月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
フリ←ルク。
前提というか、アッシュとルークは二人で逆行してます。
お兄ちゃんなアッシュはルーク溺愛でファブレ家やらいろいろ手を回して、ルークにとって住みやすい家に仕上げてます。
ナタリアもアッシュが側にいるため、感化されて立派な王女様。アッシュと同じくルーク愛。
キムラスカ捏造ですよ。
ちなみにガイの登場がないのは、アッシュが追い出したからです。ルークに何かあってからじゃ遅い!ってことで。
ティアが襲撃に来たり、ジェイドが名代だったりまでは本編どおり。
名代は早々に変更入るので、それ以降の話ですー。
注!ティア&ジェイドに厳しめ
縋れたら、よかったのに。
ルークは前を行き、ルークが乗る馬を引くアスランの背に、目を伏せる。きゅ、と唇を噛む。
あの背に、縋りたい。
(アスラン、さん)
心の内で、名前を呼ぶ。
聞こえるわけがないと知りながら、何度も。
届かないからこそ、何度も。
モースがキムラスカとマルクトの間に戦争が起こるよう用意した、キムラスカの兵士を装わせたレプリカの軍勢に襲われ、殺されてしまった、アスラン・フリングスの顔が脳裏に蘇る。
腕の中で冷えていく、重くなっていく、アスランの身体。
ジョゼット、と結婚を目前にした恋人の名を呼んでいたアスランの声。
今度こそ、戻ってきてしまったこの時の中では死なせたくないと、ルークは拳を固める。
今度こそ、ジョゼット・セシルと幸せな人生を歩んで欲しいと、そう思っている。
思っている、のに。
(なん、で、こんな)
こんなに胸が痛いんだろう。
こんなに切ない、んだろう。
ともに戻ってきて、対外的にはルークの兄として、キムラスカのファブレ公爵邸でルークの帰りを待っているアッシュの協力もあり、和平を申し込む相手国の第三王位継承者へのありえない行動の数々──不敬や前衛の強要、和平協力という名の脅しなど──がルークに報告を参考に抗議文にしたためられ、浮き彫りになったジェイドと早々に交代となった、現和平の名代は、アスランだった。
アスランは、当然のことではあるが、決してルークを戦わせるような真似もしなければ、ルークとイオンを徒歩で進めさせるような真似もしなかった。
用意された二頭の馬に、ルークとイオンがそれぞれ乗り、ルークの馬はアスランが、イオンの馬は他のマルクト兵が引いている。その隣を導師守護役であるアニスが歩いている。
公爵邸襲撃犯であり、誘拐犯でもあるティアは、猿轡を嵌められ、両手を縛られた上で引き摺られるように背後を歩いている。
時折、恨めしげな視線がルークへと向けられたが、ルークはそれに気づかないフリを決め込んでいた。
(どうかしてるんだ、俺)
キムラスカへと距離が近づくにつれ、重くなっていく己の心。
キムラスカにつけば、アスランはジョゼットと出会うことになるだろう。
そして、きっと、また。…また、二人は。
馬の手綱を持つ手に、ぎゅ、と力が篭る。
(セシル少将にだって、幸せになって欲しいって思ってるのに)
なのに、どうして、アスランを会わせたくないと思ってしまうのか。
その御髪は目立ちますからと、アスランが被せてくれたフードの下で、ルークは顔を歪める。答えなんて、わかりきっている。
アスランのことが──好きだからだ。
今も、…前のときも。
馬が歩く振動で、身体を揺すりながら、ルークは胸を押さえた。
苦しい。苦しい、苦しい。
この苦しみを封じることが出来ればいいのに。忘れることが出来ればいいのに。
「ルーク様、どうかなされましたか?お疲れになられましたか」
気遣わしげなアスランの声に、ハッと顔を上げる。馬を引く足を止め、アスランが自分を見ていた。
寄せられた眉は、心配の証。
ルークは慌てて首を振り、大丈夫だと力なく笑った。
「そうですか…?でも、このあたりで少し休憩を取りましょう。導師イオンもお疲れのご様子ですから」
にこりと笑み、ルークが馬を下りるのを手伝うべく、手を差し伸べてくれたアスランに、素直にこくりと頷く。
ちら、と見やったイオンの顔色が悪くなっていたからだ。
アスランの手に自分の手を重ねる。温かい手のひらに、つきん、とルークの胸が棘が刺さったように痛む。
優しい笑みも、胸に痛い。今は自分だけに向けられているアスランの笑みだけれど、この笑みは、いつジョゼットへと向くのだろう。
自分だけに向けてくれたらいいのにと願う自分を、ルークは浅ましいと叱咤した。
「ありがとう、アスランさん」
「いいえ。大丈夫ですか?」
「ん、平気」
優しい笑み。優しい視線。優しい声。
温かな、手。
全部全部、俺だけのものだったら、いいのに。
アスランを失い、悲しみに暮れるジョゼットの涙が、ルークの瞼の裏を過ぎる。
ダメだ、と内心、首を振る。
今度こそ、この二人には幸せに、…なって、欲しい。
(だから、忘れる、んだ)
アスランさんが好きなことを。
アスランさんの優しい笑顔を。
忘れて、しまおう。
泣き出さないよう、必死になりながら、ルークはアスランに微笑んだ。
キムラスカに着いたら、アッシュに背中を借りて、わんわん声を上げて泣こうと思いながら。
END