月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
2008.09.25
短編
アシュルク。
常に渇きを覚えているアッシュの話。
シリアスで始まってますが…基本的には軽いノリかと。
時間軸としては、アッシュとルークが会ったタルタロスになります。
注!ティア&ジェイド厳しめ
アシュルク。
常に渇きを覚えているアッシュの話。
シリアスで始まってますが…基本的には軽いノリかと。
時間軸としては、アッシュとルークが会ったタルタロスになります。
注!ティア&ジェイド厳しめ
ディストが調剤したカプセルを口に入れる。飲むときは水やぬるま湯で、と言われてはいるが、水を出す手間を惜しみ、アッシュは唾液だけでそれを飲み込んだ。
喉に違和感が残るが、それもすぐに消える。
導師イオンを取り戻して来い、とモースの指示で向かわされたタルタロスの操舵室の上で髪をばさりと靡かせたアッシュの口から、ため息が零れた。
年々、渇きが酷くなっていく。ディストの薬も、効きが悪くなってきていた。
自分はいつまで、渇き続けなければならないのだろう。
七年前、ヴァンに攫われ、レプリカ情報を抜かれてからというもの、アッシュは酷い渇きに悩まされてきた。始めのころは喉の渇きだと思い、水を腹が膨れるほどに飲んでいたが、それでも渇きが癒されることはなく、喉ではなく、身体が渇いているのだと、アッシュは気づいた。
耐え難い渇きに憔悴し始めたアッシュを、ヴァンはディストに調べさせた。おそらく、レプリカ情報を抜いたことで、音素が欠乏しているのだろう、とディストは結論を出した。それが渇きとしてアッシュには認識されているのだろう、と。
そして、音素を補う薬をアッシュは渡されてきたのだが、それでも、渇きは疼きのように、常にアッシュに付き纏ってきた。
今も、耐え難い渇きにディストの薬を飲んだところだ。この渇きはもう一生、癒されることはないのかと、時折、叫びだしたくなるほどの絶望に襲われる。
そのたびに、ヴァンがそれもレプリカのせいだと吹き込んできたが、渇きに耐えるアッシュには、そうとは思えなかった。
原因はレプリカ情報を抜いたことにあるのだ。ならば、レプリカを作り出すため、情報を抜いたヴァンにこそ咎はある。
この渇きはすべて貴様のせいじゃないかと、アッシュはヴァンへと怒りを募らせてきた。
だが、それでもヴァンのもとを逃げ出し、キムラスカへと帰らなかったのは、薬のためだ。ただ一人、薬の配合を知っているディストは、ヴァンの下についていて、今のところ、寝返るつもりはないらしい。
一度、ディストの薬を飲まずにどこまで身体が持つか試したことがあるが、一日ももたなかった。薬で軽減してきた渇きは、もう薬なしではどうにもならなかったのだ。
薬を持ち出し、ファブレ家の領地であるベルケンドで調べさせ、同じものを作らせることも考えたのだが、ヴァンはディストにきつく命じ、薬をすべて自分が管理するものとしてしまった。
アッシュは薬が必要となれば、ヴァンから直接もらわねばならないのである。
任務でヴァンから離れることがあれば、そのときはヴァンの息が掛かった副官やリグレットから、同じように一錠ずつ渡される。余分な薬を手に入れることが出来ず、アッシュは渇きに耐え、ヴァンへと憎悪を滾らせながら、今まで生きてきた。
「…くそ」
薬以外にこの渇きを癒す術さえ見つかれば、ヴァンから今すぐにでも離反してやるというのに。自分は一生、この渇きに悩まされながら、ヴァンに飼い殺しにされ続けるのだろうか。
ふ、とアッシュは視線を遥か地上へと落とす。このままここから落ちたら、そんな悩みともおさらばだな、と自嘲めいた笑みが、仮面で隠した口元に滲む。
疲れた、とため息混じりに呟く。
「……ん?」
走りこんでくる足音がし、アッシュは視線を向けた。見れば、神託の盾騎士団の軍服を着た髪の長い女と、マルクト軍服を着た同じく髪の長い眼鏡の男が駆け込んでくる。
神託の盾騎士団の女が何故、マルクト軍人と一緒なのかと眉を顰め、様子を窺っていれば、彼らは操舵室前の見張りを、音律師であるらしい女が歌う譜歌によって眠らせると、一行の最後にいた朱色の髪の少年を一人、操舵室の前に残し、中へと姿を消していった。
アッシュの視線は、迷いなく、朱色に向かった。
「…あれは」
まさか、と息を呑む。だが、間違いない。あの朱色の髪はキムラスカの王族の証。そして、あの年頃で王族の証を持つ者と言えば、ただ一人。
──ルーク・フォン・ファブレだけだ。
本物か、とアッシュはルークを凝視する。髪の色は違うが、自分とよく似た顔立ち。それにあの上質の服。よく見れば、ボタンにはファブレの紋章が刻まれている。どうやら本物らしい。
そういえば、リグレットから、レプリカルークをティアが外へと連れ出したらしいが、見つけても決して害するな、と言われた気がする。
薬をもらうことしか考えていなかったので、すっかり聞き流していたが。
では、さきほどの女がヴァンの妹か、と一人ごちる。公爵邸にいたヴァンを襲ったらしいが、それはつまり公爵邸を襲撃したことになるのではないのか。その上、子息も誘拐。どう控えめに考えても第一級の犯罪者のはずだが、何故、自由の身でマルクト軍人といたのだろう。
もしかして、ティア・グランツは裏でマルクトと手を結んでいて、ルークを誘拐し、和平を有利に進めるために人質にでもするつもりなのだろうか。
『聖なる焔の光』を失うわけにはいかないキムラスカは、ルークを取り戻すためなら、どんな無茶な要求も呑むだろう。どうせ、預言ではマルクトは滅亡するのだと詠まれているのだからと。
(だとしても、可笑しな話か…)
ルークが操舵室前に残されたのは、おそらく、見張りとしてだ。だが、公爵子息であっても、人質としてであっても、目を離すことなど普通はありえない。
まさか、ルークの素性がわかっていないとでもいうのだろうか。それも可笑しな話だ。赤い髪、翡翠の目はキムラスカ王族の証なのだから。
あの女もあの男も何を考えているのかさっぱりわからない。アッシュはそれ以上、理解できない行動を取る二人を、考えても無駄だとばかりに頭から追い出し、ルークへと意識を戻した。
(あれが、俺の…レプリカ)
コーラル城で一度だけ出会ったレプリカの姿を思い出す。ガラス球のような目をし、くったりと力の入れ方を知らぬ身体を冷たい石の床に横たわらせていた姿を。
チーグルの子どもとじゃれあう姿は、あのときの姿とは重ならない。七年の間に、ずいぶんと表情豊かになったものだ。
七年間、苦労しただろうな、とアッシュは隠れてルークを見つめながら、思う。ルークには同じくレプリカである、導師イオンやシンクと違い、何の刷り込みもされていなかったはずだ。十歳の子どもの姿をしながらも、彼の精神は赤ん坊そのものだったはず。
自分が渇きに苦しんできた間、きっと彼にも苦悩があったはずだ。人は他人を外見で判断しがちだ。となれば、彼もまた、見た目の年齢に相応しいだけの能力を求められてきたことだろう。まして、記憶喪失として扱われていたなら、なおさらだ。
「!」
ルークを感慨深く見つめていたアッシュは、慌てて、立ち上がった。ルークが振り回していたチーグルの子が、炎を吐き出し、それが眠っていた神託の盾兵に当たったのだ。
熱さで飛び起きた神託の盾兵が、ルークへと剣を向ける。ヒッ、と声をあげ、顔から血の気が引き、怯えきったルークが後ずさった。振り上げられた剣は、幸い、ルークが背後へとよろけたせいで逸れ、ルークの手の甲を僅かに切りつけるだけに留まった。
アッシュは、再び、剣がルークへと迫る前にと飛び出し、剣の腹で神託の盾兵の頭を強く叩いた。ガイン、と兜が音を立て、男の頭も大きく揺れる。
脳震盪を起こしたらしい兵は、そのまま、がくりと膝を着き、気を失った。
「大丈夫か?」
「あ…」
腰が抜けたように座り込み、がちがちとルークが歯を鳴らす。確か、ルークは七年間、屋敷に軟禁されてきたはず。ならば、こんな血生臭いものとは無縁の生活だっただろう。自分がかつてそうであったように。
怯えて当然だ、とアッシュはルークを少しでも安心させようと、努めて優しい声を出しながら、ルークの前に膝を着いた。
「怖かったな。だが、もう大丈夫だ」
「…お前、敵じゃ、ねぇのかよ」
「……もっともな質問だが、俺の敵はあくまで導師イオンを攫ったマルクト軍だ。お前はマルクト人でも、軍人でもないだろう?」
こくん、と頷くルークの目から、一粒、涙が零れ落ちる。ハッとした顔で慌てて、涙を拭う姿に苦笑しつつも、アッシュは何も言わなかった。
ルークが涙を見られたことを恥じていることが、すぐにわかったからだ。からかうようなことではない。まだルークは七歳の子どもなのだ。怖くて泣き出したとしても、それは仕方のないこと。
むしろ、大声で泣き出さないのを褒めてやりたいくらいだ。
「…血が出てるな」
「え?…あ、別に、こんなんたいした傷じゃ…」
剣の切っ先が掠めたルークの手を取る。白い手に一筋の赤い線。
線からはぷくりと幾つもの血の玉が吹き出ている。
血を見て、痛みを自覚したのか、ルークの眉がきゅ、と寄った。
「すまない、第七音素の素養はあるんだが、コントロールが苦手でな…。治癒術が使えないんだ」
「お前が謝るようなことじゃねぇだろ。…その、助けてくれた、みてぇだし」
「ご主人さまを助けてくれてありがとうですの!」
素直にお礼を言えない主人に代わるように、大きな耳を振り、ぺこん、と頭を下げるチーグルに頷き、アッシュはポケットから大きなハンカチを一枚、取り出した。包帯代わりにもなるからと、いつでも持ち歩くようにしているものだ。
他にも、軟膏があったはず。消毒薬までは持ち歩いていないが。
ポケットを漁り、軟膏を探すアッシュの鼻腔を、何か甘い香りが擽った。
「……?」
何の匂いだと、鼻を引くつかせる。今まで嗅いだことのない匂いだ。
探るうちに、アッシュを渇きが襲った。
「…ッ」
今までにない激しい渇きに、唾を飲む。つい先ほど、薬を飲んだばかりだというのに。いつもならば、夕方まではもつはずだ。
思わず、ルークの手首を持つ手に、力が篭る。
脂汗がアッシュの頬を滑り、顎の先から滴った。
「ど、どうしたんだよ…?」
カタカタと震えだしたアッシュの仮面に隠した顔を、訝しげに、気遣うようにルークが覗き込んでくる。顔を見られるわけにはいかないと、アッシュは深く俯きながら、首を振った。
大丈夫だ、と低く呻く。どこが大丈夫なんだよ、とルークが叫び、手をアッシュの仮面に伸ばしてきた。
それは、血の滲む方の手だった。
「……」
どくん、とアッシュは己の心臓が跳ねる音を聞いた気がし。
「何…」
気づけば、戸惑うルークの手を取り、傷口に唇を押し付けていた。
小さく声を上げるルークの手首を逃がすまいと引き寄せる。
浅く切られた傷口を押し広げるように舌を這わせ、ぴちゃぴちゃと舐め取る。じわじわと滲み出てくるルークの血は、甘露のようにアッシュの舌に広がった。
もっと欲しい。これが欲しい。これこそが欲しい。
自分が求めていたものはこれだ。
間違えようのない甘さが、身体に染みていく。
ぎりり、と薄い皮膚に歯を立て、血を絞り取る。
もっと、もっと、もっと。
まだ、足りない。
七年の渇きを癒すには、まだ…!
「うあ…っ、っ、やめ…ッ」
痛い、と喚くルークに、アッシュは頬を殴られた。弾みで仮面が落ち、ルークの手から口を離す。
ハッと我に返ったアッシュが見たのは、痛みと唐突なアッシュの行動に恐怖を覚え、翡翠の目を潤ませるルークの顔だった。
水分過多の目から、次から次へと涙が零れ落ちてくる。命の危険から救われたと思った矢先、その救った人間から与えられた恐怖に耐え切れなくなったらしい。
「なん…何なんだよ、お前…ッ!」
「あ、いや…その、すまない…ッ」
怖がらせるつもりなどなかった。自分も、何故、こんな真似をしてしまったのかと、不思議でならない。
欲しくて仕方なくなったとしか、言えない。
ルークの血の匂いを嗅いだ途端、理性が飛んでしまった。
言い訳も出来ないと、アッシュは額が床につかんばかりに頭を下げた。
「渇きに襲われて…それで…」
何を言ったところで、きっと理解してもらえまいと思いながらも、続けたところで、はた、と気づく。あれほど激しかった渇きが消えている。
口の中に残るルークの血が残る唾液を、アッシュはごくりと飲み込んだ。七年もの間、あれほど自分を苛んだ渇きが消え、心が身体が満たされていく。
「それに、その、顔」
何で、俺にそっくりなんだよ、とルークが呻く前に、アッシュは顔を上げた。その顔には、知らず知らず、満面の笑み。
ルークの頬がひくりと引き攣り、少しでもアッシュから離れようとするように身体を引いた。
「な、なんだよ」
「そうだったのか」
「は?」
明らかに声にも顔にも怯えの混じるルークに構わず、アッシュは一人、渇きから解放された喜びに浸る。この日をどれほど待ちわびたことか。
ルークこそ、自分の救い主だ。
「少し考えてみれば、わかることだったな…。俺に足りなかったのは、お前だったんだ」
「意味わかんぬぇーよ!」
「つまりだ、ルーク」
ガシ、とルークの肩を両手で掴む。怯えきったルークが悲鳴を上げたが、アッシュにルークを逃がす気はなかった。
離すものかと、笑みを深める。自分にはルークが必要だ。
ルークという、この半身が誰よりも。
「俺にはお前が必要だということだ」
「……意味わかんねぇ」
「わからなくてもいい。俺はこれから先、お前から離れない」
「はぁ?!冗談じゃ…ッ」
「俺のすべてを懸けて、お前を守るためにな」
ぽかん、とルークが呆け、ミュウが意味は理解出来ていないのだろうが、主人を守るというアッシュを歓迎する声を上げ。騒ぎをようやく聞きつけたジェイドたちが操舵室から出てきたときには、アッシュはただ一人、ヴァンから離反し、自分を癒すことが出来るルークを失わないため、守るためにも、側にい続ける決意を固めていた。
(そのためには…)
何とかして、ルークに自分が怖くないと安心させ、どうにかして血をもらえるようにしないとな、とアッシュを不審に思い、警戒して気を尖らせているルークを見つめ、考えながら。
END
恋愛感情は今のところ芽生えてませんが、必要なんだ!と言われてるうちにルーク、絆されそうかと。
アッシュもルークの血が欲しいから始まって世話を焼いてるうちに文字通りルークがいないと生きていけなくなればいいと思います。
吸血鬼パラレルが書きたいな、と思い、だったら、レプリカネビリムみたいに音素が足りなくて、でもいいかもしれない…と思って書いた話だったんですが、ルークがいろんな意味で大変だ…(苦笑)
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