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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.07.09

ss

ディスルク。ルークはちょっとスレ気味。
死にネタになりますので、苦手な方はご注意を。
キムラスカに対して、上層部だけでなく、国民含めて厳しめ。





ずるいなぁ、と呟くルークを、ディストは見やった。一体、何がずるいのかと、ティーカップを手に持ち、首を傾げる。中身の紅茶を淹れたのはルークだ。色濃く赤茶けた紅茶に、不安を抱く。見るからに渋そうだ。
翡翠の目は、ディストの背後の研究機材に向けられていた。髪と同じ朱色の睫で縁取られた目は、瞬きながらも、機材から逸れない。

「ディストがレプリカ研究してんのは、ゲルダ・ネビリムを復活させたいからだろ?」
「ええ、そうですが」
「それってさ、過去を取り戻したいってことだよな」
「…そう、なりますね」

ケテルブルクで過ごした幼い日々が、ディストの脳裏を過ぎる。一面、雪で覆われた銀世界。一年のほとんどが曇天で覆われた土地だったけれど、時折、厚い雲の間から覗く日の光は、雪をキラキラと輝かせ、日々に煌きを足していた。
眩いばかりの思い出だ。ジェイドがいて、ピオニーがいて、ネフリーがいて、ネビリム先生がいて。そして、泣き虫の自分がいて。
それはすべて、ディストが取り戻したい日々だ。ネビリムを復活させれば、ネビリムが戻ってくれば、あの日々もきっと戻ってくる。そう思って、生きてきた。
本当は──いや、とディストは首を振る。

「俺には過去なんてないのに」
「貴方にも七年間の過去があるでしょう」
「俺がその七年間の過去の一部でも取り戻したいと思ってるとでも?あるわけないだろ、そんなの。取り戻したい過去なんて、いや、手に入れたい未来だって、俺にはねぇよ」

苦く苦く笑う顔に、ディストは目を伏せる。ルークは強く、賢い。アクゼリュスのことがあってから、努力したからな、と自嘲交じりに呟いていたのを思い出す。
それでも、逃れられないことが、ある。

「大爆発、ですか」
「どうにか、なんねーのかなぁ」

テーブルに突っ伏し、こつ、と額を押し付けるルークをぼんやりと見つめながら、紅茶を啜る。紅茶は、やはり渋かった。ディストは舌に広がる渋みに、顔を顰める。
大爆発は既に始まっている。アッシュの音素が乖離し始めているのがその証拠だ。こうなってしまうと、もう手遅れだ。
長年、レプリカの研究を行っている自分でも、どうにもならない。完全同位体のデータ自体、十分に揃っているとは言いがたいのに。

「死にたく、ないなぁ」
「……」
「助けてよ、ディスト。俺のこと、少しでも哀れに思うなら」

少しでも、俺のこと、好きなら。
こちらを、ちらとも見もせずに、ルークが言う。テーブルに当たるその声は、くぐもって聞こえた。

「…私は、貴方なんて好きでも何でもありませんよ」

敵だというのに、勝手に押し入ってくるような輩をどうして好きになれるでしょう。
きっぱりと伝えるつもりだった声は、ディストの意思に反し、僅かに震えていた。内心、舌を打つ。ルークに気づかれただろうか。
けれど、ルークは小刻みに肩を揺らしただけだった。笑っているらしい。

「ひっでーの」

くすくすと笑うルークの声も、やはりくぐもっていた。





アッシュとルークの成人の儀から、キムラスカは『英雄』の帰還に酔っていた。
盛大な喜びに湧き上がるバチカルは、連日、祭りのような騒ぎだ。実際、人々は口々に『英雄』を褒め称え、紅い髪の青年を、アッシュを祝福した。それは夜であろうと続いた。
『英雄』を湛える人々に紛れ、ディストは緩く口の端を吊り上げた。

キムラスカは、まだ正式にはアッシュとルーク、どちらが帰って来たのかを発表していないが、ジェイドの理論と自身の研究結果に当てはめるならば、帰って来たのは、レプリカの記憶を持った被験者のはず。キムラスカが即座に発表しなかったのには裏があるに違いない。
発表される名は『ルーク』であり、『アッシュ』はレプリカの方だとされるだろう。
そうしてルークはまた殺されるのだ。死にたくないと言っていたルークが殺されるのは、何度目だ。

頬を紅潮させ、老若男女問わず盛り上がる人々は気づいていない。帰って来たのは、たった一人だけだということに。
『英雄』が帰って来た。それだけでいいのだ。次代の象徴を持つ『王』が帰って来た、それだけで。
もう一人、レプリカルークが帰って来なかったことを、嘆いているのは、僅かな人間だけだ。

喧騒に首を振り、ディストは人々に背を向け、路地裏に入った。人気のない路地裏を進むうちに、段々と喧騒が遠ざかっていく。
六神将として名を馳せていたときとは違い、質素な服装に身を包んだディストに気づく者はいなかった。譜業椅子で移動せず、自らの足で移動していることも気づかれにくい要因となっているに違いない。
人の他者への認識など、そんなものだ。その人を何よりも特徴づける要因が失われれば、容易に誤魔化すことが出来る。

(ルークもまた、そう、なのでしょう)
赤い髪と翡翠の目。重きを置かれているのは、その二つの要因。それだけだ。
帰って来た『英雄』が『誰』であるかなど、人々にとっては二の次。象徴と肩書き。それだけがあればいいのだ。
そして、それが被験者であるなら、なおのこと。
キムラスカの民はそれが顕著だ。瘴気の中和に犠牲となったのが、一万人と一人のレプリカであることを、今だに公表しないせいもある。
レプリカ保護政策もマルクトやダアトに比べれば、ずっと遅れている。養うだけの大地も食糧もないのだと、とキムラスカの民は言うだろう。肥沃な大地に恵まれているマルクトとは違うのだと。
自分たちは犠牲者なのだ。だから、余裕のあるマルクトがレプリカを保護すればいい。王によく似た国民たちだと、ディストは思う。
ルークに全てを押し付けて、自分たちはその犠牲によってもたらされる繁栄を貪ろうとしたときのまま、何の反省も成長も見られない。
キムラスカという国を、ディストは心底、嫌った。自身を嫌うように。

「ああ、これですか」

譜業を使って、姿を周囲の景色に溶け込ませたディストは、キムラスカ王城前に易々とたどり着くと、そこに置かれた慰霊碑を見上げた。
二つの石には、それぞれ名前が刻まれている。アッシュ・フォン・ファブレとルーク・フォン・ファブレ、二人の名が。

「……」

手を伸ばし、ディストは指先でルークと刻まれた石を撫でた。つるりとした石は、冷ややかな感触を伝えてくる。
このルークと刻まれた慰霊碑は、近々、撤去されることになるはずだ。『英雄』が帰って来たというのに、その『英雄』の墓をいつまでも置いておくわけにもいくまい。残されるのは、アッシュの慰霊碑。
美談に仕立て上げられた、悲劇の六神将、レプリカルークの慰霊碑だけになるのだろう。

聞いた噂を思い出し、ディストは低く笑う。
被験者ルークより作られたレプリカは、六神将となり、被験者とキムラスカに貢献するため、ヴァン・グランツの周辺を探っていた、とのことだった。都合の悪いことはすべて闇の中。
アッシュがタルタロス襲撃に加わっていたことも、カイツール軍港襲撃も、モースやヴァンの命令、あるいは、軍港襲撃に至っては、実行犯であるアリエッタがアッシュの名を騙ったのだという噂すら流れている。死者は何も語らない。死んだ人間はただ利用されるだけだ。
そして、真実を知る者たちの口は、平和の名の下に、閉ざされる。
愚かな平和だと思う。だが、一番の愚か者は──自分だ。

「私は、貴方が嫌いですよ、ルーク」

ローレライを解放し、第七音素を世界から減少させた貴方が嫌いです。
ディストは眼鏡のブリッジを押し上げ、慰霊碑に呟く。

「おかげで、レプリカを作るのに必要なだけの第七音素を集めることが出来なくなってしまったじゃありませんか」

今ではもうネビリムのレプリカを作ることは出来ない。
ルークの魂の器となる身体を作り出すことさえ、出来ない。
だから、嫌いです、とディストは石に爪を立てた。キキキ、と不快な音が鼓膜を揺する。

「会いたいなどと思わせる貴方が、大嫌いです」

同調フォンスロットを開き、大爆発のきっかけを作り出すことになったのは、この自分だというのに、それを後悔させる貴方が嫌いだ。
貴方がどこからかひょっこり現れるのではないかと、心待ちにし、絶望する自分が嫌いだ。

「…研究対象から逸脱した貴方が、嫌いです」

ただの興味深い完全同位体という珍しいレプリカという存在ではなく、ルークという唯一無二の存在だと私に認識させた貴方が、嫌いだ。

「…嫌い、です」

貴方が思い出を寄せる場所も知らない自分が。
貴方が何を好きだったのかも知らない自分が。
こんな冷たい石にしか、貴方を求めるしかない自分が。

「本当、なら、ルーク」

望めるものならば、貴方が思いを寄せる場所で、と思っていたのだけれど、思いつかないから。自分は貴方を知らないから。
だから、せめて、貴方の名が刻まれたこの石の前で。せめて、壊されるだろう、この石を汚していこうと思うのです。

「嫌がらせ以外のなにものでもないですよね、こんなの」

ねぇ、ルーク。
くすりと笑い、ディストはポケットから短刀を取り出し、鞘を抜いた。キラリ。月に鈍く刃が光る。
ぐ、とそれを白い首に当て、刻まれた名前を見上げる。

「私を、少しでも哀れに思うなら」

少しでも、私のことを好いていてくれるのなら。

「迎えに来てくれませんか、ルーク」

それとも、貴方も私が嫌いだと笑うだろうか。
ディストは躊躇いなく、強く押し当てた刃を引いた。生温かい血が溢れ出し、噴きあがる。
石とともに自身の血を浴びるディストの遠くなっていく耳に、馬鹿だな、と優しく笑う声が響いた気がした。

果たして、それが、死に逝く男の幻聴だったのか。
あるいは、願望だったのか。

「おい、誰か死んでるぞ…!」
「なんで、こいつ、笑ってるんだ…?」

それを知る者は、誰もいない。


END

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