月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
2008.04.16
タケヤさまリク、1万HIT感謝企画「時は目まぐるしく動く」の続編です。
web拍手やメールでも、続編をー、という方がいらっしゃって嬉しかったです。
仲間制裁というか断罪というか…。同じか。
アッシュやナタリアが好きな方は回避でお願いします。
二人に特に厳しくなりました。
いや、ガイやジェイドにも厳しいか…。満遍なく厳しいを目指してみました(イオン以外)
あ、原作どおりだと謁見の場にはガイやイオンがいないはずなんですが、ガイがカースロットに掛かっていないため、登場してます。忘れていたわけでは…(笑)
ピオスレルクでサフィールもちょこっと。
途中で切ろうかと思ったくらい長いですが、流れ上、切れませんでした(汗)
リクエスト頂いた方のみ、お持ち帰り可です。
注!同行者断罪(アッシュ含)
web拍手やメールでも、続編をー、という方がいらっしゃって嬉しかったです。
仲間制裁というか断罪というか…。同じか。
アッシュやナタリアが好きな方は回避でお願いします。
二人に特に厳しくなりました。
いや、ガイやジェイドにも厳しいか…。満遍なく厳しいを目指してみました(イオン以外)
あ、原作どおりだと謁見の場にはガイやイオンがいないはずなんですが、ガイがカースロットに掛かっていないため、登場してます。忘れていたわけでは…(笑)
ピオスレルクでサフィールもちょこっと。
途中で切ろうかと思ったくらい長いですが、流れ上、切れませんでした(汗)
リクエスト頂いた方のみ、お持ち帰り可です。
注!同行者断罪(アッシュ含)
如何に彼らが愚か者であるか。
ルークが懇切丁寧にこれでもかと説いてくれたので知っていたが、まさかこれほどまでとは、とピオニーは隠すことなく、呆れの眼差しを投げた。
けれど、彼らは気づかない。
それは、ひれ伏していて、ピオニーの顔を見ることが出来ないから、という理由からではない。
彼らはひれ伏すこともせず、簡単に頭を下げただけだ。
あとは許可もしていないのに、顔を上げたまま、各々勝手に口を開いている。
なるほど、ルークの言うとおり、愚鈍という言葉がよく似合う連中だ。
よくもまあ、ここまで空気の読めない連中が集まったものだ。
類は友を呼ぶ。
そんな諺がピオニーの脳裏を過ぎる。
「それで、自分たちが『親善大使一行』だと言うのだな、お前たちは」
「そのとおりですわ」
「ふぅん。ならば、誰が『親善大使』殿か教えて頂きたいものだ」
肘掛に腕をもたらせ、気だるげに一行を見やる。
呆れたように肩を竦めるナタリア王女──もとい元王女の謀反人(本人は気づかずに王女のままでいるつもりのようだが)に、謁見の間に立つ側近やマルクト兵たちの頬が引き攣った。
何を勘違いしているのか、導師守護役やティアとか言う犯罪者が同じく馬鹿にするように息を吐いている。
他人事のような顔をしているが、注意しない時点でジェイドも同罪だ。
そもそも、何故、使用人風情までもが謁見の間に堂々と入って来ているのだ。
その使用人もこちらの反応に、己の身分も弁えず苦笑いしている。
ルークがいかに苦労させられてきたか否応なく窺える。
俺も舐められたもんだなぁ、とピオニーはため息を禁じえない。
「それはもちろん、ここにいるルークのことに決まっていますわ!」
声高々に、誇らしげに宣言するナタリアと彼女の隣に立つ『ルーク』に、ピオニーは胡乱な視線を向ける。
ピオニーがよく知るルークよりも色の濃い髪を背に垂らした神託の盾兵の服装を着た男。
彼もまたどこか誇らしげだ。
あれがオリジナルルークか、と腹を抱えて笑い出したくなった。
それは紛れもない嘲笑である。
このマルクト内で六神将『鮮血のアッシュ』であることを隠しもしないとは、いい度胸だ。
タルタロスでの所業も、国境での騒ぎも綺麗さっぱり忘れ去っているというのか。
こちらは腸煮えくり返る思いで拳を握り締めている兵ばかりだというのに。
「貴殿がルーク・フォン・ファブレ殿だと。ほぉ。俺には『鮮血のアッシュ』にしか見えないが」
「その鮮血のアッシュこそが、オリジナルだったのです」
「オリジナルねぇ…。では、そのオリジナルではないルーク殿はどうしたんだ?」
途端に、彼らの顔が一様に歪んだ。
──導師イオンとチーグルの子どもを除いて。
まず導師守護役が口汚くルークを罵った。
「あのお坊ちゃん…ううん、人間もどきなら、ユリアシティに置いてきたに決まってるじゃないですかぁ。アクゼリュスを落としておいて、反省の色もないんですよぉ?サイッテー!」
「そうね。その上、勝手にユリアシティを出て行って…。陛下、あのレプリカを指名手配してください。早く見つけて捕まえないと、今度は何を仕出かすかわかりません」
「ティア、アニス!ルークは何もしていないと…」
「イオン様、庇うことないですよ!」
「そうです、イオン様。あんな兄に唆されるままにアクゼリュスを崩落させた『人形』など、イオン様が庇う価値もありません」
イオンの顔が曇り、きゅ、と唇が引き結ばれた。
イオンの腕に抱かれるチーグルの子どもが、つぶらな瞳に軽蔑の色を浮かべている。
マルクト兵たちもまた、主の言を遮り、その上、その言葉を平然と否定する彼女たちに侮蔑の視線を向けている。
本当にルークの言ったとおりだな、とピオニーは呆れを通り越していっそ感心した。
ここまで主を蔑ろにする軍人など、作ろうと思って作れるものではない。
(導師イオン…彼もまたレプリカだと、ルークが言っていたな)
それもまだ生まれて二年しか経っていないと。
二歳児と具体的な年齢はわからないが、子どもには違いないチーグルにあれほど冷えきった軽蔑の視線を向けさせておきながら、まったく気づかないとは、実におめでたい頭をした連中だ。
頭が痛くなってきた。
馬鹿な発言に耳も腐りそうだ。
「あー、なんかもうどれから言えばいいんだろうな、これ。どう思う、ゼーゼマン」
「そうですなぁ…。あまりに多すぎて悩みますな」
「だよなー。アスラン、お前はどう思う」
「もう面倒ですから、まとめて捕まえればいいのでは?とりあえず、不敬罪あたりで」
温厚と評判のアスランらしからぬ発言に、ピオニーは苦笑する。
よっぽど腹に据えかねているらしい。
元王女が激昂の声を上げた。
「捕まえるとは…どういうことですの?!私たちはキムラスカの親善大使ですのよ。和平などというのは口先だけで、本当は戦争を起こすことこそが目的だったということですの?!」
「口先も何も…。そもそも、キムラスカ王が命じた親善大使は『鮮血のアッシュ』じゃなかったはずだが?」
「本来、親善大使を務めるべきなのは、俺だったんだ。問題はない」
アッシュが言いきるや否や、唐突に、二人分の笑い声が謁見の間に響いた。
一人はピオニーで、玉座からずり落ちる勢いで腹を抱えて笑い転げている。
そしてもう一人は、マルクトの青い鎧を身に纏い、顔を隠している青年だ。
甲冑を被っているため、笑い声がくぐもって響いている。
それは、紛れもない嘲笑の哄笑で。
自称『親善大使一行』が怒鳴り声を上げた。
「な…っ、何ですの、いきなり!失礼な!」
「失礼な…。これがマルクトの態度か!」
「ナタリアもアッシュも落ち着けって。そりゃ、俺だってどうかと思うけどな」
「落ち着けとか無理だよぉ、ガイ!だって本当に失礼じゃん!」
「そうよ。一般兵にまで馬鹿にされてるのよ、悔しくないの!」
「そうですねぇ。たかだか一般兵が謁見の間だというに、何を笑っているのでしょう」
「いやいや、ティアだって、一般兵じゃん。まずそっちの阿呆な口を止めろよ、ジェイド」
ひぃひぃと今だ止まらぬ笑い声を上げながら、青年が甲冑を外し、床に投げた。
ガランッ、と音を立てて転がる甲冑。
甲冑の下からは、朱色の長い髪を一つにまとめたルークの顔が現れた。
ルークが髪を解き、肩にふわりと跳ね上げる。
ご主人さま!とミュウがルークに抱きついた。
ご苦労さん、とルークがミュウに労いの言葉を掛け、頭を撫でる。
イオンが心配だったので、ルークはミュウをイオンの側に残しておいたのだ。
「き、貴様…レプリカ!」
「…これはこれは。驚きましたね、こんなところで何をしているんです。まさか、忍び込んだのですか?」
ピオニーの許可もなく、コンタミネーションで仕舞い込んでいる槍を取り出し、ジェイドがルークに突きつける。
それを見ても、ルークはにやにやと笑いを崩さない。
眉間に皺を寄せ、ジェイドが一歩踏み出そうとしたところで、槍が真っ二つに叩き斬られた。
「な…」
喉元に鋭い剣の切っ先が突きつけられ、ジェイドが息を呑む。
切っ先の奥には、ピオニーから事前に抜刀の許可を得ていたアスランがいた。
鋭く細められた双眸がジェイドを射抜く。
「ルーク様への無礼は許しませんよ、ジェイド・カーティス」
「…何のおつもりですか、フリングス将軍」
「フリングス将軍は当然のことをしているだけですよ、ジェイド。大体、陛下の御前だというのに、何の許可もなく槍を抜いていいと思ってるんですか?」
ルークの横に立つ兵士が発した声に、ジェイドがぴきりと固まった。
その様を可笑しそうにルークが笑い、ピオニーもまた愉快げに目を細めた。
いい鬱憤晴らしになりそうだ。
これまで散々煮え湯を飲まされたのだ。
たっぷりと『仕置き』を据えてやらねば、こちらの気持ちも納まらないし──何より、和平のためにとジェイドの不敬をキムラスカ側では不問に処すとしてくれたインゴベルト王に申し訳が立たない。
「まさ、か」
目を見開くジェイドの前で、兵士がゆっくりとルークと同じく甲冑を外し、銀色の髪を覗かせた。
眼鏡の奥で理知的に細められた赤い目が、蔑視をジェイドに向けている。
「サフィール…ッ、何故、あなたが!」
「私は彼、レプリカルークの主治医として陛下に雇われていますから。…まあ、彼ではなくなっても、主治医ですが」
ぼそりと付け加えられた台詞に、ルークの顔が思いっきり引き攣った。
ピオニーが嬉しげにその台詞に頷いている。
わけがわからない自称『親善大使一行』が口々に喚いた。
「六神将と繋がっていたなんて…ッ」
「まさか、アクゼリュス崩落も初めからマルクトが企んだことですの?!」
「さては、アクゼリュスを屑に落とさせ、和平を有利に進めるべく、すべてキムラスカに罪を押し付ける気だったか…!」
「何それ、許せない!こっちは預言をどうにかしなきゃって頑張ってんのにぃ!」
「ルーク…、お前、本当なのか!そんなことのために一万人も殺したのか…?!」
呆れてものが言えないとはこのことだ。
盛り上がる一行とは逆に、ピオニーたちは冷めていく。
よくもまあ、ここまで考えなしの発言が出来るものだ。
六神将と繋がっていた?
ならば、貴様らとともにいる『鮮血のアッシュ』は六神将ではないというのか。
アクゼリュス崩落をマルクトが企んだ?
崩落させるためにこんな回りくどい方法を使う理由がどこにある。
和平を有利に進めるため?
自国の王をずいぶんと侮ったものだ。あの王はそんな単純な罠にかかるような愚か者ではない。
大体、和平を申し出たのはマルクトだ。
有利な条件を申し出ることが出来るのは、キムラスカの方。──名代に命じてしまったジェイドの不敬の数々もそれを手伝っている。
対等な条件で和平を結ぶことが出来たのは、一重にインゴベルト王が真の平和を望む民思いの王であるからだ。
一万人も殺した?
ルークはアクゼリュスを落としていないというのに、それを認めようともせずよく言えたものだ。
そもそも、アクゼリュスの民の救援が遅れた本当の理由は、ルークにあるのではない。
キムラスカから街道使用の許可が出たというのに、それをマルクトに知らせてこなかったジェイドにこそ、その咎はある。
先ほどの動揺を押し隠そうと、冷笑を浮かべ、ルークを見ているところを見るに、まったく理解していないようだが。
何が何でも、ルークがアクゼリュスを落としたことにしたいらしい。
すべてルークが悪い。そう言いたいのか。
馬鹿の一つ覚えもいいところだ。
大体、預言をどうにかしたいのだったら、寄り道せずにそれぞれの国に帰って危機を知らせるべきだったろうに。
「六神将と繋がってるも何もさぁ、アッシュだって六神将だろ」
「自分の罪を棚にあげて…あなた、最低ね!」
「前から思ってたけど、ティア、お前、本当、コミュニケーション能力皆無だよな。ま、それはお前だけじゃなくて、全員に言えることだけどさ」
鼻で笑い、肩を竦めるルークに、顔を怒りに染め上げ、一行が罵詈雑言を並べ立てる。
彼らに己を省みる気はないらしい。
ミュウが怯えたようにルークに擦り寄る。
聞いてられんな、とピオニーは兵たちに命じ、イオンを除く全員を床に叩き伏せさせた。
兵たちは手際よく、呻き声しか上げられないよう、彼らの腕を捻り上げ、猿轡を噛ませ、床に顔を押し付ける。
必要以上に力が込められているのは、ご愛嬌だ。ピオニーもゼーゼマンも見て見ぬふりを決め込む。
ジェイドはアスランによって叩き伏せられた。
サフィールが首を振り、ジェイドを視界から外した。見る価値もないと判断したようだ。
「さてと!これで話も聞きやすくなったな。どうぞ、導師イオン。話したいことがおありのようだ」
にっこり笑って、ピオニーはイオンを促す。
ホッとしたように息を吐き、イオンが口を開いた。
「アクゼリュスのことでご報告したいことがあります」
「聞こう」
「アクゼリュスを崩落させたのはルークではありません。そもそもルークはセフィロト内部にすら、立ち入っていませんから」
「ああ、ルークからもそう聞いている」
イオンの言葉に、同行者たちが目を瞠る。
中には気まずげに視線を逸らす者もいるが、もう遅い。
覆水盆に返らず。零れたミルクは戻せない。
「ルークはむしろ、僕が罪を犯すのを防いでくれたのです。僕はヴァンに言われるがまま、ダアト式封咒を解除しようとしていましたから」
哀しそうに、恥じ入るようにイオンが睫毛を震わせ、目を伏せる。
ルークが気遣うように、イオンの肩に手を乗せた。
「確かに、貴殿がしようとしたことは軽率だったと言える」
「……」
「だが、実際には行われなかったし、貴殿の特殊な背景を思えば、貴殿ばかりが悪いわけではない」
ハッ、と息を呑み、イオンが顔を上げた。
戸惑うように視線を揺らすイオンに、ピオニーは頷く。
知っている、と。
導師イオンのレプリカとして作られ、導師という名の道具として生きることを位置づけられ、そういう刷り込みをされたことを知っている、と。
イオンがくしゃりと顔を歪め、項垂れた。
ほたほたと涙がイオンの頬を濡らし、足元に落ちる。
「ルークに感謝するといい、導師イオン」
「はい…」
「で、これでアクゼリュスが自然崩落だと納得したかな、貴様らは」
さっさと謁見の間から放り出さなかったのは、このイオンの告白を聞かせるためだ。
ガイとジェイドが顔を蒼ざめさせ、俯いている。
だが、他の四人はと言えば、咎めるようにルークを睨んでいた。
まるでルークが己の罪から逃れんがため、イオンに嘘の告白をさせたのだとでも言いたげだ。
ルークが不快げに眉を寄せ、鎧を脱ぎ去り、懐から一通の手紙を取り出した。
その中身を知っているピオニーとゼーゼマンたち側近は、口の端に僅かに笑みを昇らせる。
「これがなんだかわかるか、ナタリア、アッシュ」
封筒から手紙を取り出し、隅に押された玉璽をルークはナタリアたちに見せ付けた。
ナタリアの若草色の目とアッシュの翠の目が見開かれる。
くっ、と喉を鳴らし、ルークが手紙を読み出した。
「…我が娘ナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディアは、自然崩落したアクゼリュスに巻き込まれ死亡したものとを認める。至極、残念なことではあるが、王命に背いた愚か者には相応しい末路であろう。よって、これには、マルクトの責任は一切生じないものとする。また、我が娘を騙るメリル・オークランド、並びに、ルーク・フォン・ファブレを騙るアッシュという名の罪人に関しては、前者はキムラスカへの移送を願うものとし、後者はタルタロス乗組員惨殺関与、カイツール襲撃の件もあるため、親善大使であるルーク・フォン・ファブレを引き続き我が名代とし、彼の者とともにマルクトにて裁定を決めて頂きたく。キムラスカ=ランバルディア王国国王 インゴベルト六世」
厳かな声で読み上げたルークに、ナタリアとアッシュの愕然とした顔から血の気が引いていく。
キムラスカは、二人を切り捨てたのだ。庇いきれるものではないと、優しくも厳しい王は心痛めながらも決断を下したのだろうと、ピオニーは王の心、親の心を理解しなかった愚か者たちを見下ろす。
ナタリアに至っては、文の内容を理解しきれていないようだ。
叫ぶことが出来ぬ代わりに、カタカタと身体を震わせている。
キムラスカに帰れば、彼女は終わりだ。
出生の秘密を教えてやろうかと、ピオニーはルークを見やった。
七年間、過ごしたルークをあっさりと『偽者』と断じた女だ。
己こそが偽者であること思い知ればいい。
「ルーク、メリル・オークランドってのは?」
「そこにいるナタリア王女を騙る女のことですよ。たかが乳母の娘なんですがね。何を思ったが、キムラスカ王族の証も持たぬ身でありながら、自分はナタリア王女だと信じ込んだ愚か者でして」
ナタリアの目から光が消えた。
現実から逃避するかのように、今や緑の目は濁っている。
ピオニーは顎に手をやり、ふと首を傾いだ。
「ふぅん、なるほど。となると、キムラスカも跡取り問題が大変だろうなぁ」
「ご心配には及びません。インゴベルト陛下は預言が成就されてしまった場合を重んじ、懇意にしていたある侯爵家の令嬢との間に男児を儲けられておりますから。私も一度、お会いしたことがありますがお父上の赤い髪に翠の目を受け継いだ、賢く立派な方ですよ」
「へぇ、それはいい。彼の王に似た御子ならば、今まで以上によりよい関係も期待できるというものだからな」
「ええ」
元同行者たちに向ける態度とは違い、礼儀正しい態度で自分と接するルークに、元同行者たちが信じられぬものでも見たというように視線を向けている。
端から見ているだけでも不快になるような不躾な視線だ。
兵たちが彼らを押さえ込む力を強くする。
「陛下、もう一通、よろしいでしょうか」
「ああ、構わん」
ス、と頭を下げ、ルークがまた懐から一通、文を取り出した。
今度の文には、ファブレ公爵家の紋章。
その文の内容も知るピオニーは、ほんの僅かに苦笑を頬に滲ませた。
「ガイ・セシル。ティア・グランツ。こっちはお前らへの文だ。心して聞けよ。ガイ・セシル、職務怠慢並びに主であるルーク・フォン・ファブレへの不敬により暇を取らす。キムラスカに再び足を踏み入れることは許さない。本来ならばそれなりの金子を持たせるところだが、それすらも惜しいほどの役立たずに出す金はない。首を切られぬだけ、ありがたく思え。…言っとくけど、これ文面そのまんまだからな。父上、相当キてんぞ、これ。ああ、あと経歴詐称の件については、ペール共々、キムラスカでは不問に処すってさ。よかったなー、ガイ」
蒼白となったガイに、くすくすとルークが笑う。
経歴詐称。それが意味するところは簡単だ。
猿轡を嵌められているため、声を発することは出来ないが、それでもガイが呻き、暴れる。
が、即座にマルクト兵に床へと叩きつけられ、おとなしくなった。
ピオニーが一言、独り言のように、ルークの言葉に言い添えた。
「…経歴詐称で思い出したんだが、何でも、各地でガルディオスの遺児を名乗る輩がシグムント流の使い手たちに奥義のことを訊いて回っていたらしい」
「へぇ、それ、本当にガルディオスの遺児なんですか?」
「それなら当の昔にマルクトに名乗り出てきてるだろ。ガルディオス家はホドとともに滅びた──この事実が変わることは、今後一切ありえない」
ビクリ、とガイの身体が震え、青い目がきつく閉じられた。
ピオニーに──マルクトにガイラルディア・ガラン・ガルディオスの存在を否定されたのだ。
ガイは二度とガルディオスを名乗ることは許されない。
ガイ・セシルとして生き、死んでいくしかない。
それがガイにとってどれほどの屈辱だとしても、ピオニーにとっても、ルークにとっても、どうでもいいことだった。
和平の邪魔となる存在を、二人は一顧だにしない。
「で、ティア。お、そうだ。文読む前に言っとくか。モースは失脚したぜ。お前を庇う奴はもういないってことだ。これ、覚えとけよ」
ティアが何を言っているのかと言わんばかりにルークを睨む。
不敬罪がまた一つ。
数えるのも馬鹿馬鹿しい数に昇っていることに、本人はまったく気づかない。
「ユリアの血、譜歌を失うのはモースの言葉ではないが、確かに惜しい。よって、子孫と譜歌の知識を残すよう、ダアトに要求するものとする。以後は、キムラスカに引渡しを請う。その際、生きているならば状態は問わない。以上。…うっわ、きっつー…」
ちら、とピオニーはイオンを見やった。
愛想も尽きたのだろう、ティアを庇い立てする気はもうないようだが、今の文の内容を理解しているとは思えない。
(まあ、理解しちまう二歳児のが恐ろしいけどなぁ…)
理解している七歳児でも既に恐ろしいのに。
文の内容については、トリトハイム現大詠師にでも取り次げばいいだろう。
ルークもそのつもりであるようだ。
ティア自身は理解したらしく、ガタガタと震えだし、逃げ出そうと身をもがいている。
当然、押さえつけているマルクト兵はびくともしない。
たとえ、逃げ出せたところで、逃げ場所などどこにもない。
「えーと、あとは…ああ、アニス・タトリンか。導師イオン、彼女の引渡しを要求したい。彼女が行ったスパイ行為について」
そのピオニーの一言に、それまで憤りを露わにしていたアニスの顔から血の気が引く。
ぶるぶると震え、助けを求めるようにアニスはイオンを仰ぎ見た。
けれど、イオンは一瞬、心痛そうに顔を歪めはしたものの、アニスを見ることなく、ピオニーに頷いた。
押し殺した悲鳴が、猿轡に封じられたアニスの口から漏れた。
「ジェイド、お前は軍事裁判行きだ。それまで独房で反省してろ。ああ、そうだ。カーティス家はお前と縁切りしたぞ。バルフォアに今さら戻ることも俺が許さない。今のお前には後ろ盾も何もなければ、確かな名前もない。マルクトの戸籍制度において、お前は存在しない人間ってことだな。どういうことかわかるな?お前に人権はないってことだ。…全員、引っ立てろ!」
これ以上、愚か者たちに付き合っている暇はない。
崩落を始めた世界は待ってはくれないのだ。
すぐにでも、キムラスカ、ユリアシティ、ダアトとともに、外殻降下、それに伴う障害について会議しなくてはならない。
そして、ルークもパッセージリングの命令を書きかけるため、ザオ遺跡へと向かわねばならないのだ。
幸い、インゴベルト王が足として使ってくれと、アルビオールという飛空譜業を貸与してくれたため、移動時間は格段に減ったが。
「導師イオンも部屋を用意してある。休まれるといい」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、去っていくイオンの背は、ほんの僅かな時間のうちに幾分頼りがいのあるものへと変わったようだ。
しゃん、と伸ばした小さな背に、ルークの翠の目も穏やかに細められている。
「…それじゃあ、私も研究室に戻りますか。ルーク、貴方もです」
「……」
「聞こえないフリをしようとしても無駄ですよ。ただでさえ、音素の変質には時間が掛かるんです。貴方だってアッシュに乗っ取られるのは嫌でしょう」
「そりゃ、嫌だけどさ…」
「アッシュにも乖離を防ぐため、全身のフォンスロットを塞ぐ譜業を取り付けさせますがね。それも時間稼ぎにしかならないんですから」
「ううう」
眼鏡を押し上げ、容赦なくルークを追い立てるサフィールに、ピオニーは肩の力を抜いた。
謁見の間にいる全員が疲れたように息を吐いている。
なんとも疲れる『謁見』だったとピオニーは頭を掻き、それぞれ休憩後、仕事に戻るよう、言い渡した。
お茶の一杯も飲んで、愚痴りあうくらいの息抜きは必要だ。もちろん、自分にも。
頭を下げ、揃って退出する兵の中、ピオニーはルークへと近寄る。
ルークがお疲れ、と声を掛けてきた。
お前もな、と返す。
「いやぁ、聞きしに勝る連中だったな」
「だろ。アクゼリュスまで俺、よく耐えたと思うぜ」
「ああ、よく頑張ったな」
手を伸ばし、朱色の髪をくしゃりと撫でる。
その手は、ガキ扱いすんな、と唇を尖らせたルークに即座に払われてしまって。
素直じゃないな、とピオニーは今度はルークを抱き寄せた。
癒されると、ピオニーの口から吐息が漏れる。
「一年は掛かるらしいじゃないか、完全に変態するのに」
「急いで音素を弄れば、ルークの身体に負担を掛けることになりますからね。下手をすれば、乖離しかねませんし」
「まあ、外見をちょっと弄るとかじゃないからな。仕方ないことだが…」
「んだよ」
サフィールの言葉に頷き、腕の中から見上げてくるルークの額に、一つ口付けを落とす。
そのまま、ルークの耳朶に唇を寄せ、ピオニーは囁いた。
「一年は待っててやるから、とっとと俺に落ちちまえ。俺はとっくにお前に落とされてるんだからな」
「……ふん、勝手に言ってろ」
口調は素っ気無かったけれど、朱色の前髪から覗く翠の瞳は満更でもなさそうに笑んでいる。
本当に素直じゃないな、と豪奢な金髪を揺らし、ピオニーも笑う。
すべてが終わるまで、まだ道は長い。
だが、この未来の皇妃とともにあるための道と思えば、迷いなく突き進むことができると、水の皇帝は『聖なる焔の光』を抱き締める腕の力を強くした。
END
やり過ぎかな…という危惧もないわけではないのですが(汗)
やるなら出来る限り徹底的にやり込めよう、と思ってみました。
イオンには救いがありますが。
少しでもリクエストくださった方々のお気に召して頂けたなら幸いです。
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