月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
2008.03.28
『黒き焔の龍は笑う』
(本編前)
幼いルークとセイナの話。
夜の散歩中にルークがふと思ったこと。
ルークにとってセイナは母のような存在なのです。
セイナに抱きかかえられたまま、ルークは感嘆のため息を吐いた。
一面に広がる星が散らばる夜空に息を呑むことしか出来ない。
月の光の届かない眼下は暗く、ぼんやり影の中に影を捉えることしか出来ず、恐れを抱かせるものであったが、月と星々が瞬く夜空とセイナの体温は、ルークにそれを忘れさせた。
「気に入った?」
「そりゃもう!」
「よかった」
ふんわり微笑むセイナにルークも微笑む。
ルークはセイナの肩に頭を預け、月を見た。
金色と認識していた月は、白く静謐な光に包まれている。
緩やかなそよ風が頬を撫でるだけの穏やかな夜。
ルークはセイナの体温の心地よさに目を眇める。
(なんて言うんだ、こういうの)
頭の中を掻き回すようにして言葉を捜すが見つからない。
安心。安堵。似た言葉は見つかるのに、どこか違うのだ。
でも、どこが?何が。
「セイナ」
「ん?」
セイナが優しく首を傾ぐ。
優しい眼差しでルークを見る。
深い慈愛のこもった、その目は、母が子に向けるそれを似ている。
「…俺、セイナから産まれたかったな」
けれど、この身は紛れもなく人のものではない。
シリンダーの中で造られた人工物なのだ、自分は。
レプリカ。その意味をルークは思考する。
被験者──アッシュのために生まれたことを嫌っているわけではない。
むしろ、被験者が彼のような人間でよかったと思っている。
彼のためにこの身を役立てられるなら、それは幸せなことだと思っている。
それでも、思う。
この温かな身体から産まれることが出来ていたら。
最後まで味方でいてくれるセイナが母だったなら。
──そんなことはありえないとルークは知っている。
セイナは子どもを為せない。生むことも、生ませることも。
「……僕は自分に生殖能力がないことを残念に思ったことはないけど、でも、うん。僕も、せめてこの何も為さない胎からでも、ルークを産みたかった」
「…うん、ありがとな」
「うん」
不毛な会話だなんて、わかっている。
それでも、ルークは嬉しい。
セイナの血を引く子が生まれないことにセイナ自身が安堵を覚えているのはわかっていたけれど、セイナがルークの母であろうとしてくれたのが嬉しい。
(なのに、俺、我が侭だな)
セイナにセイナ自身の子どもが産まれないことにホッとしているだなんて。
セイナの肩に頬をすり寄せ、ルークはゆっくり目を閉じる。
あの大きな月には、この醜い心を知られているような気がして切なくなる。
どうか、セイナには知られませんように。
「眠い?」
「…ん、ちょっと」
「じゃあ、そろそろ戻ろうか」
翼に合わせて、上下に揺れていた身体が右に動く。
絶え間なく聞こえる羽音に鼓膜を震わせながら、ルークは眠りについた。
セイナのぬくもりは、ルークにたゆたう羊水の夢を与えた。
END
PR
Post your Comment