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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.03.28
『雲路の果て』
Ⅰ.再びの始まり(エンゲーブからチーグルの森)

すべてが終わり、そして、戻ってきたルーク。
いくつもある心残り。
その一つが、アリエッタのこと…。
もう一度、すべてが始まる。




アリエッタ、というのが少女の名前だった。
あどけない、幼い顔立ちをした、桃色の髪の少女。
フリルがたっぷりと波打つような服の似合う、可愛らしいアリエッタ。
彼女の笑顔は、可憐な花が咲く様子そのままに違いない。

けれど、ルークは彼女の笑顔を見たことがない。
アリエッタがルークに向けるのは、幼い顔に似合わない陰鬱な表情ばかりだ。
哀しげに寄せられた眉を初めて見たとき、ルークが覚えたのは戸惑いだった。
何故、彼女に憎悪と嫌悪のこもった、痛々しい目を向けられるのか、わからなかったからだ。

「あなたたちがママを…!」

そして、悲痛な、子どもの甲高い声とともに、ルークは理由を知った。



Ⅰ.再びの始まり



レプリカルークである自分は死んだ──正確に言えば、第七音素に還元され、消えたのだと思っていたのに。

「……どこだ、ここ」

ぱちぱちと二度、三度と瞬き、ルークはゆっくりと深く息を吸った。
背中にシーツの感触があることに目を瞠り。
鼻腔を擽った匂いに、香ばしい香りが混じっていること驚く。
どこだ、ここは。
困惑したまま、音譜帯でないことだけは確かだよな、と自身に確認する。

「俺…生きてんのか…?」

それを裏付けるように、ルークの腹が、ぐぅと鳴る。
生きてる、とルークは密かに呟いた。
では、ここは慣れ親しんだファブレ邸の自室なのだろうか。
だが、それにしては、天井はやけに古びているし、身体に当たるシーツは硬い。
身体が覚えているシーツは、もっと柔らかくて、サラサラとしていたはずだ。
では、ここは。
見覚えない、と言いきるには、目が知っていると訴えている。
本当にどこだ。
とりあえず、起き上がろう、とルークは身体を起こした。

「あら、やっと起きたのね」

聞き覚えのある硬質な声音に、びくりとルークの身体が強張った。
そろそろと顔を上げ、半ば確信している声の主を見やる。
そこには、さらりと薄い茶色の髪を揺らしている、ユリアの血を引く美少女が立っていた。

「おはよう、ルーク」
「……ティア」
「おはよう、の挨拶はないの?」

呆れの混じる物言いに、ルークは困惑の眼差しを向ける。
目の前にいるティアは、出会ったばかりのころのティアと同じ態度だ。
でも、何故。

「まあ、いいわ。それより、早く用意をしたら?チーグルの森に行く、と言ったのは、あなたでしょう」
「チーグルの森って…ここ、エンゲーブ、なのか?」

何を言ってるの、という訝しげな視線に睨まれるが、それどころではない。
一体、どういうことなのだろう。
口うるさいティアに構わず、ルークはベッドから降り、慌てて、窓に近寄った。
そこから覗いた景色は、確かにエンゲーブのものだった。
それも、魔界に降下する前の、外殻大地のエンゲーブ。

「どういう…」

ことだ、と呆然と呟いたところで、ルークは馴染みのある頭痛を覚えた。
こめかみを押さえ、顔をしかめる。

『…ルーク』

頭に響いた声は、アッシュのものではなかった。
ローレライ…!
頭の中で叫び、どういうことだ、とルークは第七音素の意識集合体を責め立てた。

『説明に来たよー、ルーク』

来たよー、って。何か軽くないか、こいつ!
通信とは別の頭痛に、眉間に深く皺を寄せる。
きっと、今の自分の眉間の皺は、あの常に不機嫌な被験者に劣らないはずだ。

『我が惑星の記憶であることは、わかってるよね?』

それが何だ。
大丈夫?!と駆け寄ってきたティアを、安心させてやれるような言葉を掛ける余裕は今のルークにはなく。
ティアはローレライに対してのルークの舌打ちを自分に対するものと受け取り、顔をしかめ、離れて行ってしまった。
ちくしょう、とローレライを罵倒する。
せめて、頭痛を消しやがれ…!

『まあ、それより』

それよりで片付けるな。
この頭痛を知らないから言えるんだ。
これが自分の命と引き替えにして解放したローレライかと思うと、怒りを通り越して、哀しくなってきた。

『助けたかったのに、って後悔してただろ?』

その言葉に、ルークの心臓がどくりと跳ねる。
助けたかったのに。
ルークにとって、それが意味する人は多い。
アクゼリュスの人々も、戦争で亡くなった人々も、誰もかもを助けたかった。
優しかったイオンや、あの桃色の髪をした少女も助けたかった。
助けたかった人ばかりだ。
けれど、どの人も助けることが出来なかった。

──わかってる。
俺の両腕は、どんなに伸ばしたって、限界がある。
けれど、納得は出来ないままでいる。
納得したくないままでいる。
だって、助けたかった。
助けたかった、助けたかったんだ…!

『だから、ルーク。一度だけ、君にチャンスを』

ありがとう、とルークは口の中で呟いた。
ローレライは、礼には及ばないよ、と笑った。

『我はルークに助けられた。その礼がしたいだけだからね。…でもね、ルーク』

不意に、ローレライの口調が、たしなめるようなものに変わる。
ルークは、その声音に眉を曇らせた。

『未来が変わるか、変わらないか。それはルーク次第だ。身体能力もルークが鍛えたとおりにしてある。その意味がわかるね?』

こっくりと頷き、顔を引き締め。
さらりと揺れる朱色の髪を、思い新たに握り締める。
今の自分は、力が足りないからと、それを言い訳にすることは出来ない。

『でも、ルーク一人じゃ大変だから、もう三人ほど、戻しといたから』

…三人?
誰だよ、とローレライを問い詰める。
内緒、と思わず、殺意が芽生えそうになる答えが返ってきた。

『あとでわかるよ。それより、早くチーグルの森に行かなくていいのかい?あの導師のレプリカとか、ライガクイーンとか…いいの?』

そうだよ、よくねぇよ!
一声叫び、ルークは慌てて、立ち上がると、ベッドの脇に立てかけてある剣を手に取った。
腰に佩こうとして、見覚えのある柄に、眩暈を覚えた。

「これ…」

それは、まさしく、ローレライの剣だった。
頑張ってね、と相も変わらず軽い口調のローレライを、ルークは持った剣で切り捨ててやりたくなりながら、ティアを置いて、宿を飛び出した。





ライガに喰われそうになっていたイオンを見つけ、ルークは走る速度を上げる。
イオンの周りに、フォン、と譜陣が浮かぶのに、舌打ちする。
イオンを止めなければ。
ダアト式譜術は、イオンの身体に多大なる負担を掛ける。

イオンの前に躍り出て、ルークは剣を抜いた。
背後でイオンが息を呑み、「ルーク殿?!」と叫ぶ。
止まった譜術に、ホッと息を吐き、ライガたちに剣を向ける。

「下がってくれ」

戦いたくはない、出来るものならば。
ライガは、あの少女…アリエッタの友であり、家族だ。
傷つけたくはない。
以前は、実力が足りず、手加減をする余裕もなかったが、今の自分の実力ならば、戦わずとも、ライガたちを退けることも可能だろう。
獣は、勝てない相手とは戦わないものだ。

「…頼む」

ルークの翡翠色の瞳に浮かぶものが敵意ではなく、悲痛な色であることに気づいたライガたちが、さっと身を翻し、去っていく。
ほぅ、と息を吐き、ルークは剣を鞘にしまうと、イオンに振り返った。

「ありがとうございます、ルーク殿」

にこ、と微笑むイオンを、じ、と見つめる。
そこにいるのは、確かにイオンだった。
初めて会ったときから、優しかったイオンだった。

「…ルーク殿?」

目頭が熱くなり、鼻の奥がツン、と痛む。
じわ、とルークの視界が歪んだ。

──イオン、がいる。
あのとき、死んでしまったイオンが、目の前で笑っている。

「……ッ」
「どうなさったんですか、ルーク殿?」

小さな手が、涙で濡れたルークの頬に伸びてくる。
イオンの優しい手に触れられたルークは唇を噛み締め、嗚咽を耐えた。

「ご、ゴミ!目にゴミが入ったみたいで!」
「そう…なんですか?」
「そう!」
「…そうですか。ゴミ、取れましたか?」

ルークの説明はどう考えても、納得できるようなものではなかったが、思いやるように、ただイオンは微笑み、頷いてくれた。

──イオンのこういうとこ…好きだな、俺。
すっぽりと包み込んでくれるような安心感がある。
イオンの方が、俺より年下なのにな、と思うと、苦笑が頬に昇るが。
ゴシゴシと袖に顔を押し付け、涙を拭うと、ルークはイオンに笑いかけた。

「ルーク、でいいぜ」
「では、僕もイオンと呼んで下さい」

ルークが泣き止んだことに、安堵の笑みを零すイオンに素直に頷く。
イオンがにこ、と笑った。

ローレライが言っていた三人に、おそらく、イオンは入っていないだろう。
そんなことを考えながら、「何してんだよ、こんなとこで」と答えを知っている問いを掛ける。
未来を知っているなら、ライガに襲われるようなまねはしていないだろうし、それに、自分のことを「ルーク殿」とは呼ばないだろう。

「…チーグルに会いに行こうと思っているんです」

神妙な顔で答えたイオンに、ルークは青色のチーグルを思い浮かべる。
こちらへと駆け寄ってくるティアの声が聞こえた。


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