月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
「灰の騎士団」の2話の後に入る話です。
連絡船の中での三人+一匹の食事風景。
ほのぼのまったり。
船での食事は、セルフサービスとなっていた。
並べてあるメニューから、好きなものを選んで、トレイに乗せ、最後に纏めて勘定を払うというものである。
三人と一匹は、それぞれ食べたいものをトレイに乗せ、全員分をバラガスが払ったところで、空いていた四人掛けのテーブルに腰を下ろした。
ミュウはその身体の小ささ故に、テーブルの上だ。
バラガスがちらりとアッシュとルークを見やり、くっ、と噴き出し、口を押さえた。
きょとん、とルークとアッシュの二人がバラガスを見やる。
翡翠の目が二対、不思議そうに瞬く。
「どうした、バラガス」
「何だよ?」
「あー、いや、何だ」
ミュウも、ルークが取ってくれたサラダからキャベツをもしゃりと食べながら、首を傾げている。
バラガスはくくっ、と笑いながら、アッシュとルーク、二人の頭をくしゃりと撫ぜた。
翠の目が揃って丸くなる。
「お前さんたち、好みが一緒なんだと思ってな」
言われ、ルークとアッシュは互いの皿を見比べた。
クロワッサンにコーンスープ。メインの若鶏のステーキ。デザートのチョコレートケーキに至るまで、二人のトレイに乗った料理はすべて同じだった。
ちなみにデザートはバラガスも同じである。
ルークとアッシュは顔を見合わせ、バラガスと同じように噴き出した。
「お前もチキンが好きなのか」
「兄上も好きなんだな!」
アッシュと同じことが嬉しくて仕方ないと言わんばかりに、ルークが満面の笑みを零す。
アッシュもまた嬉しそうに笑い、二人はナイフとフォークを手に取ると、チキンを切り出した。
二人と違い、ポークソテーを選んだバラガスもまた、ナイフとフォークを掴み、肉を切る。
三人のナイフ捌きは、並べられた料理がまるで一流レストランの料理のように見えるほど優雅だった。
「本当、よく似た『兄弟』だよ、お前さんたちは」
ルークに頼まれたため、アッシュに対するのと変わらぬ砕けた口調でルークとも接しながら、バラガスは笑う。
本当に仲のいい兄弟に、二人は見えた。
(もしルークが自分がアッシュの弟じゃあなく、本当はレプリカなんだと知っても…変わらねぇといいが)
本当に仲睦まじい兄と弟のようなアッシュとルークを見つめ、バラガスの黒の目が穏やかに細められる。
大丈夫だろう、きっと。この二人ならば。
根拠はないが、笑顔をかわしている二人を見ていると、そう思えてくる。
二人がこうしていつまでも笑っていられるように、頑張らねぇとな、とバラガスはポークソテーを一切れ、口に入れ、一人頷いた。
何しろ相手は強大だ。二千年間もの間、人々に信仰されてきた預言が相手なのだから。
(…にしても)
ちら、と二人のメインの皿を見やり、バラガスは眉を顰めた。
「……呆れるくらい、よく似てるよな、本当に」
揃ってニンジンのグラッセを皿の隅に追いやるんじゃない。
ばつが悪そうに目を逸らす二人に、苦笑する。
ちゃんと食べねぇと背も伸びねぇぞ、と半ば脅してやれば、二人が酷く沈痛な面持ちでニンジンを見つめた。
「…バラガスは嫌いなもんとかなかったのかよ」
「昔から何でも食べるガキだったなぁ、俺は。嫌いなもんもなくて、面倒がなくていいと屋敷のシェフに褒められた覚えがあるくらいだしな」
ルークの恨めしげな目に、顎を擦って答える。だいぶ髭が伸びてきたようだ。
キムラスカに入る前に剃っておかなければ。
これから、公爵子息に仕えたいと願うことになる。身支度はきちんと整えておかなければ、公爵に拝したとき、失礼に当たる。
「だから、そんなでかいのか?」
「あと牛乳もよく飲んでたかもしれんが」
「そうか…。牛乳か」
「ボクも好き嫌いしなければ、大きくなれるですの?」
「そうだなぁ、多分な」
「ボク、頑張るですの!大きくなって、ご主人さまを守るんですのー!」
丸い拳を振り上げ、しゃくしゃく、猛然とサラダを食べだしたミュウの隣で、ルークがぶつぶつとニンジンを睨みながら、呟いている。
見やれば、アッシュも同じようにニンジンを睨みつけ、何事か口の中で呟いているようだ。
嫌いなものやコンプレックスまで同じか、と悲壮な表情でニンジンに恐る恐るフォークを伸ばす二人に、バラガスは目を細めて豪快に笑った。
END