月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
アシュルク。
ED後、音符帯で過ごすアッシュの話。
ルークは音素となっています。
ただ二人だけでいられたら。
注!同行者&被験者全般厳しめ
昏々と眠る、今は、音素の塊でしかないルークを、アッシュはそっと抱き寄せた。
ローレライがたゆたう音譜帯で、肉体を持っているのは、アッシュだけだ。
「本当に馬鹿だな、お前は」
苦笑いを浮かべ、眠り続けるルークに、優しい口付けを落とす。
今のアッシュの身体は、本来は、ルークの身体だった。
大爆発でアッシュの音素が入り込んだ故に、結果として、ルークの身体に意識が移ることになってしまったのだが、ルーク自身がアッシュに身体を渡すことを望んだからこそ、容易にアッシュの音素はルークの身体に馴染み、髪の色も朱色から紅へと変わった。
それをアッシュは残念に思う。
あの美しいグラデーションを描く朱金の髪が、好きだったのに。
ルークはアッシュの深紅の髪が好きだと笑ってくれたけれど、それでも惜しく思われてならない。
「俺にだけでも、生きて欲しかった、なんて、思ったんだろう、お前は」
本当に、馬鹿だと、煌く音素を抱き締める。
意味がないのに。
お前もともにいなければ、意味がない、のに。
「お前と一緒にいられなければ、俺だけ生きていたって、しょうがないだろうが」
お前だって、そうなんだろう?
だから、眠り続けているんだろう?
自分が、地上へと戻ってしまっても、眠り続けていれば、幸せな夢を見続けることが出来るから。
失ったことに気づかずに、いられるから。
独りなのだと、気づかずにいられるから。
「早く目を覚ませ、ルーク」
目を覚ませば、俺がいるから。
音素しか残っていないルークは、きっと自分に地上に帰って、と言うだろう。
みんな、待ってるんだから、だから、アッシュは地上で幸せになって、と。
だって、自分はもうアッシュに自分からキスをすることも、抱き締めることも出来ないのだから、と。
幸せに、してあげられないから、と。
それは違うのに、とアッシュは嘆息する。
お前がいない場所に、どんな幸せがあるというのか。
どうして、それがわからないんだ。
俺はただお前が側にいてさえくれれば、もうそれだけで幸せなのに。
満たされるのに。
「…ああ、また、呼んでるのか、あいつら」
ちら、とアッシュはルークを抱き締めたまま、地上を見下ろした。
遥か、遠い遠い地表。
人の目に映るはずのない、そこで祈る人間たちが、アッシュの目には見えていた。
ローレライの力を借りて、それを見ていた。それを聞いていた。
「ふん」
帰ってきて、帰ってきてと、ルークを呼ぶ声がする。
帰ってきて、帰ってきてと、自分を呼ぶ声もする。
地上に帰ったら、自分たちを、また利用するだけのくせに。
そんな寂しいばかりの、エゴで満ちた場所に、戻るつもりなど、自分にはない。
幸せなど、あそこにはない。
求めることさえ、あそこでは出来ない。
そうとも、誰が帰るものか。帰らせるものか。
「あいつらは、そんなつもりなんてないと、言うだろうけどな」
帰ってくることはないだろうと言われていた、救世の英雄が帰還すれば、それを人々は利用する。
奇跡が起きたと、利用する。
崇め、敬い、縋るのだ。
そして、英雄ならば、これからも救ってくれ、とちょっとした不満でも救いを求めるようになる。
違うなどと、誰が言える。そんなつもりはないのだと、一体、どの口が言えるだろう。
あの大地で生きる人間たちは、救われることを望むだけで、自ら動こうとはしない。
預言に縛られ、生きていたころと、何が違う。何が変わった。
人々は、何も考えずとも生きていられる年月を、あまりに長く過ごしすぎた。
彼らが真に自立するまでには、まだまだ時間が掛かる。
そこに英雄たる自分たちが戻れば、彼らは今度は預言の代わりに自分たちに縋ることになるだろう。
そして、道を示してください、と縋りついて、責め立てるのだ。
「ガイやティアは、ルーク、お前を自分のものだと思い込んでいるところがあるから、お前を誰にも渡すまいとするかもしれないな」
ルークに縋っていいのは、自分だけ。
ルークを愛していいのは、自分だけ。
ルークが愛していいのも、自分だけ。
愛しているのだから、愛を返してくれるのは当然だと、あの二人は思っている節がある。
だから、ルークに人々が群がれば、その人々から守るのだと嘯いて、ルークを閉じ込めようとするだろう。
誰の目にも、留まらぬように。自分だけが愛せるように。
「ナタリアは、もっと現実的だな。不安定な地位を守るためには、王の妻となるのが一番だから」
インゴベルトと血が繋がっていないことが、周囲に知れ渡ってしまったナタリアの地位は、実に不安定だ。
大きな失態を犯せば、あとは転がり落ちるばかり。
気の抜けぬ日々を送っていることだろう。
今は、英雄の一人として、ある程度の失態は許されているが、それも、いつまでも続くものではない。
彼女自身、それがわかっているのだろう。
最近は、縋りつくように呼ぶ声に、苛立ちが覗くようになっていた。
王女の自分は、いずれ、女王になるのだという未来を、ナタリアは疑ったことがない。
その未来以外を生きる姿など、想像もしたくないはずだ。
だからこそ、ナタリアは自分を、せめて、ルークをと望んでいる。
「アニス・タトリンとジェイド・カーティスは、罪滅ぼしが、したいのかもな」
イオンを死なせてしまった罪を、同じレプリカであるルークを守ることで、償えると、そう信じて。
レプリカを作り出し、大勢、殺すことになった罪を、レプリカであるルークを守ることで、償えると、そう信じて。
ああ、そんなことは無理なんだ、とアッシュは低く笑う。
罪は残る。色濃く残る。長く長く尾を引くのだ。
今も、ルークが幸せな夢にまどろみながらも、時折、悪夢に魘されているように。
もっとも、彼らは本当に自分が犯した罪を自覚してはいないけれど。
ルークを傷つけ、追い詰めた罪を、自覚してはいないけれど。
「帰るものか、あんな場所に」
帰りたいなどと、思うわけがない。思えるわけがない。
なあ、ルーク。お前もそうだろう?
俺はここにいたいんだ。お前と二人、幸せにくっついていられる、ここがいいんだ。
誰も何も、ルークを傷つけることのない、この場所に、二人でいたい。
「ルーク、お前を愛してる」
アッシュは一人、ルークを優しく抱き締め、ルークが愛した紅い髪を波打たせた。
口付けが、甘く、切なく、ルークに落ちる。
キラキラ、朱色に煌く音素が、幸福な夢に酔いながら、歌を奏で出す。
その歌声に、アッシュは耳を澄まし、目を閉じた。
ルークと同じ夢を見られたら、とそう願いながら。
END