月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ピオルク。
ピオニーは逆行してます。逆行後、ルークをコーラル城から攫って、マルクトへ。
ルークはマルクトでピオニーの護衛騎士として活躍中。
そんなピオニー大好きなルークといろいろ抱え込んでるピオニーの話。
剣を握る。スゥ、と目を閉じ、ルークはゆっくりと息を吐いた。
意識を集中させる。思うのは、一つのこと。頭に浮かぶのは、ただ一人の影。
ふ、と翡翠の目が開き、一閃。一つに結わえた、烏の濡れ羽色の黒髪の髪が翻る。
降り注ぐ水の壁が、一瞬、綺麗に縦に割れる。水が再び、壁となるのに時間は掛からなかったが、ルークの口元に微かな微笑が滲んだ。
パチパチと背後に鳴り響いた拍手に、振り返る。
「腕をあげたなー、ルーク」
「陛下」
近寄ってくるピオニーに剣を腰の鞘へとしまい、跪く。頭を下げ、王を迎えるルークに、ピオニーがかしこまらなくいい、と苦笑した。
けれど、ルークは態度を気安いものへと改めるようなことはしない。王宮の中庭だ。誰の目があるかわからない。
己のせいでピオニーが軽んじられるようなことになれば、どれほど悔いても悔いたりない。
「ありがとうございます、陛下」
頭を下げ、礼を言うルークの顔は喜びに綻ぶ。ピオニーに褒められることが嬉しくて仕方ないのだ。
ぽん、とピオニーの手がルークの頭に乗り、くしゃりと撫ぜた。
「お前が俺の部下であることを誇りに思う」
「ありがたき幸せ」
ピオニーはルークにとってすべてだった。
レプリカとして作られ、利用されるだけだったはずの、何も知らないルークを救ったのは、ピオニーだった。
ルークがコーラル城で生まれた直後、ヴァンを殺し、ピオニーはルークを連れ去った。その際、被験者ルークを無事、キムラスカが発見出来るよう、匿名の投書を行うことを忘れずに。
ルークはピオニーによって、髪を染められ、マルクトへと連れて行かれた。そこで、ピオニーの護衛騎士として教育を受け、今に至る。
アスラン・フリングスによって剣術を、ジェイド・カーティスによって譜術を、ピオニーによって体術を仕込まれたルークの実力は護衛騎士として名を恥じぬものとなっている。もちろん、礼儀作法も徹底的に叩き込まれている。
最近では、第七音素の素養を活かし、ルークは宮廷治癒師から治癒術も学んでいた。
「本当、よく頑張ってるよ、お前は」
「私のすべては、陛下のためにありますから」
この身を磨くことは、そのまま、ピオニーのためになる。ルークはその想いで、一心に己を磨く。
ピオニーを守るため。限りない愛情を注いでくれるピオニーのため。
ただ、それだけのために。
ピオニーを慕い、愛するがために、ルークは己を高めていく。
「俺は幸せものだな」
頭を撫でてくれるピオニーの手の優しさに頬を淡く染め、ルークは笑みを零す。
ピオニーの幸せを少しでも担うことが出来ているなら、こんな喜びは他にない。
「…だが」
ぽつり、と落とされた声に、ルークは目を瞠り、顔を上げた。
ピオニーの声は、酷く暗いものだった。陰りを帯びた声に、翡翠の目が戸惑いに揺れる。気遣うように眉を寄せ、ピオニーの顔を窺い見れば、その表情にもまた陰りが見えた。
「陛下?」
「お前は幸せか、ルーク。今のお前は、幸せ、なんだろうか」
眉を跳ね上げ、蒼の目をじ、と見返す。金色の睫毛で縁取られた蒼は、何を不安に思っているのだろう。
自分に誰を、重ねているのだろう。時折、ピオニーは自分を通して、誰かを見ているように思え、そのことはルークを苛んだ。
けれど、ルークはきゅう、と胸が痛むのを感じながら、笑みを浮かべた。
「幸せです。当然でしょう?」
だって、貴方の側にいられる。貴方を守っていられる。
貴方のために生きられる。
これが幸せでなくて、何が幸せか。
そうか、とピオニーが哀しげに笑った。
「…ルーク、オニキス・ルーク・サンクト。お前に仕事を頼みたい」
「はっ、何なりと」
「キムラスカに行ってくれ。ジェイドと一緒に、和平の使者として」
和平。とうとう動きだすのか、とルークはこくりと唾を飲み込み、御意、と頷く。
大役に不安も過ぎるが、胸が躍る。
何としても、この和平、成功させなくては。
「ルーク、これからきっとお前はお前の被験者に出会うことになるだろう」
「…心得て、おります」
以前、聞かされた預言が脳裏を過ぎる。マルクトの滅亡とピオニーの死を詠む預言。
何としても、覆さねばならぬ預言だ。
そのためには、すべての鍵となる『聖なる焔の光』、己の被験者をアクゼリュスで死なせるわけにはいかないのだと、ルークは拳を固めた。腰に提げた剣の重さを実感する。
「彼を理解できるのは、きっとお前だけだ」
「理解…ですか?」
「そうだ。だから、守ってやれ。命も、心も」
「…わかりました」
訝しく思いながらも、ルークは頷く。命を守るのは当然だ。彼に死なれては困る。
だが、心も、とは。
ピオニーに問いかけるような視線を投げる。ピオニーが苦笑した。
「俺は、欲張りなんだよ、ルーク」
苦く、狂おしげにピオニーが目を伏せる。唇に滲むのは自嘲だろうか。
そんな顔、して欲しくないのに。ルークは唇を引き結ぶ。
この人を苦しめる何かを、取り除くことが出来たらいいのに、とそう願わずにはいられない。
「お前もあいつも俺は救いたいんだ。幸せになって欲しいんだ」
もう二度と、世界に殺されるお前たちを見たくない。
呟くピオニーに、ルークの目が困惑に揺れる。けれど、ピオニーはただただ哀しげに笑うだけで。
胸を締め付ける思いを持て余しながら、ルークはまだ見ぬ己が被験者に思いを馳せた。
END