月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
フリルク+ジョゼット。
フリングスとジョゼットがルークたちに同行してます。
アンケートを見ていて、そういえば、フリルク書いたことなかったな、と思ったので騎士なフリングスさんを目指してみました。フリルクも大好きです。フリセシも好きですが。
同行者、空気ですが、厳しめです。
※ちょっと修正してます。見直したつもりだったんですが…(苦笑)
注!同行者厳しめ
戦場でもないのに剣を抜きたくなったのは久しぶりだな、とフリングスはゆっくりと息を吐き、荒ぐ感情を抑えた。今すぐ、不敬罪を働く輩を切り捨てたいのは山々だが、彼の前で血を流すことは避けたい。
こんな連中にすら心を砕く彼を、これ以上、追い詰めるような真似をしたくはない。
フリングスは「どうしてそんなお坊ちゃんばっかり甘やかすんですかぁ?」「彼は罪を償うためにも、甘やかしてはいけないんです」と身分の差も理解せず、身勝手な理論で憤慨するアニスやティアから視線を逸らし、ルークの前に立つと、にこりと笑った。
俯かせていた顔を上げたルークが、きょとん、と目を瞠る。
フリングスは両手でそっとルークの耳を塞いだ。
「フリングスさん…?」
小首を傾げるルークの耳元に唇を寄せ、少しだけ手を浮かせる。自分の声しか耳に入らぬよう、すぐ耳元でフリングスは囁いた。
「聞かなくて、いいんですよ」
「え?」
「彼女らの戯言などで耳を汚すことはありません」
多少、きつい物言いをしたが、実際、そのとおりだ。ミュウを肩に乗せたルークの瞳が、戸惑いに揺れる。そんなルークを安心させようとするように、フリングスは自身の身体でルークの視界を塞ぎ、ティアたちを見えなくしてから、ルークと目を合わせた。
「罪を償え、などと彼らに貴方を責める資格などありません」
あるわけがないのだ。ともにアクゼリュスへと赴いておきながら、親善大使であるルークを一人にし、ヴァン・グランツの思惑に易々とはまったのは、彼らなのだから。
ピオニーの側に控え、アクゼリュス崩落の報告を聞かされたときの憤りは、まだこの胸に燻っている。背後で憮然とした表情でフリングス越しにルークへと責めるような視線を常に向けている同行者たちは、一様に自分たちは大地を降下させ、世界を救う英雄なのだと息巻いているようだが、それは違う。
彼らはただその血筋を、素性を、罪科を利用されているに過ぎない。
たとえば、ティア・グランツ。彼女はユリア式封咒を解く鍵として同行が許可されている。その際、瘴気をその身に取り込んでいるようだが、処刑の一環として治療を行うことを、キムラスカが禁じ、ダアトもそれを受け入れた。彼女自身は知らぬようだが。
彼女が薬として口にしているのは、ただ瘴気障害を遅らせるものでしかなく、決して治すためのものではない。
他の面々も例外ではない。ジェイド・カーティスは地位自体は低いものの、皇帝の懐刀であるという評判を利用され、高官を失うことなく、マルクトが外殻大地降下に本気であることを示すという目的を知らず果たしている。
ガルディオス伯爵も同様だ。ホドの生き残りとして参加することで、ホドの英雄として、ホド戦争で地位を失い、鬱憤を溜め込む者たちの希望を背負っている。ピオニーとしては、失ったところで痛くもないという理由も選出の理由の一つだ。本人はやはり気づいていないが。
ちらりとフリングスはアニスと、単独行動に出ている被験者ルークを思っているらしく、目を潤ませている王女ナタリアを見やった。あの二人も同じだ。アニスは導師イオンの名代として、ナタリアは王女としての地位をそれぞれ、ダアトとキムラスカに利用されている。どちらもダアトにとっても、キムラスカにとっても、失ったところで痛くもない人間だ。むしろ、死んでくれた方がいいとすら思っているかもしれない。
アニスは導師守護役としての任務もまっとうできない役立たずであり、ナタリアも王家の血を引かぬ上、王女としての責任もまっとうできない役立たずなのだから。
(だからこそ、私がルーク様のお側にいるんですけれどね)
剣の柄に手を掛けたまま手を離さない、キムラスカより派遣された同じくルークの護衛につく、ジョゼットとフリングスは視線を交わす。二人は互いの目のうちに、同じ思いを読み取った。
すなわち、名ばかりの仲間たちに対する憤りと、ルークへの気遣いと好意を。
「だけど、フリングスさん、俺は…」
「どうぞアスランとお呼びください、ルーク様」
「え、…あ、それなら、俺のこともルークって呼んでよ」
ね?と懇願するように翠の目でじ、と見つめられ、フリングスは苦笑とともに頷いた。では、これからはルークさんとお呼びしましょう、と妥協する。うん、とホッと息を吐くルークに、柔らかな笑みがフリングスの唇に滲んだ。
「俺は、アクゼリュス、を」
「貴方お一人が悪いとは思っておりません。ピオニー陛下も仰っていらっしゃったでしょう?」
「でも…」
視線を落とし、表情を翳らせるルークに、痛ましげに眉を寄せる。ああ、グランコクマへと姿を見せる前に、一体、どんな目に彼は会ったのだろう。考えるだけで、怒りで身体が戦慄く。
ルークの落ち込みようを当然のものだと考えるティアたちを、フリングスは切り捨ててやりたくて仕方なかった。
見れば、ジョゼットの柄を握る手も、震えている。自分たちの堪忍袋の緒がどこまで持つか不安だ、と内心、吐息する。
「私は貴方にもっと頼って欲しいと思っています。もちろん、それを強要する気はありません。貴方が頼りたいと思ったときに、手を伸ばしてくれたなら、いつでもその手を握るつもりでいますが」
「……」
顔を俯かせたままのルークに、とつとつと言葉を落とす。朱色の睫が震え、頬に影を落としている。
いっそ泣いてくれたなら。そうしたら、抱き締めることが出来るのに、と胸のうちで苦笑う。
「だから、ルークさん。一つだけ、覚えておいてください」
「…何?」
「私の右手は、陛下を、そして貴方をお守りするために、常に剣の側にあります。ですが、左手はいつでも空いているということを、覚えておいてください」
「え…」
「貴方のために、左手はいつでも空けておきます。握りたくなったら、言ってください。欲しくなったら、言ってください。いえ、口に出さずとも、貴方がそう思ってくれたなら、私はそれに応えましょう」
この左手は貴方のために。
雑音から守るようにルークの耳に当てていた両手を離し、左手をルークへと差し出す。まじまじと翠の目が左手を見つめる様を、フリングスは黙って見守る。
すれば、横からス、ともう一本、左手がルークへと差し出された。
「私のこの手も、貴方様のために」
凛々しく引き締められた唇と、穏やかに細められたジョゼットの目。同じ思いを抱く同志に、フリングスは小さく笑う。
背後で喚く者たちなど、二人は意にも介さない。大事なのは、ただ目の前の朱色の青年。大切なのは、守りたいのは、彼だ。
心惹かれずにはいられない、果敢無い微笑を浮かべる心優しい青年を、自分は守りたい。心も身体も、もうこれ以上、傷つかぬよう、守りたい。
「…ありがとう、二人とも」
泣き出しそうな顔で、ルークが両手で二本の左手を掴んだ。どこか躊躇いがちなルークの手を、フリングスはジョゼットとともに、しっかりと握り返す。
この強さが、ぬくもりが、ルークへと伝わればいい。ただそう願う。
「ありがとう」
嬉しそうに、ふにゃりと頬を緩めたルークに、ジョゼットが微笑み、フリングスもまた微笑みを送った。
END