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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.20
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2008.06.07
ss

シンスレルク。どっちも擦れきってます。
被験者が大ッ嫌いな二人の話。
ちなみにシンクは地殻の流動停止作戦時、地殻に落ちて死んだフリをして、ヴァンから離脱。
その後はルークの周りを、姿を隠しながらうろうろしてました。

注!同行者厳しめ(王含む)





わからない奴だね、と呆れたように肩を竦めるシンクに、ルークが曖昧に微笑った。困ったようなその笑みに、シンクは苛立ちを募らせる。

「何で、被験者どものために死のうとするわけ」

どうして搾取に甘んじる。どうして死を一方的に押し付けてくる被験者の犠牲になる道を選ぶ。
シンクにはわからない。眉根を寄せ、こっそりと宿から呼び出したルークを木の幹に背を預け、睨む。
このレプリカルークを含めた全員がどうかしている、とシンクは内心、呆れていた。今は表立っては行方知れずとなりヴァンから離れているものの、六神将である自分の夜中の呼び出しに応じたことも、馬鹿正直に一人でのこのこ出てきたことも、こいつが易々と一人きりになれてしまう状況を平然と作り出す同行者たちも、皆、馬鹿ばっかりだ。
レプリカルークは今、世界で一番貴重な存在だというのに、誰一人、それを理解していない。もっともそう教えてやったところで、あいつらは理解しないだろう。少しでも考えれば、すぐわかることなのに。

王たちは、レプリカルークの超振動と一万人のレプリカによって瘴気は消せると『公表』した。本人たちは誰も『公表』したつもりはないだろうが、防音設備が施されていないダアトの大聖堂で堂々と瘴気の中和について会議をもった時点で、漏れて当然なのだ。命の危険を前に、緘口令などあってないようなもの。まして、彼らは教会のいたるところで、ルークと瘴気を消すことの危険性を話すことすらした。広まらないほうがおかしい。
実際、こっそりと様子を伺っていたシンクは、ルークが見も知らぬ被験者たちに頭を下げられ、死んで欲しい、死んでください、我々のために死ね、と言われているのを、何度も見ていた。すべてルークが一人になった隙を狙ってのものだ。だから、あの同行者たちは、誰一人そのことに気づいていない。

レプリカルークは瘴気を消せる、唯一の存在だと噂が広まっていることも、シンクは知っていた。あいつらも聞いたことはあるらしく、顔をしかめてどうして、と口にしている。馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。
本当にレプリカルークが大切ならば、噂を否定するくらい、してみせればいいのに。けれど、彼らは否定しない。ただ首を傾げるしか能がないのだ。
超振動を使えるのはルークだけではないと、言ってやればいい。もっとも、アッシュはローレライ解放の役目があるからと、キムラスカ王城内に軟禁されているから、近づくことすら出来ないだろうが。
あるいは、超振動を発生させるだけならば、第七音素譜術師二人でも可能なのだと言えばいい。第七音素譜術師であるキムラスカ王女とユリアの子孫が率先して立ち上がれば、美談だと泣いて喜び、後に続こうという者もいるだろうに。けれど、やはり二人は言わない。
彼らは皆、口では綺麗ごとを並べながら、結局、レプリカは被験者の犠牲になるべきだと思っているのだ。

あんな奴らに世界の命運を懸けるとは、キムラスカもマルクトもよほど人材に恵まれていないらしい。シンクは皮肉げに片頬を吊り上げ、嘲笑う。自分たちがあんな連中に命を懸けているのだと知ったら、世界中の被験者どもはどんな顔をすることだろう。自分ならば、失望し、絶望するところだ。

「違うよ、シンク」

ゆっくりとルークが首を振る。項で短く切られた朱色の髪がぴょこん、と跳ねた。
何が違うの、と訝しげな目を向ける。

「守りたい人間がいるから、とでも言うつもり?」
「それも違う」
「じゃあ、何」

にこ、とルークが微笑んだ。細められた翠の目を見るともなしに見やり──シンクはハッ、と息を飲む。こうしてルークの目を覗き込んだのは、初めてだということに気づく。
それでも、背を長い髪で覆っていたころは、こんな目ではなかったように思う。こんな深淵を覗き込んだような目ではなかったはずだ。
暗い翠には、光がなかった。絶望だけが覗いていた。

「俺は同胞たちを、レプリカたちをこんな醜い世界に置いておきたくないだけ」
「どういう意味?」
「連れてっちゃおうって思ってるんだよ。──あの音譜帯に」

ス、とルークが指差す空を見上げる。星が煌く空に浮かぶ、譜石の欠片がぼんやりと影のようになって見えた。

「レムの塔に集まっていない世界中のレプリカも連れて行く」
「で、ついでに瘴気も中和していくっていうわけ?」

にたり。ルークの口が三日月に裂けた。
吊り上げられた唇は、世界への憎悪の表れなのだろうか。シンクはその笑みを見返し、首を傾ぐ。

「俺は瘴気を中和するなんて、言ってないよ」
「え?」

にたにた、ルークは笑い続け、こちらへと近寄ってくる。どこか壊れた笑い顔だったけれど、シンクはそれを恐れなかった。
この笑みに恐怖を抱く者がいるなら、それは被験者たちだけだ。だってルークのこの憎悪の笑みは、被験者へと向けられたものなのだから。

「俺は一万人のレプリカたちと心中してくれって言われたから、頷いただけだ」
「……ふぅん」

どうやら自分は、このレプリカルークを見誤っていたらしい。正確には、アクゼリュスで被験者たちに罪を一方的に押し付けられ、『見限られて』からのルークを、だが。
面白そうだね、とシンクはルークとよく似た笑みを浮かべ、仮面を外した。

「ローレライも被験者を見捨てるってさ。音素帯で我が子同然のレプリカたちと幸せな世界を築きたいとか言ってたな」
「あはは。ユリアの子孫も見捨てられちゃったんだ。自業自得だけどね」
「ああ、自業自得だな」

ルークと目を合わせ、笑みを交わす。シンクは生まれて初めて、楽しいという感情を覚えていた。

「シンクも一緒に来るだろ?音素帯で被験者どもが瘴気で死んでいくのを眺めようぜ」
「アッシュが瘴気中和しようとするんじゃないの?」
「ローレライがアッシュの超振動の力も世界中の第七音素も奪っていくって言ってるから、それはない」
「へぇ。でも、ローレライってヴァンの身体に取り込まれちゃったんじゃなかったの」
「取り込まれるフリして、瘴気を取り込ませたんだってさ。瘴気も第七音素だからな。ヴァンはまだ気づいてないみたいだけど。第七音素に自分の身体が適応してないから調子が悪いんだーとか思ってんじゃねぇの。馬鹿だよな。俺がレムの塔で瘴気中和するフリして、解放する第七音素の塊こそ、ローレライの本体なのに」
「フ…、自分がローレライに騙されたことに気づいたときのヴァンの顔は、なかなか見ものだろうね」

確かに、とけらけら笑うルークに、シンクもにやりと笑う。絶望に染まる被験者どもの顔を見るのが、今から楽しみだ。
裏切ったのか、騙したのかと喚くだろうか。くすくすとルークと二人、喉を鳴らして笑う。
先に裏切ったのはお前たちの方。己の浅はかさ、愚かさを死をもって思い知れ。

「目一杯楽しませてもらおうぜ、シンク」
「今まで散々、弄ばれてきた分もね」

さぁ、レプリカと蔑まされてきた僕たちの怨嗟の声を聞くがいい!
シンクは差し出されたルークの手を、しっかりと握り返した。


END

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