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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.03.28
短編

ガイルク
ガイのどろどろと澱んだ独占欲。
黒ガイ。




いつか、ルークが邸の外に、外の世界に出るだろうことはわかっていた。
わかっていたけれど、それは俺と一緒だと思っていた。
思って、いたのに。



昏い暗いクライ



宿屋の一室、ルークと二人部屋になったガイは苦笑した。
隣のベッドには、話し疲れて眠ってしまったルークの姿。
だらりと四肢を投げ出し、掛け布団を剥いでしまっている。
子どものころと変わらない寝姿に、ガイは安堵を覚えた。

「…まったくな」

どうしようもないよな。
ルークが夜通し話してくれた外の世界。
ティアとタタル渓谷で目覚めてから、俺と再会するまでのこと。
それを逐一、手振り身振り交えて話してくれたルーク。
表情もいろいろだった。
そのほとんどが笑顔だったことに、ガイの心がちくりと痛む。

(ルークが話してくれたのは)
すべて、ティアとともに見た世界のことだ。
本当なら、どれも自分が一緒に見てやるはずだったのに。

「は、…はは」

しっかりしろ、ガイラルディア。
そう思うのに、嫉妬は湧き続ける。

初めて海を見たルークの笑顔は、俺のものだったのに。
魔物と初めて戦うルークの戸惑いと哀しみの顔も、俺のものだったのに。
初めて作った形が悪くて、しょっぱい握り飯も、俺のものだったのに。

すべて、俺のものだったのに。
それは、すべてティアに奪われた。
ルークをろくに知りもしない女に奪われてしまった。

「馬鹿馬鹿しいよな、本当」

どうせ、俺はお前を。
ガイは項垂れ、両目を右手で覆った。
震える吐息が唇から漏れる。

「ルーク」

すいよすいよと眠るルークに、聞こえはしないとわかっていたけれど、ガイは呟く。
声が震えてしまっているのが、情けなかった。

俺はさ。
ルーク、俺は。

「お前が、好きだよ」

それこそ、盲目的に。
でも、お前だけしか見えなくなるその一歩手前で、いつも俺の目には、血に濡れた姉の顔が映り。
俺の耳には、断末魔の悲鳴が響くんだ。

「ルーク、…ルーク」

愛してるよ。
言えないけど。
言わないけど。
裏切るけれど。

ガイは腰掛けたベッドから立ち上がり、ルークにしっかりと布団を掛け直し、小さく笑った。
お前を、愛してるよ。
届かない言葉を、囁く。

「ルーク」

腰を屈め、口付けたルークの唇は、柔らかくて温かくて。
青い目に、うっすらと涙が滲んだ。





さらりと揺れる、髪先につれ、金色のグラデーションを描く緋色の髪を見やり、ガイは目を細めた。
ルークの髪は、青い空によく映える。
太陽の色だからだろうか。

「変わった色ですね、ルークの髪は」

そんなガイの心情に気づいたのか、気づいていないのか。
ス、と気配もなく隣に立ったジェイドが、ガイに向かって呟いた。
その整った顔に浮かぶ笑みに、ガイは胡乱げな視線を投げる。

「おや、何です、その目は。私は思ったことを言ったまでなんですがねぇ」
「思ったこと、ね。旦那がルークの髪を気に留めるとは思わなかったんだがな」
「そんなことはありませんよー。ルークの髪はキムラスカ王家に特有の緋色の髪なのでしょう?遺伝の問題を考えると、興味深いことです」
「そうかい」

どこまで本気なんだか。
眼鏡越しの笑みに細められた赤い目が胡散臭い。
この男はどうにも読めない、とガイは内心、舌打ちする。
何を考えているのだか。

(まあな。何考えてたところで)
ルークには指一本、触れさせるつもりはないが。
ルークを傷つけさせるわけにはいかない。

(ああ、わかってる。誰よりもルークを傷つけるのは俺さ)
だからこそ、ルークは誰にも傷つけさせない。
ルークを傷つけるのは、俺だけでいい。
愚か者と蔑まれようと、知ったことか。

イオンを不器用に気遣いながら、平野を行くルークの背中を、ガイは見やった。
腰に提げられた剣に、僅かに眉根を寄せる。
ルークに、そんなものを握らせたくなどなかったのだけれど。
まして、手を血で汚させるつもりだってなかったというのに。

風が吹き、ルークの緋色の髪がなびいた。
隣でティアの薄い茶色の髪も、緋色に絡まるようになびく。
唐突な苛立ちに、ガイは足を速め、ルークの髪を手で梳いた。
ティアの髪がするりと離れ、ホッと小さく息を吐く。

「ガイ?」

不思議そうな顔をして見上げてくる、ルークのあどけない顔。
きょとんと瞬く翠の目が、愛しいと言ったら、どんな顔をするだろう。
ガイは苦笑し、ゴミがついてたと肩を竦めた。

「ああ、風強いもんな。何か、そのうち目にもゴミとか入りそうだな…」
「はは、そうなったら、俺が取ってやるよ」
「どうやって?」
「んー、子どものときみたいにな」
「子どものときって…うわ、ガイ、お前な」

ため息を零し、項垂れているところを見ると、どうやら覚えているらしい。
それもそうか、とガイは笑って、ルークの頭を撫でる。
目にゴミが入ったと泣いていたルークの眼球にべろりと舌を這わせたのは、確か四年ほど前のことだったから。
涙でしょっぱかった、つるりとした感触をガイは覚えている。
その後、驚きに目を見開いて身体を強張らせ、逃げていった小さな背中も覚えている。

「どういう取られ方をされたんです?何だか、卑猥な感じがしますねぇ」
「ええー?!そうなんですか、ルーク様ぁ」
「は?!何言ってんだ、んなわけないだろ!」
「本当ですか?」
「本当ですかー?」

息がぴったりと合った、ジェイドとアニスの問いかけに、ルークがたじろぐ。
けれど、意地っ張りな少年は、キッ、と二人を見返して、言い返した。

「当たり前だろ!」
「じゃあ、私の目にゴミが入ったときはよろしくお願いしますねー」
「……大佐、眼鏡だから、入らなさそうですけどぉ」
「それは偏見というものですよ、アニース」
「アホか!誰がやるか!」

ぎぃ、と牙を剥く子犬のようなルークに、ジェイドとアニスの二人は笑うだけだ。
ルークに勝ち目はないな、とガイは苦笑いし、ルークの肩を引き寄せた。

「何だよ、ガイ」
「まあまあ、そのへんにしとけ」
「あいつらが」
「まあまあ」
「……ちぇ」

頬を膨らませ、唇を尖らせるルークの愛らしい顔を、他の人間に見られないよう、さりげなさを装って、身体で隠しながら、カイツールの港へと続く道に踏み出す。
肩を抱いたまま、歩く。
ルークの小柄な身体は、鍛えられているのに、ガイには華奢に感じられた。
間違いなく、主観的なものだ。
ルークに見られぬように、自嘲する。

(…いつまでも)
いつまでも、こうしてルークの側にいられたらいい。
抱きしめていられたらいい。
守ってやっていけたらいい。
無理だってことは知っているけれど。

「なぁ、ガイ」
「何だ?」
「うん、…本当、よかったなって思って」
「何が」
「だから、お前が、来てくれて。…俺を迎えに来てくれたのが、お前で」

はにかむようににルークが笑う。
膨らんでいた頬はぷしゅりと凹み、薄っすら赤く染まっている。
ああ、ちくしょう。
可愛いんだよ、本当に。
誰にもやりたくないって思うくらい。
今までだけでなく、これからのすべても自分のものだけにしたいくらい。

(ああ、そうだな)
そうだな。そうしたらいいのかもしれない。
ガイは、ルークに友としての笑みを返しながら、心の内でどろりと澱んだ想いをかき回した。
そうだ。ルークに言おう。
好きだと、愛していると。
そして、ルークにも俺を愛してもらおう。
ルークにとって、唯一無二の存在となるために。

(そうして、裏切ったら)
ルークは俺を忘れない。
忘れられない。
ティアにも、ナタリアにも癒せない傷を、ルークは負う。
そんな傷を負ったら、ルークは生きていけないだろうか。

(そうなったら、なぁ、ルーク)
そうなったら、俺が殺してやる。
お前を抱きしめて、お前の心臓を貫いて。
貫いた剣で俺も刺すんだ。
一つになって逝くのは、甘い誘惑のように思えた。

「ルーク」
「何だよ」

背後で、後をついて来る四人の他愛もない会話を聞きながら、ガイはにっこりと笑った。
ルークもつられたように笑う。
それは、無防備な笑みだった。
ガイは笑みを深めた。

「俺の主人がお前でよかったよ」
「……なんだよ、それ」

ばーか、と照れくさそうにそっぽを向くルークを見ながら、青い目を細める。
我が侭で、不器用で、意地っ張りの俺の主人。
お前は俺のものだよ、とガイラルディアはくつりと喉を鳴らした。

そして、俺も、お前のものだよ。

空では、眩い光を太陽が放ち。
ガイとルークの足元に、濃い影を落としていた。


END

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