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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.09.27
ss

ロレルク。
ルークが幼いころの話です。
一人、部屋の中で夜の嵐に怯える、ルーク。そこに、現れたのは。
ほのぼのとした話ですが、描写として、ファブレ家(使用人含)に少しばかり厳しい表現があります。





窓がガタガタと風に揺れる。雷の音も轟き、時折、窓の外を光が走る。
ルークはベッドの中に潜り込み、キルトに頭まですっぽりと包まり、自分の身体を抱き締めた。幼い小柄な体躯が、カタカタと震える。
窓の外の暗い暗い夜の嵐が、幼子は怖くて仕方なかった。

「…ガ、イィ」

世話係で、いつも自分の面倒を見ている少年を呼ぶ。けれど、使用人であるガイの部屋はルークの部屋から離れているため、震えるか細い声が届くわけもなく。
ゴロゴロゴロ…。
雷が、また音を立てる。
ゴロゴロゴロ。
ピカリ。
ひっ、とルークは息を呑む。

誰かここに来て。誰か助けて。
声にならない悲鳴を上げる。じわりと翡翠の大きな目に涙の膜が張る。
ベッドの中は熱いくらいに温かいはずなのに、恐怖に竦むルークの身体から震えは消えない。

「う、えぇえ」

怖い怖い怖い。
ルークは膝を抱え、ひっく、と泣き出した。喉をしゃくりあげ、ぼろぼろと涙を零す。
それでも、部屋には誰も来ない。誰も気づかない。幼子の不安に。
生まれて本当はまだ二年しか経っていない子どもの不安に、誰一人、気づかない。

「…こんばんは、ルーク」
「?!」

唐突に降ってきた声に、ルークの身体がビクリと跳ねる。聞いたことのない声だった。どきどきと心臓が早鐘を打つ。
そろそろとベッドの中から様子を窺うルークの目に、窓を背に立つ人影が見えた。

「…だれ?」
「我はローレライ。お前を見守る者だよ」
「みま、もる?」
「そう、ルーク。お前を慈しみ、愛する者。それが我だ」

ぱちぱちと瞬き、ルークはローレライと名乗る男を見つめた。男の身体はぼんやりと淡く光って見える。
暗い夜を照らす、柔らかな月の光のように、それは見えた。

「…なんで」
「お前は我が半身。我が愛し子。我にとってお前は我が子そのものだ」

ゆっくりと、ローレライが近寄ってくる。ルークは慌てて、ベッドに潜り、覗かせていた顔をパッ、と隠した。くすくすとローレライが笑う声が聞こえる。
それは、聞き慣れた嘲笑ではなかった。柔らかな優しさで満ちた笑い声だった。
ぽふ、とキルトの上で、ローレライの手が弾む。一定のリズムで跳ねるその手は、ルークをあやすものだった。
ぽんぽん。
優しいリズムが、キルトを通し、身体へと伝わってくる。
染み込んだ恐怖をゆっくりと溶かすように。崩すように。

「何も怖いものなどありはしないよ、愛しい子」

歌うように、ローレライが言う。ルークはそぅ、と顔を覗かせた。
ローレライの肩に長い髪が掛かっているのが見えた。

(おれと…同じ、色)
淡く光るローレライの髪は、朱色をしていた。まるで燃え盛る炎のような髪に、そろそろと手を伸ばす。
細い指先がローレライの髪を掬い、絡む。
熱などありはしないはずなのに、ローレライの髪は仄かに温かく、冷え切っているルークの指先を温めた。
蝋燭に手を翳したように、やんわりとじんわりと。

「耳を澄ましてごらん、ルーク」
「…だって、かみなり」
「雷が怖いのかい?お前が恐れるようなものではないよ。雷も風も雨も、皆、お前を愛し、祝福しこそすれ、お前を傷つけるつもりなどないのだからね」

ス、と差し伸べられた手に、ルークは躊躇いながらも手を重ねる。まだ警戒を止めたわけではないけれど、ローレライが自分を傷つけることはないと、何故かはっきりとルークにはわかった。
ローレライの手や髪、存在そのものが、自分を愛してくれているのだと、幼子は心で悟っていた。
ローレライを取り巻く淡い光も、何もかも。

「さぁ、聞いてご覧。夜の嵐が奏でる音色を」
「……」

手を引かれるまま、ベッドに腰掛けたローレライの腿に腰を下ろし、ルークは窓を見やった。
雷はいまだ光っているし、恐ろしげな唸り声も聞こえてくる。怖いと思ったけれど、ローレライのぬくもりを感じているからだろうか。先ほどまでの不安はない。
変な奴だと思いながら、ルークは目を閉じ、耳を澄ませた。

雷。
雨。
風。

重なり合う音が、ルークの鼓膜を揺らす。
そこに、柔らかな声が加わった。静かに紡がれる歌声が。
豊かなテノールが、自然が奏でる音と出会い、ルークの耳に心地よく響く。
それはルークを魅了し、恐怖はいつしか、遠いものとなっていた。

「そう、それでいいのだ、ルーク」

目を開け、口元に微笑を湛えるローレライを見上げる。ローレライが一つ頷き、ルークの額にキスを落とした。

「何も怖がるものなど、ないだろう?我ら集合体たちは、皆、お前を愛しているのだから」

その中でも特に我が、とぱちん、とローレライがウインクをルークに送り、くすくすと笑う。
優しく腕に抱かれ、ルークはぱちぱちと瞬いた。
こんなふうに抱かれたことなど、初めてな気がする。優しいけれど、力強い腕に、安堵の息がルークの唇から零れ出た。

「可愛いルーク、愛しい子。忘れてはならないよ?」

恐怖で遠ざかっていた眠気が、急速にルークに襲い掛かるのを見て取ったローレライに、ルークはゆっくりとベッドへと戻されながら、首を傾ぐ。
ローレライがルークの身体にキルトを掛けてやりながら、目を三日月に細めた。

「お前は愛されているのだということを」

我らの愛を一身に受ける子なのだということを。
ルークはとろりと瞼が落ちてきた目で、ローレライを見つめた。笑みを刻んだ唇が、また額へと落ちてくる。
おやすみのキスをもらうのも、初めてだ。

「だから、安心してお休み、ルーク。何も不安に思うことなどないのだから」

雷。風。雨。
そのすべてと響きあう、ローレライの声。
本当だ、とルークは口の中で呟いた。本当だ、もう何も怖くない。
すべてが、美しい音色だ。すべてが、優しく愛しい音色だ。
自分を愛してくれる音色だ。

「…うん」

ルークはこくんと頷き、ローレライが子守唄を歌う中、ふにゃりと笑みを零すと眠りの中へと落ちていった。
ローレライが歌う子守唄が見せた夢は、ルークの孤独に冷えた心を包み込むぬくもりの夢だった。


END

 

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