月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
慧さまリク「灰の騎士の続編」です。一話目。
オリキャラたちの口調とかもろもろの設定も含めて書く必要があったので、続き物になりました。
4話で完結予定です。…今のところは(おい)
注!同行者厳しめ
稽古を終え、特務の宿舎へと戻るバラガスは、首に掛けたタオルで頬を流れる汗を拭いながら、暇だと言わんばかりに欠伸を零した。師団長であるアッシュには命令が下っているが、どれも単独のものばかりで部下である自分たちは至って暇なのである。最近は特に、だ。ヴァンが常にアッシュを手元に置きたがり、単独の任務ばかりを与えているせいだ。
何を考えているかは知らないが、アッシュの存在がヴァンの野望とやらに不可欠なのは確かだろう。そうでなければ、キムラスカ王族に連なる公爵家の子息を誘拐し、あまつさえ、レプリカという存在まで作り出す必要はないのだから。
アッシュの信頼篤いバラガスは、アッシュの素性もヴァンの所業も知っていた。知っていて口を噤んでいるのは、アッシュがそう望んだからに他ならない。
「…ん?」
副団長である自身の部屋へと戻ったバラガスは、雨が叩きつけられている窓に一羽の鳩が止まっているのに気づき、太い眉を跳ね上げた。伝書鳩だ。確かあの胸の辺りの毛だけが薄っすらと赤い灰色の鳩は、アッシュがこの部屋へと飛んでいくよう、訓練した鳩だったはずだ。内密に連絡を取りたいときにと、バラガスが請われて用意してやった鳩である。
窓へと近寄り、バラガスは鳩を部屋に入れた。傷つけないよう、優しく濡れた鳩の身体を掴み、足に結わえられた管を開ける。中からは小さく丸められた手紙が二通出てきた。アッシュの筆跡で、バラガスへ、と記されている。手紙を開き、目を通し始めたバラガスの目が丸くなり、最後には弧を描いて細くなった。
「まーた急なことだなぁ」
ヴァンの奴が喚くに違いない。面白くなりそうだ、とにやりと口角を吊り上げる。あいつらにも知らせてやらなければなるまい。
「ま、でも、その前に、可愛い団長殿のお願いをきいてやらねぇとな」
もう一通の手紙を掲げ、バラガスは一人頷いた。
*
特務師団はその役割の性質上、宿舎も他の団の宿舎とは異なった造りをしている。特に防音設備には余念がなく、尋問、拷問専用の部屋もあるくらいだ。その中の一つ、機密任務について話すときに用いられる小さな会議室に、バラガスは、自身が、そしてアッシュが信頼を寄せる、ユーディ・リーン、ロベリア・ルッツ、ミシェル・フォレーヌの三人の部下を呼び寄せた。ヴァンやモースの息が掛かっていない部下たちである。
適度に肉がついた美しい足を優雅に組み、長い髪を耳に掛けながら、ロベリアが首を傾いだ。こんなところにわざわざ呼び出して、一体、何事だと訝しげな目を向けてくる。にっ、とバラガスは笑み、ひらりとアッシュからの手紙を振った。
「我らが団長殿からだ」
「アッシュから?ねぇねぇ、バラガスさん、アッシュ、なんだって?」
キラキラと目を輝かせ、頬を薔薇色に染め上げたミシェルが、期待をこめてバラガスと手紙を見比べる。ロベリアが、あら、と興味深そうにテーブルに肘を乗せ、身体をバラガスの方へと突き出した。もう一人の部下であるユーディは、そんなロベリアの隣で何も言わず、腰掛けたまま、ただでさえ細い目を眼鏡の奥でさらに細めている。
情報集めに長けているユーディのことだ。何かしら掴んでいるのかもしれねぇな、とバラガスは無精髭の生えた顎をさすり、部下たちの期待に応えることにした。
「辞めるってよ、神託の盾騎士団」
「このタイミングで?もっと後だと思っていたわ」
「ボクもそうだと思ってた。アッシュ、辞めるとは言ってたけどさ」
「あいつもそのつもりだったと思うんだけどな。何かあったってことなんだろうさ。まあ、それに今回の導師イオン奪還作戦はモースからの命令だったからな。ヴァンの監視の目が緩む機会でもあったんだろうよ」
「手紙にはそのあたりのことは書いていなかったのですか?」
「ああ。俺に預けてある辞表届けを出しといてくれってことと、お前たちは好きにしろ、ってことしか書いてねぇな」
「ふむ…」
口を右手で覆い、考え込むように俯くユーディの肩に、ロベリアが手を置いた。金色のパールが混ざる赤く塗られた爪で、ユーディの頬をつつく。妖艶な美女がしなを作り、男に寄り添う様は、何も知らぬ者が見れば、男を羨ましく思う光景に違いない。ロベリアが男であり、身体中の至るところに武器を隠し持っていることを知れば、逃げ出す者と、それでも構わない者に分かれるだろうが。現在、寄り添われているユーディは、ロベリアと長い付き合いだけあって、まったく動じる様子すら見せなかった。
「何か知ってるのね、ユーディ」
「ええ、ルッツ。少し前にとある情報筋から」
「とあるだろうが、トロールだろうが何でもいいけど、さっさと言えよ。どうせ、お前のことだ。ソースは明かさねぇんだろ」
「トロールって…。さすがにトロールはないよ、バラガスさん。ねぇねぇ、ユーディさん。その情報、ボク、知りたいなー」
ロベリアと反対側に回ったミシェルが、緩く編んだ三つ編みを跳ね上げ、ユーディの手を握って左右に揺らす。絵に描いたような美少年が可愛らしく強請る構図は、その手の趣味の人間にして見れば、垂涎ものだろう。だが、ミシェルの計算高い性格を知っているバラガスは、ロベリアとミシェル、二人に挟まれているユーディが、むしろ気の毒に見えてならなかった。ユーディ本人は、一癖も二癖もある同僚二人に挟まれようとも、どこ吹く風と言った様子だ。
「もちろん教えて差し上げますよ、フォレーヌ。ただちょっと刺激的なので、覚悟して下さいね?」
糸のように細い目をにこりと笑みにするユーディに、三人は一体、どんな情報が飛び出してくるのかと、固唾を呑んで頷く。ユーディが朗々と語りだしたのは、確かに刺激的な内容だった。
「アッシュが自分のレプリカを溺愛していることは知ってますよね?」
三人は揃って頷く。アッシュによるルークがいかに可愛くて愛しいかという講義は耳にタコが出来そうなほど、聞かされているからだ。ついでに言えば、いかにヴァンがむさくるしくルークに近づいてるかと思うとおぞましくて仕方ないかという愚痴もその次くらいに聞かされている。
「その愛しい愛しいルーク殿が、誘拐されちゃったんですよ。公爵家襲撃犯に」
「な…っ、無事なのか?!」
「ええ、それは大丈夫…と言っていいのか怪しいですけど、襲撃犯の狙いは彼ではなかったようですから」
「あら、なぁに、それ。身代金目当てってこと?」
「もっと斜め上です。…いや、斜め下、かな?」
んー、と顎に指を当て、首を傾ぐユーディに、三人は疑問符を頭の上に飛ばす。さっぱりわからない。
バラガスは痺れを切らしたように、頭を掻いた。
「はっきり言え!」
「その襲撃犯、ヴァン・グランツが狙いだったようなんですよ」
「はぁ?意味わっかんない。何で、それで公爵家襲撃になるわけ?」
バラガスとロベリアの二人が、ミシェルの疑問に同意を示す。やっぱりさっぱりわからない。
ユーディが、ですよねぇ、と苦笑した。
「彼がたまたまそこにいたから、ということみたいですよ。頭の構造が常人とは異なるのでしょう。まあ、あのヴァン・グランツの妹ですから、それも仕方ないのかもしれませんが」
さらりと言い放ち、眼鏡を外して拭き始めたユーディに、バラガスたちは絶句した。今、この男は何と言った。
「妹?」
「ええ、ティア・グランツとか言いましたか。けっこう問題になっているようですよ、情報部でも。情報とは正確に伝えてこそ意味のあるものだというのに、己の主観で勝手に情報を取捨選択し、推論にもならない推論を報告してくる役立たず、とか情報部の友人が愚痴ってましたね。腕もたいしたことはないようですし。ユリアの子孫らしいですから、預言が大好きでしょうがないモースが囲い者にするつもりで置いているんだろうともっぱらの噂ですよ」
眼鏡を電球に翳し、曇りが取れているか確認しているユーディを横目に、バラガスは頭を抱える。ヴァンの野郎、アッシュやルークにばかりかまけていないで、妹の教育くらいしっかりやりやがれ。呆れてものが言えないとはこのことだ。
「ダアト潰す気か、あのパイナップルと樽もどきは」
深い深いため息を零す。あんな奴らがダアトの実質的なトップなのだから、頭が痛い。ロベリアが、艶やかに紅を引いた唇を尖らせ、バラガスを軽く睨んだ。
「バラガス副師団長が主席総長になっておけばよかったのよ」
「そう言うなよ、ロベリア。あんときは、んなめんどーくせーことしたくなかったし、器じゃねぇと思ったんだからよ」
「髭が片手間でやってるぐらいだもん。バラガスさんだったら、余裕だったよぉ」
ロベリアとミシェル、二人の咎める目に、苦笑う。今更だが、二人の言うとおりだと、バラガスも思っている。自分が主席総長となっていたなら、導師派はもっと幅を利かせていただろうし、モースも抑え込んでおくことが出来ただろう。
だが、後悔先に立たず。過ぎたことを言っていても始まらない。
「で、ユーディ。お前が持ってる情報はそれだけか?まだあるなら、とっとと吐け」
「そうですねぇ。あと知っていることと言えば、導師イオン奪還を大義名分に、六神将たちがタルタロスを襲った、ということくらいまででしょうか」
「……そこにアッシュもいたのか?」
「途中で離脱したみたいですよ、ルーク殿を保護して。アッシュのことですから、マルクト兵をむやみに攻撃するような真似はしていないでしょう」
「まあ、そりゃそうだろうが」
だからといって、無茶な命令には違いない。タルタロスは戦艦だ。戦艦への攻撃は、宣戦布告と見なされてもおかしくない。ダアトは本当に終わりに近いらしい。
「それで、ユーディ。アッシュ師団長は今、どこにいるの?」
相変わらず、ユーディに寄りかかりながら、息を吹きかけるロベリアの問いかけに、バラガスはユーディの答えを待った。一番、知りたいのはそこだ。そして、この男ならば、何かしらの伝を通じて、アッシュの居場所の見当をつけていても不思議はない。
ミシェルもユーディの腕を掴む手に、力をこめた。
「ケセドニアに立ち寄ったようですよ。私が知っているのはそこまでです。そこから先はまだ情報が来ていませんから。まあ、でもキムラスカに戻るのなら、連絡船に乗り込むはずですよ」
「そうか。この天候だ。船も出てないだろ。アリエッタに頼めば、キムラスカに着く前に連絡船に追いつけるかもしれねぇな」
となれば、善は急げだ、とバラガスは立ち上がり、ドアへと向かう。稽古で脱いで腰に巻いていた法衣を、三人の手がぐ、と掴んだ。がくん、とバラガスの足が止まる。
「抜け駆けはズルイよー、バラガスさん!」
「ええ、ミシェルの言うとおりよ」
「そうですよ、カーン」
「抜け駆けも何も、アッシュも好きにしろって言ってんだから、お前らも好きにすりゃいいだろ。俺みたいに神託の盾騎士団辞めて、アッシュについて行くもよし、このまま残るもよし」
いつ辞めたんだ、と一斉に眉を寄せる三人に、アッシュの辞表をモースに叩きつけに行ったときだと豪快に笑う。どうやらモースはカンタビレとともに目の上のたんこぶだったバラガスが辞めると言ったことに浮かれ、辞表届けが一枚の封筒の中に二枚入っていたことに気づいていなかったようだが、知ったことではない。よくよく確かめもせず、受理したのはモースだ。封筒を開けて確かめれば、わかっただろうに。
正式な方法ではないと気づいた後で言ってくるかもしれないが、アッシュも自分も無視を決め込むつもりである。
「じゃあ、そういうことで俺は行くから、離せ」
「なら、アッシュに伝えてください。私はマルクトと渡りを付けに行く、と」
「何だ、お前も辞める気か、ユーディ」
「貴方とアッシュのいない神託の盾騎士団なんて、面白くありませんからね。ルッツも辞めてしまうなら、なおさらです」
ねぇ、ルッツ。ユーディが穏やかな微笑を、ロベリアに向ける。ふふ、と艶やかな笑みを零し、ロベリアが頷いた。
「神託の盾騎士団になんて未練も何もないもの。可愛いアッシュ師団長と彼の可愛いルーク様の役に立つ方が面白そうだわ。ユーディがいるなら、なおさらね」
「ちょっと、ボクのことも忘れないでよね!ボクだって行くよ」
「あら、仲良しのシンクはいいの?ミシェル」
「アリエッタのこともいいのですか、フォレーヌ?」
「な、なななんでアリエッタがそこで出てくるの、ユーディさん…!」
見てればわかると、恋愛ごとに察しのいい大人二人が微笑し、恋愛ごとに疎い大人が、不思議そうに首を傾げる。おっさんは知らなくていいの、とにべもなく、顔を赤くしたミシェルにそっぽを向かれ、バラガスは消沈した。
「じゃあ、それぞれが動くってことでいいか」
「ええ。我らが師団長のために」
「うふふ。アッシュ師団長、びっくりするかしら?」
「やっぱり来たか、って苦笑するだけじゃない?」
違いない、と四人は苦笑し、頷き合い。拳を合わせ、慣れ親しんだ古巣に背を向けた。
*
天候の関係で三日ほど、ケセドニアで足止めされたが、四日目は快晴となり、アッシュはルークを連れ、連絡船キャツベルトに乗り込んだ。昨日までの嵐が嘘のように、風も穏やか、波も静かな航海日和だ。キムラスカまで特に問題なく着けるだろう。幸い、あのマルクト軍人やヴァンの妹は、同じようにカイツールで足止めされているのか、まだケセドニアには着いていない。
ルークの話では、死霊使いはルークに国境を越える協力(という名の脅迫だとアッシュは思っているが)を求めたということだから、国境を越えるのに時間が掛かっているに違いない。旅券はどうしたんだ、と不思議でならないが、準備不足か何かなのだろう。それで和平の使者だというのだから、笑わせる。
大部屋では疲れるだろうと、個室を借り、部屋の隅に荷物を置いたところで、丸い窓から外を夢中になって眺めているルークにアッシュは気づいた。
ミュウを肩に乗せ、両手をひたと窓の両脇につけ、鼻がガラスに触れ合わんばかりの近さで張り付いている。ふ、とアッシュは小さく笑った。ルークは海が気になって仕方ないのだ。
(バチカルから…いや、屋敷からも出たことがないんだったな)
キムラスカに繁栄をもたらす『聖なる焔の光』が、何事もなく、ND2018に『鉱山の街』で死ぬまで、その身を守るため、ルークは軟禁されてきた。
吐き気がする。アッシュは仮面の下で眉を寄せ、顔を顰める。唇が嘲りに歪んだ。
王族ならば、国のため、命を捧げるのは当然だと、王も父も言うだろう。死による繁栄の預言を知るまでは、立派な王となる道を強制していたくせに。その一方で超振動の実験でこの身がボロボロになろうとも、それも国のためと平然としていたくせに。育てたいのか、それとも、壊したいのか。なんて矛盾だらけの愚かな国だろう!その矛盾に気づきもしない、愚か者が治める救いようのない国が憎らしい。愛しい半身を贄に捧げようとするあの国が嫌いだ。昔から、アッシュにはキムラスカへの忠誠も愛もなかった。
アッシュは側にいるだけで募っていくルークへの想いと相反するように、キムラスカへの憎悪と嫌悪を募らせていく。
ゆっくりと息を吐き、アッシュはキムラスカへの憎悪を胸の奥底へと押し込めると、笑みを浮かべた。
「ルーク、甲板に出てみるか?」
「いいのか?!」
「ああ。ちゃんとノワールが用意してくれた鬘を被ってならな」
わかった、と頷き、鏡の前で鬘がズレていないか確かめるルークの後ろに立ち、手際よく直す。毛先に行くにつれ、金色へと色を変える朝焼けを思わせる朱色の髪を隠すのはもったいないが、キムラスカ王家の血筋を示す特徴を、堂々と見せびらかしながら行くのは危険極まりない。まして、今のように護衛が自分しかいない場合はなおさらだ。
「ありがとな、兄上」
「いや…」
礼を言われるほど、たいしたことはしていないと、アッシュは苦笑する。けれど、ルークはただただ嬉しそうで、楽しそうで。後ろから抱きしめたい衝動と戦いながら、アッシュはルークの頭をぽん、と撫でた。
「なぁ、兄上。その仮面、取っちゃえよ」
「そういうわけには…」
「大丈夫だって。俺の顔、知ってるやつなんてほっとんどいないし。髪だって鬘被ってるしさー。俺がルークで本当は一人っ子だってわかるやつ、いないよ」
だからさ、と身体を後ろに僅かに倒し、もたらせてくるルークを、腕を掴んで支える。胸に掛かる重みはルークが自分にいかに心を許してくれているかを現しているようで、面映い。一緒にいるだけで愛しさが募り、止まらない。そのうち、溢れてしまいそうだ。
(参ったな…)
けれど、後悔はない。ルークを助けるのは、自分の役目。ルークを守るのは、自分の役目なのだ。
ルークが笑っていてくれるなら、そのためなら何だってする。泥に塗れる覚悟もある。
「…しょうがないな」
「やった!」
パッ、と顔に笑みを咲かせるルークにつられて笑いながら、アッシュは仮面を外し、ベッドに放った。ぼふっ、とベッドに仮面が沈む。
「アッシュさんは優しいですの!」
ルークが明るく笑っている。そのことが嬉しくて仕方ないとばかりに大きな耳をぴこぴこ揺らすミュウの頭で軽く手を弾ませる。いいこと言うじゃねぇか、ブタザル、とルークも満悦の態でミュウの顎の下を擽った。
アッシュはそんな一人と一匹が可笑しくて愛しくてたまらないと、声を弾ませて笑う。
「さ、行くぞ、ルーク。風が気持ちよさそうだ」
「おう!」
「みゅ!」
部屋を出て、アッシュはルークとともに甲板に出た。他にも客が数人、手すりに肘を乗せ、風に当たっている。遥か遠い水平線に、二人は揃って翠の目を細めた。
「ホントだ。すげぇ気持ちいーな、風」
「ああ」
穏やかな風がふわりとルークの白い服の燕尾と、神託の盾騎士団の法衣を脱ぎ捨て、ケセドニアで買い求めたアッシュのシンプルなコートの裾をはためかせる。肌を撫でていく風は優しく、心地よかった。
ざざん、と船の腹に波が当たり、白く砕ける。
「ルーク、腹は減ってないか?何か食べるか」
「うん、そうだな!お前も、なんかサラダとか食うよな」
「はいですの!」
肩に乗るミュウに話しかけるルークを横目に、食堂はどこだったかな、と船内の地図をアッシュは探し──にやにやと笑って、地図が貼られた壁に身体をもたらせる男の姿に目を瞠った。見間違えようのない巨躯。無精髭の生えた日焼けした顔。
「バラガス!」
「よ!」
にやけた面してるな、と見た目そのままに豪放磊落を地で行くバラガスが楽しげに笑って、アッシュたちを見ていた。
NEXT
設定だけだったオリキャラたちのイメージが崩れていないといいのですが…!
前半はオリキャラ、後半はアッシュたちと進めていくつもりです。一話ごとにそれぞれのオリキャラにスポットを当てていこうかと。
うちで一番人気と思しき「灰の騎士」の続編、頑張りたいと思いますー。