月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ギンルク。で、アシュノエ。
ギンジとルークの二人は並んでるだけで和むと思うのです。
アッシュ捏造でヴァンのもとにいたのは情報を掴むためで、ルークはアッシュにとって弟。
アクゼリュスで助けられなかったことを悔やんでます。
シェリダンには前から顔を出していて、アッシュとギンジ&ノエルは知り合いという裏設定があったり。
注!同行者厳しめ
自分はお人よしなんだろうかと、アッシュは真剣に考え込みながら、コーヒーを啜った。情報交換が必要だったのは事実だし、アルビオールもそろそろメンテナンスが必要であったのは確かとはいえ、ルーク抜きで彼らと会話するなど苦痛でしかないというのに。
ルークに対して自分は甘い、と内心、嘆息する。幼いころから、弟が欲しいと思っていた反動かもしれない。
「…ところで、アッシュ」
「何だ」
「ルークの姿が先ほどから見えないのですが、貴方、ご存知じゃありませんか?」
「さぁな。俺はあいつの保護者でも、護衛でもないからな」
暗にレプリカだとわかろうが、現在の第三王位継承者であるルークを見失ったのは、貴様等の落ち度だと、アッシュは表情一つ変えずに含める。護衛の対象から目を離し、あまつさえ見失うなど、ありえない。
ジェイドが眼鏡を押し上げ、ガイがひくりと頬を引き攣らせた。女性陣は誰もが気づいていないらしく、ルークったら、と呆れているだけのようだが。呆れたいのはこちらだ。
アッシュは事務的に情報を口にし、コーヒーと一緒に頼んだパニーニに手を伸ばし、齧り付く。
ナタリアが離れていた間何をしていたのか、などと話を訊きたがったが、必要最低限の情報しか、アッシュが口にすることはなかった。くだらないおしゃべりに付き合うつもりはない。
(やっぱり、このまま、いっそルークの奴を連れてっちまうか)
だが、そうなると、彼らが乗っているアルビオールのパイロットであるノエルが幾らなんでも可哀想だ。ルークがこちらに来るとなれば、ミュウもついてくるだろう。
この自分勝手な連中ばかりの中に、彼女を一人、置いておくのは気が重い。ルークやミュウという癒しがなくなれば、ただでさえ、あちこち飛びまわされているノエルの疲労はあっという間にピークに達してしまうだろう。
(…まあ、手がねぇわけじゃ、ねぇんだけどな)
問題はナタリアが間違いなくうるさいだろう、ということだ。いや、ナタリアだけではなく、アニスやティアもナタリアの味方をし、騒ぐのは想像に難くない。
それに、ガイもまた、怒り狂うことだろう。ジェイドのほうはわからないが、ルークを憎からず思っているのは確かだ。
彼らをまとめて追い払いたいと、アッシュは熱いコーヒーにミルクを足し、思う。
(どいつもこいつも今更だ)
一度は見捨てておいて、今更、惜しんで手に入れようとするなど、愚の骨頂。不快極まりないだけだ。道具として利用しようとしているようにしか、アッシュには思えない。ヴァンと何の違いがある。
アッシュはチーズがたっぷり入ったパニーニをもぐもぐと咀嚼しながら、案を練る。ルークの幸せ、そして、自分の幸せ。
二兎負うものは一兎も得ずとも言うが、一石二鳥という言葉もある。彼らをどうにでも出来るだけの材料も揃っている。ルークが頷きさえすれば。
(あいつにも説得するよう言っといたが…うまくいくといいんだが)
いい加減、己の我慢にも限界がある。自分の堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だ。もともと、自分は決して気が長い方でもない。
アッシュは店の片隅で、話の邪魔にならぬよう、ケーキを口にしているノエルをちらりと見やった。ノエルもまた、アッシュを窺っていたらしく、視線が一瞬、かち合う。
ふわりとノエルの唇に滲んだ笑みに、アッシュの荒み始めていた心が和んだ。
*
ルークに工具の受け渡しを頼み、ギンジはアルビオールの整備に精を出した。早く終わらせれば、ルークと過ごす時間も増えるが、かといって手を抜くわけには決していかない。それに、アルビオールは大切な相棒だ。
ルークもそれをわかっているからだろう、一生懸命に工具の名称を覚え、今ではギンジが口にする前に、次の工具を差し出してくれるので、ギンジの作業は手際よく進んだ。
「ありがとうございます、ルークさん」
「ううん。ギンジの役に立ててるなら、よかったよ」
嬉しそうに笑うルークに、ギンジの頬も熱くなる。可愛い人だと心から思う。
アッシュさんも眉間に皺を寄せずにこんなふうに笑ったら可愛いのだろうか、とギンジは想像してみようとしたがうまくいかなかった。
アッシュにもルークにも、それぞれの笑い方があるのだから、当たり前かと一人頷く。
(おいら…強くもないし、力もないけど)
ルークには笑っていて欲しいなぁ、とギンジはしみじみ思う。ふと、アッシュの言葉が頭を過ぎる。そして、ティアたちとともにいるときのルークの顔も。
彼らとともにいるときのルークの顔には、いつだって憂いが覗いている。笑顔ですら、哀しそうで、無理をしているように見えるのだ。
それが、ギンジには辛い。妹のノエルも、あんなルークさんを見ているのは辛い、と唇を噛んで俯いていた。
「あの…ルークさん」
「ん?次はどれ使うんだ?」
「いえ、そうじゃなくて。おいら、ルークさんに話があって」
「話…?」
工具を置き、アルビオールのエンジンから離れると、ギンジは軍手を取り、ルークと向き合った。翡翠の目が不思議そうに自分を見つめている。
風に靡く朱色の髪が、綺麗だった。ギンジの灰銀の髪も、風に緩やかに靡く。
「アッシュさんからも、聞いてると思うんですけど」
「…ああ、ティアたちの罪を陛下たちに訴えるってやつだろ。でもさ、あれは俺が…俺の態度が悪かったからだし、それに、俺がアクゼリュスを、落としたから…」
俯き、目を伏せるルークの肩をぐ、と掴む。ルークの肩が、手の下でぴくりと跳ねた。
「おいらは以前のルークさんを知らないけど、昔っからルークさんが優しい人だってことはわかってます」
「俺、優しくなんか…」
「そんなことないッス。人間の根っこみたいなものは、どんなに変わったって言ったって、変わらないもんです」
「……」
「それに、アクゼリュスのことだって、おいらはアッシュさんから聞いただけでその場にはいなかったけど、ルークさんやみなさんの話聞いてれば、おかしいってことくらい、わかる。ルークさんがまったく悪くないなんて言えないけど、本当に悪いのが誰かなんて子どもにだってわかるッス」
アクゼリュス前、ルークは孤立していたのだと、アッシュが悔しげに言っていたことを思い出す。ヴァンを欺くために、側にいるわけにはいかなかったけれど、側にいてやればよかった、と。そうしたら、ルークは、と。
ルークにはあのとき、ヴァンしかいなかったのだと、アッシュは言っていた。ヴァンを信じ、従ったのも当然のこと。その上、暗示も掛けられていたようだとも。
ギンジは俯いたまま、顔をあげないルークを不器用な手でおずおずと抱き寄せた。ルークの頭が、ぽす、と肩先に埋まる。
温かい身体だった。
「おいらには戦う力はないけど…でも、ルークさんの翼にはなれる。アルビオールをルークさんのために、飛ばしたい」
「…ノエルは、どうすんだよ」
「おいらとノエル、交換ってのはどうッスかね。ノエルとアッシュさんは、その…」
「うん、知ってる。…だけど、さ」
きゅ、とルークがギンジのジャケットを掴み、ゆっくりと息を吐いた。溜め込んできた何かを吐き出すように。
ゆるゆるとギンジに向かって上がった翡翠には、決意と不安が渦巻いていた。
「でも、俺の我が侭なんじぇねぇのかって思っちまうんだ。ティアたちの罪を明らかにして、降下作戦から外すのってさ。ギンジと一緒にいたいって、そう思う、俺の」
「罪は裁かれるものッスよ。そのままなんて、そのほうがおいらは許せないッス。ルークさんだって、罪を償うためにも、今、こうして世界を回ってるんじゃないッスか」
それなのに、彼らだけ、いつまでも己の罪を理解せず、自覚もせず、ルークにばかり罪の意識を自覚させ続けるなんて、間違っている。
ギンジはルークの背を、励ますように軽く叩く。
「もし、ティアさんたちに何を言われたとしても、おいらだけはルークさんの味方ッス。…あ、いや、アッシュさんやノエルもッスけど」
照れくさそうな笑みを零し、ルークの頭を撫でる。ルークがくしゃりと顔を歪め、ギンジの背に腕を回し、しっかりとしがみ付いてきた。
今更ながらにエンジンを弄っていたことを思い出し、ギンジは焦る。
「油くさくないッスか?」
「…ギンジの匂いって感じだから、いい」
油の匂いが自分の匂いというのは、喜ぶべきか、泣くべきか。
何にせよ、ルークが安心したように目を細めているから、まあ、いいかとギンジは笑って、ルークを抱き締めた。
END