月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ディスルク、というか、サフィルク。
ルークが生まれた直後に、完全同位体をヴァンに使い捨てにされるのを忌まわしく思って、掻っ攫って逃亡。
その際、譜業を事故を装って爆破して、ルークも自分も死んだことにしてます。コーラル城、崩壊してるかな…。
逃亡後は各地を点々としているうちにルークに絆され、父性に目覚めました。
現在はナム孤島に身を寄せて、サフィールは今まで貯めた金を使って、大爆発回避の研究をしたり、漆黒の翼や漆黒の夢のために譜業開発したり。
あの映像見れるやつはサフィールが作ったとかどうだろう(笑)
ルークはサフィールの世話をしたり、漆黒の夢を手伝ったりしてます。
メープルの香り漂う、胡桃たっぷりのパウンドケーキに、ルークはにこにこ笑みを零しながら、ナム孤島に作られた漆黒の夢のメンバーたちの居住から少しだけ離れた場所にある、サフィールの研究室へと向かった。
やっと美味しく作れたケーキを、最近、美味しく淹れられるようになりましたね、と褒めてくれる紅茶とともに、サフィールに食べて欲しいあまり、歩く速度も上がる。
喜んでくれるといいな、美味しいと褒めてくれるといいな、とあどけない顔を紅潮させながら、ルークは研究室へと入った。
「サフィール、お茶の時間!」
「ああ、ルーク。もうそんな時間ですか」
そそくさとテーブルに向かい、ケーキを入れてきた紙の箱を置くや否や、早速とばかりに研究室の一室に用意したテーセットでお茶の用意を始める。
思わず、鼻歌も零れ出た。早くサフィールに食べて欲しい。けれど、焦りすぎて、茶葉を蒸らす時間を短くするわけにもいかない。
ルークは三分測れる砂時計をひっくり返し、早く砂が落ちきらないものかと一心に見つめた。
「…何だか今日は一段と張り切ってませんか?」
「え、う、うん?そう?」
「ええ。そこの箱には何が入ってるんです?いい香りがしますが」
「紅茶淹れ終わるまで内緒」
へら、と頬を緩め、ティーカップを温めるのに使ったお湯を捨てる。
では、楽しみにしましょうか、とサフィールが穏やかに微笑し、椅子に腰掛けた。
「研究は順調?」
「なかなか難しいところですが、成功させます、必ず」
一人、決意するように頷き、眼鏡を外したサフィールを、ちらりと見やる。眉間に皺を寄せ、目頭を押さえて吐息しているところを見るに、疲労が溜まっているに違いない。
少しは休んでよ、と言い掛けた口を噤む。以前、そう言ったとき、時間がないんです、と苦渋に顔を歪め、吐き出すように呟いていたサフィールの顔が脳裏を過ぎる。
(多分、俺のこと、なんだろうな)
詳しく聞いたことはない。もちろん、聞こうとしたことはある。
けれど、そのたびに、いつだってはぐらかされてしまった。
理由はわからないし、サフィールが何を考えているのかもわからないけれど、自分には知られたくないことなのだろう。なら知らなくていい、とルークは訊ねることをやめた。
この命は、サフィールのもの。利用され、捨てられるだけだったという自分を救ってくれたのは、サフィールだ。
ここまで育て、知識を与えてくれたのも。生きる場所をくれたのも。
そして、愛してくれたのも。
(だから、せめて、俺に出来ることは何でもしたい)
サフィールが笑ってくれるように。
サフィールが幸せでいてくれるように。
サラサラと水色の砂が落ちきったのを確かめ、ルークはティーポットからカップへと紅茶を注いだ。色鮮やかな赤茶色の紅茶が、カップの中で波紋を作る。
サフィールのカップには角砂糖を一つと薄く輪切りにしたレモンを浮かべ、自分のものにはたっぷりのミルクと角砂糖を二つ。
お待たせ、とサフィールと自分の席にカップを置き、眼鏡を掛け直して興味深そうに箱を見つめているサフィールに、ルークはにっこりと微笑んだ。
「今日の茶菓子はこれな…!」
箱を開き、もったいぶりながら、中から少し厚めに六つに切ったケーキを取り出せば、サフィールが美味しそうですね、笑みを深めて。ルークの顔にも、喜色が広がった。
「サフィールに食べて欲しくて、頑張ったんだぜ」
「ルークが作ったのですか」
「おう!」
こうしてサフィールの前に出すまで、実は、何度も失敗したことは、ルークの秘密だ。教師として教えてくれたウルシーが根気よく教えてくれた結果、満足のいくケーキを、こうしてサフィールの前に出すことが出来るようになったのだ。
胡桃を刻むときに負った切り傷や、オーブンを開けるときにうっかりと天板に触ってしまって出来た腕の火傷にどうか気づかれませんように、とひっそり祈る。
「……」
固唾を飲み、じー、とサフィールがケーキを一口サイズにナイフを使って切って、フォークを突き刺し、口へと入れるのを見つめる。少し食べづらそうにサフィールは苦笑していたが、ルークは視線を逸らさなかった。否、逸らせなかった。
こくりと、サフィールの喉仏が上下する。
「ど、どう?」
恐る恐る、出来を訊ねる。気に入ってもらえただろうか。端っこを味見したときは、なかなかの出来だと自画自賛したのだが。
ちろ、とサフィールの目がルークの翡翠の目を捉え、ルークの喉が緊張で大きく音を立てた。
「ルーク」
「お、おう?」
「とても、美味しいです」
ふ、と眼鏡の奥のサフィールの涼しげな目元が和らぐ。口元にも、柔らかな微笑。
ルークは大げさなまでに息を吐き、えへら、と頬を緩めた。
「甘さもちょうどいいですし、メープルの香りとたっぷりの胡桃がザクザクとして、私は好きですよ、これ」
「ホント!?やった、よかった!」
頬を赤らめ、両手を挙げて、喜びを表す。ふふ、とサフィールがケーキをまた一口食べ、頬を綻ばせた。
ルークもケーキを一つ、皿に取り、サフィールに倣ってフォークとナイフを使って、ぱくり。メープルの甘い香りが口いっぱいに広がる。
「大体ね、美味しくないわけないでしょう」
「ん?」
「それだけ、苦労してくれたわけですし」
ス、と伸びてきたサフィールの手が、ルークの腕に残る火傷を指した。うぐぅ、と思わず、呻き声がルークの口から漏れる。
サフィールが肩を竦め、立ち上がり、救急箱を持って戻ってきた。
「…なんで気づくかな」
「気づかないわけないでしょう、ルークのことなんですから」
どき、とルークの鼓動が跳ねる。当たり前のように言い切ったサフィールに、緩む頬を止められない。
いつだって自分を見ていてくれる、気づいてくれる。そんなサフィールが、ルークは胸がほっこりと温まるくらい、好きだった。
「ありがとう、サフィール」
「礼を言うのはこちらの方です。美味しいケーキと美味しい紅茶をありがとう、ルーク」
治療を始めたサフィールと、微笑みを交わす。サフィールの柔らかく細められた赤い目に微笑んでもらうことは、ルークにとって至福だった。
「あとで肩揉んでやるよ」
「ええ、お願いします」
「うん!」
ずっとずっとサフィールとこうして笑顔で生きていきたい。
サフィールの側にいたい。
生まれて七年が経った少年は、甘いメープルの香りに包まれながら、幸せを噛み締めていた。
END
サフィールが研究してるのは、大爆発の回避方法ですよ。
ルークと一緒にいたいと思ってるのは、サフィールも一緒なのです。
それにしても、私、お茶会のシーン、どれだけ好きなんだ…!