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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.20
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2008.10.09
ss

アシュルクノエ。
ED後、帰還したのはアッシュ一人で、ルークの記憶を持ってます。
そして、ルークの記憶と自分の記憶に混乱しながらも、ルークを想う、アッシュ。(根底はルクノエ)
アッシュが弱っている話です。
痛ましいアッシュが苦手な方はご注意ください。

注!同行者、キムラスカに厳しめ






記憶の中に朱金を見る。
正確に言えば、そこにルークの姿はない。鏡や、それに似たものにその姿が映らない限りは。
当然だ。この記憶は、ルークの記憶。ルークが見たものの記憶。
そして、そこに付随する音や匂い。感触。
けれど、感情はない。

「……」

アッシュは鏡の前に立ち、自分の顔を覗きこんだ。
酷い顔をしているな、と歪んだ笑みを零す。
目の下には隈が色濃く浮かび、肌もかさついている。
唇も荒れ、皮がめくれているほどだ。

鏡に映るルークの顔を思い出す。
不機嫌な顔。寝惚けた顔。悩みに沈む顔。
いろんな顔があった。見たことのない顔が。
見ることなく、それだけの長さも付き合えることなく、ルークは。

(もういないと、頭ではわかっているのに)
鏡に触れ、爪を立てる。ギィ、と不快な音が鼓膜を刺す。見れば、指の先には幾つものささくれが出来ている。
ルーク、ああ、ルーク。
お前はもう、どこにも。この地上には、どこにもいない。

「……」

ずるずると爪を立てたまま、アッシュは座り込んだ。
ぱた、と力をなくした腕が、床へと落ちる。見下ろした、剣を持たぬようになって久しい腕からは筋肉が落ち、ひ弱な様相を晒していた。
アッシュである自分の記憶とも、ルークの記憶とも重ならない脆弱な腕。

「…俺は、誰なんだろうな」

はは、と短く笑い、アッシュは仰向けに床に倒れた。ぱさりと紅い髪が散らばる。
記憶の中にルークがいる。
目を閉じれば、ルークが持っていた記憶が次から次へと頭を過ぎる。
それはどれも自分のものではないのに、自分のものだと錯覚しそうになる。嫌だ、とアッシュは首を振る。これはルークのものだ。ルークだけのものだ。俺のものじゃない。

「…嫌だ」

だって、もう記憶しか、この頭の中にしか、ルークは残っていないのだ。
父も王も、ルークの痕跡を消したがり、ルークの功績を被験者である自分がしたものだと塗り替えた。アッシュの罪をレプリカに押し付け、被験者こそが英雄だと奉り立て。
母も嘆くばかりで、それを止めようとはしなかった。王と血が繋がらないことがわかり、王女としての地位が不安定となったナタリアも、仕方ありませんわと首を振るだけで。
そして、自分もまた、それだけの力もなくて。ああ、なんて情けない。悔しくて悔しくて、泣くことすら出来ない。
部屋からも、ルークのものはすべて消えた。かろうじてルークが残した日記だけは、消される前にシェリダンにいるノエルへと送ることが出来たことだけが救いだ。

ルークの仲間であった誰にも、アッシュはルークの日記を託そうとはしなかった。ルークの記憶を見て、蔑みの目を向けてくる彼らを知った。何も教えず、自己だけで完結し、常にルークを蚊帳の外に置いてきた彼らを。
どいつもこいつも救えない、とそう思ったから、ルークが残したルークの想いが吐露された日記は渡せなかった。ルークが抱えた醜さも、美しさも何もかも内包したあれだけは、ルークを本当に想ってくれていた相手に贈りたかった。
ルークが本当に想っていた相手に、贈りたかったから。

──自分の手元に残すという選択肢は、始めからなかった。ルークの記憶を通して見た自分が、許せなかったから。
ルークがアクゼリュスでこの声を拒んだもの当然だ。
なぁ、ルーク。俺はお前を苦しめたものな。
お前を、傷つけ、虐めて。ゴメンな、ルーク。すまなかった。

「やっぱり、俺は俺か」

紛れもない、アッシュ。それが自分だ。
ルークの記憶をこの頭に孕んではいるけれど、ルークの感情までは持っていないから。ルークが記憶の中で、何を感じていたかまではわからないから。
怒っていたのか、泣いていたのか、笑っていたのか。
ルーク、ルーク。俺はお前になれないから、わからない。だって、お前はお前だったから。
ルークという個だったから。
そういう存在だったから。
気づくのが遅くて、すまなかった。

「ルーク」

エルドラントで俺の死を知ったお前は、どんな顔をしていたのだろう。
死に気づいた瞬間の記憶はある。けれど、映すものがなかった顔まではわからない。
俺の死を悼んだのだろうか。悲しんでくれたのだろうか。
ルークは優しい人だと笑う導師の顔がルークの記憶の中から浮かび上がってくる。
そうだな、お前は優しかった。だから、きっと泣いてくれたのだろう。悲しんでくれたのだろう。

「大事に、する」

お前の記憶を、大切に大切にしよう。
この地上に残されたのは、この頭の中の記憶と、彼女に託した数冊のノートだけ。
死ぬまで大切にしよう。大切に愛でていく。失ったお前を悼むように。お前に焦がれるように。

「…ああ」

愛していたんだ、俺の半身。
すべてが今更で、どうにもならないけれど。
取り戻すには遅くて、やり直すにも遅い。
俺はいつもそうだな、とアッシュは哂う。

「……いつか、ノエルに会いに行こうか」

誰ともなく、呟く。ギンジに会いに行くのに託けて、ノエルに会おう。
彼女は愛しむように、愛するようにあの日記を読んでいるのだろう。一ページ一ページがルークの心であるかのように、大切に大切に、ページを捲る細い指が浮かぶ。桜色の爪が浮かぶ。
自分がルークの記憶を、大切に想っているように、彼女もきっと。
ただ自分の場合は、自分の記憶と混乱して整理が今だつかないけれど。
整理がついて、ルークの記憶と自分の記憶を混同しないようになったら、会いに行こう。
二人でルークのことを語るのだ。ルークを愛する言葉を交わすのだ。
他の誰でもない、本当にルークを想っていた彼女と、ルークを愛し合いたい。彼女の口から、ルークを知りたい。

「そうだ、あのチーグルも呼ぶか」

ルークの側から離れず、深い忠義をもってルークを愛し続けていたミュウも呼んで、二人と一匹で語るのだ。
ルーク、お前のことを。

「…応えてくれると、いいんだけどな」

音譜帯で眠っているだろう半身に、アッシュは笑みを送る。乾いた唇をゆっくりと引き上げて。
噂をすれば影、ではないけれど、音譜帯で自分の名を聞きとめて、降りてきてくれればいい。姿は見えずとも、きっと感じ取れるはずだ。
こんなにもこんなにも、俺たちはお前を愛しているから。だから、きっと。

「ルーク」

アッシュは細くなった腕でどうにか身体を起こし、立ち上がった。窓の外が、月明かりで明るい。
月よ、どうかルークに子守唄を。傷ついた子どもに、安らぎを。
メイドが用意した水差しから水をコップに注ぎ、アッシュはそれをごくりごくりと飲み干した。身体の中を温くなった水が滑り落ちていく。
彼女たちに会いに行くためにも、頭の整理をつけて、体調も整えなくては。

「お前を、大事に大事にするよ」

残されたお前の欠片を、慈しもう。
コップをことん、とテーブルに戻し、アッシュはベッドへと倒れこんだ。
コップの内側を、スゥ、と雫が流れていった。


END

 

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