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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.04.19
1万HIT感謝企画四本目。
二つの『陽だまり』」の続きです。
アッシュがルークに戻ったことで、ヴァンだとアクゼリュス成り立たなくね?と気づき、捏造入ってます。
主にティアががっつり捏造。
モース直属の子飼いの部下で、預言保守派…というか、預言こそすべてみたいな狂信者。
イオンがレプリカだって知ってます。
ティアは預言のために生きているので、公爵邸に侵入とかはしてません。
なので、ルーク(アッシュ)はアクゼリュス派遣まで屋敷に軟禁され続けます。なので、ミュウがいないので、ルーク(アッシュ)は原作より孤独です…。
他の同行者はほぼ原作のまま。ガイがルーク(アッシュ)に風当たりが強いくらいです。同行者全員、空気ですが。
リクエストした方のみお持ち帰り可です。

注!同行者厳しめ




ちらり。また、ちらり。
カレンダーを気にするノアの姿に、ノエルはコーヒーを淹れながら首を傾げた。
最近、ノアは酷く落ち着きがない。
黒髪の頭をガシガシと掻き、紺碧の目は苛々と眇められている。

ノア・ノーバ。
彼がふらりとノエルの祖父、イエモンに弟子入り志願をしにきたのは、二年前のことになる。
自分とそう年が離れているようには見えないのに、酷く暗い目をしていると、初めて会ったとき、ノエルは思った。
酷く、哀しい目をしていると。なんて切なく笑う人だろう、と。

ノアは知識を得ることに貪欲だった。
イエモンから得られるものを、余すことなく自分のものにしようと、勤勉を怠らない。
けれど、真面目一辺倒というわけではない。
時折、兄ギンジと悪ふざけをすることもある。
そんなときは、子どものような笑みを見せる。そうやっていつも笑っていて欲しいとノエルは思っている。

ノアは過去を語らない。
そして、ノエルたちもそれを聞かない。
気にならないわけではない。でも、訊いてしまったら、ノアはいなくなってしまうかもしれないと、ノエルは恐れている。
そして、何故、ノアがいなくなることを恐れるのか自問し、ノエルは自分がノアに惹かれていることを知った。

「ノアさん。コーヒー、どうぞ」
「あ、ありがとな、ノエル」

コト、とノアの前にマグカップを置く。
熱いですから気をつけてくださいね、と言い添えれば、子どもじゃないんだから、と苦笑いが返って来た。
ノアの態度は、いつもと変わらないように見える。そう装っているのだろう。
ノエルは一度、深呼吸をし、ノアの前に座った。
じ、とノアの紺碧の目を覗く。ノアがコーヒーを啜りながら、身じろいだ。

「ノアさん」
「う、うん?」
「悩みごとがあるんじゃないんですか?」
「なんで?」
「カレンダーばっかり見てるの、気づいてます?」
「……はは」

参ったな、と頬を掻くノアに、ノエルは膝の上で拳を握る。
緊張で手のひらが汗ばむのがわかる。
こくん、とノエルは唾を飲み込んだ。

「私、ノアさんのこと、家族の一人だって思ってます」
「ノエル…」
「だから、もし、…もし、私で力になれることがあるなら、何でもしたいって思います」
「……俺」
「はい」

マグカップを両手に持ち、視線をミルクが混じって薄い茶色になったコーヒーへと落とすノアを見つめて、言葉を待つ。
チクタクチクタク。
時計が秒を刻む音が、二人の沈黙の間に響く。
無意識のうちにその音を数えながら、ノエルはひたすらにノアが口を開くのを待った。
ふ、とノアが息を吐いた。

「俺、ノエルのこと、好きだよ」

一瞬、ノエルの時が止まる。
空耳、だろうか。だが、ノアの頬が薄っすらと赤い。
額を覆う黒の前髪の下で、紺碧がゆっくりと瞬き、ノエルを見つめた。

「ノエルが好きだ」
「……ノア、さん」
「だから、家族って言ってもらえて、すげー嬉しい」
「……」
「ありがとう。俺みたいな、素性もわかんない奴に、そんな優しい言葉をありがとう」

ふわり、とノアが笑う。
ノエルの頬につ、と涙が一粒伝った。
ノアがぎょっとしたように息を呑み、おろおろと動揺露わに声をあげた。

「の、ノエル?!」
「私、も」
「え?」
「私も、ノアさんが好きです」
「……ノエル」
「ノアさんが誰であっても、私もノアさんのこと、好きですよ」

涙を零しながら、ノエルは微笑む。
カップを置いたノアの手が、そっとノエルの頬を包んだ。

「俺、ノエルが好きでいてくれるのに相応しい人間でありたいって思う。…俺が人間でいられるのは、ノエルのおかげだから。ノエルがいるから、俺は笑える。本当に、ありがとう」

ノアの言葉に、笑みに、ノエルの頬が赤く染まる。
親指の腹でノエルの涙を拭いながら、ノアが一度、目を閉じた。
開かれたときには、紺碧の目に決意が覗いていた。

「俺、行ってくるよ」
「帰って、くるんですよね?」
「ノエルが待っててくれるこの場所に、俺は必ず帰ってくるよ。約束する」

ノエルの側が、俺の生きる場所だから。
頬に当てられたノアの手を握り締め、ノエルは頬を摺り寄せる。
温かなノアの手。大丈夫。この人は約束を守ってくれる人。

「いってらっしゃい、ノアさん」
「うん、いってきます」

二人は微笑みを交わし。
小指を絡める代わりに、触れるだけのキスをした。







疲れたな、とアッシュ──ルークはティアの後に続いてセフィロト内部を進みながら思った。
後ろからは、心配そうにこちらを見ながら、ふらふらとイオンがついてくる。
イオンも疲れているようだ。ティアがまるで物のように彼を扱うからだろう。
疲れているなら、休めばいいのに思ったけれど、声には出さない。
言っても無駄だと、ルークはすべてを諦めている。
何を言っても、正しいはずのことを言っても、誰にも伝わらないから、諦めてしまったのだ。
あの日、レプリカルークに屋敷へと返されてから、ずっとそうだ。
ヴァンに攫われ、レプリカを作られ、自分はずっと神託の盾騎士団にいたのだと言っても、誰も信じてくれなかった。
ヴァンの調査をしたことはしたようだが、証拠は出てこず、しまいにはルークは哀れみと嘲りの眼差しを向けられるようになった。
つらいと口にすることすら出来ない、花咲く箱庭を模った冷たい檻。

それでも、ヴァンがファブレ邸に顔を見せなくなったのがせめてもの救いだった。ルークが拒絶したからだ。
けれど、その代わりとでも言うように、ヴァンの妹が顔を出すようになった。
ユリアの血を引くという女が、モースに連れられてファブレ邸を訪れたのだ。
ティアはモースの子飼いの部下に相応しく、預言こそ絶対だと信じる女だ。
そう、ヴァンとは正反対のように見えた。その実、向けてくる視線は温度のない愚弄するそれであることに変わりはなかったが。

ナタリアもルークを信じなかった。
急にすべてを思い出したから、記憶が混乱しているんですわ。でも大丈夫。私がおりますわ。
もっともらしい優しい言葉を並べ立てるだけで、信じてはくれなかったのだ。
ただ約束を思い出してくれて嬉しい。もう一度言ってくださいな、とそればかりをナタリアは強請る。
ガイも相変わらず笑顔の仮面の下で、凍てついた憎悪を向けてくるばかりで。
屋敷に、ルークを支えてくれる者は、誰もいなかった。

ルークは、疲れてしまった。
でも、それももう終わる。
『聖なる焔の光』は『鉱山の街』とともに朽ちる。
預言のとおりに。キムラスカの繁栄のために。
王族として、立派な最期を遂げて来いと、ルークは父に送られた。
人形のように、ルークはそれに頷いた。
終わらせてくれるなら、それでいい。もうすべてがどうでもよかった。

「さぁ、貴方の力を使ってリングを消すの」
「……」

ティアが指差す光輝くリングを見上げる。
あれに向かって、超振動を使えばいいのだろうか。
きっとあれを壊せば、アクゼリュスは崩落するのだろう。
そして、終わる。やっと終われる。
その思いだけが、ルークを動かし、足を進ませた。
イオンがそんなルークを止めようと前に出る。
が、イオンはティアの譜歌によって、深遠なる眠りへと落とされた。
イオンだけだった。自分を気遣ってくれたのは。
倒れ伏すイオンをちらと見やり、翠の目を細める。
出来ることなら、もっと早くに出会いたかった。けれど、もう。
ルークはゆるりと首を振る。

「預言を成就させるときよ…!」

預言を妄執し、たからかに笑う女の言葉に、息を吐く。
預言などどうでもいい。でも、終わるなら。
これで終わるなら。
イオンを巻き込むことになるのは、少し嫌だけれど仕方がない。
口の中で、すまない、とイオンに呟く。

「まさかとは思うけれど、兄の登場を期待なんてしていないわよね?ふふ、期待するだけ無駄よ。モース様が今頃、預言を蔑ろにする反逆者として、兄と六神将たちを捕らえているころだもの」

うふふ、馬鹿な兄さん!
ティアが心底、可笑しいとでも言うようにくすくす笑う。
耳に不快な笑い声だ。
ヴァンもあれこれと計画を練る前に、妹の教育をしっかりしておけばよかっただろうに。

ルークはパッセージリングの前に立ち、目を閉じた。
ゆっくりと呼吸を繰り返し、集中を高める。
超振動でこれを消す。
それが『聖なる焔の光』が生まれてきた意味。
救助がなされていないアクゼリュスの一万人の民を巻き込むことになることに、抵抗がないわけではない。
ティアにも言った。救助が終わってからでもいいじゃないかと。鼻で笑われただけだったけれど。
預言のために死ねるなら、本望じゃない、とティアはそう笑った。
ここまで一緒に旅をしてきたガイやジェイド、アニスや勝手についてきたナタリアを巻き込むことにも、彼女には抵抗はないらしい。
それほど、預言に遵守することは、ティアにとって誉だということだ。
ルークはティアを、恐ろしいと思う。けれど、オールドラントに生きる人間の目には、ティアは敬虔な信者と映るのだ。
ああ、なんて歪んだ世界だろう。こんな世界で、あの姿を消したレプリカは、どうやって生きているのだろう。
どんな『陽だまり』の中で笑っているのだろう。
ふと、そんなことを思う。

「ああ、ユリア様。この瞬間をどれほど待ちわびたことでしょう」

うっとりと預言を歌うように詠み始めたティアの声を聞きながら、ルークは両手をリングに向けた。
手のひらが熱くなり、力が集まっていく。
これで、すべてが。

「何してんだ、この馬鹿!」

パンッ、と音を立てて、手のひらに集まり始めたルークの超振動の力が掻き消えた。
同等の力で打ち消されたのだ。こんな真似が出来る者は、この世でただ一人。

「貴方、誰よ…!」
「いつだって馬鹿なことばっかりしてやがったが、今回のお前が一番最悪だな」

声の主に、ルークはゆっくりと顔を向けた。
倒れこんだイオンの横に、男が一人、立っている。
目の色も髪の色も違ったけれど、ルークにはわかった。
『アッシュ』へと『陽だまり』を返しに来た『ルーク』だ。

「レプ…リカ」
「…お前には俺がわかるんだな、アッシュ」

アッシュ。
久しぶりに聞く名だった。
アッシュ。
こいつだけが、その名を呼ぶ。
ルークであることを奪ったヴァンに与えられた名前。皮肉の込められた名前。
そのはずなのに、何故、こうも胸が震えるのだろう。
何故こうも、アッシュと呼ばれることが嬉しいのだろう。

「預言の邪魔をしないで!」

ティアが『ルーク』へとナイフを投げる。
それを軽々と避け、軽やかな足取りで跳躍した『ルーク』は、ストン、とティアの背後に下りた。
ティアが振り向く間も与えず、背後から胸へと剣を突き立てる。

「じゃあな。メシュティアリカ」
「あなた…何故…」

驚愕に目を見開き、茶色がかった金の髪を振り乱し、剣に貫かれたまま、ティアの身体が倒れこんだ。
心臓が鼓動を止め、目を見開いたまま、ユリアの思いを受け取り違えた子孫が息絶える。
ルークはその様を呆然と見つめることしか出来なかった。

「…久しぶりだな、被験者」
「……嫌だ」
「あ?」
「嫌、だ。被験者だなんて呼ぶな。アッシュと…頼む、アッシュと呼んでくれ…ッ」

『ルーク』に駆け寄り、縋るように腕を掴み、訴える。
見開かれた紺碧の目に、ルークの泣きそうな顔が映りこんだ。

「ルークに戻ったんだろうに」
「あそこは嫌だ。あんな…あんな、冷たい『陽だまり』は…誰も、俺を信じてくれなかった。『聖なる焔の光』であることだけを求められるだけで…ッ、あんなに会いたかったナタリアは約束だけを俺に求めて…!」
「そこが、お前が帰りたがってた『陽だまり』だよ、アッシュ。…冷たいのは、俺がレプリカだったからだと思ってたんだけどな」

一瞬、ため息を零す『ルーク』の目の奥に、怒りと憎悪の影がちらつく。
あの『陽だまり』を憎んでいるのだ。自分と同じように。
キムラスカに繁栄を齎す『聖なる焔の光』を閉じ込めるためだけの箱庭を、この『ルーク』も憎んでいる。
ルークは震える息を吐き出し、嗚咽を漏らす。
何故、気づかなかったのだろう。昔の自分は。
彼こそが、彼だけが自分の理解者だったのに。
彼だけが、人とは異質な自分と同じ存在であるのに。
気づかずに、憎んでいたなんて、ああ。

「…泣くなよ、アッシュ。なんか、すっげー変な感じ」
「っ、ルーク、俺は…」
「違う」
「?」
「俺はノアだ。ノア・ノーバ。それが今の俺の名前だ。間違えんな」

ノアと呼ばなきゃ返事しねぇからな、と言われ、ルークは慌てて頷く。
ノアがそんなに頭振ると酔うぞ、と苦笑した。

「こんなとこ長居は無用だ。パッセージリングも限界みたいだしな。イオンの身体にも悪ぃし。さっさと行くぞ」
「あ…、待ってくれ、ノア」
「何だよ」
「その…アクゼリュス、の民は…」
「自然崩落なら完全に落ちるまで時間が掛かる。その期間で救助も間に合うだろ。質問はそれだけか?」
「……そ、の」

ノア──レプリカルーク。
彼は本当に『陽だまり』を勝ち得たのだろうか。

(きっとそうだろうな)
そうでなければ、これほど迷いなく、己の名を口にすることはしないだろう。
自分にはない強さを、ノアは持っている。
それは、きっと自分だけの『陽だまり』を持っているからだ。
一度、ゆっくりと翠の瞳を瞬かせ、ルークは──アッシュはノアを見つめた。

「一緒に、連れて行ってくれ」
「ついて来てどうする」
「俺も俺だけの『陽だまり』を勝ち得たい。──アッシュ、として」

く、と紺碧の目が丸くなり、すぐに細められ、笑みへと変わった。
ふぅん、とノアがアッシュをひたと見つめ返す。

「キムラスカはどうすんだよ。追ってくるかもしれないぜ」
「このリングは限界なんだろう?」
「ああ」
「なら、直に自然崩落を起こしたって可笑しくないだろう。キムラスカは俺がアクゼリュスから消えれば、一緒に落ちて死んだと思うはずだ」
「まあ、そうかもな」

肩を竦めるノアに、こくりと頷く。
すべてを終わらせようと、先ほどまで思っていたのが嘘のようだ。
今は、生きたいとそう思える。
ノアが得たように、自分も自分だけの『陽だまり』が欲しい。
ノアのように強い自分で在りたいと、アッシュは願う。

「目」
「は?」
「死んだ魚のような目、してたくせに。急に生き生きしてんなぁ、と思って」

ま、そのほうがアッシュらしいよ、とノアがイオンを背負い、からりと笑う。
自分もいつかノアのように笑える日が来るだろうか。
ハッとするほど暗い目を持ちながらも、明るく笑う半身のように。

「手、出せ。超振動使って、ここを出るからな。あいつらに見つかりたくはねぇだろ。俺も存在、知られたくねぇし」

髪や目の色を変えているため、印象は異なるものの、よく見ればアッシュとノアが同じ顔をしていることはわかることだ。
ジェイドあたりに知られれば、レプリカの可能性を考え出すだろう。
こくりと頷き、アッシュは差し出されたノアの手に、自分の手を重ねた。
しっかりと握り締める。これは明日へと続く手だ。

(迷いはない)
『聖なる焔の光』は死んだ。
いるのは、燃え尽きた焔から生まれた『灰』だ。
生きるために『灰』に塗れようと、立ち上がった『アッシュ』こそが、自分だ。

「行くぞ、アッシュ」
「ああ!」

アッシュは力強く、ノアに頷いた。







長年、キムラスカとマルクトの間で所有権が争われていた鉱山の街、アクゼリュスが崩落したという知らせがシェリダンに届いたのは、崩落から三日後のことだった。
ノアは行き先を誰にも告げずに、姿を消していたが、ノエルはノアがそこへと向かったのだと、直感した。
根拠などない。ただの勘だ。

(そう、ただの勘)
けれど、不安は消えない。
本当にノアがアクゼリュスに行っていたら。そして、崩落に巻き込まれてしまっていたら。
話では、住民の半数が救助が間に合わず、助からなかったと聞いている。
被害者の中には、キムラスカが国王名代として送った親善大使も含まれていたらしい。
噂ではキムラスカ側からの街道の許可をマルクトの名代が国へと報告しなかったせいで救助が遅れたと伝わってきているが、真偽は定かではない。
ただその名代が一連の責任を取らされ、首を切られたようであるから、あながち嘘ではないのだろう。
王女がいたという噂もある。だが、ナタリア王女は王命でアクゼリュスには行くな、と言われていたというから、本当にいたならば、彼女は謀反人ということになる。
噂は噂だから、とイエモンたちに伝えに来た商人は言っていたが、何でも予定されていた孤児院への慰問にナタリア王女ではなく、別の貴族令嬢が訪れたようだけどね、と言い添えていたところを見るに、ただの噂とは思っていないのだろう。

キムラスカはマルクトへと宣戦布告を行った。
キムラスカの民は、戦々恐々としながら、不満を溜め込む日々を送っている。
ホド戦争で失われた国財を埋めようと、税の取立てが厳しくなったからだ。
若い働き手が徴兵されることへの不平も上がっている。
シェリダンも、兵器の製作スピードをあげるよう、何かと軍に急かされている。
速度をあげようにも、材料が足りないというのに。
最近、キムラスカからの人手の流出が増えているのも当然と言える。

「…ノアさん」

ノエルは徹夜で働く祖父たちのためにお茶を淹れながら、窓の外を見やった。
青い空には今日も長閑に音譜帯が浮かんでいる。
地上の人間たちの小競り合いなど、知ったことではないというように。

『俺、ノエルが好きでいてくれるのに相応しい人間でありたいって思う』
ノアの言葉の真意は、ノエルにはわからない。
きっとノアにしか出来ない何かがあるのだろう、とそれだけしか。
はぁ、とため息を零し、それぞれのカップに茶を注ぎ、カップをトレイに乗せ、持ち上げる。
戦争なんて、早く終わればいいのに。

「ノエル、ノエル、ノエル!」

バタバタバタ、と走りこんでくる騒々しい足音がしたかと思うと、バンッ、と勢いよく玄関のドアが開けられ、ノエルは驚きのあまり、トレイを取り落としそうになりながら、飛び込んできた兄に目を向けた。
はぁはぁ、と肩で息をするギンジに首を傾げる。

「どうしたの、兄さん」
「る、ルグニカ平野が、崩落したって…ッ」
「ええ!?ルグニカ平野まで…?!」
「たくさんの兵が犠牲になったらしいって、今、港で聞いて…」

荒い息を吐いているはずなのに、ギンジの顔は蒼い。
ノエルもまた顔を蒼ざめさせ、身体を震わせた。
この世界は、どうなってしまったんだろう。

「戦争どころじゃないって、話だから、おいらの徴兵もなくなりそうだ」
「それはよかったけど…。これから、どうなるのかな」
「…うん」

兄とともに顔に陰りを落とし、視線を落とす。
持ったままのトレイに乗せたお茶からは、ゆらゆらと湯気が立ち昇り、ノエルの顔に当たった。

「あいつも…ノアも、どこにいるんだろうな」

心配そうな兄の声。
ノエルは顔を上げ、唇を引き結ぶギンジを見つめた。
兄もまた、あの人を心配している。

「…大丈夫」
「ノエル…」
「大丈夫よ、兄さん。ノアさんは、必ず帰ってきてくれるから」

にこ、と兄に微笑みを向ける。
ギンジがそんなノエルを一瞬、哀しげに見つめ、自分もまた笑みを零し、うん、と頷いた。

(大丈夫)
私はただあの人を信じていればいい。
あの人は、約束を破るような人ではないから。
ノア・ノーバ。私は彼を信じている。あの人が、好きだから。
だから、帰ってくるまで、言葉を一つ、抱き締めておこう。
帰ってきたノアに、伝えたい言葉を。

「って、そうだ。みんなにも言わないと!ノエル、それ、おいらが持ってくよ」
「あ…、うん。ありがとう」

トレイをギンジに渡し、手が空になったノエルは、空きっぱなしのドアに気づいた。
閉めるのを忘れたらしい。よっぽど慌てていたのだろう。
くすりと小さく笑い、ドアへと近寄る。

「……?」

閉めようとして、街の入口へと向かって、赤茶ける乾いた土を踏みしめてくる二人の人影がノエルの目に留まった。
どくりと心臓が跳ねる。
あれ、は。ゆっくりとこちらへと近づいてくる、あの人影は。

「あ…」

ノエルの唇が震え、吐息が漏れる。
声に、ならない。

「ノエル!」

大きく手を振る、その人は。

「ノアさん!」

ノエルは大声で名前を呼び、駆け出した。
気が急き過ぎて、足が空回る。
絡み合いそうになり、転びはしなかったものの、ノエルはよろけて足を止めた。
大丈夫か!と心配そうに声を上げ、ノアが駆けて来る。
その後を、もう一人の人影が続く。

(ノアさんに、似てる…)
髪色はノアとは違い、濃い茶色だが、目は同じように紺色だ。
顔立ちもノアとよく似通っている。
ただ、目の奥が寂しげだ。
きっとノアさんは、この人を迎えに行っていたのだと、ノエルは思った。

「ノアさんの兄弟、ですか?」
「え?あ、あー…、アッシュか。まあ、そんなようなもんかなぁ」

歯切れ悪く苦笑するノアに首を傾げながらも、アッシュという名の青年に右手を差し出す。
初めまして、と言葉を添えて。
戸惑ったように視線を揺らし、アッシュも手を差し出した。

「アッシュさんですね。私はノエルです。歓迎します」

にこ、と笑んで、握手を交わす。
すまない、とアッシュが頭を下げた。
違うだろ、とノアがアッシュの肩をつつく。

「こういときはありがとうって言うもんだろ、アッシュ」
「そうか。…そうだな。ありがとう、ノエル」
「ふふ、どういたしまして」

仲のいい兄弟のように見える。
ノエルは微笑み、握手を解くと、ノアへと顔を向けた。
ノアもまた、ノエルの目をしっかりと見返してくる。

「…どこに行ってた、とか訊かなくていいのか?」
「こうして帰ってきてくれたから、訊きません。──でも、一言だけ」
「うん、何?」

睫毛に涙を滲ませ、ノエルは輝かんばかりの笑みを顔に浮かべ。

「おかえりなさい、ノアさん」

胸に抱き続けてきた言葉を、ノアに送った。
あなたが私を帰る場所と言ってくれたから。
私の側が生きる場所と言ってくれたから。
だから、いつでも帰ってきたときは、言ってあげたい、この言葉。
大好きなあなたのために、伝えたい言葉。

「ノエル…!」

引き寄せられたノエルの華奢な身体が、ノアの腕に包まれる。
温かで、力強いノアの腕。
優しい鼓動が響いてくるかのようだ。
ほろほろと涙がノエルの頬を伝い落ち、ノアの服を濡らす。

「ただいま、ノエル」
「おかえりなさい」

ノアの腕の中は、温かな匂いがする。
優しい『陽だまり』の匂いだ。
私も彼にとってそうでありたいと、ノエルは願う。

「本当に、おかえりなさい、ノアさん…!」

世界に裏切られるばかりだった少年の『陽だまり』そのものである少女は、涙を零しながらも、幸せそうに微笑んだ。


END


ノエルに癒されて、ルークが丸くなったような…。
ルークの名前、ノア・ノーバは全部合わせて、『誰でもない者』とかいう意味です。NO ONEとNOBODYを組み合わせてます(言わなきゃわからないっていう<汗)
外殻大地降下作戦とか、瘴気とかの問題は、ヴァンの妨害はもうないし、モースもダアトに帰ったイオンが大鉈振るってダアト追放。障害がなければ、どうにかなりそうな気がするのですが。
パッセージリングの命令書き換えに超振動が必要だったのも、ヴァンが書き換えちゃってたから、無理矢理上書きするために必要だったわけだし、ヴァンが書き換えてなかったら、超振動いらないよね…?
ユリア式封咒もなにもグランツ兄妹だけがユリアの子孫ってわけじゃないだろうしなぁ。2000年もあったしさ。
瘴気もしばらくはディバイディングラインで防げるし、その間に捕まえたディストとかスピノザとかに研究させて…。
アクゼリュス以降ってヴァンの妨害がなければ、赤毛たち犠牲にならなくていいような気がするんですが、どうなんだろう…。
まあ、ローレライの解放には赤毛たちの力が必要ですが。

リクエストに添えてるのはやっぱり不安ですが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
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