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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.20
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2008.03.29

『黒き焔の龍は笑う』
(本編前)

幼いルークの食事風景。
セイナの苦労が垣間見えます(笑)

 




「ルーク様、あーん」
「あー」

大きく開いた口にスプーンを突っ込み、ぱくっ、と咥えたところでセイナはそれを引いた。
スプーンに乗っていた小さな肉の塊は、もぐもぐ咀嚼する子どもの口の中。
ごくん、と飲み込んだのを見届けたところで、次はポテト。
パンも千切って食べさせる。
ルークが口にするものは、どれもすべて少量ずつだが、欠けている。
セイナが毒味をしたためだ。

(問題はピーマンか…)
ちらりと皿の中、燦然と輝く緑を見やり、内心、顔を顰める。
セイナが世話を任されている子ども、『生まれたばかり』のルークはピーマンが苦手だった。
ついでに言えば、ニンジンも苦手だ。
魚もあまり好きではない。
子どもらしい味覚であるとは思うが、それでは大きくなれない。

(アッシュ様もニンジンは苦手だったけど…)
甘く煮付けて、ケーキに混ぜたものは食べることが出来ていた。
気づかなかったおかげなのは確かだが。
後でバレたときは大変だったな、とセイナはふと視線を遠くする。
一日中、嫌味を言われた上、二度とそんな真似はするなと約束させられた。
約束嫌いのくせにそこまで嫌かこの野郎、と思ったのは内緒だ。

(別に僕は好き嫌いなかったけどな、子どものころ)
というより、そんな余裕がなかったと言うべきか。

セイナは母を失った後、一人、龍人界を離れた。
リュウにも龍王にも迷惑を掛けるわけにはいかなかったからだ。
二人は優しい。だから、頼れば面倒を見てくれるのは確かだった。
けれど、二人は龍人界の頭だ。
忌み子であり、もっとも忌まれる龍、黒龍を呼び出すセイナを彼らが庇えば、どうなるかは目に見えている。
母を殺さねばならなかったセイナは、もう大切な人たちが傷つくのも、そして失うのも嫌だったのだ。

一人、さ迷ううちに、戦争が始まった。
七世界すべてを巻き込んだ戦争だ。安穏な場所などどこにもない。
幼い子ども一人が生きていける場所など、どこにもなかった。
せめて、セイナの外見だけでも、種族がわかりやすい特徴があればよかった。
そうすれば、鳥人界なり獣人界なり、生きていける場所があった。

けれど、セイナはそうではない。
忌み子であるために龍人としても生きられず、龍人の血が混じっているために他世界にも居場所はなかった。
それでも、セイナは死ななかった。
母の最期の願いのために死ねなかった。
生きて、という願いのために、自分を害する者は、誰であろうと殺した。
食物が手に入らないときは、木の根や草を齧った。中には毒を持つものもあった。
たとえ、三日三晩苦しもうと、セイナは死ななかった。
たとえ、殺され掛けながらも、セイナはじ、と蹲って傷を癒し、生き延びた。
魔人の血が、セイナを死なせなかった。セイナを生かした。

(でも、そんなこと話したってしょうがないし)
悪戯に不安にさせるだけだ。アッシュもルークも二人とも優しいから、きっと心を痛めてしまうだろう。
だから、セイナは己の過去を口にしない。
必要なことがあれば、それだけを口にするようにしている。

「さぁ、ルーク様。いよいよピーマンです」
「…うえぇ」
「泣いてもダメですよ。これを食べれば、お待ちかねのデザートですから」
「ううぅ」
「口開けてー。あーん」
「うゃ…あー…ん」
「はい、いい子ですねー」
「ううぅ」
「さ、デザート食べましょうか」

小さな頭を撫でて、セイナは笑う。
噛まずにごくりと飲み込んだルークも、苦さに歪んだ顔でへにゃりと笑った。
可愛い子だと、思う。

(どうして見ないんだ)
セイナには理解出来ない。
短い間だったとはいえ、セイナには母に愛された記憶がある。
知らない父にも、愛されていたことを知っている。
リュウや母から、父がどれほど自分が生まれてくるのを楽しみにしていたかを、教えてもらっているから。

「う、む~」

ルークの口端についた生クリームをハンカチで拭ってやりながら、やりきれない思いに心が焼ける。
優秀だった『以前』のルークを誰もが求めていることはセイナも知っている。
そして、今ここにいるルークがレプリカであることを、赤ん坊と変わらないことを知っている人間がいないことも知っている。
わかっているのだ、そんなことは。

(だけど、気づいてもおかしくないのに)
ちゃんと見ていれば、ちゃんとこの子と向き合えば、別人だということがわかるのに。
幼いアッシュにだって、自分とこの子は別の個だということがわかっているのに。

(やっぱり、何か理由があるのか…?)
わからないことが多すぎる。
ヴァンの狙いといい、あっさりとヴァンの根拠もないような「ルークが記憶を失った」などという戯言を信じたことといい。
ヴァンの側とキムラスカの側。
双方に自分の知らない『聖なる焔』に関する目的があるのかもしれない。
内心、セイナは舌打ちする。
貴族王族は国のためならば、己が身をも犠牲にしなければならない。
それは知っているし、理解している。けれど、親ならば。

(親なら、抗うことくらいしてみせればいいじゃないか)
自分は親の鑑とでも言うべき男を知っているから、こんなことを思うのだろうか。
子どもに道を示し、子どものために死んでいけるような男を知っているから、悔しいのか。
アッシュもルークも、二人を想うと、哀しくて仕方ないのはそのせいなのか。

(僕は知らなくちゃならないな)
アッシュもまた、ヴァンのもとで己の身を危険に晒しながらも頑張っているのだ。
自分もそれに報いなければ、アッシュにもルークにも申し訳が立たない。
公爵家の中は大体調べ終わった。役に立ちそうな情報はろくに出てこなかった。
どうやら預言絡みであることがわかったくらいだ。
後は城とベルケンドあたりを調べるときか。
そのために必要な見取り図などは、調べがついている。

「美味しかったですか?ルーク様」
「ん!」

にこぉ、と満面の笑みを零すルークに笑みを返しながら、セイナは一人決意を新たにした。


END

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