月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ピオスレルク。
ピオニーとルークは、ケセドニアで知り合いました。
被験者イオンとも知り合いだったり。
マルクト側は捏造入ってますが、キムラスカ側は多分原作どおり(多分て)
注!同行者厳しめ
「俺が寝首掻いたらどうすんだよ」
ルークは汗ばむ肌を不快に思いつつ、隣に横たわるピオニーにため息を零した。
ピオニーが動じることなく、からりと笑う。
安宿のベッドは寝心地がいいとは言えず、布かれたシーツの肌触りも悪い。けれど、密会にはこれほどふさわしい場所はなかった。
それぞれの国をこっそりと抜け出して来ている、キムラスカの第三王位継承者とマルクトの次期皇太子の密会場所には。
この密会場所には、もう一人加わることもある。幼くして導師となったイオンがそうであり、彼もまた、ケセドニアに訪れた際は、こっそりと決められた宿を抜け出し、つかの間の自由を満喫している一人だ。
三人は何の因果か、ケセドニアで知り合い、イオンによって、ルークたちは秘預言を知った。
「お前はそんな真似、しないだろ」
「最後の皇帝の血で玉座を汚すかもしれないのにか?キムラスカの繁栄には、必要みたいだし」
「そのためには、俺を殺す前に、お前が死ぬことになるだろ、『聖なる焔の光』」
それじゃ、お前に寝首は掻けないな。
くくっ、と喉を鳴らし、笑うピオニーに、肩を竦める。死ぬのは、被験者ルークで、やっぱり俺があんたを殺すかもよと、言っても、ピオニーは笑うだけだった。
「俺に殺されない自信がある、ってか」
「お前の実力は知ってる。無事じゃすまんことくらいわかってるさ」
「なら」
「でも、お前は俺を殺さないってことは、知ってる」
にっ、と口角を吊り上げるピオニーに、眉を跳ね上げ、訝しげな視線を向ける。
どういう意味だと首を傾げば、ピオニーがルークの髪に指を滑らせ、続けた。
「お前は俺を愛してるからな」
「…何、その自信」
呆れてものも言えない、とルークは肩を竦め、吐息する。
一体、どこからそんな自信が出てくるんだ。
事実だからな、と躊躇なく言い切ったピオニーの口付けが、朱色の髪に落とされた。
*
通されたグランコクマにある城の謁見の間は、光で満ちていた。
大きな窓から差し込む日の光に、ルークは目を眇める。窓の向こうでは、流れ落ち続ける滝が、キラキラと煌いている。
綺麗だな、とルークの唇から吐息が漏れた。
「前へ」
許可を得て、謁見の間を玉座へと向かって進む。
中央まで来たところで、ルークは頭を下げた。膝は着かない。第三王位継承者であるものの、実質、次代のキムラスカ国王とされているルークが膝を折る相手は、キムラスカ王インゴベルト唯一人だからだ。たとえ、レプリカであろうと、現在のところその地位にあるのは自分だと、ルークは理解していた。
アクゼリュスまでの道中、ともにしていた同行者たちは誰も理解していなかったようだが。
「顔を上げろ、ルーク」
許可を得てから、ゆるゆると顔を上げる。
玉座にゆったりと座ったピオニーと目が合う。蒼の目が、一瞬、ルークを労わるように細められた。
「お前一人か。他の奴らは?」
「カーティス大佐から報告が来ていないのですか?」
自分の代わりなのか、アッシュを連れて行動しているジェイドから、何かしらの報告が上がっているものと思っていたが、ピオニーの眉がきつく寄せられているところを見るに、何も来ていないらしい。
どうやら生きていることすら知らなかったんじゃないかと、ルークは頬を引き攣らせた。
「どこで何やってるんだ、あいつは…」
項垂れ、頭を抱えるピオニーに言葉もない。
もし、アクゼリュスで犠牲になっても惜しくない人材。そういう前提で選ばれたとはいえ、確かに、これは酷すぎる。
「とりあえず、生きてるのはわかった。居場所がわかり次第、対処するとして、ルーク」
「はい」
「改めて、感謝する。アクゼリュスの民の救援が間に合ったのは、お前がキムラスカ側の街道使用許可を連絡してくれた上、救助が済むまでヴァン・グランツを足止めしておいてくれたからだ」
「…足止めに関しては、意図したわけではないですけど」
「ん?そうなのか?…ああ、そうだ。口調、崩していいぞ。ここにいるのは、腹心の部下だけだからな」
「そりゃ助かった。舌噛みそうで。で、結果として足止めになったわけだけどさ、アクゼリュス到着が遅れたのは、どういうわけか導師イオン救援隊へと親善大使一行の役割がすり替わっていた『おかげ』なんだよな」
目を丸くするピオニーたちに、ルークは苦笑い、バチカルでイオンが誘拐されたことから、導師守護役の怠慢、犯人が六神将であったことなどを説明した。
結果、ザオ遺跡までイオンを救出する『寄り道』をする羽目になったのだということを。
説明している自分でさえも不可解な話にしか思えないのだが、聞いているピオニーたちもそう思ったらしい。全員、呆れを隠せていない。
「なぁ、ルーク。そのザオ遺跡とやらの場所は、お前ら、知ってたのか?」
「いいや?オアシスで聞いた。下手したら、全員、今頃、干からびてたかもな」
ありえない、と謁見の間にいる全員が絶句する。これが普通の反応だよなぁ、とルークは安堵にも似た思いを抱いた。
「あー…、で、ルーク」
「ん?」
「お前、何で、一人なんだ?」
「ああ、置いていかれたからな、ユリアシティに。ジェイドたちは俺の代わりなのか知らないけど、アッシュ連れて、タルタロスで戻ってったみたいだけどな」
「……頭いてぇ」
突っ込みきれん、とこめかみを押さえるピオニーに、肩を竦める。気持ちはよくわかる。
彼らの対応はありえないものだと、ルークもつくづく思っている。個人的に言えば、ユリアシティに置き去りにしてくれやがったことは、助かったけれど。
彼らとアクゼリュス崩落後までともにいるつもりはなかったし、一人になれたからこそ、グランコクマまでアクゼリュスまでの道中とは違い、寄り道せずに来られたからだ。
ルークは一人旅の気楽さを改めて実感していた。
「何にせよ、これでアクゼリュスの預言は回避された」
にっ、と口角を吊り上げ、翡翠の目でピオニーを見やる。
顔を上げたピオニーの顔にもまた、不敵な笑みが覗いた。
「あいつ、笑ってるかね、今頃」
「かもな。アリエッタが生きる世界を守ってくださいね、って釘刺していったしな」
ダアトへと秘密裏に訪れたとき、預言を覆せなかったら化けて出ますから、と満面の笑みで別れを告げられたことを思い出し、ピオニーとともに苦笑する。
未練を残して逝ってしまった親友のためにも、消滅預言など覆してみせる。
「被験者も俺も、『聖なる焔の光』は生きてる。これからも、だ」
「ああ」
「…でも、もし、俺が預言至上主義者だったら、被験者をアクゼリュスで殺してて、今、ここには、あんたを殺すために来てるかもしれないぜ、ピオニー」
挑発するように髪を肩へと跳ね上げる。ざわ、と周囲の兵士たちの空気が変わる。
そんな空気を打破するように、ピオニーが腹を抱えて笑い出した。
「前にも言ったろ、ルーク。お前に俺は殺せない」
「…フン、あんたにも、だろ」
「当然」
にやり、と笑うピオニーの余裕のある態度に、ルークは悔しげに呻いたものの、結局、ピオニーの言うとおりだと、眉をハの字に下げ、笑った。
その頬は淡く朱に染まっていた。
END