月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
『陽だまり』の後日談です。
アッシュとイオンとルクノエと、それぞれの『陽だまり』。
シンクやアリエッタやディストも後日談もちょこっと。
注!同行者厳しめ
タルタロス級の陸艦が、キムラスカ、マルクトともに同数、配備されたように、アルビオールもまた、マルクトにも配備されることとなった。飛行譜業は驚異的な武器ともなりうる。今回の配備は、両国の武力に差をつけないためと、キムラスカの国庫回復のためという目的で行われた。
陸艦と違い、ダアトでも同じく配備されることとなった、完成したばかりの緑を基調とし、ローレライ教団の紋章が描かれた三号機を窓から見下ろし、イオンがふふ、と笑った。
「何だ、イオン。楽しそうだな」
イオンの隣に立つアッシュもまた微笑を浮かべながら、首を傾ぐ。二人しかいない部屋で、気兼ねなく、偽りのない笑みを零しながら、イオンがアッシュを見上げた。
アッシュはあどけない表情を浮かべるイオンに、温かな目を向ける。
「改めて思ってたんです」
「ん?」
「すべてが無事に終わったんだな、と」
よかったですよね。
にこにこ笑うイオンに、そうだな、と頷く。まったく、ここまでうまくいくとは思わなかった。
パッセージリングの起動は、ユリアの直系の子孫ではなくとも、可能だった。もっとも、あまりに受け継いだ血が薄い者は起動させることが出来ない者もいたので、三人、起動させることが出来る者が集まったのは幸いであったと言っていい。
おかげで、パッセージリング起動の際、瘴気を取り込むことになることが判明しても、それぞれの症状は軽く済んだからだ。多くのパッセージリングの起動を、囚人であるヴァンに罰として行わせたことも、今回のユリアの血を引く協力者たちの負担が少なくすませることが出来た要因だ。
一番、懸念されていたイオンの負担も、当初、考えられていたよりも軽くすませることが出来た。預言者としての能力はイオンに劣るものの、ダアト式譜術を使うことが出来るシンクに、イオンがダアト式封咒を解除する術を教えたからである。
効率も上がり、イオンはアッシュやギンジとともに、シンクはノアやノエルとともに外郭大地降下作戦に奔走した。邪魔はほとんどなかったが、魔物や創世暦次代の譜業兵器が番人として立ちはだかった場合は、イオン一行はアッシュやマルクトとキムラスカから派遣されたアスラン・フリングスらが撃退し、シンク一行は、ノアがほとんど一人で片付けた。ノエルが待つアルビオールに魔物であろうと、兵器であろうと、近づけさせないため、圧倒的な力で。
シェリダンで燻っているのは惜しい、と同行したキムラスカの将軍、ジョゼット・セシルが軍隊に入らないかと声を掛けたらしいが、ノアはやんわりと、だがきっぱりと断ったらしい。
アスランから「貴方方はご兄弟揃って腕が立つのですね」と褒め言葉とともに、その話を聞かされたアッシュは、苦笑するしかなかった。
作戦の道中、ノアはシンクに自分もまたレプリカであることをこっそりと教えたらしい。
自由気侭に生きるノアと、ノアがレプリカと知っても平然と受け止めた恋人であるノエルを見ているうちに、シンクも自身だけの道を生きていこうと思うようになったとのことだ。
「本当によかったです。アッシュ、貴方のことも含めて。なるべく、貴方のことを知る人たちから貴方を遠ざけもしましたが、何より、超振動を使うような自体にならなくて幸いでした」
「ノアもな。セシル将軍にバレやしないかとひやひやしたが…。彼女の立場上、主の息子である俺の顔を間近で見るような真似は無礼にあたるからとしたことはなかったのが幸いだった。あとはやはり特徴的な髪や目の色が違うのが大きかったんだろう。それが変わるだけで、わからないものなんだな。染めているのならバレたかもしれないが、ノアの場合、音素を弄っているしな。素晴らしいコントロールだ、まったく」
「ええ、本当に。…ふふ」
「…なんだ?」
くすくすと笑うイオンに、アッシュは訝しげな視線を向けた。すいません、とイオンが手で口を押さえる。
「アッシュは本当にノアが好きなんだなぁ、と思ったもので」
「な、何を…ッ」
「ふふ、まるで兄を慕う弟のようで、微笑ましいです」
「俺が弟か」
「ええ。違いますか?」
にこ、と微笑むイオンをきろりと睨む。イオンは動じる様子もなく、にこにこ笑うだけだ。
がしがし頭を掻き、アッシュは苦笑した。
「…そうだな」
この身から生まれたレプリカだけれど、ノアはこの身を凌駕した存在だ。心も身体も力も。
黒髪と紺碧の目を持つノアに思いを馳せる。ルークとして生き、ルークとして贄として死ぬ道から救い出してくれた、ノア。アッシュからルークへと一度、返したのもノアだが、アッシュとして生きたままであっても、やはり待っていたのは奈落だろう。ヴァンに利用され、朽ちる。きっとそんな道しかなかった。
今のように、自由に己の道を探すことなど、出来なかったはずだ。
アッシュは小さく笑う。イオンの言うとおりだ。自分はノアを兄のように慕っている。憧れている。ノアのような強さを得たいを、そう思っている。
「僕も」
「うん?」
「僕も、シンクとそんな絆を持てるでしょうか」
窓ガラスに手のひらをひたりとつけ、外を見下ろすイオンの頭を、くしゃりと撫ぜる。イオンの視線の先は、追うまでもなかった。
アルビオールの操縦技術の指導に慣れないながらも一生懸命にあたるギンジの授業を聞いている数人の中の一人に向けられているのだ。同じ若草色の髪の少年に。
その側には、同じくギンジの講義を受けながら、アルビオールに興味を示し、タルロウXを傍らにあれこれと質問をしているディストの姿もある。最近はシェリダンに留学したいと言い出し、レプリカではなく、譜業の知識を極めようとしているらしい。
「頑張るんだろ?自分で言っていただろ、イオン。『いつかまた導師守護役となるために頑張ってくれているアリエッタに恥じない導師となるためにも、僕は頑張ります』と言っていたのは、お前だろ?大丈夫、シンクとのことだって、イオンなら思い描く絆が作れる」
俺はそう思う。
微笑みを顔に浮かべ、アッシュは言う。イオンが面映そうにはにかみ、こくりと強くしっかりと頷いた。
「ええ、アッシュの言うとおりです」
たとえ、何度、拒絶されても、頑張ります。
拳を固め、宣言するイオンに、紺碧の目が穏やかに細まる。イオンがそんなアッシュを同じく穏やかに目を細め、見上げた。
「アッシュ」
「何だ?」
「貴方に会えて、貴方がいてくれて、本当によかった」
きゅ、と手を握られ、アッシュは目を瞠る。言葉を失くし、黙り込めば、ふふ、と嬉しそうにイオンが笑った。
「生まれてきてくださって、本当にありがとうございます」
「イオン…」
「アッシュがいなかったら、今の僕はいません。アッシュという『陽だまり』がいてくれるから、僕は頑張れる」
そう思っています。
朗らかに笑うイオンに、目頭が熱くなる。鼻の奥が痛み、アッシュはふい、と顔を逸らした。
赤く火照る顔が熱い。
「俺も、イオンに会えてよかった。…イオンが生まれてきてくれて、よかった」
「ありがとうございます」
イオンの手のぬくもりを感じながら、窓の外を見る。視線に気づいたギンジが、ひらひらと手を振ってきた。苦笑を零し、空いた手を振り返す。
友という『陽だまり』に出会えたことに、アッシュは温かい胸のうちで幸せを噛み締める。
『陽だまり』という幸せの中で、傷つき、心が壊れかけていた青年は確かに癒され、温かく照らされていた。
*
ギンジと同じく、マルクトでアルビオールの操作技術を、青を基調とし、マルクトの紋章が描かれたアルビオールを前に講義するノエルに、操縦士希望の男たちが手を出すことがないよう、格納庫の壁に寄りかかりながら、ノアは睨みを効かせていた。
ノアの実力をアスランから前もって聞かされているマルクトの軍人たちは、紺碧の鋭い眼差しを背に受け、ただならぬ緊張感に手に汗を握りながら、ノエルの授業に集中する。
まだまだ慣れないながらも、丁寧なノエルの授業はわかりやすく、ノエルはいい教師だな、とノアはノエルに視線を移すたびに、ふ、と笑んだ。
「何だ、けっこう表情に出るんだな」
「…こんにちは、陛下。このようなところにお出ましとは思いませんでした」
「よ!」
気さくに片手を挙げ、からりと笑みを零しながら、寄ってくるピオニーに頭を下げる。畏まらなくていい、と苦笑され、ノアはス、と顔を上げた。
とん、と壁に背をつけ、隣にピオニーが並ぶ。
「お仕事はよろしいんですか?」
「息抜きは大事だからな」
「……物は言いようですね」
今頃、フリングス将軍あたりが探し回っていることだろう。大変だなぁ、と他人事のように、内心、呟き、ノアはピオニーの蒼の目が、アルビオールではなく、自分へと向けられていることに、僅かに眉を寄せた。
「何か?」
「お前、何者だ?」
「また、ずいぶんと単刀直入ですね」
前置きもなく、切り出したピオニーに苦笑う。回りくどいのは好きじゃないからな、とピオニーは頬を掻いた。
「お前だけじゃなく、アッシュもだな。お前たち二人の素性をどう洗っても、シェリダンで途切れちまう。その前のことがさっぱりわからなかった。度重なる戦争やら、魔物や盗賊の襲撃やらでシェリダンより前の情報はどっかに紛れちまったってことみたいだが」
「ええ、そのとおりですよ。別に不思議でもなんでもないと思いますが。このオールドラントでは」
「…言う気はない、か」
「何故、今更、そんなことを知りたがるのか、わかりません」
面倒だと言外に含め、ちらりと横目でピオニーを窺う。顎を擦り、いや何、とピオニーが苦笑した。
「お前たち二人をギンジやノエルごと、マルクトに誘えないもんかと思ってな。特にお前の実力は指折りらしいし。だが、俺の側に置くには、素性が確かじゃないとな」
「マルクトにも実力者はたくさんいるじゃないですか」
「…懐刀になりそうなのは、いないな」
懐刀。その言葉がかつて指していた人物を思い出し、ノアは微かに口の端を吊り上げる。
確かに、頭はよかったのだろう、戦闘においては。だが、外交手腕は壊滅的だった。政略も机上の空論であるうちは問題はなかっただろうが、実際、動くとなると、彼は自身の感情を優先していた。
何度も繰り返すたびに、浴びせられた嘲笑が頭を過ぎる。世間知らずの我が侭お坊ちゃんのレッテルを勝手に貼り付けてきた上、レプリカであることを知れば、今度は己の罪から逃れようと、否定するように目を逸らして。
(…ここでは、会う前に死んじまったけど)
だが、会わずとも、ジェイドは同じだったみたいだな、とノアは呆れたように吐息する。さらに輪をかけて酷かったティアに比べれば、マシかもしれないが。アニスにも会っていないが、イオンがダアトから追放し、マルクトでスパイ行為で処刑されたと聞く限り、やはり同じだったのだろう。
アクゼリュスで再開したアッシュの昏い目を、ノアは思い出す。自分と、いや、自分よりも絶望に囚われていた目だった。
ガイも、ナタリアも、アッシュにとっては、何の救いにもならなかったことが、腹立たしい。結局、誰が『聖なる焔の光』であっても、同じ道しかなかったんじゃないか、とノアは──ルークは内心、舌を打つ。いつだって、『聖なる焔の光』は絶望を辿り、死ぬ道へと進むよう、仕向けられるのだ。
(でも、もう二度と)
『聖なる焔の光』になるつもりはない。アッシュを『聖なる焔の光』に戻すつもりもない。
繰り返すつもりもないと、ノアは腰に提げた剣の柄を撫でた。
「フリングス将軍は、いい右腕になりそうですけど」
「ちょっと若いけどな」
「俺の方がもっと若いんですが」
「…そういや、そうだな。お前の目を見てると、年下だってことを忘れるな」
なかなか鋭いことで、と苦笑するピオニーに肩を竦める。外見こそ、自分は若いが、内面はどうだろうな、と苦く暗く笑う。
よく今まで、心が壊れなかったものだと、改めてルークは思った。とっくの昔に、絶望に飲まれ、虚無をさ迷うように生きていても可笑しくはないだろうに。
「──次は、このハンドルを握り、手前に引いてください」
耳に、格納庫に拡散するノエルの声が響く。優しいノエルの声。
温かいこの声が、あったから。だから、俺はこうしてここで『生きている』。
穏やかな微笑がノアの唇に滲む。ノエル。紺碧の目は愛しげにノエルを見つめた。
「幸せそうな顔だな、ノア」
「ええ、幸せですから。だから、俺は今の生活を守りますよ。ノエルとともに生きる、今の小さな世界を」
「そうか、残念だ。まあ、でも仕方ないな」
ぽん、とピオニーの手が、ノアの肩で跳ねる。目を向ければ、ピオニーが目を細めて笑っていた。
「結婚式には呼べ──とは言わんが、せめて報せは寄越せよ。俺も祝いたいからな」
「…それは、ありがとうございます」
結婚、という言葉に頬を赤らめつつ、ノアが頭を下げれば、磊落な笑い声を残し、ピオニーは去って行った。ちゃんと仕事に戻るといいけどな、とアスランの苦労を思い、吐息する。
「結婚、か」
ぽつりと呟き、ノエルを見つめ、ずっとポケットにしまってある小さな箱に、ポケットの上から触れる。いつかこれを渡すつもりでいる。だが、その前にやることがある。
ノアは、一つため息を零し、格納庫の外へと出て行った。
裏手に回り、人の目がないのを確かめ、スゥ、と身を音素に溶かす。向かう先は一つ、レムの塔。
ふ、と目を開けたときには、ノアの身体はレムの塔の天辺にあった。
「さて、と」
剣を抜き、くるりと回し、顔の前に掲げる。刀身をひたと見つめ、ノアはそれを塔へと勢いよく突き刺し、鍵のように回した。
第七音素の塊が、ノアが超振動で地殻から剣へと繋いだ道を通り、昇ってくる。剣よりゆらりと焔を揺らめかせ、現れたローレライを、ノアは腕を組み、睨んだ。
『久しぶりだな、ルーク』
「……」
『ルーク?』
「俺はルークじゃない、ノアだ。そう呼ばないと、返事しないから」
『…わかった』
どこか不服そうなローレライに吐息する。こいつをこうして解放するのも、一体、何度目になるのか。今では、超振動でローレライのための道を作るのも慣れてしまったほどだ。身体に残る気だるさは、いつもなかなか消えないが。
それでも、今回は、瘴気の中和を行っていないので、身体が乖離する心配はない。
「俺はこれ以上、お前の道楽に付き合う気はない。時を繰り返すつもりはないからな、ローレライ」
初めて、時を繰り返したときは、ただただ混乱していて、一度目とほとんど同じ道を辿ってしまったため、ローレライに訊く時間も持てなかったが、次からは、ルークは何度もローレライに訴えてきた。繰り返したくない、と。またあの悲劇を見たくない、と。
けれど、時は繰り返した。何度も、何度も。エルドラントで、あるいは、レムの塔で、ローレライを解放するたび、訴えても、それでも、だ。
だが、もうゴメンだ、とノアはローレライに背を向ける。
「俺は今の世界で人生を終えたい。ノアとして、生きて、逝きたい。ノエルと一緒に幸せになって、逝きたい。だから、二度と、戻るつもりはない」
やっと、やっと手に入れたのだ、今の幸せを。『陽だまり』を。
何度も望んで、けれど、手に入れられなかったノエルという『陽だまり』。この『陽だまり』の中で、生きて、死んでいきたい。終わりたい。
ローレライに背を向け、歩き出すノアの前に、ローレライの剣がふわりと飛んできた。
「…なんだよ」
『幸せ、なのだな』
「ああ」
『ノアとなった今のお前は、幸せなのだな、ルーク』
「そうだ、だから」
『ならいい』
「は?」
ぽかん、と呆気に取られ、ノアは振り返った。焔が踊るように揺らめいている。幸せだとでも言うように煌く焔に、ノアは戸惑いの目を向けた。
「どういう、意味だよ…?」
『お前はいつも幸せではなかった。我はそれが嫌だった』
「だから、俺に時を繰り返させたって?」
『我が夢見る星の記憶を違えたお前なら、いつか必ず、幸せにいたる道を見つけてくれると思っていた』
何を勝手なことを。この道に辿りつくまで、この『陽だまり』を得るまで、どれほどの絶望を味わったと思っている。
殴ったところで無駄だと知りつつ、拳を固め、ゆっくりと息を吐く。殴り飛ばしてやれたらいいのに。
「礼なんて言わねぇからな」
『ああ。…我の自己満足に過ぎぬ』
「……ふん」
感謝など出来ない。けれど、もう時を繰り返さずに、今の『陽だまり』で生きられることには、…少しだけ、感謝しよう。口にする気はないけれど。
微かな笑みをノアはローレライに向けた。焔が柔らかな色で燃える。
『その剣を、アッシュに渡すといい』
「こいつを?何で」
よく見れば、剣からは宝珠がなくなっている。不完全な剣をどうするのかと怪訝に思えば、ローレライが笑うようにノアの周りを踊った。
『その剣には音素を集束させる力があるのは知っているだろう。我の力で、ローレライの剣をアッシュにコンタミネーションで取り込ませる。アッシュから乖離していく第七音素をそれで補うことが出来るからな』
「ああ、大爆発、か」
同調フォンスロットを開いていないことで、大爆発は今はまだ起きる様子を見せていないが、いつ起こりだしても可笑しくはない。せっかく『陽だまり』をお互いに得たのに、失うことになっては意味がない。
わかったと頷き、ノアはローレライの剣を手に取り、鞘に収めた。
『そして、ノア。お前にはこれを』
「え…っ」
ふわ、と眼前で宝珠が揺れ、あっという間にノアの身に溶けて消える。これも、大爆発対策なのかとローレライを見やれば、そうだと頷きが返ってきた。
『アッシュから流れこむ音素のみ、拡散するようにしてある。拡散した音素は剣によって、再び、アッシュへと戻ろう』
「…なるほど」
ローレライの協力があればこそだな、とノアは宝珠が消えていった胸を撫でる。剣と宝珠。それに細工が出来るのは、ローレライだけだ。
これに関しても、感謝してやってもいいかな、と苦笑を浮かべ、焔へと手を伸ばす。撫でるように焔に手をくぐらせれば、嬉しそうに、くすぐったそうにローレライが揺らめいた。
『どうか幸せに、ノア』
「言われずとも」
にっ、と口角を吊り上げ、ノアは目を閉じると、ノエルがいる格納庫を思い浮かべた。そろそろ昼食の時間だ。腹の虫がぐぅと鳴る。ノエルが作った弁当を思い浮かべるだけで、頬が緩む。
「さよなら、ローレライ」
『…さようなら、我が愛しい子』
音素帯へと遠ざかっていくローレライを感じながら、ノアは音素に溶けた。
格納庫の裏手に出、扉からひょこ、と顔を覗かせ、様子を窺う。マルクト兵が数人、ノエルに質問するために残ってはいるが、授業は終わったらしい。
最後の一人が扉から出ていくのを待ち、ノアはノエルに手を振った。
「ノアさん、ご飯にしましょう!」
今日はノアさんの好きなチキンのサンドイッチですよ!
肩までの髪をふわりと翻し、ノエルが笑みとともに駆け寄ってくる。その手には、弁当の包み。
「すっげー、楽しみ!」
ノアもまた笑みを返し、ノエルから包みを受け取ると、空いた手でノエルとしっかと手を繋ぎ合った。二人、薄っすらと頬を朱に染め、笑みを交わす。
太陽の輝きを受け、キラキラと煌く水の壁に覆われたグランコクマの公園へと、ノアはポケットの指輪の微かな重みを意識しながら、ノエルとともに向かった。
END
そんなわけでローレライ解放も含めた後日談でした。
ご都合主義というか、剣とか宝珠やら捏造というか(汗)
書いたときはここまで続くとは思わなかった『陽だまり』ですが、続編を望んでくださった方々に少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。