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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.04.22
1万HIT感謝企画ラストですー。
2万HIT前に終わるとは正直、自分でも思ってなかった(笑)

ハチさまリク「アッシュ帰還ED後、ローレライによる断罪」(リク要約)
細かい設定もありがとうございました!
同行者の断罪もご希望の様子だったのですが、ジェイドだけ救われてます。
というか、ジェイルクになりました(ジェイ→ルクですが)
少しでも楽しんで頂けたなら幸い…!

注!同行者&キムラスカ上層部&アッシュ厳しめ





防音処理が施された会議室で、ジェイドはピオニーの前に立っていた。
椅子に深く腰掛けたピオニーが、背もたれをぎしりと鳴らせ、ジェイドに一通の手紙を差し出す。
開かずとも、手紙の内容がジェイドには推測できた。
キムラスカの紋章が浮き彫りにされている封筒を見れば、わからないわけがなかった。

「ガイラルディアとともについて来い」
「…陛下の護衛をしろ、ということですか」
「そうだ。俺から離れるなよ。──成人の儀のときのように、逃げることは許さん」

そんなつもりはなかった、とは言えず、口を噤む。
自分は確かにあのとき、逃げたのだろう。
レプリカルークは帰ってこないのだと、決め付けられた事実から。
レプリカルークとオリジナルルークを入れ替えたキムラスカの醜悪さから。
ジェイドもピオニーも、抗議しなかったわけではない。
だが、既にキムラスカは公に発表してしまっていた。
カイツール軍港を襲撃し、キムラスカの民を傷つけた鮮血のアッシュこそがレプリカルークであり、瘴気を消し、『栄光を掴む者』の手から世界を救った英雄ルーク・フォン・ファブレこそがオリジナルルークであったと。
ルークに子爵の地位が与えられた際に、レプリカであることが発表されなかったときに気づくべきだったのだ。キムラスカの思惑に。
すべては後の祭りだ。

大爆発を起こし、レプリカルークの記憶を手に入れたオリジナルルークがキムラスカの意向に沿い、レプリカルークの功績をすべて己のものとすることは容易かった。
潔癖なところがあるアッシュは、一応、抵抗はしたらしい。
が、結局押し切られてしまった。婚約者であるナタリアや王、父や母の説得に折れたようだ。
お前こそが真なる『聖なる焔の光』であり、本来、レプリカはお前の代わりだったのだから、レプリカが為したことはお前が為したも同然だと、理屈にならない理屈に丸め込まれたのだ。
真なる聖焔は己だと、頷いたというアッシュに、ジェイドたちは失望を覚えた。
そして、真実を知る者たちの口は、重々しく塞がれた。
マルクトも瘴気の中和を行ったのは、キムラスカの王族なのだと、命を懸けたのはキムラスカなのだと言われてしまえば、従わないわけにはいかなかった。
次期国王、次期女王自ら世界のために戦った。キムラスカはその『事実』を有効活用したのだ。
もし、マルクトが『真実』を世界へと発信したところで、長年、キムラスカの民が抱き続けてきたマルクトへの嫌悪や憎悪を煽るだけだ、と。
我らが英雄、我らが王女を侮辱するのかと、キムラスカの民は憤慨するでしょうな、と感情の浮かばない顔で言い切ったファブレ公爵を、ジェイドもピオニーも覚えている。

「あんな胸糞悪い茶番に俺だけが付き合うのは不公平だろ」
「……」
「一緒に来てもらうぞ、ジェイド。そして、お前の罪の結果を知れ」

凍て付いたピオニーの蒼の眼差しを、ジェイドは目を逸らすことなく受け入れた。
ピオニーの眼差しの奥に、自嘲と憤りと憐れみが、覗いていることを知っていた。

「…御意のままに」







キムラスカ=ランバルディア王国の首都、バチカル。
王が住まう光の都市は、喜びに湧いていた。
何しろ、世界を救ったキムラスカが誇る英雄、『聖なる焔の光』が王に即位する式典が行われるのだ。
ナタリア王女との結婚とともに。
キムラスカ中がこの慶事に喜びの声を上げるのは、当然と言えた。
真実を知る者たちの心の内は、暗澹としたものだったが。

ジェイドたちが案内された、バチカルを見下ろすことが出来る城のバルコニーには、椅子と拡声器の譜業が用意されている壇上が据えられていた。
キムラスカを象徴する赤いビロードの布が床に敷かれ、バルコニーの柵からは、キムラスカの紋章が刺繍された赤布が垂れている。
華々しい王の即位式に相応しい飾り付けだ。

「よくいらして下さいましたわね、ピオニー陛下」

輝かんばかりの満面の笑みを浮かべ、金色の髪に花飾りをつけたナタリアの手の甲に、ピオニーが恭しく口付ける。
幸せで仕方がないと、全身で訴えているような新しき女王は、ジェイドやガイにもよく来て下さいましたわ、と華やかな笑みを向けた。
ジェイドは、ガイが言葉少なに頷くのを横目に、ナタリアに向かって頭を下げる。
ナタリアがころころと笑い、ジェイドに顔をあげるよう、許可を出す。

「そんなに堅苦しくなさらないで下さいな。私たちはともに世界を救った仲間ではありませんか」
「…もったいないお言葉です」

式典には、ユリアシティの代表として、ティアがテオドーロ市長とともに。ダアトからは、能力とレプリカの地位向上の目的もあり、導師となったフローリアンとアニス、トリトハイム大詠師が招待され、キムラスカの重鎮が並ぶ椅子へと案内されている。
彼らをちらりと見やり、ジェイドはふと、目を細めた。

「ノエルやギンジは、招待していらっしゃらないのですか?」
「もちろんあの二人も招待致しましたわ。ですが、身分を理由に辞退してしまいましたの。そんなこと、気になさらなくてもよろしいのに。彼らの協力がなければ、私たちは移動もままならなかったでしょうから」

なるほど、と眼鏡のブリッジを押し上げ、視線を落とす。
庶民でしかない自分たちが、各国の重鎮たちと並ぶわけにはいかない、というのも理由の一つだろう。
だが、それだけではないだろう、とジェイドは思う。
ノエルは、隠してはいたようだが、ルークを慕っていた。消えてしまった、レプリカルークを。
ギンジもまた、命の恩人だからと、ルークを慕っていた。そして、アッシュのことも。だからこそ、今のアッシュの態度は、彼には許せないものに違いない。

すべてが終わったあと、公的な立場で、謝罪のためにヴァンたちによって殺されたイエモンたちの墓標へと花を捧げに行ったときのことが、ジェイドの脳裏を過ぎる。
ガイは、連れて行かなかった。音機関狂いの彼を連れて行けば、余計な時間が掛かってしまう上、何より、シェリダンの民が命を掛けて送り出してくれたタルタロスの中で、彼がノエルを前に口にした言葉を、忘れるわけにはいかなかったから。
あのとき、あの場で一番辛かったのは、加害者の妹であるティアではない。被害者の家族であるノエルだった。
墓前に長く手を合わせたジェイドに、ノエルは言った。
あのとき、ガイさんにもティアさんにも、悪気はなかったってわかってるんです。
ぽつりと、独り言のように続く言葉に、ジェイドは黙って耳を傾けた。
それでも、耳に残ってるんです、ガイさんの言葉が。
ガイを連れて来なくてよかったと、こっそりと思ったことを思い出す。
ノエルがそうはっきりと言ったわけではない。連れて来ないでくれてよかった、とあの心優しい気丈な少女は決して口にはしなかった。
けれど、言葉の裏にある感情に、ジェイドは気づいた。昔の自分ならば、──ルークと出会い、彼を失う前の自分ならば、気づかなかっただろうけれど。

「……」

ジェイドはピオニーが座る椅子の斜め後ろに立ち、そっと息を吐く。
近くに座りあったティアやアニス、ガイが、ノエルやギンジにも会いたかったのにと話している声がする。
残念そうだが、ノエルもギンジも、この場に招待された『英雄』たちに会いたくはないはずだ。
ノエルが、言っていた。
墓に花を手向けに来たは、ジェイドだけだったと。
ナタリアからは、復興資金が贈られたが、それだけだったらしい。
ティアやアニス、ガイに至っては論外だ。
特にティアは、シェリダンの悲劇が兄の所業であることをわかっているのかどうか。
アッシュも、帰還してから忙しさにかまけ、シェリダンを訪ねてはいないらしい。
ギンジと連絡すら取り合っていないようだ。
兄が寂しそうに、哀しそうにしていると、ノエルからの文には書いてあった。
ジェイドは緩く首を振る。長い髪がさらりと揺れた。

ワッ、と民たちが沸きあがる声が、バチカルに轟いた。
何事かと見やれば、バルコニーへと開かれた大きな窓から、深紅の髪を靡かせた『英雄』が出てくるところだった。
頬を薄っすらと紅潮させ、出迎えたナタリアと笑みを交わすルーク・フォン・ファブレを、ジェイドは眼鏡越しに見つめる。
ガイやティア、アニスのように目を逸らすことはしなかった。
ピオニーの視線が、一瞬、自分の上を掠めていく。
逃げるなよ、と戒めのつもりだろう。

(…逃げませんよ)
己の罪から逃げて逃げて、自分は彼を失ってしまった。
失うところまで、逃げてしまった。
大爆発を回避する方法の確立は、結局、間に合わなかった。
もっと早くから研究していたら、きっと間に合った。
今は、その方法がわかっている。理論的なものでしかないが、試す価値はある。
だが、試そうにも、ルークはいない。助けたかったルークは、もういない。
もっと早くに己の罪を認めていれば。ルークがアッシュの完全同位体であることは、ディストが忘れていったデータでわかっていたのに。
あのときから、研究を始めていれば、ルークは。
後悔しても、時は戻らない。ルークは帰ってこない。わかっていても、後悔は尽きない。
いつまで続くかわからない余生を、自分は後悔して過ごしていくしかない。

「今日はよくいらして下さった、ピオニー陛下」
「ああ、天気もいいし、最高の舞台だな」
「ええ。この日が待ち遠しかったですよ」

迷いのない顔で、アッシュ、いや、ルークが言う。
帰ってきたばかりのころは、二人分の記憶に戸惑っていたのに、今や自信に満ち溢れている。
レプリカルークの記憶を、自分のものとしたのか。

(無意識のうちに、かもしれませんが)
自分のものではない記憶と、自分の記憶の差異は、精神を磨耗させるはずだ。
ならば、混乱から逃れるため、ルークの脳は『忘れる』という選択をしているとしてもおかしくはない。
都合のいい部分だけを選択し、都合の悪い部分を捨てるのだ。
自分の心を守るために。
でも、それは。

(自己防衛本能だと、わかってはいるのですが)
納得は出来ない。レプリカルークの記憶は、アッシュにとって、キムラスカにとって都合のいいものだけを残し、忘れられていく。
それが哀しい。アッシュの記憶にしかもうルークは残っていないのに。
勝手なことを言っている、とジェイドは微かな自嘲を口の端に昇らせる。
アッシュを責める資格など、自分にはない。
誰にも、ない。あるとすれば、それは。

「さぁ、ルーク。民が待っておる。ともに来なさい」
「はい」

インゴベルト王とともに、壇上に上る紅い髪のルークを、ジェイドはピオニーとともに見送る。
足を組み、腕を組んだピオニーが、密やかにため息を零した。
これからあのルークと王として付き合っていかなくてはならないのかと思うと気が重くなるらしい。
同感だと、ジェイドは思う。
ルークと呼ばれることに、すっかり慣れきっている様子に、苛立ちが腹の底に湧き、すぐに沈んでいった。
腹を立てる資格も、自分にはない。

(ルーク…。あなたは、音譜帯にいるのでしょうか)
だとすれば、今、どんな思いで地上を見下ろしていることだろう。
青く晴れ渡った空に浮かぶ音譜帯を見上げたところで、答えは得られない。
ルーク、とジェイドは口の中で呟いた。

「我が親愛なるキムラスカの民たちよ。私は年老いた。今こそ、新たな世代に王座を譲るときであろう。我が最愛の娘ナタリアと、我が甥ルークの婚姻とともに、ルーク・フォン・キムラスカ・ランバルディアの即位を宣言するものとする!」

民たちから、割れんばかりの歓声が上がり、広場を満たす。
高揚感に満ちた民は、口々に「ルーク様万歳!」「キムラスカ万歳!」とあらん限りの声で叫んでいる。
ナタリアが嬉しそうに惜しみない拍手と笑みをルークに送り、ティアやアニスもまた、そんなナタリアに釣られたように笑みを零し、手を叩いた。
ガイがきつくズボンを掴む姿に、ピオニーが同じように手を打ち合わせながら、鋭い一瞥を投げる。
その視線に気づいたガイが、渋々といった様子で拍手した。
つくづく己の立場を理解しない伯爵だと、ジェイドは顔には出さないものの呆れながら、手を叩く。
気持ちはわからないでもないが、ここは不満を露わにしていいような場所ではない。たとえ、腹のうちで何を思っていようとも、祝福の意を示す場所だ。

「さぁ、ルーク。民に顔を見せてやるのだ」
「はい」

緊張した面持ちながら、ルークの翠の目はキラキラと輝いている。
ナタリアもルークを見つめながら、誇らしげな笑みを零している。
ナタリアと頷き合い、ルークは民を見下ろした。
ス、とルークが手を上げると、民のざわめきは止まり、沈黙が満ちる。

「我が愛すべきキムラスカの民たちよ。私は──」

そこで、不意にルークの言葉が止まった。
訝しげな視線をジェイドは向ける。
民たちも何事かと、ざわめきだした。

「どうなさいましたの、ルーク?」

ナタリアが気遣わしげな声を掛け、壇上のルークへと手を伸ばす。
その手が届く前に、肩に掛かる紅い髪を背に払い、ルークが口を開いた。
ホッとした空気が流れる。だが、それは長くは持たなかった。

「…キムラスカの民たちよ。哀れなるお前たちに、真実を教えよう。存在を消された、我が半身、『本物』の『英雄』のことを」

民たちが何のことかと呆気に取られ、インゴベルトを始めとするキムラスカの重鎮たちに動揺が走る。
ジェイドもまた、ピオニーとともに目を見開いた。
これは一体、何事だ。

(我が半身…?)
自分の知るアッシュは、口が裂けてもそんなことは言わないはずだ。
彼にとってルークは劣化レプリカであり、自分から作られた存在であることに嫌悪を覚えていた。
そんな彼が、ルークを『半身』などと評するわけがない。
だが、確かに、彼は「我が半身」と口にした。
困惑の視線が、壇上に立つルークに注がれる。

動揺する民たちを前に、ルークがサッと両手を広げた。
それだけで、シン、と民たちが静まり返る。
唾を飲み込む音でさえ響きそうなほど、耳に痛い沈黙。
キムラスカの重鎮たちが、ルークを止めるべきか惑っている。
ピオニーをちらりと見やれば、不動の姿勢を保つ気らしい。
じ、とルークの言葉を待っている。ジェイドも、それに習う。

「ND2000、ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカを新たな繁栄に導くだろう」

朗々と澄み切った声で語られる預言に、民たちが聞き入る。
重鎮たちもまた、ルークが口にした預言が『ルーク・フォン・ファブレ』にとって好都合な部分であることに安堵の息を吐く。
ジェイドたちに背を向けているルークがにやりと笑ったことに気づいたものは、いなかった。

「この続きを、民よ、お前たちは知らない。この『聖なる焔の光』がND2011にローレライ教団で謡将の地位にあったヴァン・グランツ、『栄光を掴む者』によって亡命を唆されたことを」

民たちに驚愕が走る。
またざわめきだした民たちの声が広場に響く。
けれど、拡声器を通すルークの声は、それ以上の響きを持って、民たちの鼓膜を揺らした。
まるで、直接、頭に語りかけられているかのように。

重鎮の一人が、ルークを止めようと兵に命じた。
兵が慌てて、ルークへと駆け寄っていく。だが、兵の手は届くことなく、見えない壁に弾かれた。
ジェイドは譜眼の威力を抑える眼鏡を外し、音素の流れを見る。
ルークが立つ壇上の周囲に漂う、第一から第六までの空気中の音素が、兵が弾かれた壁に同じように弾かれている。
ジェイドの赤い譜眼には捉えることの出来ない音素が、確かにそこにあるのだ。高密度の第七音素が壁を作り出している。

(…馬鹿な)
ローレライが解放されたことで、地上の第七音素は減少したはずだ。
物質も音素も弾くほどの高密度の壁を作り出すことは、不可能に近い。音素を集約する力を持つ、ローレライの剣がない今、オリジナルルークであっても、難しいはずだ。
なのに、確かにそれは、そこにある。

(まさ、か)
あれは。あのルークは。
今、ルークの口を通じ、民へと『真実』を語っているのは。
翠の瞳が、ジェイドに向いた。底の知れない翠が、ジェイドの推測に頷くように細められている。
ぞくりとジェイドの背を悪寒が走り抜けていく。
間違いない。あれは。

「ロー…レライ」

ジェイドの唇から、神にも等しい第七音素集合体の名が漏れた。
聞きつけたピオニーが眉を跳ね上げる。
ルークの身体を使い、ローレライが笑みを零す。

「俺はヴァンによって、秘預言を教えられた。キムラスカの繁栄のため、己の死が詠まれた預言を。──そうだ、民たちよ。俺は恐れた。死ぬことが嫌だった。だから、逃げたんだ。キムラスカのためだろうと、死にたくなかったから。そして、ダアトに亡命した俺は『鮮血のアッシュ』となった。お前たちが教えられた真実は虚偽。実際は、カイツールを襲撃し、自国の民を傷つけた『鮮血のアッシュ』こそがオリジナル、つまり、この俺」

ローレライが、被験者ルークとして言葉を次いでいく。
何を仰いますの、とナタリアが駆け寄ろうとし、やはり壁に弾かれた。
次々に大臣たちや兵が止めようとするが、壁は消えない。
ジェイドはピオニーの側を離れず、ローレライの言葉を待った。
ピオニーも椅子から動かず、成り行きを見守っている。
ガイが落ちつかなげにピオニーを窺っているが、ピオニーはローレライを見据える目を動かさない。
ティアやアニスが、顔を見合わせ。テオドーロやトリトハイムは困惑に顔を歪めている。
フローリアンはきょとん、と瞬き、何か感じるのか首を傾げている。
ジェイドとピオニー以外、誰もローレライに気づいたものはいない。

「ヴァンは連れ去った俺から、レプリカを作り出した。そのレプリカは『ルーク・フォン・ファブレ』としてキムラスカへと戻されたのだ。そう、このレプリカこそが、瘴気を消し、世界を破壊せんとしたヴァンを倒した『英雄』だった。俺は、レプリカの功績を、キムラスカの重鎮たちの決定のままに、己のものとして奪い取ったのだ」

ローレライは滔々と語る。語られなかった真実を。隠されてしまった真実を。
少しばかり過剰気味に、少しばかり尾鰭をつけて。
高まっていく緊張を、ジェイドは敏感に感じ取り、いつでもコンタミネーションでしまいこんでいる槍を取り出せるようにしておく。
嫌な予感がする。

「ナタリアも、それに賛成した。一万人のレプリカたちとともに、命を懸けて瘴気を消したレプリカルークの功績を、「貴方も協力したのですから、貴方の功績と言っても過言ではないでしょう?」とな。「その方がルークも喜びますわ。オリジナルである貴方の役に立てたのですから」と、まるでレプリカの気持ちがわかるかのような言い方だった。なぁ、ナタリア?」

ローレライが嘲りの笑みをルークの顔に乗せる。
婚約者から決して向けられたことのない凍てついた眼差しに、ナタリアの顔が恐怖に歪み、身体が震えた。

「お前に何がわかる。王族の血が流れていない、それどころか、世界を危機に陥れた六神将の一人、『黒獅子のラルゴ』の娘であるお前に。その真実を民に隠し通そうとするお前に、何がわかる」
「る、ルーク…、わ、私は…」
「ナタリア」

にこり、とルークの顔が笑んだ。先ほどとは打って変わった優しげな笑み。
その笑みに、ナタリアがホッとしたように息を吐く。
馬鹿だな、とピオニーがぽつりと呟いたのを、ジェイドは聞いた。

「王命に逆らい、親善大使一行に勝手について行った、自国の民を蔑ろにするお前に、女王の座は荷が重い。そう思わないか?なぁ、ナタリア。お前が勝手に城を抜け出したことで、首になったメイドや騎士が大勢いたって、知ってるか?」

ローレライは鮮やかな笑みでナタリアを追い詰める。
ナタリアの最愛のオリジナルルークの口で、彼女を笑って追い詰めていく。
拡声器を通し、ナタリアの罪を知った民が、呆然と黙り込んだ。
静まり返ったバチカルに、ナタリアの悲鳴が迸る。

「わた、私、そんな、そんなつもりは!ルーク、ねぇ、ルーク!」

幸せそうな笑みを浮かべていた顔は、今や蒼白。
涙を流すナタリアに、ティアとアニスが駆け寄った。
二人が揃って、ルークを睨む。

「ちょっと、アッシュ!ナタリアになんてこと言うの!」
「アニスの言うとおりだわ。酷いわ、アッシュ。ナタリアはアクゼリュスの人々を救おうとしただけじゃない!」
「他国の民のために、自国で王女の慰問を楽しみにしていた孤児たちを見捨てたことを、お前たちは肯定するのだな」
「え…」

ぽかん、と間の抜けた顔をするティアとアニスに、ローレライが微笑む。
慈愛の仮面を被った、紛れもない嘲笑。それに気づいたのは、ジェイドとピオニーの二人だけだった。
アニスとティアが肯定したのは、ナタリアの行動だけではない。
オリジナルルークこそがアッシュであったと、そのことを知っているのだと、本人たちは気づいていないが、アッシュと呼ぶことで認めたのだ。
世界を救った『英雄』と名高い二人は、口を開けば開くほど、ダアトとユリアシティの立場を悪くしていることに気づかない。

「さすがユリアより伝わりし聖なる譜歌を悪用し、ファブレ公爵邸に侵入し、外の世界を何も知らないルークを攫っただけはあるな、ティア・グランツ。たった七年しか生きていないルークに木刀を持たせ、前衛を押し付け、自分はのうのうと後衛で身を守っていただけはある。貴様のような人間を厚顔無恥というのだ」

レプリカルークが七歳であったという事実に、子を持つ親たちが嫌悪に顔を顰め、王族に前衛を押し付けたという事実に、軍人たちが不快に顔を歪める。
向けられる視線に、ティアが息を呑み、ルークを睨んだ。
武器を持つ人間が戦うのは当然でしょう、それにあれは個人的なことで許されたことだわ!
勘違い甚だしい台詞に、怒りを通り越し、民や軍人が呆れ返っていることに、ティアは気づかない。
トリトハイムが頭を抱え、テオドーロが立ち上がり、ティアの頬を張った。
唖然とするティアに「この馬鹿者が!」とテオドーロが怒鳴る。

「ユリアの譜歌を悪用するとは、それでもユリアの子孫か!」
「な…、お爺さま、私はそんなつもりじゃ!」
「黙れ、恥さらしが!お前を甘やかしすぎたようだ。この償いは、この命をもって必ず…ッ」

深く項垂れる義理の祖父の姿に、ティアはただ目を見開き、立ち尽くす。
その顔は解せないというばかりで、理解する様子もない。
見る価値もないと言わんばかりにルークが鼻を鳴らし、ティアとナタリアの前に立ち、憤慨を示すアニスを見やった。

「何故、貴様は罰せられないのだ、アニス・タトリン」
「どういう意味よ!」
「ああ、貴様も厚顔無恥だな。モースのスパイとしてタルタロス百四十名余りの兵を殺し、導師イオンをさえも殺したのは、お前だろうに」
「そ、それは…だ、だって、それは…!」

顔を蒼ざめさせ、狼狽するアニスに、ローレライが不思議そうに首を傾げる。
トリトハイムがアニスをきつく睨んだ。

「両親が人質に取られていたから──とでも言う気か?だが、可笑しいな。俺が知る限り、タトリン夫妻はダアトを自由に出入りしていたようだが。拘束されているというなら、お前のスパイ行為もわかるがな」

くすくすと笑うルークの皮を被ったローレライに、ガタガタとアニスが震える。
フローリアンが今にも泣き出しそうに顔を歪め、アニスのほかに連れて来ていた守護役に、アニスとティアを捉えるよう、促した。

「フローリアン!?」
「何をするの!」
「ごめんね、アニス、ティア。でも、今の導師はボクだから。ボクは導師として、二人を捕まえなくちゃ…。だって、二人は悪いことをしたんだもの。二人だって教えてくれたじゃない。悪いことをしたら、罰を受けなきゃいけない、って。ね?そうだよね、トリトハイム」

哀しげに目を伏せるフローリアンに、トリトハイムが頷き、二人を連れて行くよう、命じた。
フローリアンにアニスとティアが助けを求めるが、フローリアンは顔を上げない。
そんなフローリアンの頭を、ピオニーが優しく撫でた。
イオンよりもよほど決断力があると、ジェイドはため息を零す。

「何のつもりなんだ、アッシュ。こんな…ティアたちをあんな目に合わせておいて、何で笑ってわれるんだ!」

ピオニーの許可もなく、ガイが立ち上がり、ローレライへと詰め寄る。
けれど、やはり手は届かない。壁がガイを阻み、ガイは見えない壁を叩いた。
ルークの顔でローレライがガイを睨む。

「黙れ、ガイラルディア。復讐目的でファブレ公爵邸に入り込んでおきながら、よくもルークの親友面が出来たものだ。使用人としても、護衛剣士としても中途半端な愚か者でありながら!」
「お前に言われる筋合いはない!」
「いいや、ある。ファブレ邸の使用人たちにもな。お前は全員、殺そうと思っていたんだろう?公爵もその妻もその息子も、彼に使える使用人たちも白光騎士団も。そのために毒薬を常に持ち歩いていたことを知ってるぜ、ガイラルディア」

サッ、と赤く激昂していたガイの顔が蒼くなる。
ぴく、とピオニーが眉を寄せ、ジェイドを一瞥した。
ジェイドはこくりと頷く。

「家族を殺された復讐のため。それがお前の言い分だろうけれど、なら、お前の父親、前ガルディオス伯に殺されたキムラスカ兵の遺族はどうしたらいい?お前の理屈を通すならば、お前は死んだ父親の代わりに彼らに殺されるべきじゃないのか。まさか、自分の父親はそんな人間じゃないとでも?馬鹿を言え。ガルディオス伯と言えば、シグムント流の使い手。貴族であり、軍人でもあった。ファブレ公爵と何の違いがある?」
「あ…、あああ」
「なぁ、ガイ。復讐をする者は、復讐される覚悟もしておかなくちゃならないんだぜ。その覚悟がお前にあるか?」

ローレライが浮かべたのは、アッシュの笑みではなかった。それは、ルークを錯覚させる笑みだった。
ガイが叫び声を上げ、近くの兵から剣を奪い取った。
そのまま、剣を構え、ルークへと向かっていく。壁にぶつかる寸前、ジェイドはガイの前に立ちはだかり、拳をガイの腹にのめりこませた。
カハッ、と息を吐き、ガイが落ちる。

「…いつまで」

愉しげに笑うローレライを、ジェイドは一瞥した。
ローレライが小首を傾げる。あどけない様子は、レプリカであったルークをジェイドに思い起こさせた。

「いつまで、こんな茶番を続けるおつもりですか、ローレライ」
「まだに決まっているだろう、死霊使い。我が半身を傷つけた罪を、我は許さない」

ジェイドの言葉と、それに返事をしたローレライに、ナタリアの肩を抱いていたインゴベルトが目を瞠り、重鎮たちが息を呑む。
本当に彼らは気づいていなかったのだ。揃いも揃って節穴ばかりだな!とローレライが高らかに笑う。

「キムラスカの民よ、聞いていたな!お前たちは謀られてきたのだ。侮られてきたのだ。蔑ろにされてきたのだ!預言に踊らされる、愚かな王たちによって、真実を隠されて!預言のために、戦争を起こし、無駄な犠牲をお前たちに強いてきたのだ!」

紅い髪を振り乱し、己の分身とも言えるレプリカルークを『殺された』神が叫ぶ。
神の狂気に引き摺られるように、キムラスカの民は煽られていく。
喜びの高揚が、怒りの高揚へと変貌していく。
それを、ジェイドたちは黙って見つめることしか出来ない。
止めることは、もう出来なかった。
キムラスカの民に、軍人たちに募った不満は爆発寸前だ。
もともと、不平不満はあったのだろう。それを奇麗事を並べて、キムラスカが強引に押し込めてきただけで。
民の間にあったキムラスカ王たちへの不審の綻びを、ローレライが広げたのだ。

ルークの身体が光り、焔の形をしたローレライが抜け出た。
ガクリとルークの身体が倒れこむ。顔色が蒼い。
ローレライの中ですべてを聞いていたのだろう。
ゆらゆらと揺れる焔が、キムラスカの空に浮かぶ。

「何のつもりだ、ローレライ!何故、こんな…ッ」

ルークが叫び、ローレライを睨む。
ローレラという名の焔が、怒り露わに燃え上がる。

『黙れ、ルークの優しさを踏み躙った、愚か者。あの子はお前に生きて欲しい、と願ったのだ。お前に幸せになって欲しいと。俺がアッシュの居場所を奪ってしまった月日の分も、幸せになって欲しいんだ、と微笑んだのだ!それを…その想いを理解せず、あの子の存在すら否定した貴様を、貴様らを我は許しはしない!』

第七音素の光が、キムラスカの民へと降り注ぐ。
その光に触れた者たちは、ローレライの絶望を怒りを嘆きを知った。
レプリカルークの優しさも、彼らは知る。
そして、彼らが抱いた虚無は怒りとなり、国の中枢、インゴベルト王たちへと向いた。
蒼ざめる重鎮たちの中で、ファブレ公爵だけが一人、安堵の表情を浮かべていた真意を、知る者はいない。

『さぁ、立ち上がるがいい、民たちよ。恐れることはない。お前たちには、我が守護がある!』

癒しの力となる第七音素集合体の宣言に、おー!と民から声があがる。
怒涛のようなそれが、バチカルを揺るがした。
王族を守るべきか否か、迷う軍人たちもいる中、その隙を突くように、昇降機へと民が駆け上がっていく。
城へと入り込んでくるのも、時間の問題であろう。

「陛下、今すぐ、ここから離れなければ!」

ジェイドが焦燥露わにピオニーに駆け寄る。
ピオニーが頷き、右往左往するキムラスカの重鎮たちを一顧だにすることなく、テオドール、トリトハイムやフローリアンにもともに行くよう、声を掛けた。
ゆら、とジェイドの眼前にローレライの焔が揺れた。

『お前は何も言わないのか?死霊使い』
「…では、一つだけ」
『なんだ』

人の身体を纏っていたときと違い、焔と化したローレライの表情はわからない。
だが、きっと貴様もあいつらと変わらぬのだろう、とでも言うように、哂っているような気が、ジェイドにはした。

「ルークは…、あの子は、貴方のところにいるですか?」
『……ああ、音譜帯で穏やかに眠っている。地上の人間どもの醜さを知らぬまま』
「そうですか…」

意外そうにジェイドを見つめるローレライの視線に苦笑を零し、眼鏡のブリッジを押し上げ、顔を隠す。
よかった、とジェイドの口元が笑みを刻んだ。
レプリカルークが消えて以来、浮かぶことのなかった笑みが、ジェイドの顔に確かに浮かんでいた。
微笑もうにも、失敗するばかりだったジェイドの心からの笑みに、ピオニーが息を呑む。
馬鹿野郎、と呻くような声が、ピオニーの口から零れた。

「陛下。マルクトに帰ったら、私を除隊させて下さい。カーティス家も追放してくださると助かります」
「…バルフォアに戻るってことか」
「ええ。ジェイド・バルフォアとして、レプリカたちのために生きていきます」

罪の償いになるなんて、そんな傲慢なことは思っていない。
けれど、自分にはそれしか出来ないことを、ジェイドは知っている。
音譜帯で穏やかに眠っているというルークの眠りが、妨げられないことをひたすらに願う。
どうかよい夢を見ていますように。あの優しい子が悪夢に魘されることがないようにと、願う。
ローレライが揺らめき、ジェイドを静かに見つめ──やがて何も言わず、キムラスカの民たちのもとへと向かっていった。

高らかに吠えるキムラスカの民たちの革命の声を聞きながら、ジェイドはピオニーとトリトハイム、フローリアン、テオドーロを連れ、バチカルを脱出した。
残された罪人たちは、牢獄の奥へと忘れ去られた。

バチカルの革命はローレライの加護もあり、民たちの勝利に終わり、預言を重用していた王族、貴族、大臣たちの処刑後、民の中から推薦された長を中心とし、キムラスカには民による新政府が誕生した。
その中には、次代を担うため、レプリカも含まれていた。
新政府とマルクト、ダアトは良好な関係を築き、オールドラントに長く平穏な時代が続く。

そして、ジェイド・バルフォアは長い余生をレプリカのために捧げた。
彼が本当に助けたかった、愛していたレプリカは、永遠に彼のもとに戻ることはなかったけれど、彼はそのレプリカを愛し続け、彼の同胞であるレプリカたちを愛し、また、レプリカたちに愛され、生涯を終えた。


END


どうも私はレムの塔以降のジェイドを憎めずに、ジェイドのみ救いがある形になりました。
ジェイドへの断罪もご希望だったのかな…。ううん、そうだったらすいません。
ゲーム中、成長したのはルークとジェイドだけだなぁ、と思ってまして。アッシュもエルドラントでのルーク戦で一皮剥けたと思ってますが。

1万HIT企画にご参加してくださった方、ありがとうございました!
どれか一つでも、気に入って頂けたなら幸いです。

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