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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.03.28
短編

ティアルク
黒ティア逆行
ルーク至上主義なティアです。
戻った先は本編2年前くらいかな…。





すべてが今さらだと、崩れたエルドランドを眺めやり、ティアは顔から表情を消した。
背後では、再会を喜ぶ王女の歓声が響き、それに困ったように『聖なる焔』が答え。
人形師の少女が引き攣った声で帰りを祝う言葉を吐き、幼馴染の青年が慟哭を耐えるように唇をきつく噛み締め、空を仰いでいる。
死霊使いは微笑むことすら出来ず、視線を足元に落とすばかり。
茶番だと、歌唄いの少女は哂った。
気づけば、化粧っ気のない唇から、契約の歌が流れていた。



歌姫は謡う



「初めまして、ルーク様。ティア・グランツと申します」

スカートの端を持ち、膝を折って、礼をとる。
目の前の朱色の髪の少年が、にこりともしないでぞんざいに頷いた。
その態度を不快に思うでもなく、「お会いできて光栄です」とティアは心の底から嬉しげに微笑んだ。
ルークはそっぽを向いて、ぶっきら棒にああ、とだけ答える。

どれだけ少年がつれない態度を取ろうと、ティアの笑みが崩れることはなかった。
理由なんて簡単だ。
少年の態度の裏には、慣れきった退屈と慣れていない照れがあるのだと気づいているだけのこと。

可愛い。愛しい。
ティアは笑みの下で少年を抱きしめたい気持ちと涙に耐えた。
ここまで連れて来てくれたヴァンは、今、公爵に呼ばれ、席を外している。
応接間にいるのは、ティアとルーク、それに護衛の白光騎士が二人だけ。
ガイも仕事で席を外している。よかった、とティアは内心、ホッと息を吐く。

「…お前、ヴァン師匠の妹なんだってな」
「はい。今日も兄に頼んで連れて来てもらいました」
「わざわざこんなとこにか?物好きだな。何もないだろ、こんなこと」
「そんなことありませんよ。私はずっと生まれ育った街から出ることが叶いませんでしたから、いろんなものが新鮮なんです」
「ふぅん…」

ルークの翠の双眸がキラリと光る。
屋敷に軟禁されている自分と重なる境遇に興味を持ったのだろう。
少しばかり、ツキンとティアの胸が痛んだ。本当は自分は外の世界を知っているからだ。

瘴気の海に浮かぶユリアシティを。
パッセージリングに支えられた儚い外殻大地を。
それだけではない。ティアはルークの知らない未来を知っている。預言のなくなる未来を知っている。
ルークが消えてしまう未来を知っている。

「外ってどんな感じなんだ?」
「そうですね…。ルーク様は海をご覧になられたことはありますか?」
「本では知ってる」
「私もこちらに来る途中で初めて見たのですが、とてもとても綺麗で雄大なものです。透き通った蒼の下に、淡いピンク色の貝なんかを見ることも出来るんです」
「へぇ。…見てみたいな」
「ルーク様…」
「俺、出れないからさ、屋敷。あ、でも、大人になったら出れるんだぜ」

不遜な態度で笑うルークに、にっこりと微笑み頷き返す。
それが嘘だと知っていたけれど、ティアは内心の怒りを綺麗に押し隠した。
怒りを向ける相手は、ルークではない。
彼に嘘を吐いた公爵やキムラスカ王に対してだ。

(預言で読まれているから、なんて)
なんて詭弁。なんて馬鹿馬鹿しい。
ああ、そうだわ。今の私にはわかる。
預言に縛られ、この尊い『聖なる焔の光』を犠牲にしようとするキムラスカの愚かさが。

(ねぇ、ローレライ。貴方も協力してくれるでしょう?)
そっと心の中で第七音素集合体に語りかける。
神のような厳かな声が、もちろんだと、ティアに返ってきた。

もちろんだとも。麗しきユリアの血を引く娘、メシュティアリカ。
お前の願いに応えよう。

どこか陶酔を孕む、ローレライの声。
それはティアにしか聞こえない声だ。
ティアはうっそりと笑む。

「ルーク様。あの、これ…。よろしかったら…」

腰に提げた小さなポーチに手を伸ばし、小さな紙包みを取り出す。
何だ?と小首を傾げるルークに、ティアはそれを差し出した。
ルーク様に捧げるには、あまりにも恐れ多い些細な贈り物なのですが、と恐縮した態度で視線を落とす。

「そんなかしこまらなくたっていいっつーの」
「は、はい」
「…開けて、いいのか?」
「はい」

ヴァン・グランツの妹という立場があるからだろう。
警戒する視線を向けては来るものの、脇に控える白光騎士は何も言わない。
ユリアの子孫であることも、ダアトで名高いグランツ謡将の妹という立場も、利用することに今のティアは躊躇いを持たなかった。
ルークに近づくためならば、どんな手段も厭わない。

「これって…」
「それが貝です。サクラ貝という名の」

吸い込まれるように、桃色の薄い貝殻に見惚れるルークの翠の目に、ティアは見惚れた。
キラキラと好奇心に輝く瞳は、なんて美しいのだろう。
どうしてこの瞳の美しさに、過去の自分は気づかなかったのか。

(よくも、馬鹿に出来たものだわ)
何も知らないのね、だなんて。自分だって何も知らなかったくせに。
愚かな過去の振る舞いに、吐き気がする。
でも、もう私は間違えない。

(傲慢と罵られようと、構わないわ)
過去を個人の願いのために勝手に変えることなど、許されないと、それは傲慢だと罵られようとも構うものか。
私を罵る資格があるものなど、誰もいない。──消えてしまったルークを除けば。
ルークが救った世界を変える。
そのことを考えるときだけ、ティアの胸はツキンと痛んだ。
でも、嫌なの。ルークが帰ってこない世界は。ルークが消えてしまった世界は。

(今度こそ、ルークを失ったりなんて、しないわ)
ルークは必ず、私が守る。
幸せにしてみせる。
そのためには、ルークの信頼を勝ち得なくては。
ルークに近しい者とならなければ。

(私はルークと幸せになりたいの)
この思いすらも、きっと傲慢なのだろう。
でも、知ったことか。傲慢で構わない。
この恋をもう二度と失いたくはない。

(だから、協力してね、ローレライ)
瘴気の問題も、レプリカの問題も、大爆発の問題も、預言の問題もローレライの協力は不可欠だ。
繊細な貝にそっと指先で触れるルークに微笑みながら、聖女の子孫は、目の前の子どもを救うための算段をつける。

(さぁ、まずは)
『新しい』預言を、キムラスカに与えよう。
ユリアの子孫と、勝手に有り難がってくれる大詠師を利用すれば簡単だ。
ユリアの残した預言を変えてしまうことになるが、問題はないだろう。
ユリアとて、預言通りの未来にならないことを望んでいたのだから。
消滅預言を回避する預言を詠み、そして、預言がなくなる預言を詠む。
ルークを犠牲にする預言を、そうして失くしてしまうのだ。
あまりにも長い時間、預言に頼ってきた人類から預言を奪うには、一番簡単な方法だと、ティアは思う。

「なぁ、ティア」
「はい」
「いつか俺が外に出られるようになったらさ。海ってやつに、連れてってくれよ」

大事そうに貝を両手で包み、はにかむルークに、ティアは頬を薔薇色に染め上げ、もちろんですと頷いた。
言葉が喉に詰まる。
目も熱い。涙が、出てきそうだった。
けれど、泣くわけにはいかない。ルークを驚かせてしまう。

「私で…よろしければ…」
「ん、約束な」

にっ、と口角を吊り上げ、小指を突きつけてきたルークに、ティアはしばし戸惑った。
ティアの蒼い目が揺れる。
小指出せよ、と眉を潜めるルークに、慌てて、小指を差し出せば、きゅ、とルークの小指が絡められ。
ティアの頬がますます赤みを帯びていく。

「ぜってぇだかんな」
「…忘れません、絶対に。ルーク様との、約束」
「おう」

照れくさそうに、いささか荒い素振りで離れていった小指を、ティアは見送った。
左手の小指が熱いのは、きっと気のせいではないのだろう。

(叶えてみせるわ、ルーク)
貴方との約束を。
たとえ、貴方が忘れてしまったとしても、叶えてみせる。

(頑張りましょうね、ローレライ)
うふふ、と密かに心の内で、ティアは華やかに笑い、譜歌を歌う。
華やかな歌に魅せられたように、ローレライも笑った。

すべては、メシュティアリカ。
お前の望むままに。

神にも等しい意識集合体の声に、たった一人の愛しい青年を救うことだけを望む『聖女』は、幸せそうに歌い続けた。


END

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黒ティア素敵です!!
このサイトはサーチで見つけたのですが、どれもこれも素晴らしいです!!

特にこの黒ティア&黒ナタリアが大好きですvv
アビスでは基本PTメンバー大好きなのですが、やっぱり原作の醜態にはちょっと釈然としないものを感じていたので、このサイトを見つけたのは僥倖でした!

黒ティア黒ナタと来たので、黒アニ×ルークなどは予定にないのでしょうか?
実はこっそり希望だったり…、すみません(^^;

では、陰ながら応援させていただきます!
無理せず頑張って下さいね!
キョウ: 2008.06/03(Tue) 20:25 Edit
コメントありがとうございます!
初めまして、キョウさん。サーチから来て下さったとのことで。いらっしゃいませー。返信が遅れてしまってすみません(汗)
どれも気に入って頂けたようで嬉しいですーvあわ、僥倖とまで…!光栄ですv黒ティアも気に入って頂けたようでよかったです。
アビスのPTメンバーは私も好きなのですが、ええと…ええ、なんでしょうね。いや、ちょっと待て!と突っ込みたくなるあの言動の数々が…(苦笑)
実は黒アニも予定にあったりします…(笑)近々アップできたらいいな、と思ってますー。
またぜひ遊びに来てやってくださいね。コメント、ありがとうございました!
2008/06/09(Mon)
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