忍者ブログ

月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.20
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2008.05.22
5万HIT感謝企画

アマエさまリク「SN4×TOAネタ」でセイロン中心の話です。
セイロン中心というか、ほぼセイロンとピオニーしか出ていません。
ロン→フェになりました。
やっぱりうちのアスランは苦労人です…(笑)





「セーイロン」

にやにやと楽しげに笑みながらやってくるピオニーに、吹き抜けになっているおかげで燦々と日が降り注ぐ宮殿の中庭で、木にもたれながら、落ちる水の壁を眺めていたセイロンは、ぴくりと眉を跳ね上げた。一体、何の用かと右手に持った扇子をトン、と左の手のひらに当てる。また稽古をしろとでも言いに来たのか。

「仕事はどうしたのだ。またアスランに叱られても知らぬぞ」
「おいおい、そりゃないだろ。せーっかくお前が知りたがってた情報が手に入ったから、わざわざ俺が知らせに来てやったってのに」
「では、フェアが見つかったのか?!」

バッ、とセイロンは身体を起こした。服についた草や土がぱらぱらと落ちる。
セイロンのいつにない慌てように、ピオニーの目が見開いた。呆気に取られるピオニーの顔に、セイロンはゆるゆるとまた腰を下ろし、開いた扇子で口を隠し、ゴホン、と一つ咳払う。二人の間に気まずい沈黙が流れ、水の落ちる音が響いた。

「…それで、ライも見つかったのか」
「へ。…あ、ああ。ジェイドからの報告書によると、ライとフェアという名の兄妹をキムラスカの第三王位継承者とともに保護したらしい」
「そうか…」

ホッと息を吐き、セイロンは胸を撫で下ろす。ライとフェアの二人が無事でいてくれたなら、それでいい。あの二人は他に飛ばされたであろう面々と違い、召喚されるのは初めてのはずだ。ギアンも初めてだが、セイロンが心を配るのはライとフェアの二人だけである。特にフェアに比重を置いていることは、心のうちだけにしまいこむ。先ほど、露出してしまったが、何事もなかったかのようにセイロンは装った。

「えーと、あとはカサスとギアンってやつも一緒らしい」
「……ギアンもおるのか」

カサスだけならばよいものを。
言葉の端に僅かに苛立ちを覗かせるセイロンに、ピオニーが器用に片眉を跳ね上げる。セイロンはそれを見なかったように目を逸らし、吐息した。

「このギアンって奴は心配じゃねぇのか」
「あれも召喚されたことはないであろうが、ギアンは『魔獣調教師』と呼ばれるクラストフ家の当主。召喚術への心得ならば、フェアやライの二人よりも遥かに上だ。心配するだけ無駄というもの。送還術も使えるしの」
「ふぅん」

報告が記されているらしい丸めた文書の束で、ぽんぽんと自分の肩を叩くピオニーに、赤い目が訝しげな視線を向ける。蒼の目が何かを思案するように細められ、やがて弧を描いた。

「で?」
「…なんだ」
「フェアってのは、そんなにいい女なのか?」

にぃ、とつり上がったピオニーの唇をセイロンはきつく睨む。からかい半分、興味半分といったところだろう。暇な身でもあるまいに、とため息がセイロンの口から漏れた。

「そのような俗な物言いをするでない。フェアが穢れる」
「どういう意味だ。お前がそんなに心を傾けるのがどんな女なのか、気になったっておかしくないだろ?」
「……ふん」

どうだか、と言わんばかりに鼻を鳴らす。だが、ピオニーの笑みは崩れない。答えを得られるまで、下がるつもりもないらしい。扇子の下で、軽く舌を打つ。

「フェアは御子殿の母親そのものであるからな。フェアに何かあれば御子殿が悲しまれる」
「それは、ライってやつも同じなんじゃなかったか?」
「フェアの場合、それだけではない」
「ほかに何があるんだよ」

子どものように目を輝かせるピオニーに、セイロンは苦笑する。だが、あまり話したい内容でもない。口に出せば、認めていることになる。心の中ではとっくにわかっていることではあるけれど、口に出すほどの決意はまだない。

(諦めきれないでいるのか、我は)
たとえ通じたところで、置いていかねばならぬ身であるのに、何故、躊躇う。何故、諦めきれないのだ。己の心情に、セイロンは内心、自嘲を漏らす。
脳裏を過ぎるのは、灰銀の髪の少女の笑みと──泣き顔。
堕竜となり、輪廻の輪から外れ、魂までも砕け散ろうとしていたギアンを想い、フェアが流した大粒の涙。
物思いに耽るセイロンに、ピオニーが訝しげに首を傾ぐ。

「おい、セイロ…」
「陛下!何、またサボってるんですか!」
「げ、アスランッ」
「文官たちに泣きつかれる私の身にもなってください!私だって仕事があるんです…!」

むしろアスランが泣きそうだとセイロンは哀れみを覚えながらも、傍観を決め込む。口を出す気はさらさらない。ちろ、と未練がましくピオニーが見てきたが、扇子を振り、さっさと行けと促す。この場にいるのが慣れ親しんだアスランだけだからこその対応だ。他の人間の前ならば、セイロンはピオニーへの礼儀を通すことを忘れない。
ピオニーが残念だと言わんばかりに肩を竦めた。

「ちょっと息抜きしてただけだろ」
「陛下のちょっとはちょっとじゃすまないから、問題なんです」
「あっはっは。アスランの言うとおりだ、ピオニー」

がっくりと肩を落とし、わざとらしく背中を丸めて歩き出したピオニーを見送り、律儀に頭を下げるアスランに笑みを返す。よくできた部下だ。そして、彼のような部下に忠義を誓わせるピオニーもまた、良き王だと、セイロンは目を笑みに細める。サボり癖はあるが、それゆえに親しみやすく、慕われているのも事実だ。

「…ここは、よい国だ」

宮殿の外には出られないが、宮殿で働く人々を見ていればわかる。ピオニーが受け入れたという理由で、自分のような人とは違う存在を躊躇いなく受け入れる寛容さも、ピオニーが王であればこそだ。水で満たされた美しい国。

「…フェアも、気に入るであろうな」

ライとフェアの母は、水面に煌く光の妖精だ。清廉な水で守られたこの国は、二人にとって居心地がいいに違いない。キラキラと光を弾く、流れ落ちる水をぼんやりと眺める。白く煌く水は、セイロンにフェアを思わせた。

「……」

扇子を持った手を腿の上に下ろし、深く息を吐く。フェアが無事でよかった。そして、ギアンもフェアの側にいるのならば、それはよいこと、なのだろう。
セイロンは木漏れ日の下で、苦く笑う。断定できないのは、迷いの表れだ。

(フェアはギアンが死んだとしても、生きていけるであろう)
あれは脆い面もあるが、芯は強い娘だ。己の足で立ち上がる強さを、どんなときも失わない。何より、彼女にはライもいる。心通わせる頼りになる兄が、すぐ側にいる。ライは決してフェアを見捨てない。フェアも同じだ。ともに生まれ、ともに父に置き去りにされ、ともに育った兄妹は、何があろうと切れはしない絆で結ばれている。
だから、ギアンを失ったとしても、フェアは悲しみに暮れはしても、生きていけるだろう。

(だが、ギアン。あれは、フェアを失うようなことがあれば)
生きてはいけないだろう。少なくとも、人としては。禍々しく吼える堕竜の鳴き声は、今でも鼓膜に響いている。セイロンは龍人であり、一族を率いる身として、至竜を目指す者だ。だからこそ、魂の弱さ故に、至竜になり損ね、堕竜となったギアンの姿を、忘れられないでいる。──もしかしたら、己もまた辿るかもしれない末路であるからだ。
ぐ、と扇子を握る手に力が篭り、ミシシ、と音を立てる。自嘲とともに力を緩め、セイロンは扇子を袖へとしまった。

「…フェアに何かあれば」

絶望に堕ちたギアンは、再び、堕竜へとその身を変えるだろう。今度こそ、戻れはしまい。人の身体を取り戻せたこと自体、奇跡なのだから。そうなれば、誰の声も届くまい。クラウレの声もエニシアの声もライの声も。ギアンの両親が残した思いも、届くまい。
ス、とセイロンの赤い目が眇められた。そうなったギアンを止めるために、残された道は一つ。殺すことだけだ。堕竜はただ存在するだけで世の理を乱す。必ず、消さねばならぬ。
そうならぬためにも、フェアの身に何かあっては困るのだ。

木の幹にもたれたまま、セイロンは顎を上向かせた。緑の葉越しに降り注ぐ日の光が心地よい。
水の恩恵と光の恩恵を受けるセイロンを、まどろみが包む。ふわ、と欠伸が漏れた。

「フェア…ライ…」

早く二人の無事な顔が見たい。フェア、お主の笑みが見たい。
二人の手料理を食べることができる日が待ち遠しいと思いながら、セイロンはゆっくりと目を閉じた。







頬を撫でる風の冷たさに、セイロンはゆるゆると目を開けた。開いた赤い目に映りこんだのは、夕闇。淡い紫が靄のように庭に垂れ込めている。
腕を組み、木にもたれる格好のまま眠っていたせいか、強張ってしまった身体を解そうと、立ち上がり、全身を伸ばす。心地よい気だるさが、まだ身体に纏わりついている。

「お、やっと目、覚ましたのか」

片手を挙げ、中庭へとやってきたピオニーを、仕事は終わったのか怠け者、と軽口で迎える。当然だろ寝ぼすけと同じように軽口が返ってきた。かさりと草を踏み、ピオニーが側へと寄って来た。

「あんまり気持ちよさそうに寝てたもんだから、アスランのやつが誰も近づくなって言っておいたんだってよ。お前、誰か近づいただけでも気配で目、覚ますからな」
「そうか。なれば、あとでアスランに礼を言わねばな」

穏やかな眠りを味わわせてもらった礼を告げることを忘れぬようにしなければ。セイロンはアスランの実直な性格を気に入っていた。扇子を袖から手の中へと滑らせ、ト、と唇に当てる。気の利く部下だろ、とピオニーが誇らしげに笑った。

「お主にはもったいないほどよ」
「はは。で、いい夢見たか?」
「夢?」
「ああ。起きる直前のお前見てたけど、笑ってたぜ」
「…夢、か」

首を傾ぎ、記憶を探る。記憶は雲を掴むようにおぼろげで詳しい内容までは覚えていないが、優しい夢だったような気がする。きっと流れ落ちる水と木漏れ日が見せてくれた夢だったのだろう。
そう告げれば、ピオニーが残念そうに肩を竦めた。

「フェアって子の夢、見てたんじゃねぇのか」
「しつこい男よ。まだ昼間の話をしておるのか」

呆れたようにセイロンはため息を零した。ピオニーが苦笑する。
夜の帳が落ちる空には、点々と星が煌きだしていた。「忘れじの面影亭」で見た空にも、こんなふうに星が瞬いていた。どこの世界でも、星は同じように輝くのだな、と今更のようにセイロンは思う。
リィンバウムでも、シルターンでも、この世界でも。フェアたちも、この世界で自分と同じように星の瞬きの下にいる。

「…なぁ、セイロン」

空を見上げていたセイロンは、ピオニーに視線を移した。宮殿の廊下から漏れ出す第五音素の光の中で、薄ぼんやりと蒼の目が見えた。

「お前、その子に惚れてるんだろ?」
「…何故、そう思う」
「気づかないとでも思ったか?俺の目は節穴じゃないぞ。大体、今だって間が空いてんじゃねぇか」

呆れたように言うピオニーに苦笑する。確かにそのとおりだ。迂闊だった。
フェアが見つかったという知らせに、少なからず浮かれていたのか、まだまどろみに片足を突っ込んだままなのか。セイロンは扇子に向かって嘆息した。

「その子はそれ、知ってんのか?」
「いいや。伝えておらぬからな。フェアはそういったことに鈍い娘。言わねば気づくまい」
「ならなんで言わないんだ?」
「…似たようなことを、訊かれたことがあったな」

幼い少女の姿になってしまっているほど、魔力を消耗してはいたようだが、それでも気づかぬわけにはいかないほどの力を持った至竜──龍神と唄われるに相応しいメイメイと名乗っていた占い師に、『お姉さまにあなたの想い、伝えるの?』と老獪な眼差しで、セイロンはピオニーに掛けられたのと同じような問い掛けをされたことがあった。そのときの答えも覚えている。

「我は否、と答えた」

伝える気はない。伝えられる想いではない。
何故、とピオニーが眉を寄せた。

「我は恐ろしいのだ、ピオニー」
「拒絶されることがか?」
「それ以上に、受け入れられてしまうかもしれないことが」

ピオニーが瞠目し、セイロンは瞑目した。背後で風が枝をしならせ、木々がさざめく。
水の匂いが辺り一面に漂っている。

「もし、フェアが我の想いを受け止めたら…連れて行ってしまいたくなる。攫ってしまいたく、なる」

龍姫を見つけ、鬼妖界へと一族を治めるため、戻らねばならぬときが来たら、フェアを連れて行きたくなってしまうだろう自分を、セイロンは容易に想像できた。リィンバウムから引き離すように、きっと攫ってしまうだろう。

「お主は、恐ろしいと思わぬか、ピオニー」

扇子をゆらりと揺らし、パタパタと広げ、顔の半分を覆う。自嘲を滲ませた赤い目で、射抜くようにピオニーを見る。ピオニーが唾を飲み込み、喉を鳴らした。

「愛する者から全てを奪うことを、恐ろしいとは思わぬか」

自身に語りかけるように、セイロンは囁いた。過去の苦痛を思い出したように、ピオニーが顔を歪める。苦く逸らされた顔から、セイロンは視線を外した。そして、再び、空へと向ける。
空が濃さを増し、星が輝きを増していた。

「我は、フェアが愛するものを奪いたくは、ない」

ぽつりと、闇の中に呟きを落とす。界を渡ることは、決して簡単なことではない。エルゴの王が世界を守るために定めた理は堅固なものだ。ラウスブルグを持ってしても、界を渡るためには力を持った古妖精と守護竜が力を合わせねばならぬほど。響界種であるフェアが一人で渡れるようなものではない。自分とて、至竜の力を借りねば、無理なのだ。

「リィンバウムには、フェアが愛する全てがある」

鬼妖界に攫うということは、それら全てを捨てさせるということ。フェアの悲しむ顔は、見たくない。フェアを縛り付けることなど、したくは、ない。あの娘には自由でいて欲しい。
セイロンはゆっくりと息を吐き出した。

「だから、我は決して伝えるわけにはいかぬのだ」

フェアが誰を──ギアンを選んだとしても、伝えられぬ、この想い。伝えれば、フェアを苦しめることになる。優しい娘は、向けられた好意に心砕かずにはいられないのだから。

「…俺も」

噛み締めた歯の隙間から押し出すように、ピオニーが掠れた声で呟いた。セイロンは何も言わず、扇子で緩やかに自分を扇ぐ。

「俺にも、そういう女がいたよ」
「…そうか」

二人の男はそれ以上、何も言わず、瞬く星を見上げた。
月に朧に雲が掛かる暗い夜空で、星が静かに輝き続けていた。


END


アマエさんには、いつもいつも嬉しい感想を頂いてしまって…。本当に、ありがとうございます…!
お礼になることができたなら嬉しいです。
しんみりとした話になりましたが、少しでもアマエさんに楽しんで頂けたなら幸いです。

PR
Post your Comment
Name
Title
Mail
URL
Select Color
Comment
pass  emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Trackback
この記事のトラックバックURL:
  BackHOME : Next 
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
最新記事
WEB拍手
お礼文として、「アッシュと天使たち」から一本。
アッシュの話です。
楽しんで頂ければ、幸いです。

web拍手
最新コメント
[07/19 グミ]
[02/26 きんぎょ姫]
[02/26 きんぎょ姫]
[05/08 ひかり]
[05/02 ひかり]
リンク(サーチ&素材)
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析

月齢 wrote all articles.
Powered by Ninja.blog / TemplateDesign by TMP  

忍者ブログ[PR]