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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.19
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2008.12.26
WEB拍手ログその4

「『陽だまり』の中のぬくもり」
『陽だまり』シリーズの一場面。
アッシュがノアやノエルと過ごしていた時間の話です。
ほのぼの。





「アッシュさん、シチューのお代わり、いりますか?パンもまだありますよ」
「…じ、自分で」
「遠慮しないで」

ね?
にこ、と微笑み、空になった皿を渡すよう促すノエルに、アッシュは戸惑いながらも、皿を押し出した。
ちら、と横目にノアの様子を窺う。ノアの皿にも、いつのまにやら、シチューが新たに注がれている。
そして、そのノアは、さりげなく、中身が三分の一ほどに減ったノエルのグラスに牛乳を足した。
一瞬、交わされるノアとノエルの視線と笑み。
お互いにお互いのすること、望むことがわかっているのだと、その笑みは語っていた。

「……」

二人の間に流れているのは、ごくごく自然な空気だ。
特別なものなど何もない。
静かに凪いだ、温かな空気。平穏で平凡な、そういう空気だ。

(…なのに)
胸が締め付けられそうになるくらい、それを羨ましく思う自分がいる。思ってしまう自分がいる。
差し出された皿を受け取り、アッシュはノエルに礼を言った。
その礼に、微笑が返ってくる。温かで、穏やかな微笑が。

(ノアの『陽だまり』は、彼女そのもの、なんだな)
ノアの顔に浮かぶ表情もひどく穏やかで、凪いでいて。唇に滲む笑みは、温かい。
きっとノエルにとっての『陽だまり』は、ノアなのだろう。

(…それにしても、だ)
二人の間に流れる空気には、どこか甘さがあった。
居心地が悪い、とアッシュは内心、呻く。
まるで新婚家庭に入り込んだお邪魔虫にでもなったような気分だ。

同じくテーブルについているギンジやイエモンたちを、そっと窺う。
二人は平然とした面持ちで、パンにシチューを染みこませ、美味しそうに味わっている。
鈍いのか、図太いのか、単にこの空気に慣れてしまっているのか。
見習うべきなんだろうかと、アッシュは一人、頭を抱える。
ノアやノエルとともにいることが、嫌だというわけでは、決してない。
もし、そんなことを言った日には、ノアに追い出されるだろうなぁ、とひっそりと苦笑う。

(…温かな、場所だな)
今まで触れたことのない団欒が、ここにはある。
父とも母とも、こんな優しい時間を持った覚えはない。
あれほど恋焦がれていたはずのナタリアとも、だ。
貴族の家とは、そういうものだとアッシュもわかっている。
まして、父である公爵は忙しく、母も病弱で、思えば、幼いころから一人で食事を取ることが多かった。
ヴァンによってダアトへと連れて行かれていた間もそうだ。
ヴァンは自分が必要以上にヴァンの息が掛かっていない人間と接すること嫌っていたから、いつも一人でいたように思う。

(俺が知っている暮らしは)
生活は、寂しいものだったんだな、とアッシュはふと思った。
今まで気づかなかったのは、気づけなかったのは、今、触れているようなぬくもりを知らなかったからなのだろう。
知らなかったころに戻りたいか、と自身に問いかける。
孤独を孤独と知らなかったころに、戻りたいか。
答えはすぐに出た。否、と。

(…俺は、感謝、している)
一度はあの偽りの『陽だまり』に戻しておきながら、今のように拾い上げてくれたのは、ノアにとってただの気まぐれに過ぎないのかもしれない。
それでも、感謝しよう。ぬくもりを教えてくれたことを。
『陽だまり』の温かさを教えてくれたことを。

アッシュはパンをちぎり、口へと運びながら、もう一人、ぬくもりをくれた緑の髪の少年を思い出す。
旅の道中、一個は食べきれないというイオンと、パンを半分に分けたことがあった。
ありがとうございます、と嬉しそうに笑っていた、イオン。
お礼を言われるようなことではなかったのに、イオンは本当に嬉しそうで。
あの笑顔も、温かかったな、とアッシュはバターの香りがするパンを奥歯で噛み締める。
焼きたてのパンは皮がパリっとしていて、中がふんわりと柔らかく、温かく。
もし、もう一度、イオンに出会えるような日が来たら、また一つのパンを分け合って、笑いあいたいな、と思う。

「アッシュ、このジャム、おいらのおすすめ」

はい、と実が形を残すブルーベリーのジャムのビンが、ス、とアッシュの目の前に差し出された。
フタが開けられ、スプーンが突き刺さったそれから、甘い香りが漂ってくる。
ビンの向こうで笑っているギンジに、アッシュは視線をやり、ありがとう、ともごもごと口の中で呟いた。

「ブルーベリーのジャムは好き?」
「…嫌いじゃない。ハチミツの方が好きだが」
「そっか。じゃあ、今度、ハチミツも買ってこないと」
「え」
「だって、ほら、おいらたち、一緒に暮らしてるんだし」

満面の笑みを零すギンジに、ノアがくすくすと笑う。目を向ければ、穏やかに細められた紺碧の目と目が合った。
本当に、まるで兄のような見守る目をしていると、そんなことを思う。
頬が、熱い。

「ギンジの言うとおりだ。アッシュも好きなもんあったら言えよ。少しずつ、揃えていこうぜ」
「おお、ノアの言うとおりじゃな」
「ええ。一つ屋根の下で、一緒に暮らしてるんですからね」

アッシュさんの物、増やしていきましょうね。
にこにこと、皆が微笑む。アッシュへと、ぬくもりを降り注ぐように。『陽だまり』で包み込むように。
アッシュはキュ、とジャムのビンを握り締めた。詰まる胸のせいで、言葉までも詰まる。声も出ない。

(ああ、だけど)
この泣きそうに幸せな思いを伝えなくてはいけないから、伝えたいから。
ノアと同じ紺碧の目を細め、こくん、と想いの丈をこめて、アッシュは皆に頷いた。


END

 

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アッシュの話です。
楽しんで頂ければ、幸いです。

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