月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ヴァンルク。…いや、ヴァン→ローレライかな。
フェンデはローレライ至上主義、な話です。
ローレライ>>>>預言くらい。
ヴァンとディストくらいしか出てきてませんが、マルクトとキムラスカに厳しめです。
マルクトはホドのときの話なので、前皇帝時代ですが。
注!キムラスカ&マルクト厳しめ
薬を打たれ、意識を失ったヴァンがまず目に留めたのは、すぐ隣に横たえられた存在だった。それは自分と同じ顔をしていた。レプリカという存在をヴァンが初めて知ったのは、そのときだ。
ホドを崩落させられる、直前のことである。
己と瓜二つの姿かたちをしていたけれど、ヴァンはそれを尊い存在として認識した。レプリカは第七音素だけで形作られている。つまりそれは、第七音素集合体であるローレライに近しい存在であるということだ。
ローレライの子だと、ヴァンは思った。レプリカはローレライの御子。ローレライの欠片。
ユリア・ジュエの血を引く者として、ヴァンは何よりもローレライを尊ぶよう、教育されてきた。預言ではなく、ローレライをこそ敬いなさい、と。
フェンデはユリア・ジュエの直系の血を守るため、表向きはガルディオスに仕える身であり、ガルディオスに忠義を誓う身。
けれど、真に尊び、忠誠を誓う相手はローレライと知りなさい。
それが、フェンデの教えであり、父と母に厳命されてきたことだ。このことは、ガルディオス家の者も知っている。代々、ガルディオスの直系の子孫にのみ、教えられてきたことだから。
ガルディオスの盾とはいえ、歴史の浅いナイマッハ家の者には伝えられていないが。
だから、たとえ、ヴァンが長じ、いかに譜術剣士として腕が立つ身となったとしても、シグムントもマリィベルもヴァンがガルディオスのために命を懸けるような真似だけは拒んだはずだ。フェンデの血が損なわれることを恐れて。
実際、今回のマルクトからのヴァンに対する実験協力の要請も、ガルディオス家は拒んでいたのだ。最終的には隙を突かれ、ヴァンは無理やりつれてこられてしまったが。
(…レプリカ)
ヴァンは、感情の機微も示すことなく、ぐったりと譜業に繋がれた己のレプリカを前に目を輝かせた。この存在こそ、自分が仕える存在だ。
そうだ。レプリカこそ、この地上で生きるにふさわしい。被験者は争いに争いを重ね、預言に耽溺し、己を磨くことすら忘れて久しい。
ユリアの真の願いがどこにあったかは知らぬが、預言を遺したことはユリアの最大の愚行だとヴァンは思っている。
「早く、擬似超振動を起こさせろ…!」
薬のせいで身体が麻痺しているヴァンは、レプリカと繋がれた譜業から逃れるすべを持たなかった。満足に抗うことも出来ない。
身体に繋がれる譜業が不快で仕方ない。だが、それより不快なのは、マルクト兵たちがレプリカを道具のように扱っていることだった。
(ローレライの御子に何を…ッ!)
ヴァンは憎悪をマルクトへと滾らせる。何とかして、あのレプリカと呼ばれる存在を救わなければ。
けれど、身体の自由は奪われ、どうにもならない。己の無力さに歯噛みする。
そして、ヴァンの願い空しく、レプリカとの間に擬似超振動が起こり──レプリカ諸共、ホドは崩落した。
*
ユリアシティに引き取られ、そこで『聖なる焔の光』誕生の預言を知ったヴァンは、ローレライ教団に入団し、力をつけていった。すべては『聖なる焔の光』、すなわち、ローレライの力を持つ子どもから、第七音素だけで構成されたレプリカを生み出すために。
『聖なる焔の光』より生み出されたレプリカは、まさにローレライの分身とも言える存在となろう。そのためだけにヴァンは力を求め、知恵を求め、必要な人材を求めた。
そして、オールドラントでも屈指の剣士と言われるほどの実力をつけ、神託の盾騎士団でも時期総長とすら謳われるようになったヴァンは、キムラスカに取り入った。ルーク・フォン・ファブレの信頼を得、ローレライの力を持つ彼からレプリカを生み出し、そして、彼自身をも守るために。
「守る、というのは?」
不思議そうに、譜業の権威として引き込んだディストが首を傾ぐのに、ヴァンは頷き、預言を詠んだ。諳んじられるほどに覚えた預言は、『聖なる焔の光』と、彼の消滅を引き金とする世界の崩壊。
ディストの顔から血の気が引いていくさまに、苦笑する。
「死なせはしない」
ルークは、被験者の中でもっともローレライに近しい存在だ。ローレライの力を持って生まれた存在を、ヴァンはみすみす死なせるつもりはない。
それに、ルークにはローレライを解放してもらわねばならない。限界を迎えたパッセージリングが砕け、大地が崩落し、被験者たちが消え去った後で、レプリカたちが生きる大地を作り出すには、ローレライの協力が不可欠なのだ。
何より、これ以上、ローレライを独り、地殻に封じられたままにしておきたくもない。あの広い空こそ、ローレライにはふさわしいはずだ。
まったく、今までの先祖たちは何をしていたのかと、ヴァンはため息を禁じえない。きっとユリアもローレライも二千年もの間、地殻に封じられたままになるとは思っていなかったのではないだろうか。
いつの日か、オールドラントの民が瘴気を中和する方法を見つけ、外殻大地を降下させ、ローレライを解放してくれるものと思っていたのではないだろうか。
ヴァンは最近、よくそう考える。預言は保険でしかなかったのではないだろうか、と。ローレライの分身たる『聖なる焔の光』には、ローレライを解放する力がある。だから、もし、瘴気を中和しようとも、ローレライの解放にまでは至らない場合に備え、『聖なる焔の光』の誕生を詠んだでのはないかと。
ヴァンは苦笑し、首を振る。
すべては憶測に過ぎず、オールドラントの民が何も知らぬまま、知ろうとせぬまま、二千年を生きてきたことは変わらない。
「ディスト、三日後だ。それまでに準備を終わらせてくれ」
「三日後ですね。わかりました」
くい、と眼鏡を押し上げ、頷くディストに、ヴァンは笑みを零した。
三日後。計画が本格的に始動する。
手始めは、『聖なる焔の光』、ルーク・フォン・ファブレを秘密裏に連れ出し、レプリカ情報を抜くことからだ。
*
ルークの稽古のため、訪れていたキムラスカで買い求めた菓子を片手に、ヴァンはディストの研究室を訪れた。といっても、土産の送り相手は、ディストではない。
「お帰りなさい、ヴァン!」
「ああ。ただいま、ホルス」
扉を開けた途端、腕の中へと飛び込んできたホルスの小柄な体躯を、ヴァンはしっかりと受け止め、片手で抱き上げた。頬へと摺り寄せられる柔らかな頬が心地よい。
さらさらと揺れる朱色の髪も耳に快い音を奏でる。
「いい子にしていたか?」
「うん!」
「そうか、いい子だ。ほら、お土産だ」
「ありがとう…!」
パッ、と顔を輝かせる少年に、ヴァンの水色の目が柔らかく細まる。土産を両手で持つホルスの翡翠の目が、キラキラと喜びに煌く。
その嬉しそうなさまに、ヴァンの頬も自然と緩み、笑みが零れた。
「デレデレしすぎですよ、ヴァン」
「…デレデレなどしていない」
「自覚なしですか。…まあ、それはいいとして、ホルスにすぐお菓子をあげるのは止めてくれませんかね」
えー、とホルスが眉尻を下げ、不満そうに頬を膨らませる。ヴァンもまた、いいじゃないか、少しくらいと抗議すれば、眼鏡越しに赤い瞳でギロリと二人揃って睨まれた。
ヴァンはまったく動じることはないが、ホルスはそうもいかないらしい。頬からプシュッ、と空気が抜け、しゅん、と悲しげに項垂れた。
「お菓子ばっかり食べて、ご飯を食べないんじゃ困りますからね。栄養が偏るでしょう」
「だが」
「だがもへったくれもありません。ホルス、貴方だって、大きくなりたいんでしょう?ヴァンくらい、背が伸びたらいいな、と言っていたのは誰です」
ホルスは小さいほうが可愛らしいだろうな、と思いつつも、ヴァンは懸命にも口にはしなかった。そんなことを言った日には、ホルスは口を利いてくれなくなる。被験者であるルークに似て、頑固なところがある子だ。一週間、だんまりということも考えられる。
そんなことは、ヴァンには耐えられない。
「でも…一個だけ…」
バチカルのお菓子、おいしいんだもん。
ちら、と腕の中で、伺うようにディストを見やるホルスに、ヴァンも後押しするように頷く。はぁ、とディストがため息を零し、わかりました、と頷いた。
途端に、ホルスの顔に笑みが咲く。
「ただし!条件があります」
「じょうけん?」
「そう、約束をしてもらいましょうか。夕食を残さず食べる、と」
「うん、する!ホルス、約束する!」
「あとちゃんと歯も磨くんですよ」
「うん!」
にた、とディストが笑ったのは、きっと気のせいではないな、とヴァンは頬を引き攣らせたが、すでに菓子に夢中のホルスは気づいていないらしい。
助言するべきか否か、ヴァンが迷っているうちに、ディストがさっさとホルスと小指を繋いだ。こういうとき、見た目は酷く若く見えるものの、ディストが自分よりも長く生きているのだと思い知らされる。
「約束を破ったら、針千本ですからね」
「うん、もう食べていい?」
「どうぞ。ひとつだけですからね」
嬉しそうに菓子が入った箱を開け、中のプラリネとナッツが入ったチョコレートを口の中に放り込み、落ちちゃいそう、と言わんばかりに頬を両手で押さえるホルスに、ヴァンもディストも相好を崩す。
少年の嬉しそうな笑顔は見ているだけで微笑ましい。
(だが…夕食のときには曇るんだろうがな)
まだ幼く、経験も浅いホルスは失念しているが、夕食にはまず間違いなく野菜が出る。ディストが栄養のバランスを考え、ホルス用にと特別に作らせている食事だからだ。
今日の夕食にも、おそらくニンジンやピーマンなど、ホルスが苦手なものが入っているに違いない。だからこそ、ディストのあの笑みなのだろう。
もしかしたら、魚料理もあるのかもしれない。
「美味しいか、ホルス」
「うん!」
「そうか」
それはよかった。
ヴァンは微笑み、チョコレートがついたホルスの唇を親指の腹で拭う。えへへ、と気恥ずかしそうに、ホルスが笑う。
夕食時には曇るかもしれないが、今、こうして満面の笑みを見られることが出来るのは素直に嬉しい。
日々、ホルスはまっすぐに育っていっている。そろそろ譜術の基本を教えてもいい頃合か。
(ローレライ。貴方も笑っているだろうか)
貴方の分身とも言える子が、無邪気に笑っているように。
それとも、嘆いているだろうか。
貴方の力を持って生まれた子が、ヴァン・グランツという存在にしか安らぎを求めることが出来ないこの現状を。
(だが、今はまだ早い)
二年前、ヴァンはルークを浚った。ホルスを生み出すために。
そのとき、いっそこのまま、とも思ったのだ。ルークをキムラスカには返さず、連れて行ってしまおうと。
だが、キムラスカは執拗だった。当然だ。『聖なる焔の光』はキムラスカ繁栄の預言には必要不可欠なのだから。キムラスカの贄として必要であるから。
いずれ、疑いを向けられ、調べられるだろうことは容易に想像がつき、ヴァンは仕方なくホルスが生まれると、ルークを返した。ルークにホルスという存在がお前を救うのだと教え込み、すべてを黙しているよう、言い含めて。
そして、ルークはその言に従い、頑なに口を閉ざしている。それだけ、ルークはキムラスカの誰をも信頼していない。両親も婚約者も幼馴染も、誰もかもを。
時々、二人きりとなったときには、ホルスのことを訊ねはするものの、それだけだ。
(ローレライ。貴方に誓う。貴方の子どもとも言えるこの子たちを、私は守ってみせよう)
あのとき、守れなかったレプリカの分も。
そして、貴方を解放もしよう。二千年もの間、閉じ込められてきた地殻から。
私は築いてみせる。貴方の子どもたちが生きる世界を。
ルークやホルスが幸せとなれる世界を。
「ホルス、お歌が聞きたいな」
「譜歌か?もちろんだ」
譜歌はローレライへと捧げられる歌。
お前たちのための歌。お前が笑うのならば、幾らでも、歌おう。
ローレライ、貴方が喜ぶのなら、この喉から血が吹き出ようとも歌い続けよう。
ヴァンは穏やかに微笑み、豊かな声で譜歌を奏で始めた。
END
赤毛至上主義のようにも見えますが、あくまでローレライ至上主義のヴァンです。
ディストはレプリカ研究のためというのもありますが、ヴァン自身に興味があるみたいな。だから、たぶん、最後までヴァンの味方かな。もちろん完全同位体であるホルス(レプリカルーク)にも興味津々。ジェイドに執着してないと思われ。
このヴァンは被験者を全員滅ぼそうとまでは思ってないです。自分の計画に賛同し、レプリカを愛してくれるようなら生かすつもりだったり。教育係としても使えるし。
ティアも仲間に引き入れて、レプリカたちのお姉さんみたいな立場にしようと目論んでるかと。