忍者ブログ

月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2009.12.27
10万HIT感謝企画

青蓮さまリクで「にょたルク=真ナタリア」でアシュルクです。
前編だけだと、捏造ナタリアのようですが(汗)
賢い王女様。
キムラスカ捏造で、メリル捏造。ガイも捏造予定。シリヴィアさんも生きてます。
その他の同行者は原作のまま。
預言には、王女の死産も取り換えも読まれていない前提です。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。




ルークよりも一年先に生まれた、ルークとよく似た顔立ちの従姉、キムラスカ王女ナタリアは、病弱だった。医師が言うには、血中音素の濃度が、生まれつき低いのが原因だということだった。
そのため、音素を調整する薬が欠かせない身であり、一ヶ月に一度は、ベルケンドで検査を受けている。
キムラスカ王家の特徴である、赤い髪と翡翠の目。ナタリアはそのどちらも受け継ぎ、生まれてきた。だが、音素量が少ないために、赤い髪はルークの紅色の髪に比べれば淡い朱色で、毛先に至っては、色が抜け、金色だ。
その色を、蔑む者も少なくない。呪われた色だと、嘲る者もいる。あれでは、長生きはすまい、と王位継承者としての地位を軽んじている者もいる。
けれど、ルークは、幼心ながら、それを美しいと思った。ずっと見ていても、飽きぬほどの美しさだ。
城からあまり出ることの出来ないナタリアのため、ファブレ邸の中庭で咲いた花を庭師のペールに頼み、花束を拵えては、ナタリアのもとへと通うたびに、ルークはナタリアに見惚れてきた。

「ルークは、この髪が本当に好きですわね」
「ああ、美しい色だと思う」
「…ありがとうございます」

白い頬を朱に染め上げ、嬉しそうにナタリアが笑う。その笑みに、ルークの笑みもまた、深まり、頬も上気する。
そんな二人をにこにこ笑って、見守っているのは、ナタリアの乳母であるシルヴィアと、その娘であり、ナタリア付きの侍女として側に控えているメリルだった。
メリルは肩まで伸ばした金色の髪をふんわりと揺らし、シルヴィアとともにナタリアたちのために紅茶を淹れた。
紅茶の葉や湯に毒が紛れ込んでいないか、別のカップに取り分けた紅茶を啜り、確かめてから、メリルはそっと音を立てぬようにして、二人の前に並べる。ありがとう、メリル、とナタリアが信頼の笑みを向け、メリルに礼を言った。
メリルの明るい若草色の瞳に、誇らしげな色がよぎるのを、ルークは見た。メリルは心からナタリアを敬愛し、彼女に忠誠を誓っている。ナタリアもまた、誰よりもメリルを信頼し、愛を注いでいる。
二人の間の絆の深さに、軽い嫉妬を覚え、ルークは苦笑いを零した。

「ナタリアとメリルは、本当に仲がいいな」

ルークの言葉に、ナタリアとメリルがちらりと顔を見合わせ、笑んだ。
ナタリアの笑みに、ルークもまた目を細め、微笑む。
きっとこれから先も、ナタリアと、ナタリアを支えるメリル、そして、自分の三人でキムラスカを導いていくのだと、ルークは信じていた。
──一年後、信頼していたヴァン・グランツによって、その身を攫われるまで。





誘拐されたルークが見つかった──。
その一報を受け、ベッドに臥せっていたナタリアは、既に何かしらの報告を受けているらしく重々しい顔をしている父王を説得し、メリルに頼み込んで、支えてもらいながら、ファブレ邸へと向かった。精神的なストレスが身体に祟り、音素濃度が常よりも低下しているナタリアの顔色は見るからに悪い。
護衛についた騎士五人も、皆、ナタリアを気遣い、歩調を緩めた。
ルークの無事を一刻も早く確かめたい。その思いだけが、今、ナタリアを突き動かし、ファブレ邸へと急かしていた。

「ナタリア様、ご無理をなさっては…ッ」
「わかっていますわ、メリル。でも、お願い。ルークの顔を見るまでは、城には戻れませんわ」

心配だった。不安だった。もう二度と、ルークに会えなかったら、どうしよう、と。
そのルークが帰ってきた、というのだ。ならば、すぐにでも会いたい。無事な顔を確かめたい。
お願いです、とナタリアは眉根を寄せてメリルに縋る。メリルが深いため息を零し、ナタリアの身体を抱き支えた。

「メリル…ありがとう」
「ナタリア様が言っても聞かぬ方であることは、このメリル、重々承知しておりますもの」
「ふふ、だから、貴女が大好きなのですわ」

にこりと、ナタリアはメリルへと親愛の笑みを向ける。メリルもまた苦笑混じりながら、敬愛の笑みをナタリアへと向けた。
メリルに支えられ、護衛の兵に守られながら、ナタリアはファブレ邸へと入った。
既に来訪の知らせを送っておいたナタリアを迎えたのは、ファブレ公爵の信も厚い執事のラムダスだった。そのラムダスが浮かべる、常にない神経質そうな表情に、ナタリアとメリルは揃って眉を顰めた。

「…ルークに何かありましたの」

気丈さを保ちながらも、不安そうに僅かに声を震わせるナタリアに、ラムダスは礼儀正しく視線を下向けながら、公爵様がお待ちです、と明確な答えを返すことなく、ナタリアたちを屋敷の奥へと促す。
ちら、とナタリアはメリルと視線を交わした。何事が起きたのかは、まだわからない。だが、ルークはただ無事に帰ってきた、というわけではないらしい。
高まる緊張に、こくりと唾を飲み込み、ナタリアは護衛の騎士たちを玄関広間に待たせ、応接間へと入った。
応接間にはクリムゾンが信頼を寄せる白光騎士団長がいるものの、他には誰もいなかった。人払いがされているようだ。

「叔父様、ルークは」
「…まずは話を。どうぞ、そちらにお座り下さい」

クリムゾンの顔に浮かぶ苦渋に、向かい合うように椅子に腰掛けたナタリアの頬が、蝋のように白くなっていく。
不安に慄きながら、ナタリアは隣に立つメリルへと手を伸ばした。カタカタと震える手で、ぎゅ、と温かいメリルの手を握り締める。
メリルが握り返してくれたおかげで、ナタリアは落ち着きを取り戻し、クリムゾンの目を真正面から見返した。

「殿下は、どこまでご存知でしょうか」
「どこまでも何も、ルークが帰ってきたとしか」
「…ルークはコーラル城で発見されました。グランツ謡将によって」

ぴく、とナタリアの眉が跳ねる。
ヴァン・グランツ。ルークが信頼を寄せていた、ダアトの若きカリスマ。
ナタリアもまた、ヴァンを有能な人間だと評価していた。だが、ルークのようには、信頼出来なかった。ルークのように師と弟子として接してこなかったからというのも、その理由の一つだが、時折、稽古を見学しているときに、ヴァンがちらりと見せた凍てついた目が、気になっていたからだ。

「…ずいぶんと妙なところで、ルークは見つかりましたのね」

コーラル城はファブレ家所有の城だが、現在は利用価値がなく、見捨てられた城である。長らく放置された城は、警備用の譜業装置が働いてはいるだろうが、人の手が入らぬことで、廃墟と化しているはずだ。
仮にも、公爵家所有の城であるため、賊が根城にするといったようなことはなかったが、何故、あのようなところで、とナタリアは首を捻った。

「何故、グランツ謡将はコーラル城になど、足を運んだのです?」
「何でも、怪しげな者たちが出入りしているという情報を掴んだ、とか」
「公爵家にも入ってこなかった情報を、ダアトの謡将が、ですか」

皮肉めいた笑みが、ナタリアの頬に滲む。クリムゾンの唇も、似たような笑みで歪んだ。
ダアトの人間が、どのようにして、ルークの行方を探っていた公爵家にも伝わってこなかったようなキムラスカ領内の情報を掴んだのか、実に興味がある。ヴァンが誘拐犯と関わりがあるという以外の理由があるのなら、今後のためにも、その有益な情報源を、ぜひ、聞かせて欲しいところだ。

「叔父様、お話はそれだけではないのでしょう?私をここに留めた理由をお聞かせ頂きたいのですけれど」

クリムゾンの表情が曇り、ナタリアのメリルの手を掴む手に、力がこもる。メリルが静かに傍らに佇んでくれていなかったら、自分は今頃、考える力すら失っていたかもしれないと、ナタリアはちらりと思った。
クリムゾンがゆるりと息を吐き出し、ナタリアと目を合わせた。

「グランツ謡将が連れて帰ってきたルークなのですが、記憶を失っているのです。それも、すべての」
「…どういう意味ですの?」
「赤子のようになっているということです。医師はよほどのショックを受けたのでしょうと、言っていましたがね」

ヒュッ、とナタリアは息を呑む。メリルも小さく喘ぐのが聞こえた。
記憶を失うほどの何を、ルークは──そこまで考えたところで、ナタリアは、はた、と気づいた。クリムゾンの台詞が、含みを持ったものであることに。
スゥ、と深く息を吸い込み、吐き出す。どうやら自分は試されているらしい。
幼いとはいえ、王女である自分を試すのだ。不敬を覚悟の上だろう。それだけの何かが、この件には隠されているらしい。
今まで、クリムゾンが自分を軽んじたことはない。王女としての威厳と賢さを持った主君として、見てくれていることをナタリアは知っている。ならば、その期待に応えてみせなければ。
ナタリアは翡翠の目を細め、クリムゾンへと叩きつけるような視線を送った。

「ヴァン・グランツが連れて帰ってきた、とわざわざ仰るからには、そのルークは偽者だということでしょうか?」

メリルが、え、と声をあげ、慌てて、口を噤んだ。許可もなく、口を開いてしまった己を恥じるメリルに、ナタリアは構いませんわ、と笑みを向けてから、クリムゾンを睨む。
クリムゾンが深く息を吐き出し、口の端に微かな笑みを滲ませた。どうやら自分は合格したらしい、とナタリアは微かに安堵の息を吐く。

「レプリカというものを、殿下はご存知でしょうか」
「レプリカ…?何ですの、それは」
「簡単に言えば、複製品です。オリジナルから音素情報を抜き出し、そっくりな複製品を作り出す技術のことですよ。もっとも、完璧に同じものを作り出すことは容易ではありませんがね」
「何故、そんな技術を叔父様がご存知なのか、お伺いしても構いませんかしら?」
「…貴女のためですよ、殿下」

く、とナタリアの目が見開く。
メリルもぴくりと肩を震わせ、訝しげにクリムゾンを見やった。

「殿下は生まれつき、血液に障害を持って生まれてこられた。現在のところ、有益な治療法といえば、血中音素を増加させる薬を飲むことだけ…。だが、これは完全な治療に至るものではない」
「…よく、わかっておりますわ」
「陛下は、どうにか出来ぬものかと、政務の合間にありとあらゆる医術書、譜術書へと目を通されました。中には、胡散臭いものすらありましたが…その結果として、陛下はレプリカ技術を知ったのです。殿下のレプリカ情報から、血液のレプリカを作り、それの情報をいじることで、正常な音素量を維持出来る血液を作り出すことが出来たならば、あとは殿下に輸血することで、拒絶反応もなく、健康体を手に入れられるのではないか──そう陛下はお考えになり、私にベルケンドでレプリカ技術を研究することを命じられました」
「お父様が…」
「残念ながら、まだ研究段階で、実際に殿下の身体からレプリカ情報を抜き出すまでにも至っておりませんが」

ナタリアは、きゅ、と空いている手を握り締め、胸へと小さな拳を当てた。
インゴベルトはそんなことは何も言っていなかった。実現可能な段階になるまで、教えるつもりがなかったに違いない。自分をぬか喜びさせぬ為に。
注がれている深い愛情に、喜びが沸いてくる。だが、今は、その喜びに浸っているときではない。
ナタリアは目尻に滲んだ涙を指の背で拭い、クリムゾンへと真っ直ぐに視線を向けた。

「では、ヴァン・グランツが連れてきたルークは、そのレプリカだと仰いますの?」
「…ルークに会われますか、殿下。そして、ご自分の目で、お確かめになられますか?」

じ、とクリムゾンの深い翡翠の目が、ナタリアへと注がれた。心の底を見透かそうとするかのような目に、ナタリアは唇を吊り上げ、優雅な笑みを見せた。
もちろんですわ、と頷き、にこりと微笑む。こんなところで引くつもりはない。連れてこられたルークがレプリカだというならば、自分の知るルークはまだ誘拐犯の手の内にある可能性が高い。
何より、ナタリアは自分の目で確かめたかった。屋敷へと連れ戻されたルークが、レプリカなのか、否かを。

クリムゾンが頷き、椅子から立ち上がった。ナタリアも立ち上がり、メリルに気遣われながら、クリムゾンの後へと続いた。
廊下へと出て、クリムゾンが向かった先は、ルークに私室として与えられた中庭の離れだった。
中から聞こえてきた泣き声に、ナタリアの眉が跳ねる。赤子というのは、確かに、本当らしい。

「お覚悟は」
「愚問ですわ、叔父様」

きっぱりと、ナタリアはクリムゾンへと返し、足を踏み出した。自分の手で、ルークの部屋の扉を開けねばと思った。
クリムゾンが何も言わずに、後ろへと一歩下がる。ナタリアはメリルの手から離れ、ルークの部屋の扉をノックすると、ゆっくりとノブを回した。
ガチャリ、と音を立てて、扉が開く。

「う、え、…うえぇっ」

中では、朱色の髪をした少年が一人、ぼろぼろと涙を流し、床に座り込んでいた。涙と鼻水で塗れた顔には、ナタリアの知るルークよりも、明らかに幼い表情が浮かんでいる。
ナタリアは少年の容貌に、震える息を吐き出した。少年はルークというよりも、自分によく似ていた。
そう思わずにはいられないのは、あの髪の色のせいだろう。

「…私と、同じ髪の色をしていますのね」

少年の朱色の髪は、ルークとは似つかぬ色合いをしていた。毛先に行くにつれ、金色へと変わっていく髪は、ルークの深紅の髪とはまったく違う。だが、自分の髪とは、よく似ている。いや、瓜二つだと言ってもいい。
顔かたちも、もともと、自分とルークは従姉弟同士ということもあり、似通っていただけに、目の前で泣きじゃくる少年は、ナタリアにこそ、似ていた。
ゆっくりと少年へと近づき、少年へと手が届く一歩手前で、ナタリアは床に膝をついた。少年がびくりと身体を強張らせ、怯えた目を向けてくる。
大丈夫ですわ、とナタリアは微笑み、自分の長い髪を一房掴み、揺らした。

「ほら、同じ色ですわ」
「…う?」
「何も怖いことなど、ありませんのよ」

それ以上、近づくことをせず、少年へと手を差し出す。涙を一杯に目に溜めながら、少年が瞬いた。翡翠の目から溢れた涙が、ほろほろと白くまろい頬を伝い落ちていく。
ナタリアは微笑みながら、少年から近づいてくれるのを待った。少年が小首を傾げ、ナタリアへと近づいてきた。恐る恐る、そろそろと近づいてくる子どもに、温かな微笑を向けながら、思う。
この子は、ルークではない、と。

(けれど、泣いている子どもに、罪などありませんわ)
この子は、何も知らぬ赤子だ。ヴァン・グランツが何を考え、この子をルークとして、連れてきたのか、その理由はわからない。
だが、あの男は、知っているに違いない。この子がルークではないことを。
クリムゾンのことだ。今頃、抜かりなく、ヴァンを調べ、ルークの居場所を突き止めんとしているはずだ。しばらくすれば、ルークの居所は掴めるだろう。
ヴァン・グランツはどうやら、ファブレ公爵家を、そして、キムラスカ王族を舐めて掛かっているようだから。

(騙せると、本気で思ったのかしら?)
齢十一の子どもである自分一人を侮ったというのならば、まだわかる。だが、彼は公爵夫妻までも、甘く見すぎた。
クリムゾンが元帥の地位を与えられたのは、何も血筋によるものだけではない。その頭脳、その武力をインゴベルト王が高く評価したからだ。
そして、シュザンヌもまた、自分と同じく生まれつき病弱な身の上だが、権謀術数渦巻く貴族社会を生き抜き、下手をすれば、クリムゾンのアキレス腱ともなりかねぬところを、ファブレ公爵夫人としての地位を守り抜いている人である。
彼らに親としての情が万一なかったとしても、子をすり替えておいて、容易に騙せると思ったのならば、大間違いだ。
ナタリアは背後で自分を見守るメリルの視線を感じながら、少年の手が自分の手に重なったことに、笑みを深めた。

「私は、ナタリアですわ」
「ナ…タ?」
「ナタリア。私たち、お友だちになりましょうね」

きゅ、と少年の手を握り、目を細める。ぱちぱちと少年が瞬き、小首を傾げた。言葉の意味を、まだ理解できないのだろう。
だが、今はそれでもいい。これから、覚えていけばいいのだから。

「…叔父様、この子をどうなさるおつもりですの?」
「ベルケンドで、極秘裏に検査を受けさせるつもりです」
「その後は?」

少年の顔をハンカチで拭いてやり、乱れた朱色の髪を指で梳いてやりながら、ナタリアは背後のクリムゾンへと質した。
クリムゾンがナタリアへと近づき、声を顰める。少年は不思議そうにナタリアを見上げながらも、側から離れることはなかった。

「ヴァン・グランツを探りつつ、この子をルークとして扱うつもりです。少なくとも、奴の目的を知り、ルークが見つかるまでは。陛下にもそのように伝えてあります。奴の掌の上で踊っているように見せかける必要がありますから」
「…癪ですけれどね。ですが、叔父様、この子には罪はありません。それはお忘れなきよう」

ルークと同じように接することは難しくとも、邪険にはされませんように、とナタリアは指を滑る朱色の髪を見つめ、思う。
少年は心地よさそうに目を細め、ナタリアに抱きついてきた。ぽふっ、とその顔が、ナタリアの胸へと埋まる。

「あらあら、甘えん坊さんですのね」

まるで、弟が出来たようだ。
ナタリアはふふ、と笑い、少年の頭を撫でる。少年が嬉しそうに笑い声を上げ、ナタリアへと擦り寄った。
どうやら、懐いてくれたらしい。

「とても良い子ですわ、叔父様」
「…ええ」
「…ルークも、笑ってくれていればよいのですけれど」

無事でいてくれるだろうか。どこかで泣いてはいないだろうか。
ルーク、ルーク。この呪われた髪を、美しいと好いてくれた、大切な従姉弟。大切な婚約者。
大事な初恋の相手。
ともにこの国を支え、導いていくのだと、約束をした、人。
眉根を寄せ、ナタリアは苦しげに吐息した。少年が気遣わしげに、ナタリアへと手を伸ばし、頭を撫でた。
ぱちくりと、ナタリアの目が丸くなる。どうやら、慰めてくれているらしい。

「う?」
「…ありがとう」

無垢な光を宿した翡翠の目に、にこりと微笑む。あどけない笑みを顔に乗せ、きゃらきゃらと少年が笑った。
この子を守ってあげなければ、とナタリアは一人思う。

(きっとルークにとっても、良い弟になりますわ)
ルークが一人、苦悩を抱えて生きてきたことを、ナタリアは知っている。
本来ならば、第七音素師が二人揃わねば、発生するはずのない、超振動。それをルークは単体で使うことが出来るということを、ルークから聞かされたとき、ルークが言っていたからだ。
その強大な力の存在に、ルークは怯えていた。自分は化け物なのではないか、と怯えていた。

(もしもこの子にも、その力があるとしたなら)
ルークはこの世で一人きりという孤独を、これ以上、味わうことはないはずだ。
自分では、どれほど望もうと、和らげることは出来ても、埋めることは出来なかった孤独を、この子ならば。
ナタリアは一人、夢を見る。ルークとメリルとこの子と自分と。四人で手を取り合い、キムラスカをより良く導く未来を。
自分がメリルの存在によって、まともに動かぬ身体への恐怖から救われ、満たされているように、ルークもまた、この子の存在によって、救われ、満たされるはずだ。
そして、満たされた二人で手を取り合って、この国のため、ともに歩んでいくのだ。

ナタリアは少年を優しく抱き締め、背中を撫でた。
安心しきった顔で、少年が身体を預けてくる。ずしりとした重さはナタリア一人では支えることは難しかったが、メリルが側で膝を付き、背中を支えてくれたことで耐えられた。
やはり自分には、メリルがいてくれないと、とナタリアは親愛のこもった笑みをメリルへと向ける。メリルもまた微笑み、頷いた。
言葉はいらなかった。それだけで、十分だった。

「頑張りましょうね。…ルーク」

仮初とはいえ、ルークの名を得た少年が、きょとん、と瞬き、ナタリアの笑みに釣られたように、頬を緩めた。
ナタリアには、夢見た未来は、本当に手が届くところにあるように思えた。
──けれど、その夢は、そう時を置くことなく、儚く壊れた。


NEXT

 

PR
Post your Comment
Name
Title
Mail
URL
Select Color
Comment
pass  emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Trackback
この記事のトラックバックURL:
  BackHOME : Next 
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
最新記事
WEB拍手
お礼文として、「アッシュと天使たち」から一本。
アッシュの話です。
楽しんで頂ければ、幸いです。

web拍手
最新コメント
[07/19 グミ]
[02/26 きんぎょ姫]
[02/26 きんぎょ姫]
[05/08 ひかり]
[05/02 ひかり]
リンク(サーチ&素材)
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析

月齢 wrote all articles.
Powered by Ninja.blog / TemplateDesign by TMP  

忍者ブログ[PR]