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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.20
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2008.08.14
5万HIT企画

「世界は醜いもので一杯だけど」の続編です。
5万HIT企画だけでなく、10万HIT企画のときにも続編希望のリクを頂き、ありがとうございました!
どうにも長くなってきたので、前編後編に分けました。
六神将ががっつり捏造です。
崩落編前で終わる予定。

注!同行者厳しめ




さやさやと涼しげなせせらぎが鼓膜を揺らす川の側で、ルークたちは身体を休めることにした。
ここまで来れば、ジェイドたちも簡単には追ってこれまい。アリエッタも、人間の足でライガに追いつくのは無理だと請け負った。

「喉、渇いたろ。たくさん飲めよ」

舌を垂らし、荒く熱い息を吐くライガの背を撫で、ルークは川へと押しやった。素直に川へと向かい、長い舌でライガが水をひちゃひちゃと飲み始める。

「俺も喉、渇いたな…」
「アリエッタも、です。その…ルーク様」
「様なんていらねぇよ。ルークでいい」
「でも」
「…頼む」

苦しげに、息を吐いて頼み込む。様なんていらない。そんな価値も、自分にはないとルークは眉を寄せる。少なくとも、アリエッタから様付けされるのは、イヤだ。
ちら、とアリエッタと目を見交わす。こくりと頷いたアリエッタの緋色の目がじ、とルークを見上げ、ふと和らいだ。
どき、とルークの心臓が跳ねる。やはり、緋色の目は綺麗だ。

「ここの水、安全だって、言ってます。だから、飲んでも、大丈夫です」
「そっか」

よかった、とルークはホッと息を吐き、両手で澄んだ川の水を掬った。零さぬよう、顔を近づけ、ごくりと飲み干す。
ひやりと冷えた水が通り、ルークの喉を潤した。はぁ、と息を吐き、二度、三度と水を飲む。

「俺、水がこんなにうまいもんだなんて、知らなかった」

座り込み、毛繕いを始めたライガの横に、ごろんと仰向けに横たわる。高い青い空には雲がぽかりと浮いていて、ルークは眩しげに目を細め、手を翳した。

「空って、広いんだな」

思わず、漏らした呟きに、アリエッタが首を傾ぎ、ルークを上から覗いてきた。ふわりと落ちてきた桃色の髪に、ルークは指を絡ませる。
やはりアリエッタの髪は太陽の匂いがした。

「ルークは、空を見たこと、ないですか?」
「屋敷の中でよく見てたけど…こんなに広いもんだとは思ってなかった」
「……」

アリエッタの小さな手が、ルークの頭をくしゃりと撫でる。さっき、アリエッタの頭、撫でてくれたからそのお礼です、と微笑みも降ってくる。

「ルークは怖く、ないですか?」
「何が?」
「ライガや、アリエッタのこと」

イオン様は、怖がってた。
ぽつりとアリエッタが目を伏せ、呟く。
イオンの目を、ルークは思い出す。悔恨と恐怖に揺れていた目を。
アリエッタに責められることを恐れていたのだろうか。ライガクイーンを死なせてしまった責任が自分にあることを責められるのが怖かったのだろうか。
交渉とは名ばかりで、結局、イオンもティアもチーグルや人間に都合のいいような選択しかしなかった。そして、ライガクイーンは。

ルークはく、と眉根を寄せる。ティアを止められなかった自分にも、責任はある。ジェイドから守ってやれなかった自分にも、咎はある。
あの場に自分は確かにいた。たとえ、クイーンが死んだことを悔やんでいるのが自分だけだとしても、アリエッタにとっては、母親を殺した者たちの一人としてきっと捉えられている。
そのことが、悲しくて、哀しい。

ルークはアリエッタの髪に絡ませていた手を、アリエッタの頬に当てた。柔らかで温かな頬だった。
親指の腹で、そっとアリエッタの目の縁を擦る。涙でルークの指が濡れた。

「俺、七年前に誘拐されて、記憶失くしてから、ずっと屋敷の中しか知らなくてさ。父上が動物を嫌って、猫とか犬とかも飼わせてくれなかったから、たまに餌探しにくる鳥くらいしか、実際には見たことなくて。あとは、人間しか、知らなかった」

他には、昆虫や、ペールが植えた草花、屋敷の塀で切り取られた空くらいのもの。
退屈だった。退屈な世界だった。
けれど、守られた世界でもあったのだと、外に連れ出されて初めて知った。
戦えと言われて、初めて知った。人間が、どんなに醜いかということを。
己にとって害となるものは、それが同じ人間であっても排除しようとする生き物だと始めて知った。
自分が人間であることが、あれほど嫌になったことはない。

(でも…アリエッタを、見てると)
人間でよかった、とそう思える。
アリエッタと意思を交わすことが出来る魔物でもよかったけれど。

「だから、わかんねぇんだよな。何で、魔物が悪いってなるのか。ライガが悪いってなったのか。チーグルのが悪いって、俺は今でも思うのに」
「…ルーク」
「ティアのやつはさ、ライガが人を襲うから悪いって言ったけど、でも、人間だって人間、襲うのに。ティアの言うとおりなら、人間だって悪いのに、あいつ、人間…つーか、自分が正しいって顔、してた」

だから、従えとそう言っていたように思う。貴方はすべて間違っているのだから、正しい私に従いなさいと。
でも本当に正しいのなら、どうしてここで今、アリエッタが悲しまねばならないんだと、ルークは眉をひそめる。
生まれてもいない卵が無残に壊されたのを見ても、何も思わないような人間が正しいと、ルークにはどうしても思えない。

「ルークは…不思議、です」

小さく、アリエッタが笑う。ぱたたっ。降って来たアリエッタの涙が、ルークの頬を滑り落ちていく。
起き上がり、身体を丸め、俯くアリエッタの身体を、ルークは包み込むように抱き締めた。

「仕方ないって、そういう人のが、多い、のに」
「仕方ないって…ライガクイーンが殺されたことがか?」
「そう、です。ママは…ママは、赤ちゃんに産まれて欲しかった、だけ、なのに」

ひっく。しゃくりあげるアリエッタに、唇を噛み締める。魔物だから、仕方ないと、そう言ったのだろうか。
アリエッタにとっては、母親なのに。自分が母親を殺されたなら、などと、考えもしなかったに違いない。ほんの少しでも、考えてみればわかるのに。
他人の立場であっても、自分に置き換えてみれば、わかるのに。

「みんな、だけです。わかってくれたの」
「みんな?」
「六神将の、みんな、です。だから、アリエッタがルークたちのこと追うの、総長に内緒に、してくれた」

そっか、と頷きながら、ルークはホッと息を吐く。アリエッタの周りに、アリエッタを思いやってやれる仲間がいることに。そして、そんな仲間がいることに羨望も抱く。
いいな、と心の内で呟く。自分には、そんな仲間はいない。
友だと思っていたガイも、自分の恐怖をわかってくれなかった。

ゆっくりと息を吐きながら、アリエッタが身体を起こし、顔を上げた。
泣きはらした目が腫れている。頬も赤い。
ルークはポケットに手を突っ込み、メイドが入れてくれていたハンカチを取り出すと、川の水に浸した。それをぎゅ、と絞り、アリエッタへと渡す。

「目、冷やせ」
「ありがとう、です」

はにかむような笑みを見せ、アリエッタがハンカチで目を覆った。ハンカチなんて必要ないと思ってきたが、こんなところで役立つとは思わなかった。

「大丈夫か?」
「はい。…アリエッタ、帰らなきゃ」

ぴく、とルークの肩が跳ねる。帰らなきゃ。そうか、そうだよな、と呻く。
アリエッタには帰る場所がある。いや、自分にもある。
──帰りたいかどうかは、別として。

(また、屋敷に軟禁される、のか)
外の世界は怖い。けれど、綺麗なものがあるのも知ってしまった。醜いばかりの世界だけれど、もっと見てみたいとも、思う。
何より、アリエッタを守りたい。アリエッタの側にいたい。
今の自分では、力が足りないとわかっているけれど。

「俺、も…俺も、一緒に行っちゃ、ダメか?」

緋色の目が見開く。ぐ、と拳を握り、ルークはアリエッタをじ、と見つめた。
アリエッタが困ったように視線を揺らした。

「ルークは、キムラスカに、帰らないと…」
「それは…わかってる、けど」
「家に、帰りたくない、ですか?」

気遣うように小首を傾ぐアリエッタに、言葉に詰まる。
帰れば、また屋敷に閉じ込められることになる。成人を迎えるその日まで。
そうなれば、アリエッタに会うことは、もう出来ない。
ぐ、と拳を握り締め、ルークは俯く。

「ルー…」

ばさり、と羽音がし、影がルークとアリエッタを覆った。
ルークは慌てて剣を握り、アリエッタを背に庇った。アリエッタが大丈夫です、とルークの服を引っ張る。

「で、でも…ッ」
「アリエッタの仲間、です。それに、そうじゃなくても、ルーク、戦っちゃ、ダメです」

何で、と言い掛けたルークの脳裏に、アリエッタがティアやジェイドへと言い放った言葉が過ぎった。
ルークは守られるべきだと、アリエッタは言っていた。イオンと同じように。
守られて当然の立場にあるのだと、そう言っていた。

(守られて、って。だけど、だけど、俺)
今ここに来るのが、アリエッタの仲間ではなく、敵だったとしたら。ルークは腰に提げた剣の柄に触れる。
きっと自分はこの剣を抜く。アリエッタの足手まといになりかねないかもしれないが、それでも、持てる限りの力でアリエッタを守りたいから。

フレスベルグから、人影が一つ、飛び降りる。
ストン、と着地した人影は、長い紅い髪を風に靡かせていた。顔は仮面に覆われている。
神託の盾騎士団の軍服を纏ったその男に、ルークは見覚えがあった。

「アッシュ!来てくれたですか?」
「ああ。お前の帰りが遅いから、心配して来たんだが…」

たたっ、とアッシュと呼んだ男へと駆け寄っていくアリエッタの背を見送るルークの翡翠の目が、寂しげに翳る。仲間であれば、アリエッタが駆け寄っていくのは、当たり前だとわかっている。
アリエッタが駆け寄って行ってしまったことが悲しいのか、アリエッタには躊躇いなく駆け寄っていける仲間がいるのに、自分にはいないことが寂しいのか、ルークにはよくわからなかった。
ただ、胸のあたりが、ひゅう、と風が吹き抜けるように、寒い。

「…何故、一緒なんだ?」

顔は仮面で覆われているせいで表情はわからなかったが、低められた声は、訝しさをルークへと伝えていた。
ぐ、と口ごもり、視線を泳がせる。どう言えば、いいのだろう。

「ルークは、アリエッタを助けてくれた、です」
「助けたって…よくわからないんだが、アリエッタ」
「…地震、あってさ。そしたら、地面が割れて、いきなり、嫌な感じの煙が吹き上がってきたんだよ」
「ルーク、泣いてるアリエッタをライガに乗せて、あいつらから、逃げてくれた、です」
「アリエッタが逃げるのはわかるが、何故」

お前まで、と仮面越しの視線が問いかけてくる。泣き笑いのような顔で、ルークは己の剣をちらりと見やり、両の手のひらを見下ろした。
アリエッタが眉根を寄せ、痛ましげに目を伏せている。

(優しいな、アリエッタは)
まるで我がことのように、この身に起きた不運を嘆いてくれている。彼らは違ったのに。彼らは皆、当然だと片付けたのに。
他人を思いやりなど、彼らはしなかったのに。

「あいつらといたら、俺、きっとどっかで死ぬって思ったんだ」

ひゅっ、とアッシュが息を呑む。何を、と呟くアッシュに、ルークは緩く首を振った。
本当だと、そう言わねばならない現状が、憎らしかった。

「剣を持ってるんだから、戦えって。…俺、人殺すのも、魔物殺すのも、嫌だって言ったら、臆病、って言われ、て」

戦わざるをえないように、ただただ仕向けられるばかりで、逃れようとすれば、向けられるのは、嫌悪と軽蔑。呆れたと言わんばかりのため息に、耳を塞ぐことも出来なくて。
屋敷にいたころも、あんなため息をよく聞いたものだけれど、屋敷の方が望まぬ殺しをさせられない分、まだマシだ。
ルークはぐ、と震えそうになる拳を握り締め、とつとつと語った。本当か、とアッシュがアリエッタを見やる。アリエッタがこくん、と頷いた。

「戦うの当然って、総長の妹、言ってたです」
「…ありえんだろう」
「マルクトの名代も、人手が足りないって、ルーク、戦わせてた。…セントビナーで、増援、頼めばいいのに」
「……マルクトの名代は和平の使者じゃなかったのか?」

信じられん、と唸るアッシュに、ルークはホッと息を吐く。信じてもらえたことが、素直に嬉しい。アリエッタの言葉もあるからだろうけれど。
敵だと思っていた相手の方が、自分をわかってくれている。信じてくれる。そのことを喜んでいいものか、ルークは困ったように苦笑した。

「…とにかく、カイツール…国境まで送ろう。旅券はなくとも、その容姿ならば、常識的なマルクト兵ならば無碍にはしないはずだし、キムラスカ側もすぐに国境を渡れるよう手配するはずだ」
「か、帰んないと、ダメか?」
「何?」

一瞬、鋭さを増したアッシュの声に、思わず、ルークの身が竦む。責めているわけじゃないと、アッシュが手を振り、怯えさせたならすまない、と小さな声で謝った。
慌てて首を振り、怯えてなんかいねーよ、とルークは虚勢を張る。アリエッタとアッシュが、密かに苦笑した。

「帰って、また屋敷ん中、閉じ込められたら、きっともうアリエッタに会えなくなる」
「ルーク…?」
「そしたら、償いも何も出来なくなるだろ。…俺、俺は、その」
「…家族が心配しているんじゃないのか」
「どうだろう、わかんねぇ。母上は、心配してっかもしんねぇけど…」

ルークの顔がフ、と曇る。心配してくれているはずだと、確信を持てないことをひっそりと嘆く。
だけど、自信がない。記憶を失う前の『ルーク』ならば自信が持てただろうか。
記憶のない今の自分では、自信が持てない。
それでも、心配してくれている人がいるのなら、帰らなくてはならないのだろうか。でも、とルークは躊躇うようにアリエッタを見た。

「…ホントのこと、アリエッタに教えてくれたの、ルークです。だから、それで、十分、です」

アッシュの隣で、涙の跡が残る頬に淡く笑みを浮かべるアリエッタに口ごもる。ルークのことは許していると、そう暗に言ってくれているのは、わかる。
わかるけれど。ルークは俯く。足りないと、思った。
アリエッタと過ごしたのは僅かな間だけれど、今までもらったことのない優しさをくれた。温かさをくれたと、心の内で思う。
その優しさに自分はまだ報いてもいない。
アッシュが考えこむようにルークを見つめ、ふ、と吐息した。

「今は帰った方がいい。……心配せずとも、またすぐに会える」
「え?」

どういう意味だと、ルークは顔を上げ、小首を傾げて、アッシュを見つめた。けれど、アッシュはそれに答えず、ただ緩く首を振っただけだった。

「一つだけ、俺に言えることがあるとすれば」
「……?」
「信じること、信じる者を己の目で見極めろ、ということだけだ」
「…信じる」
「難しい、ことだがな」

苦々しげな響きを持ったアッシュの声に瞬く。酷く重い声だった。聞いているこちらまで沈んでしまいそうなほどに。
ルークは下がりそうになる顔をぐ、と上げ、アリエッタとアッシュを見据えた。

「見極めろって言われても、よくわかんねぇけど、でも、俺…アリエッタのことは、信じてる」

アリエッタを守りたいと思うこの気持ちも、信じている。
アリエッタに報いたいという気持ちも。
アリエッタが、ぎゅう、とぬいぐるみを抱き締め、「ありがとう」と笑って。アッシュもまた、仮面で表情はおろか、目すらも影になって見えなかったけれど、笑ったようにルークには思えた。


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