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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.07.26
ss

アニス捏造ネタより。ルクアニ。
ルークはスレルク。
アニスはイオンから決して離れないため、タルタロス襲撃後も一緒です。
親書はジェイド所持。

注!同行者厳しめ






「初めまして、エスタン」

フードですっぽりと頭を隠した男は、そう言った。あんたに会いたかったんだ、と嬉しげに微笑んで。
フードの下から覗く翠の目。エスタンの目を通して、あの目を見た瞬間から、自分と彼との切っても切れない縁とやらが出来てしまっていたのだろう。





宿の一室、イオンを寝かしつけたところで、部屋のドアを控えめにノックする音がした。なるべく音を立てないよう、そっと開ければ、朱色の髪。
ああ、とアニスは小さく呻き、トクナガをイオンの側に待機させると、身体をドアから滑らせた。これでもしイオンに誰か不貞の輩が近づいたとしても、意識の一部をトクナガと通じているため、即座にトクナガを動かせる。

「ご用ですか、ルーク様」
「ああ、いろいろ聞いておきたくてな、エスタン」

にこり。ルークの笑顔は華やかだ。無邪気にすら見えるのだから、恐ろしい。
本当に邪気のない笑みを浮かべるイオンの笑みを毎日見ている自分ですら、間違えそうになるくらいだから、他の人間たちがあっさりと騙されるのも納得できる。
中には、ティアやジェイドたちのように、ルークの無邪気な笑顔を無知な者の笑顔と捉え、嘲る愚か者もいる。彼らは己が何をしでかしているかわかっているのだろうか。
相手はキムラスカの第三王位継承者だというのに。

「隣、空き部屋だろ」
「でも、鍵は…?」
「ん」

ちゃり、と指先で摘んだ部屋番号の札がついた鍵を揺らすルークに、アニスは苦笑する。さすが。一体、いつのまに手に入れたのやら。
空き部屋の中でも隣の部屋を選んだのは、自分への配慮だろうか。イオンの側を離れるわけにはいかない自分への。
促されるままに、アニスはルークに続き、空き部屋へと踏み込んだ。掃除が行き届いているらしく、シーツも真っ白だ。埃くさくもない。
月明かりが窓から差込み、十分に明るい。

「で、何を聞きたいんですか?」
「とりあえず、モースはどうしてる?」
「キムラスカにまだいます。インゴベルト王と結託して、ルーク様をアクゼリュスに送って、戦争が始まるまで居座るつもりだと思いますよぉ。再就職を狙ってるって噂もありますけど」
「キムラスカの大臣にでもなるつもりか?」
「繁栄を詠まれてますから、ダアトで大詠師やってるよりも、金になるって思ってるんじゃないですか?第七音素の素養がないから、どう頑張っても導師にはなれないですし」

秘預言の内容を教えたモースは、繁栄を目指すキムラスカにとって恩人となる。その立場を利用すれば、楽をして大臣職を手に入れ、将来安泰だ。
預言も成就されるし、自分の将来も繁栄するとなれば、モースにとっては一石二鳥だろう。二兎追う者は一兎も得ずとも言うけどね、とアニスはつまらなそうに鼻を鳴らしているルークを見、思う。

「気に入らねぇなぁ。別にあの愚王がどうなろうがどうでもいいけど、とばっちり受けるのは国民だからな」
「そうですよねぇ。っていうかぁ、エンゲーブを手に入れられたところで、農業知らない人間がやっていけると思ってるんですかね?」
「思ってんじゃねぇの。馬鹿だから」

ルークと揃って肩を竦める。エンゲーブの作物に食糧を頼っているというのに、マルクトを滅ぼそうなどと思うなんてどうかしている。預言に踊らされている人間というのは、どうしてこう浅はかなのだろう。己で考えることを放棄しているようにしか思えない。
確かに、預言に従って生きるのは楽だ。けれど、不幸が詠まれていてなお、従う人間の気持ちは理解出来ない。
実際、奈落一歩手前まで行った自分にしてみれば、なおのこと。

「戦争なんか起こさせるかよ」
「ルーク様…」
「ジェイドみてぇな奴がどうなったって構わねぇけど、戦争で死ぬのは軍人だけじゃねぇ。戦う術を持たない弱者こそが犠牲になる。冗談じゃねぇよ」

ルークは自分にも他人にも厳しい。けれど、自分に負けず劣らず、お人よしだとも、アニスは思う。きっとディストやアリエッタ、シンクのこともルークは気に入るだろう。自分がそうであるように。

(似たもの同士だもんね、私たち)
優しいけれど、弱く、他人に搾取されるような者たちを、見捨てておけないところが、よく似ている。イオンへのぶっきら棒な優しさを見ていても、よくわかる。
もちろん、わからない人間もいる。ティアが特にそうだ。表面的なものしか見ない彼女は、ルークを傲慢だと決め付け、ルークのイオンへの気遣いを無にしている。
たかだか一兵に過ぎない身でありながら、堂々とルークを侮り、命じる様に、アニスは何度、ティアを縛り上げようと思ったかわかったものではない。己の実力不足を棚に上げ、前衛として自分を守れだなんて、よく言えたものだと、同じ軍人として恥ずかしい。
それはジェイドにも、ルークが戦うことを止めようともしないガイにも言えることだ。ルークの意志を尊重して?馬鹿馬鹿しい。
彼らは己の実力不足をさらけ出しているだけだ。民間人に頼らなければならないなんて、軍人としてあるまじき行為だ。

今までの戦闘はすべてアニス一人で行っているに近かった。トクナガに切り込ませ、その背後で譜術を唱えて、敵を砕いてきたアニスの疲労は、重い。
いっそ、他の導師守護役を呼び寄せようかと思ったほどだが、モースに動きが知られれば、イオンを危険に晒すことになる。それに、導師守護役のほとんどにモースの息が掛かっている。
まったく、ジェイドがセントビナーで兵を補給していてくれれば。他国のことで、機密と言われてしまえば、自分が口を出すわけにはいかなかったのが、口惜しい。
タルタロスを襲撃されたのも、ジェイドのミスだと言えた。そもそもあんなもので移動すること事態、アニスは反対だったのだ。目立つに決まっているのに。
嫌な予感を抱いていれば、案の定、マルクト内のダアトの教会から、タルタロスの情報が漏れたと、シンクから知らされた。教会の人間にとって、導師イオン奪還のためと言われてしまえば、情報を提供するのは当たり前のことである。

(早くティアだけでも追い払えないかなぁ)
ルークへの不敬罪だけでも懲役確定だが、公爵邸襲撃と誘拐の罪で死刑に出来る。これまでは、ユリアの子孫だからと、イオンもローレライ教団のイメージのため、庇い立ててきたが、やっと限界を感じてくれたらしい。
最近では、ティアがルークに不敬を働くたびに、表情を曇らせ、重いため息を零している。キムラスカに着き次第、身柄拘束の許可を出し、以降、ダアトは一切関わらないものとすることに決めているからだ。
心優しいイオンには、重い決断だろう。だが、教団のためにはどうするべきか。それをアニスやアリエッタから二年の間、叩き込まれてきたイオンは、優しいだけではなく、厳しさも併せ持つようになってきていた。
ダアトに戻ったら、イオンの好きなケーキを作ってやろうと、アニスは心に決める。少しでもイオンを励ますために、ディストやアリエッタ、シンクも呼んでお茶会をするのだ。
きっとイオンの心を慰めることが出来るはずだ。

「あとは何か?」
「アクゼリュスの状況は?」
「瘴気障害を起こしている者も大勢います。限界だと思いますよぉ」
「そうか」

深刻な表情で俯くルークに、アニスは目を伏せる。親書の内容を、アニスは知っていた。
細い細い紙人形を封筒に滑り込ませ、親書の内容を盗み見たからだ。文字が近すぎて、解読するのに時間は掛かったが。
キムラスカはジェイドが親書を届け次第、ルークをアクゼリュスへと送るだろう。不自然なまでの速さで。

「…行くんですか?」
「当たり前だろ。そして、生き残る」
「……」
「俺だけじゃない。俺の被験者も、生き残らせる」

預言のままに死んでたまるか。
ルークが口の端を吊り上げ、笑う。翡翠の目に剣呑は光が過ぎった。

「俺の人生は俺が決める」

強いな、とアニスは思う。ルークは強い。
己の意志で立ち、己の思うままに力を振るう術を知っている。

(私もそうありたいな)
強くありたい。失わずに済むように。
守りたいと思うものを、守れるように。
そのためならば、どんな地獄も見る覚悟が出来ている。
エスタン・ラティニ。自身の分身の平凡な青年を象った人形。
『彼』や今まで作った多くの人形たちとともに垣間見た、この世界には地獄が溢れていた。
これからも、地獄を見続けることになるのだろう、とアニスは小さく笑った。覚悟は出来ている。

「ええと、用件は終わりですかぁ?それじゃ、アニスちゃんは戻りますね!」
「ダメ」
「へ?」

何、と思ったときには、アニスの小柄な身体は抱き上げられ、ベッドにぽすんっ、と下ろされた。
呆気に取られ、ルークを見やる。翡翠の目が、悪戯めいて煌いた。

「ルーク様?」
「お前、今日はここで寝ろ」
「ええっ、ダメですよ。イオン様のお側にいないと!」
「アニス、お前、俺を誰だと思ってるんだ」

にやりと歪んだルークの唇に、目を瞠る。くしゃりと頭を撫でられ、アニスは困惑に視線を揺らした。

「イオンのことなら心配いらねぇよ。俺が守ってやる」
「で、でも…」
「いいから寝ろ。そんなふらふらの身体でキムラスカまでもつと思ってんのか」

あ、と息を呑む。気づかれていたなんて、思わなかった。
うう、と呻けば、バーカ、と屈託なくルークが笑った。相手を騙すときに浮かべるのではない、心からの笑みに、アニスは吐息する。
きっとここが空き部屋だというのは、嘘に違いない。ルークが取っておいてくれたのだ。自分の、ために。

(困るよ…)
こんなのは困る。甘やかされることには、慣れていないのに。
甘やかされることに慣れたくないのに。
けれど、ルークの手は温かくて、優しくて。

「おやすみ、アニス」

両の瞼に降ってきた唇に、アニスは顔を真っ赤にし、目を強く閉じた。
ルークが喉奥で笑う声が、月光に照らされる中、聞こえた。


END

 

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