忍者ブログ

月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2008.05.03
短編

ジェイルク。ルークはスレてます。
アッシュ帰還ED後。ルークの記憶を知ってるアッシュはルークのよき理解者として書きたくなるなぁ。
そんなアッシュです。お兄ちゃんアッシュが私は好きなんだと思います(笑)
同行者厳しめ要素はないですー。




「雪なんかの何が面白いんだ?くっだらねぇ。冷たくて、歩きづらいだけじゃねぇか」

愛着のある故郷ではないが、あからさまな態度で馬鹿にされたことに、さすがにジェイドは眉を潜めた。
雪を初めて見た瞬間は、翠の瞳を輝かせていたくせに、今は随分な態度だ。
まったく、我が侭な子どもだと呆れを隠さず、吐息する。翠がぎろりとジェイドを睨んだ。

「俺はお前が大ッ嫌いだ」
「奇遇ですねぇ、私も貴方が嫌いです」

あはは、と声高らかにルークが笑う。
長い朱色の髪が、金色の毛先を揺らしている。

「じゃあ、俺たち『両思い』だな」
「なるほど、そうとも言えますね」

腹の読めない笑みを交わし、ジェイドは眼鏡のブリッジを押し上げた。







ジェイド・カーティスはゆっくりとティーカップを傾けた。
ほのかなブランデーの香りが漂うそれに、じわりと身体が温まる。
自分のものとは違い、輪切りの薄いレモンを浮かべただけの紅茶を啜るアッシュが、自分を窺うように見ていることにジェイドは気づいていたが、その視線に応えようとはしなかった。

「…カーティス大佐」
「何でしょう?アッシュ様」
「止めろ。貴様に様付けされると、鳥肌が立つ」
「酷い言われようですねぇ」

くつりと喉を鳴らし、笑う。アッシュの翠の目が、ス、と細められた。
その目にも視線を返さず、ソーサーへと戻すカップの縁に、ジェイドは視線を落とす。

「ずっと、考えてたんだがな。キムラスカからここに来るまでの間、ずっと」
「……」
「何をどう言うべきか。…でも、何も浮かばなかった。俺が知ったのは、あいつの記憶だけだからな」

ルークの、記憶。帰ってこなかった、ルークの。
ソーサーに添えたスプーンで、手持ちぶさたにくるくると紅茶をかき混ぜるアッシュの指を、見るともなく見やる。
ジェイドの赤の目が、知らず、きつく眇められた。

(私には、何もない)
なのに、彼は。アッシュは、アッシュには。
ルークの被験者であるというだけで、彼には。
ギリ、とジェイドは拳を握った。皮の手袋がキシリと小さな音を立てる。

「記憶だけ?だけとは何です。あるだけいいではありませんか」

ジェイドの声音は、苛立ちを帯びていた。険のある声。
けれど、アッシュはそれに怯むこともなく、ジェイドから視線を逸らさなかった。ジェイドの苛立ちを受け止めるかのように。

「わかりますか、あなたに。何も、何一つ、彼のものを、彼がいた証を受け取ることが出来なかった私の気持ちが。レプリカが何も残すことなく逝くことを知っていてもなお、絶望した私の気持ちが…っ」

一息に巻くし立て、ジェイドはくたりと椅子に背を預けた。腕もだらりと身体の脇に垂らす。
アッシュに当たったところで、どうにもならないことなどわかっているのに、自分は何をしているのか。
前髪をかきあげ、ジェイドは低く己を嘲笑った。狂いたいと、そう願う男の笑い声が、ジェイドの執務室に虚ろに響く。

「…あいつが嫌いだったんじゃないのか、バルフォア博士」

自分をバルフォアと呼んだアッシュをちらりと見やる。アッシュの翠と目が合った。
淡々としたアッシュの物言いに、ジェイドはゆっくりと頷いた。長い髪がさらりと揺れる。

「ええ、嫌いでしたよ」
「あいつの存在そのものが、お前の罪を体現していたからか」
「それが理由ではなかった、とは言いませんがね。それだけでも、ないですよ」

長い睫毛を震わせ、眼鏡の奥で目を閉じる。瞼の裏に過ぎるのは、鮮烈な朱色。
毛先に行くにつれ、金色へと色を変える黄昏の髪。煌く翡翠。
ルーク・フォン・ファブレ。彼を嫌った最大の理由。それが、今ならばわかっている。
あのときは、彼が傍若無人であるから、彼がレプリカであるから、嫌いだったのだと、そう思っていたけれど、本当は、それだけではなかったのだ。
そのことに気づいたのは、彼が『消えてしまう』直前だった。我ながら、愚かなことだと思う。

アッシュは、何も言わなかった。執務室に、アッシュが紅茶を啜る音だけが、静かに響く。
ジェイドはその沈黙に甘えるように、目を閉じ続けた。瞼の裏の明るい闇に、朱色を見続けた。
ルーク。ああ、私は。

「…私は、怖かったんです」

一言、一言。区切るように、ジェイドは言った。
己自身に確かめるように、ゆっくりと。
アッシュは、やはり何も言わない。

「怖かったんですよ。彼に惹かれていくことが。レプリカである彼を、一人の存在として、掛け替えのない存在として認めてしまうことが」

彼は、罪の証なのに。
彼が、フォミクリーという罪深い技術を生み出したジェイド・バルフォアを、憎みこそすれ、愛することなどあるわけもないのに。
ゆるりと目を開け、ジェイドは息を吐いた。開いた赤い目に映るのは、朱色よりも色濃い紅。
どこにも、もう世界のどこにも、あの朱色はないのだ。
そのことが無性に哀しい。

「…俺が見たのは記憶という事実だけだから、あいつがその記憶に抱く感情まではわからんがな」

ぽつりと独り言のように、アッシュが閉ざしていた口を開く。ジェイドは今度は自分が紅茶を啜りながら、アッシュの言葉に耳を傾けた。
甘い甘い、ブランデーの香りが鼻腔を擽る。

「あいつは、技術は所詮、技術。そこにいいも悪いもないと考えていた。それが善となるか悪となるか。使う人間次第だと、それを使われた人間次第だと考えていたようだ」
「……人間次第、ですか」
「ああ。剣が人を殺す道具にも、守る道具にもなるようなもんだな。どう受け取るかは、人それぞれ。だから、あいつは、バルフォアとしてのあんたを憎んじゃいなかった、と俺は思う」

少しだけ、自信がなさそうなのは、アッシュ自身にわだかまりがあるからだろう。それは当然だ。アッシュにとって、フォミクリーは己のすべてを狂わせたものとして、ずっと認識されてきたのだから。フォミクリーを憎むヴァンに、そう仕向けられてきたのだから。
ジェイドはカップを持ったまま、首を傾いだ。

「では、ルークは何故、私を嫌っていたのでしょうね。私が愚かだったから、でしょうか」

彼に死を強いたからだろうか。世界のために、死んでくれ、と。
嫌われて当然のことを、憎まれて当然のことを、自分は彼に告げた。
己の感情から目を背け、彼に言った。
何も言わず、じ、と自分を見ていたルークの顔を思い出す。彼は、普段、浮かべている小生意気な笑みも見せず、表情の落ちた顔をして立っていた。
その顔で一つ頷き、それから。…それから。

(何故、あのとき、ルークは笑ったのだろう)
レムの塔で、レプリカたちを連れて死んでくれとそう言った自分に、罵倒の言葉一つ吐くことなく、穏やかに笑んだ、ルーク。
初めて見る笑みだった。温かみのある笑みだった。
今では、本当にルークが微笑んでいたのか、自信がない。記憶力には自信があるというのに。
ジェイドは疑わないではいられないのだ。あれは、あのルークの笑みは、己の願望が見せた幻だったのではないか、と。

「…あいつは、嘘つきだった」

ジェイドの思考を遮るように、唐突にアッシュが落とした台詞に、ジェイドは目を瞠った。
何を言い出すのか。
アッシュがふ、と口の端に苦笑を昇らせ、首を振った。

「気づかなかったのか。そうだろうな。俺もあいつの記憶を見るまで、気づかなかった。あいつは、嘘つきだった。それも、天性の嘘つきだった」
「…彼が、何の嘘をついたというのです」
「あんたが嫌いだって嘘だ」

虚を突かれたように、ジェイドは眉を跳ね上げた。アッシュが動じることなく、小さく哀しげに笑う。
ソファに深く背を預け、アッシュが昔と違い、垂らしたままの前髪をかきあげた。

「ルークが私を嫌っていなかった?」
「あいつがあんたを嫌いと言った記憶を見た。でも、…いや、これは俺が言うことじゃないな。俺が言えるのは、あいつの嘘は、それだけじゃないってことだ」
「他に何があるというんです」
「知りたいか?バルフォア博士」

かきあげた前髪が重力に従って、またアッシュの目に掛かる。紅い髪の奥に垣間見える、翡翠。
表情を落とした、冷徹なまでの眼差しが、ジェイドを射抜く。笑み一つ浮かべず、表情を落としたアッシュが、何を考えているか、ジェイドには読めない。読もうにも、アッシュに読ませる気はないようだ。何をかはわからないが、自分は試されているらしい。
ため息を零し、ジェイドはアッシュを見据えると、こくりと頷いた。

「あいつは最期にあんたに何て言った?」
「最期…」
「ああ。…あんたが本当にあいつを想ってるなら、わかるだろうさ」

私がルークを本当に想っているなら?
眼鏡のブリッジを押し上げ、思考を巡らせる。ルークが最期に言った言葉。ルークの、最期。
エルドラントで、交わした会話。こちらを見つめてくる翡翠と、自分は何を交わした。

『なぁ、ジェイド』

ローレライを解放するから、お前たちはとっとと消えろ、と最後まで不遜な態度を崩さなかったルークに背を向けたティアたちから離れ、一人になるルークの側にい続けようとした自分に、ルークが向けた言葉。
そのすべてを、ジェイドは耳に、目に蘇らせる。

『俺はこんな世界になんて、お前のもとになんて、帰らねぇよ』

肩を揺すって笑うルークから、自分は目を逸らさなかった。逸らせなかった。言葉とは裏腹に、その翡翠が、泣き出しそうに見えたから。
一人にしたくないと、思ったのだ。ともに逝けたら、と願いもした。
そのとき、気づいた。自分がルークを失いたくないと思っていることに。
ルークを嫌ったのは、ルークに惹かれることが怖かったからなのだと。
レプリカの儚い命を、誰よりも自分は知っていた。だから、だから。自分よりも早く消えてしまうだろうルークに残されるのが怖かったから。だから。

ルークが消える。その間際になって、初めてジェイドは己が『死』を理解していることを知った。本当はずっと理解していたことを知った。失う恐怖から、目を背け、理解出来ないのだと、己に言い聞かせてきただけなのだということを、知った。
翡翠が、そのすべてを知っているとでも言うように、揺れるこの赤を見ていたことを、ジェイドは思い出す。
ルーク、とジェイドの薄く開かれた唇から零れ出た。

『だから、俺を待つなよ、ジェイド。お前が待ってるなんて思うと、ゾッとする』

ローレライの剣をしっかりと握り締め、にやりと笑ったルークの顔。
泣いてくれたなら、抱き締めることが出来たのに。泣いてくれたなら、一緒に連れて行ってくれと、請えたのに。
けれど、ルークは泣かなかった。

『行けよ、ジェイド。じゃあな』

あっさりと一言言い放ち、ルークは背を向けた。朱色の髪に覆われた背を。拒絶する背を。
ジェイドが出来たのは、去ることだけだった。言葉を掛けることすら、許されていなかった。
ただ一言、待っていますと、そう告げることすら許されなかった。愛しているのだと、告げることすら、何も。

「…ルークの、嘘」

私を嫌ってなどいなかったと、アッシュは言った。嘘はそれだけではなかったと、言った。
あの子どもにとって、『嫌い』こそ、『好き』だった。
思い出せ。あのときのルークの様子を。思い出せ!
向けられた背中。…微かに震えていた、肩。
バッ、とジェイドは立ち上がった。膝がテーブルに当たり、ガシャン、と音を立てて、カップが揺れ、ソーサーに温くなった紅茶が零れる。
アッシュが同じくソーサーに中身が零れたカップを手に取り、笑った。

「見送りはいりませんね、アッシュ」
「ああ。ピオニー陛下から滞在も許可されているし、しばらくグランコクマを見学するつもりだしな」

それ以上の言葉は、必要なかった。一瞬、視線を交わしあい、ジェイドは執務室を飛び出した。
カッカッ、と軍靴を響かせながら、廊下を急ぐ。死霊使いの常にない様子に、通り過ぎる兵たちから驚きの目を向けられるが、ジェイドはそれに構うことなく、突き進んだ。
向かう場所は、軍訓練所の広場。そこに、アルビオールが停められている。
グランコクマを『見学する』というアッシュには、今しばらく必要のないものだ。
アルビオールの入口に、人影が見えた。

「待ってましたよ」

にこ、と笑うギンジに、苦笑する。アッシュも人が悪くなったものだ。
急ぎアルビオールに乗り込み、ジェイドはギンジに行き先を告げた。







その日、ケテルブルグでは久方ぶりに太陽が姿を見せた。いつもはぶ厚い灰色の雲で覆われている空が、青く嘘のように晴れ渡っている。
燦々と降り注ぐ日の光に、街を覆う雪がキラキラと煌き、眩い光が人々の目を刺した。

額に手を翳し、ジェイドはケテルブルグの街を進む。煌く白銀の雪が、赤い目を眇めさせる。
けれど、それはジェイドの歩みの妨げにはならなかった。今のジェイドを止めることが出来るものなどなかった。
──たった一つの色を除いて。

「……」

街の一番奥、公園の前まで辿り着いたとき、ジェイドは息を呑んだ。
ゆるゆると額に翳していた手が落ちていく。眼鏡の奥で、赤い譜眼が大きく見開いた。
真っ白な雪の中で、朱色が花開いていた。

「ルーク!」

叫ぶように朱色の名を呼び、ジェイドは駆け出す。
朱色がふわりと翻り、翠がジェイドに振り返った。
ああ、求めていた翡翠が、目の前にある。手の届くところに!

翡翠がじわりと潤み、雫が白い頬を滑っていく。
その様を笑みをもって見つめ、ジェイドはやっと泣いた子どもを、祝福するように抱き締めた。
強く強く、お帰りなさい、と囁く。

「お帰りなさい、ルーク」

お帰りなさい、愛しい狼少年。
腕の中で、泣きながら朱色が笑った。
ぱたぱたと落ちる温かな涙が、雪に染み込んでいった。



END

PR
Post your Comment
Name
Title
Mail
URL
Select Color
Comment
pass  emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Trackback
この記事のトラックバックURL:
  BackHOME : Next 
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
最新記事
WEB拍手
お礼文として、「アッシュと天使たち」から一本。
アッシュの話です。
楽しんで頂ければ、幸いです。

web拍手
最新コメント
[07/19 グミ]
[02/26 きんぎょ姫]
[02/26 きんぎょ姫]
[05/08 ひかり]
[05/02 ひかり]
リンク(サーチ&素材)
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析

月齢 wrote all articles.
Powered by Ninja.blog / TemplateDesign by TMP  

忍者ブログ[PR]