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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2009.05.24
web拍手ログその10

「悪魔が無邪気に笑うから」
アシュルク(スレルク)
アッシュはダアトを抜け出し、キムラスカにこっそりと帰ってきてます。
なので、二人とも子ども時代の話です。


 




もしも悪魔がいるのなら、目の前の朱色の髪をした子どもがそうだ、とアッシュは思った。
くすくすと愉快そうに笑う、自分と同じ顔をした、レプリカ。
けれど、自分にはない笑い方をする、無邪気な悪魔。

「やっと会えたね、アッシュ」

ヴァンを油断させ、どうにか帰り着いたキムラスカ。
その港で、フードを深く被り、髪や顔を隠していたにも関わらず、アッシュは白光騎士に捕まった。
一人、赤いキムラスカの軍服を着た女が近づき、戸惑うアッシュに囁いた。

『どうぞ逆らわずにおいで下さい。私たちに貴方に危害を加えるつもりはありません、ルーク様』

囁かれた名に、アッシュは抵抗する気を失った。
ジョゼット・セシルと名乗った女は、自分を知っている。自分が誰かを知っている。
そのことに驚き、同時に、その理由を知るためには、おとなしくついていくしか道はないのだと、自分を囲む騎士たちに、アッシュはそう悟らされたからだ。
バチカルを上へ上へと向かう途中、貴方が今日、この日、この港に降り立つことも、知っていました、ともジョゼットは言った。ダアトにヴァン・グランツによって、連れて行かれていたことも、と。
貴方に万一のことがないよう、秘密裏に護衛もつけていたのです、とも教えられた。
道理で、ヴァンの油断を突いたとはいえ、あっさりとダアトを抜け出せたわけだと、アッシュは笑い出したくなるのを、昇降機の中で、耐えた。
そして、連れて行かれたファブレ邸。そこで待っていたのは、朱色の髪のレプリカルーク。

「帰ってきてくれた理由を聞いてもいい?まさかとは思うけど、預言の実現のため、とか言わないよな」
「…だとしたら、何だ。キムラスカの繁栄のためならば、俺は」
「ばっかばかしい。犬死するだけだよ。ムダムダ。預言の全文を教えてあげるよ、アッシュ」

椅子の上でゆったりと半ズボンから覗くほっそりとした白い足を組み、アッシュの前でルークは滔々と秘預言を口にした。
『鉱山の街』の崩落と『聖なる焔の光』の死によるキムラスカの繁栄と──オールドラントの滅亡の預言を。
アッシュの顔から血の気が引く。嘘だ、と否定が戦慄く唇から零れた。
憐れむように眉根を寄せて、ルークが首を振る。本当のことだよ、と哀しげに、嘲笑うように。

「だとしても…何故、貴様がそれを知っている…ッ」
「アッシュはローレライの同位体。けれど、第七音素以外の音素で構成されている身だ。当たり前だよな、アッシュは人間なんだし。でも、俺は違う。アッシュの同位体として生まれたレプリカである俺の身体は、第七音素だけで構成されてる。この意味、わかる?」

俺はね、ローレライの完璧な完全同位体なんだよ。
ふわり、とルークの朱色の髪が舞い上がり、光り出す。空気中を漂う第七音素が七色に煌めき、ルークを取り巻き、舞い踊る。
側に控えた白光騎士やジョゼットたちが感嘆の吐息を漏らした。その眼差しに込められているのは、畏敬の念。崇拝の念。まるで神を崇めるかのような、熱の篭った目だった。
アッシュは知った。キムラスカは、いまや、この幼いレプリカの手の内にあるのだと。

「俺には、ローレライが夢見た預言の全てを詠める。ねぇ、アッシュ。いや、ルーク。そんな俺がこうして預言を口にしても、それでも、あくまで預言に従うつもり?」
「俺、は」
「たとえ、束の間の繁栄であろうと、預言に従ってキムラスカのために死ぬつもりだって言うんなら、俺はアッシュのこと、監禁しなくちゃいけなくなる。でも、俺はそんなの嫌なんだ。だって、ローレライの次にアッシュは俺に近しい存在で、半身みたいなものだと思ってるからさ。…ねぇ、アッシュ。俺の側にいてよ」

椅子から降りたルークが、ゆっくりと近づいてくる。
優しげで、親しげな微笑を零し、両手を広げて近づいてくる。
恐ろしい、とアッシュは思った。これは恐ろしい存在だ。けれど──同時に、気づく。
翡翠の目の奥の悲しみに、アッシュは気づく。

(だけど、こいつは)
化け物と恐れられ、人間である自分たちとは違うと否定され、孤独であった自分。
畏敬の念を抱かれ、やはり、人間とは違う存在として崇められ、孤独であるレプリカ。
結局は、同じだ。孤独に耐え、心の奥底で、震えている。
認めて欲しい。愛して欲しいと震えている。抱き締めて欲しいと願っている。
同じだ、と気づいてしまったアッシュに、ルークを拒絶することなど、出来なかった。
自分が、愛して欲しくて、必要とされたくて、キムラスカのために死を覚悟で戻ってきたように、こいつもまた、世界のために。

「アッシュ」

ルークの小さな手が、す、と伸び、アッシュの首へと絡まる。
抱きついてきたのは、細い腕だった。けれど、温かな腕だった。
アッシュはルークの背に、恐る恐る、腕を回した。
幼子のような無邪気な笑みが、ルークの顔に浮かぶ。
ますます、突き放せなくなる。

「ずっとずっと、アッシュに会いたかったんだ」
「……そうか」

しがみ付いてくる腕は、まさしく、縋るような強さで。翡翠に浮かんでいるのも、歓喜そのもので。
アッシュはため息を一つ噛み殺し、ルークの身体を抱き締め返した。
ぎゅう、と身体を密着させながら、嬉しそうに、ルークが耳元で喜びに満ちた笑い声を零した。


END

 
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アッシュの話です。
楽しんで頂ければ、幸いです。

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