月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
猫アシュルク。パラレル。
野良猫アッシュ×捨て猫ルーク。
拍手のお礼文にあげているものと同じ設定の話です。
アッシュがお兄さんでルークが小さい弟みたいな感じなので、カプ色は薄め。
ポタンッ、と鼻先に落ちてきた雫に、思わず、ルークはぎゅ、と目を閉じ、朱色の毛を逆立てた。パチン、と目を開け、ぶるんっ、と頭を振る。
先だけが金色の耳も、ふるると震える。
ビックリさせやがって、と頭上高い枝を睨む。昨夜の雨の名残らしい。
また、太陽の光に煌きながら、滴ってくる雫が見え、ルークは慌てて、木の下から飛び去った。
せっかく昨夜の雨を民家の軒先に逃れてやり過ごしたのに、晴れてから濡れるなんて冗談じゃない。
「…水なんて、大ッ嫌いだ」
鼻の頭に皺を寄せ、地面のあちこちに出来た水溜りに、ベ、と舌を出す。まったく、雨なんて降らなければいいのに。心の底からそう思う。
水溜りを避けながら、ルークは朝ごはんを探すことにした。雀でも捕まえられたらいいのだけれど。
贅沢を言うなら、ハトがいい。一度、アッシュが仕留めて、一緒に食おう、と持ってきてくれたことがある。
あれはうまかったよな、とルークは唾を飲み込む。
けれど、ハトはまだまだ身体の小さなルークが仕留めるには大きすぎて、飛び掛かるのは怖かった。
「そういや、アッシュの奴、昨日は大丈夫だったのかなー」
用事があるからと出掛けていったものの、昨夜は雨に降られたからか、帰ってこなかったアッシュをきょろきょろと探す。姿はどこにも見当たらない。
アッシュのことだから、雨に濡れるようなヘマはしていないだろうが。
アッシュもどこかで朝ごはんを探している頃合だろうか。自分も早くアッシュのように狩りが上手になりたいものだ。
(それにさ)
いつまでも迷惑をかけていては、面倒をかけるばかりでは、アッシュもいつか自分に愛想を尽かしてしまうかもしれない。
付き合っていられるか、と離れていってしまうかもしれない。
アッシュが優しいことは知っている。簡単に自分を置き去りにしたニンゲンとは違うこともわかっている。
それでも、一度、捨てられたルークの心には、深く深く傷が残っていて、それは、止めることが出来ない不安に繋がって。
ルークは不安を追い払うように頭を振った。早く大きくなればいいのだ。アッシュの役に立てるように。アッシュの側にいられるように。
「よーし、頑張るぞ…!」
俄然、張り切り、さーて!と駆け出そうとしたところで──バシャッ!
「ぶあ…ッ!」
ルークの上に、民家の屋根から溜まった雨水が降って来た。どうやら雨樋が壊れているらしく、地面へと流れ落ちる前に、溢れてきたらしい。
声にならない声をあげ、ブルルンッ、と身体を震わせる。ピピピッ、と水が毛皮から散っていくが、濡れた身体が簡単に乾くわけもなく。
「うー…ッ」
頭の先から尻尾の先まで、しっとりと濡れてしまった毛皮に、ルークは唸る。
せっかくせっかく、昨夜は雨を逃れたというのに、これでは意味がない。
苛立ち紛れに、ルークは尻尾で地面をペシンッ、と叩いた。水が尻尾の先から散っただけで、何にもならない。むしろ、濡れた尻尾に砂利がつき、余計に汚れてしまった。
べしょ、と耳を垂れ、尻尾をぱたん、と地面に落とす。毛皮がべったりと身体に張り付き、気持ちが悪い。腹も、ぐぅ、と鳴き声を上げる。
踏んだり蹴ったりって、こういうときのことを言うんだな、と深い深いため息を零す。
お腹も空いたし、水に濡れるし、アッシュは帰って来ないし、ご飯もまだ見つからないし。
空を見上げれば、鳥らしい影があるけれど、屋根に飛び乗ったところで、あれでは届くはずもない。
不満をぶつけるように、一声、高い声で鳴く。
「…ルーク?何してるんだ、お前」
ピクン、と垂れていたルークの耳が跳ね、ピンと立った。
しょげていたヒゲも張り、翡翠の目が輝く。
パッ、と振り返った先に、アッシュが尾をゆらりと揺らして座っていた。
「アッシュ、おっせーよ!」
何してたんだよ!
アッシュがもっと早く帰って来てくれてたら!
八つ当たりでしかないことはわかっていたが、子猫は喚き、紅い毛皮の猫に飛びついた。
うわ、とアッシュが声を上げ、ルークから離れる。何でそんなびしょ濡れなんだ、と訝しげな声。
「好きでびしょ濡れになったわけじゃねーよ!」
叫び、ルークはまた身体をぶるぶると震わせる。水が飛び散り、アッシュが濡れまいとするように、慌てて飛び退く。
キラン、と先ほどまで不満に満ちていたはずの子猫の目が、愉快そうに光る。その光は、紛れもなく、イタズラを見つけた証。
アッシュの頬が引き攣り、ちら、と牙が覗いた。
「なー、アッシュー」
「……なんだ」
「アッシュもさぁ」
ぐぐ、とルークは後ろ足に力を溜めた。
ゆぅらり。尾が揺れて。
「濡れちゃえよ…!」
タンッ、と地面を勢いよく蹴り、アッシュに向かってルークは飛び掛った。アッシュが冗談じゃない!とパッ、と横に飛ぶ。
じりじり、じりじり。
ルークは耳を立て、尾を立てて、獲物を狙う目で、アッシュの隙を伺い。
じりじり、じりじり。
アッシュもまた、不覚を取ってたまるかと、耳を立て、尾を立てて、隙を見せない。
じりじり、じりじり。
しまいには、痺れを切らしたルークが、アッシュに向かってまた身体を跳躍させた。が、アッシュはサッ、と前方に飛び、ルークの身体はアッシュを飛び越えて。
「げぇっ」
その身体は勢いよく、水溜りの中へと突っ込んだ。
バシャンッ!
水が跳ね、ルークの身体がしとどに濡れる。アッシュが呆気に取られ、中途半端に振り返った格好で、固まる。
「ルーク?だ、大丈夫か?」
「ちっくしょう…!」
ルークのうにゃー!という叫びが轟き、腹の虫がそれに重なった。アッシュがやれやれと吐息し、苦笑した。
*
「大体なぁ」
アッシュが取ってきた雀をぺろりと食べ終えたルークに、アッシュが鼻の頭に皺を寄せ、諭す。
アッシュの前足が、タン、と空き地の草を叩く。
ルークは拗ねたようにそっぽを向いた。尾がぱたんぱたん、と不満げに地面を叩く。身体はまだ濡れたままで、気持ちが悪い。
「俺がお前に遅れを取るわけがないだろう」
「……」
「俺はお前より長く生きてるんだぞ」
「……」
むすっ、と膨れた子猫はアッシュにくるりと背を向けた。背を丸め、ぺろぺろと濡れた毛皮を舐める。
アッシュに言われるまでもなく、わかっていた。自分がまだまだアッシュに追いつきはしないことなど。
狩りの腕も、身のこなしも、まだまだアッシュの足元にも及ばない。
(だけど…だけどさ!)
確かに自分は子どもで。まだまだ、子どもで。
アッシュに守られてばかりなのだけれど、守られることしか出来ないのだけれど──本当は、守りたいのだ。
アッシュに大きくなったな、と言って欲しい。アッシュに並びたい。
さっきのことは、イタズラ心優先ではあったけれど。
「……」
ぺろ。ざらついたピンク色の舌で、朱色の毛皮を舐める。
濡れているからか、今日はうまく毛並みが整わない。
いや、毛づくろいだけではない。今日は朝から、何もかもうまくいかない。
(アッシュ…怒ってる、かな)
それとも呆れているだろうか。胸のあたりが、つきんと痛い。
ルークの耳が、へにょ、と垂れ下がる。アッシュの気配は感じているけれど、振り向けない。
丸い背中が、ますます縮こまり、丸くなる。
トス、と柔らかな草を踏むアッシュの足音が聞こえた。
「…アッシュ?」
ぺろ、と丸めた背中を舐める舌の感触。サリ、と濡れた毛皮を舐める舌は、優しく温かい。
ルークは、そろ、と首を捻り、アッシュを見やった。翡翠の目を優しく細めたアッシュの笑顔に会う。
「一緒の方が早いだろ?」
「……」
「なぁ、ルーク」
「……なに?」
「俺はちゃんと側にいる。お前がひとり立ちしても、側にいてやる。お前が俺を必要とする限りな」
「……アッシュ」
アッシュの紅い尻尾が、照れくさそうに尻尾の先をクキッ、と曲げ、左右に揺れる。
翡翠の目も、気恥ずかしそうにルークの翡翠の目からわずかに逸れている。
けれど、三角の耳は、ルークの声を聞き逃すまいとするように、ルークへとしっかり向いている。
「だから、急いで大人になんてならなくていい。ゆっくりだっていいんだ。お前のペースでいい」
「…すっげぇ遅くても、アッシュ、側にいてくれんの?」
「お前が望むなら…約束、してやる」
アッシュが『約束』というものを好かないことを、ルークは知っていた。
なのに、自分のためならば、『約束』もするとアッシュは言う。
ルークは振り返り、アッシュの胸元に鼻先を摺り寄せた。アッシュの匂いに、安心する。
「アッシュ、アッシュ。大好き」
「ああ」
涙、出そう。
じわ、と潤むルークの目一杯に映る、紅。この紅が、大好きだ。
アッシュの舌が、ぺろ、と濡れたルークの目頭を舐めた。
END
アッシュの用事は、猫の集会をイメージしてたり。
他の野良猫とか、飼い猫たちで集まって、情報交換とか…。どこそこの家のご飯はおいしい、どこそこは雀がいっぱいだ、とか…(笑)
他の猫たちだと、緑っ子たちやアリエッタかなー。あとアニスも野良やってそうなイメージだったり。たくましい野良猫アニスちゃんはいろんな家でいろんな名前で呼ばれて、ご飯ゲットしてそうだ(笑)