぇなぁ、とミュウを抱き上げた。
あったかいですの!とルークの腕の中で、ミュウが喜ぶ。

「寒いね、アッシュ」
「ああ、そうだな」

ほら、こっちに来い。
手招きされ、ルークはタタッとアッシュへと寄った。肩に掛けた外套を外し、ほら、と広げてくれたアッシュににんまり笑み、その中に収まる。
ぴったりくっつくように擦り寄れば、アッシュのぬくもりがルークを包んだ。

「へへ、あったかいよ、アッシュ」
「ああ、俺もだ」

アッシュが微笑する。その笑みは、ルークの心を温めた。
身体も心も、アッシュに包まれ、ルークは温かいと、嬉しげに笑う。アッシュがそんなルークを切なげに抱きしめた。
アッシュ、どうしたの。ルークが問う。
アッシュは何も答えず、ルークを抱きしめる腕を強めただけだった。





ギンジとノエルの二人は、アルビオールの格納庫の前で、ガイやナタリアたちを敵意を持って睨んだ。
が、ガイたちは自分たちにそんな敵意が向けられる理由などないからと根拠もなく信じ、気付かない。二人は自分たちの味方だと、信じて疑わないのだ。だから、敵意の理由を考えることも、しない。
ティアだけでも、その理由をわかってもよさそうなものなのに。けれど、彼女は向けられる憎悪に気付かない。己の兄がシェリダンの民にしたことを、もう忘れてしまったとでも言うのだろうか。
ギンジは吐き出しそうになる怒りを抑えるように、深く息を吐き、吸い込んだ。

「何をしに来たんスか?」

凍てついた硬い声でギンジが問う。決まってるだろ、とガイが焦燥しきった顔でギンジへと詰め寄った。
ギンジとノエルの兄妹の顔に、同じ感情が走る。嫌悪に満ちた表情が。

「アッシュがルークを連れ出したんだ!力を貸してくれ。アルビオールが必要なんだっ」
「アッシュは優しいから、ルークに同情したんですわ…。でも、それは間違っていますもの。アッシュの目を覚ましてさしあげなくては」
「それで、どうして、アルビオールが必要なんです」
「どうしって…決まってるじゃん!」
「そうよ、ノエル、ギンジ。今は時間がないの。アルビオールじゃないと、間に合わないわ」

アニス、ティアの二人もまた、ギンジたちへと詰め寄る。二人の顔に浮かぶのは、焦りや怒りだけではなく、軽蔑も混じっている。二人には、ギンジたちが自分たちの事情を理解しようともしないように見えていた。
自分たちの行動こそが正しいのだと、ティアたちは信じきっているのだ。
そして、今は、瘴気を中和させるために、姿を消したアッシュとルークを探し出す。それが自分たちの使命だと、そう信じきってもいた。──王たちはそんなことを命じていないにも関わらず、だ。

「ガイさんは、ルークさんに死んでほしいって思ってるんですか?」
「何を言うんだ、ノエル!そんなわけないだろう…!」
「…ノエル、ギンジ。私たちは誰もそんなことは思っていません。ですが…それしか方法がないんです。ルークに一万のレプリカたちとともに瘴気を中和してもらうしか、方法が」

眼鏡のブリッジを押し上げ、ジェイドが辛い胸のうちを吐きだすように言う。ガイが眉を顰めて、目を逸らし、ティアたちもまた小さく呻き、顔を伏せた。
まるで苦渋の選択をせざるを得なかったのだと言わんばかりに。自分たちこそが被害者なのだと言わんばかりに。
ギンジは怒りに震える妹の手を握った。ノエルの目に怒りと悲しみが見て取れる。心優しい妹の目を閉じさせ、耳を塞いでやりたいと兄は思う。
こんな醜悪な人間たちの表情を見せたくなかった。傲慢な言葉を聞かせたくなかった。

「本当にそれしか方法がないとしても、おいらはみなさんに協力できません」
「どうして!?馬鹿なことを言わないで!」
「…馬鹿なことを言ってるのは、そっちじゃないっスか。アルビオールはキムラスカの財産なんスよ?それを許可なく貸し出せるわけないじゃないッスか」

今はそんなこと言ってる場合じゃないじゃない、とアニスが憤慨露わに叫ぶ。
ダアトの軍人が何を言う、とギンジは呆れを隠さない。ティアもアニスも教団に所属する軍人だ。にも関わらず、アルビオールを貸せ、と厚顔にも言い放つ。
アルビオールには確かに武器は積まれていない。だが、用いようと思えば、今すぐに驚異的な兵器となる代物だ。キムラスカもマルクトも、上空からの攻撃には対処方法を持っていない。
ティアたちがしていることは、戦艦を個人的な権限で貸し出せ、と命じているにも等しいということに、彼らは気付かない。
外郭降下作戦時、アルビオールを自由に使用していい許可を得たからか、作戦が終わった今も、彼らはアルビオールは自分たちが自由にしていい移動手段とでも思っているらしい。
大佐という地位についているジェイドでさえ、何も言わないところを見るに、彼もそう考えているらしい。タルタロスでキムラスカ領であるシェリダンに乗り付けただけのことはあるな、とギンジは内心、失笑する。
ナタリアが進み出で、でしたら、と胸を張った。

「キムラスカ王女である私が許可いたしますわ。さぁ、ノエル、ギンジ。発進の準備をしてくださいな」

はぁ、とギンジはノエルとともにため息を零した。ナタリアが不快そうに眉を寄せるが、二人は意に介さない。
ギンジはポケットから紙を一枚、取り出した。その紙に押された玉璽にナタリアの眉が跳ね上がる。

「何と言われようとアルビオールは出せません。おいらたちはキムラスカ王直々に命じられてるんス」
「ナタリア様が何を言っても、従うな、とも言われてます」
「な…」

ナタリアの頬が赤く染まる。何を、と憤怒の目で睨まれ、ギンジはス、とノエルを背に庇うように前に出た。
大丈夫よ、兄さん、とノエルが小さく首を振る。うん、と頷きながらも、ギンジはノエルの前からどかなかった。
身勝手な怒りを妹にまでぶつけられることは、我慢ならなかった。

「それに、瘴気中和の方法は他にもあるって、おいらたちは聞いてるッス。なのに、何でルークさんたちを探さないとならないんスか」
「他の方法などあるわけが…」
「その方法のために、おいらたち、シェリダンの職人は連日働いてるって言っても、自分の考えこそが正しいって言い切れるんスか」

どうして、ルークさんたちを犠牲にしなくちゃいけないんだ、とギンジは憤る。ティアがルークは罪を償わないといけないのよ、と当然のように言い放った。

「ルークだって、償いたいって言っていたもの。だから、瘴気の中和はルークがしなくちゃ。そうじゃなくちゃ、ルークだって、いつまでも罪に苦しむことになるわ」
「…他に方法があるって言っても、ルークさんは犠牲になるべきだって思ってるんスね。そんなの、なおさら、協力なんて、おいらもノエルもしたくないッス。それに…たとえ、命と引き換えに瘴気を中和したって、ルークさんはきっと苦しみ続けますよ。ルークさんはみなさんと違って、自分の罪から逃げないし、優しい人だから」

いつ自分たちが罪から逃げた、とティアたちが訝しげに叫ぶ。ああ、本当にわかっていないのだと、ギンジはノエルととに首を振った。
出会う以前の彼らの罪の詳細は知らないが、出会ってからだけでも、彼らが犯し続けてきた罪は多い。例えば、ルークへの不敬など、ごく当たり前のように行われていた。

「ティアさん、あなたのお兄さんが私たちから何を奪っていったか、もう忘れたんですか?」

ノエルが戦慄く唇でティアを責める。ティアの顔からサッと血の気が引く。それをガイが悪いのはヴァンであってティアじゃない、と庇った。
ティアだって苦しんでるとでも言うつもりらしい。ギンジはこみあげてくる怒りで吐き気を覚えた。
よく言えたものだと、握った拳が震える。彼らと行動をともにしていたノエルから聞いた話を思い出す。ガイは、公爵に家族を殺された憎しみを、その息子であるルークたちへと向けていたのだと、ノエルは言っていた。
ガイの顔を殴り、ティアの頬を張ってやりたい衝動に駆られるが、悔しいが自分の拳は避けられるだけだろう。
今は怒りを抑えなくては。
再び、深呼吸をし、ギンジはちら、と彼らの背後を見やった。自分には気配を察するなどという器用な真似は出来ないが、周囲をキムラスカ兵たちが取り囲んでいるはずだ。自分の怒りで、彼らの邪魔をするわけにはいかない。今の自分の役目は、彼らの注意を引きつけておくことなのだから。
国に留まっていろと王直々に命じられたにも関わらず、それを軽いものと勝手に捉え、逆らった罪人たちを逃さぬためにも。

「…おいらたちは、みなさんが…あんたたちが嫌いだ」
「みなさんが、憎いです」

ギンジはノエルとともに、隠すことをしてこなかった敵意を新たにティアたちへと向けた。
そこでやっと二人の怒りに気づいたティアたちが動じる。もう遅い、とギンジは薄らと笑った。

「ルークさんを傷つけて壊したあんたたちを、おいらは許さない」

あの優しい人を壊したあんたたちを、許さない。
心が壊れ、アッシュとミュウ以外のすべてを忘れてしまったルークをギンジは思い出す。幼い子どものようにアッシュに甘え、ミュウと戯れる、ルーク。けれど、アッシュ以外のすべてに怯える、ルーク。
命と引き換えに瘴気を中和するしか方法がないと言われたルークの心は、壊れてしまった。レプリカを連れ、死んでくれと仲間に言われたことで、壊れてしまった。
他の方法を考える時間を惜しみ、目の前の一万人ものレプリカも『片づけられる』という方法を選んだ彼らによって、壊されてしまった。
レプリカはやっぱり見捨てられるんだな、と呟いて──ルークはアッシュとミュウ以外のすべてを自分の中から消した。
嘆き悲しみ、瞼を真っ赤に腫らしていたノエルの顔が、頭をよぎる。妹にあんな顔をさせたことも、許せない。

そして、アッシュはディストとベルケンドの科学者たちに他の方法を見つけ出させ、ルークを連れて姿を消した。
すべてが終わるまでは、各地を転々とするつもりだとアッシュから送られてきた手紙にあった。
どこでもいい、とギンジは思う。どこでもいいから、二人が幸せならば、いい。
あの優しい人たちが、笑っていてくれるなら、それでいい。
だから、あの二人が笑う邪魔する者は、許さない。

「しっかり、頑張ってきてくださいね、王女様、ユリアの子孫様」

おいらたち、民のために。
皮肉をこめて、ギンジは言う。言い慣れない皮肉であったからか、ナタリアとティアは訝しげな顔をしていたけれど、すぐに理解出来るようになるはずだ。
第七音素の素養を持つ二人の間に擬似超振動を起こし、フェレス島のレプリカを使って瘴気を中和する。それは、ルークを犠牲にせず、国家の信頼を揺るがしかねない罪人を英雄として葬るための方法でもある。
汚い方法だと、ギンジとてわかっている。
けれど、彼らがルークを見捨てるというのならば、自分たちだって、彼らを見捨てる。その選択に迷いはない。

「さよなら」
「さよなら、みなさん」

キムラスカ兵に囲まれたティアたちに向って、兄妹は微笑み、手を振った。


END

 

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